紫髪敬語崇拝系ロリがおじさんと出会う話   作:お昼寝サソリ

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扉絵のおじさん、異世界メンバーと一緒の時は絶対同じ方向むいてないのエモいですよね……。




後編

 地下の檻ではとにかく時間が長く感じるというのは、知りたくもなかった発見だった。俺がここに放り込まれてからどれくらい経ったのか、今は何時なのか、一切が分からない。空腹感と、全身の痛みが、じわじわと気力を奪っていく。

 

 ただ、そこに孤独感が無かったのは幸運だったと言えるだろう。

 

「なるほど……シバザキヨウスケさん、ですか。世間知らずの私が言うのもなんですが、聞いたことの無い響きのお名前ですね。その……ニホンでは普通なんですか?」

「ああ……うん。やっぱりここは、俺のいた世界じゃないんだな。」

「少なくとも、私は存じ上げませんね……ですが、私は外の世界には疎いものですから。もしかしたら、そのニホンを知っているという方もいるかもしれません」

 

 俺とミリア(呼び捨てしてほしいと頼まれた)は、暗い檻の中で語り合っていた。それは自己紹介という意味もあったが、それ以上にお互いが話し相手を欲していたからだった。俺は自分の心と現状を整理するために、ミリアは長く続いた孤独を癒すために、言葉を交わし合っていた。

 

「それで……ミリアはなんでこんなところにいるんだ? 君みたいな女の子がいるべき場所じゃないと思うんだが……」

「それは……」

「あっ、ごめん。言いづらい内容だったら、答えなくても良いから」

「いえ。いずれ分かることでしょうから……ほら、見ててください」

 

 そう言うと、ミリアは空中に向かってパンパンと手を叩いた。

 

 すると、次の瞬間。彼女の周囲で、踊るように光がはじけた。暗い檻の中では、その光景は一層幻想的だった。

 

「そ、それは……魔法?」

「いえ。私もよく分かっていないのですが、魔法とは少し違うらしいです。でも、何より問題なのは……私がこの力を制御できないってことです」

「どういうことだ……? だって今、君が手を叩いたら光が出たように見えたけど」

「今のは、別に光を出そうとしたわけじゃないんです。ただ、偶然光が出たというだけで……場合によっては火だったり氷だったりしますね。私が選ぶことは出来ませんし、なんでこんな現象が起こるのかも分かっていません。分かっているのは、主に私の感情に合わせて起こるということくらいで……」

 

 ミリアは体育座りの膝に頬を乗せながら、暗い顔で言った。

 

「生まれつき、こうなんです。今は、感情を動かさないようにしてなんとか抑えていますが、ちょっと喜んだり悲しんだりすると、勝手に出ちゃうので……。幼い頃は特に、感情を抑えるなんてことできなかったので、両親からも気味悪がられてましたし、友達に怪我をさせてしまったこともありました……おまけに、私は盲目ですしね」

「幼い頃って……ミリアは今何歳なんだ?」

「さあ……? 十は数えていないと思いますが」

 

 俺は思わず絶句してしまった。そんな年の少女が、こんなところにいていいはずが無い。それどころか、気持ちを抑え込んで暮らしているなんて。この子は、悲しいと思うことも許されていないのか。

 

 そんな俺にかまわず、ミリアは続けた。

 

「それで……ある時、そこそこ偉い人を傷つけてしまいまして……。気づいたら、『人間に擬態した魔物』ということになっていて、ここにいました」

「……」

「この敬語も『子供らしくない』って、いろんな人たちから怖がられちゃいましたけど……私にとっては大切なことなんです。相手との間に意識的に壁をつくっておかないと、ふとした拍子に感情が動いてしまうかもしれないので……」

「……そうか。ありがとう、話してくれて」

 

 俺はかろうじて、それだけを絞り出した。平和な日本の常識が一切通用しない、この異世界。そのリアルを垣間見てしまったせいで、頭がくらくらしていた。

 

 結局、見世物小屋の主人が固いパンと水という粗末な食事(エサ)を持ってくるまで、俺はミリアのとりとめのない話に相槌を打つことしかできなかった。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

 キュル。グー。

 

 二人分の腹の虫が、檻の中で合唱する。俺がここに来てどのくらい経ったのかはあやふやだが、間違いなく言えることがある。食事が明らかに足りていない。感覚的には丸二日くらい、食事が抜かれている。

 

「ミリアの言ったとおりだったな……」

「でしょう……?」

 

 檻の中で俺たちは、並んで仰向けになって寝転んでいた。お互いの声にハリがなく、水分の足りない口でボソボソと会話する。

 

「ここの主人は、とっても忘れっぽいんです……食事が抜かれるのなんてしょっちゅうですよ……」

「ああ……一日目の食事を、食べきってしまわなくてよかったな……」

 

 俺たちの手元には、僅かなパンと水が残されていた。食事がもらえなくなるかもしれないから、少しずつ食べるように、とミリアが教えてくれたのだ。

 

 だけど、それだってほんの気休めでしかないことは、口には出さなかったがお互いによく分かっていた。ゆっくり食べたところで、量が増えるわけではないのだから。

 

「あっ、ミ、ミリア!」

「な、なんですか!? ……あっ!」

 

 どうやら外では雨が降っているようで、雨漏りの水がしたたり落ちて来ているのを俺は発見した。つまり、今だけ水が飲み放題。

 

「やりましたね、ヨウスケさん! あなたもってますよ!」

 

 その途端、ミリアの周囲から突風が吹いて、俺は軽く壁に叩きつけられることとなった。

 

「グフッ……」

「ああ! ごめんなさい!」

 

 そんなやり取りがありつつも、俺とミリアは空に感謝しながら交代で水を飲んだのだった。

 

 だけど、雨が上がってしまえば、再び俺とミリアを飢えと渇きが襲った。特に、飢えの方がマズかった。まさか天井からパンが漏れてくるはずが無いのだから。

 

「……」

「……」

 

 やがて、お互い何も喋らなくなった。ミリアはお腹を押さえたまま、檻の隅で丸まっていた。俺も出来るだけ体力を消費しないよう、壁に背を預けて座っていた。

 

「……なあ」

「……どうしました?」

 

 丸まったミリアの幼い背中をじっと見ていた俺は、小さな決意と共に彼女のもとへと歩み寄った。ミリアは横たわったまま、こちらに頭を向ける。

 

「これ……食べるといい」

「……えっ……」

 

 一瞬、彼女の驚きに合わせて雷のようなものが弾けたが、すぐに抑え込んだようだった。それでもまだ状況を飲み込めていないのか、何度も彼女の周囲で小さくパチパチと電気が鳴っている。

 

「な……何をおっしゃっているんですか? それは、あなたのパンでしょう……?」

 

 俺が差し出したのは、最後に残った欠片のようなパンだった。元からそんなに大きくもなかったから、手の平くらいの大きさしかない。それでも、この檻の中では黄金よりも価値あるもので、俺が少女に与えられる唯一のものでもあった。

 

「いいんだ……食べてくれ」

「どうして、そんな……私は……」

「俺の故郷、日本であれば誰でもこうするものなんだ。君みたいな成長期の……この世界に成長期って概念があるか分からないけど……とにかく、小さな子がお腹を空かせるなんて間違ってる。俺もまだ十七だけど、君はもっと幼い。俺は君を守るべきだ……こんなことしかできなくて情けないけど」

「でも……でも……」

「受け取ってくれないなら、檻の外に投げちゃうけど……?」

「わっ、ま、待ってください! 食べます!」

 

 俺がパンを持って振りかぶると、ミリアは慌てた様子でパンを受け取った。両手で大事そうに抱えながら、少しずつ少しずつ食べていく。

 

「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 

 パチリパチリと、抑えきれない感情がスパークして、地下を照らしていた。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

 この檻に入れられてから、体感で一週間が経過した。この頃になると、流石にもう限界が近いと感じていた。

 

「もう……ここで終わりなんでしょうか……。こんなに長いこと忘れられるなんて……今まで無かったのですが……」

 

 俺の隣で、壁に背を預けて座っているミリアがぽつりと呟いた。どうやらこの状況は、「先輩」の彼女にとっても予想外だったらしい。流す涙もない小柄な体が震えているのは、飢えのせいなのか、恐怖のせいなのか。

 

 彼女は気を紛らわせるように、正気を保つように、いつも以上の口数で俺に話しかけてきた。

 

「いつかこうなるかもしれないと、頭では分かっていたんです……檻の中なんて場所で過ごしていたんですから。……でも、いざその時になると……こんなに怖いなんて思ってもみませんでした」

「……」

「あの……本当に、ここに一緒にいるのがヨウスケさんでよかったです。あなたみたいな優しい人で……。実を言うと、最初にヨウスケさんがここに入ってきた時、私怯えていたんですよ? 目は見えませんが、耳が良いので……年上の男の人が入ってきたって、すぐ分かりました。それで、もしかしたら、ここで私を……って」

「……」

「でも、見当違いも良いところでしたね。あなたは優しい人でした……。あの時頂いたパンの味は、多分一生忘れません。……もう少しかもしれませんけどね、フフ」

「……」

「……あ、あの? どうかしましたか? もう最後なんですし、沢山お話を——」

「なあ」

「はい?」

 

 俺は彼女の言葉を遮った。だって、まだだ。まだ、諦めちゃいけない。

 

「これは、俺の座右の銘なんだが……『ピンチはチャンス』!」

「——!!」

 

 俺の言葉に驚いたのか、ミリアの周囲に一瞬火の粉が舞った。

 

「ヨ、ヨウスケさんは……まだ、諦めていないのですか?」

「ああ……危機的状況はちょっとした流れで逆転の一手を生む……だから、最後まで諦めちゃいけないんだ。最後まで」

「……良い、言葉ですね。そっか……『ピンチはチャンス』……どなたの言葉ですか?」

「『ぷよ●よ』の攻略本だ」

「ぷよ……●よ? フフッ、面白いお名前の方ですね」

「あーいや、人の名前じゃなくて、ゲーム……ってこっちの世界にはないのかな?」

「ゲーム、ですか? 私は聞いたことありませんけど……教えてください、ヨウスケさん!」

 

 そうして、俺はミリアにせがまれるままゲーム(というかSE●A)について語った。知らない世界の話がよほど興味深いのか、ミリアは夢中で話に聞き入っていた。そこに、先ほどまでの悲壮感はかけらもない。

 

「……それで、『パ●スマン』の必殺技『ボルテッカー』がかっこよくてな。闇を切り裂く一条の光っていうか、力強くて美しい無敵の光体……そうだな、ちょうどそこの隙間から差し込んでる月の光みたいな……うん?」

「どうしました? その『パ●スマン』のお話をもっと詳しく……」

「い、いや、ちょっと待ってくれ。なんか今……声がしたような」

「声? 私以外のですか?」

「ああ。ちょっといいか」

 

 俺は立ち上がると、その声のもとに向かった。信じがたいことだけれど、それはどうやら、差し込んだ月の光から聞こえてくる。

 

「光そのものに意思……? 光の精霊……? 唱える? 古言語?」

「ど、どうしたんですか。ヨウスケさん?」

「ミリア、ちょっと下がっていてくれ」

「は、はい」

 

 ミリアが部屋の隅に向かったのを確認してから、俺は呪文を唱えた。

 

キライドルギドリオルラン(光剣顕現)

 

 俺の手は、光を()()()いた。ジジジジと音を立てるそれを振るえば、床をまるでバターのように切り裂いた。これは、まるで光の剣。

 

「変な音がしますけど……どうしたんですか?」

 

 心配そうなミリアの呟きを背に、俺は光の剣を檻の鉄格子へと振るう。

 

 すると、それは床と同じくバターのようにあっけなく切断され、もはやただの棒切れとなった鉄格子が床にガラガラという音と共に転がった。

 

「い、今の音って……まさか……」

「チャンスだ! 逃げるぞ、ミリア! こっちだ」

「は、はい!」

 

 差し伸べた手をしっかりと掴む小さな手。その温かさを感じながら、俺たちは外へと向かった。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

「ヨ、ヨウスケさん! 早く逃げましょう!」

 

 俺たちは地下から脱出する際に、他の檻に入っていた生き物たちを逃がしたのだが、どうやらそれらは凶暴な魔獣だったらしい。腹をすかせた獣たちが、牙を見せて集まってくる。

 

 あれらが魔獣だということは、この世界の住人であるミリアも知らなかったようだ。まあ、彼女の生い立ちを考えれば仕方のない事だし、何より彼女は鳴き声でしか判断できないのだ。

 

「ご、ごめんなさい! 私にもっと知識があれば……さあ、早く! 逃げましょう!」

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

 しきりに避難を呼びかけるミリアに、俺は待ったをかけた。なぜなら、見世物小屋の主人が魔獣たちに襲われ、助けを呼んでいるのを見つけたからだ。

 

「襲われてる……助けてくるから、待っててくれ」

「……はい?」

 

 俺の言葉に、ミリアは呆然とした様子で言った。

 

「な、何を言っているんですか!? この声の主が誰か、分かっていないんですか?」

「いや、分かってるよ。この見世物小屋の主人だろ?」

「だったら……!」

「でも、魔獣を解き放ったのは俺たちだしな……」

「そんなこと!! 関係ありません! 私たちは、あと少しで死ぬところだったんですよ!? あの人のせいで!! それなのに……なんで……」

 

 ミリアは必死になって、俺の服を掴んだ。彼女の言うことも、分からないわけじゃない。でも。

 

 俺は服を掴んでいる彼女の手を、ゆっくりと解きながら言った。

 

「……『君の役は』」

「ヨウスケさん……?」

「『ひたすら逃げまどう』……『一般民衆か?』……『それとも……!?』」

「ま、待ってください!」

レグスウィッドザルドーナ(機動纏身)

 

 動態の精霊の力を借りて、風のようなスピードで主人のもとへと向かう。そして、勢いはそのままに、彼にまとわりついていた魔獣たちを余すことなく光の剣で切り刻んだ。

 

「あ……ありがとう!! 助かっ……」

「よく頑張ったなあ……!」

「ヒギャアアアー!? オーク!?」

「大丈夫……もう安心していいんだ! 負傷転送を頼む! 座標……セット!」

 

 「ああああああ」なんて叫び声を上げながら、主人がとりあえずは安全地帯に行ったことを確認していると、後ろから声が掛けられた。どうやらミリアが走って追いついてきたらしい。元から幼いのに加えて、運動なんてできない環境にいたから、息も絶え絶えだ。

 

「ハアハア……ほ、ほら! あなたが折角助けた相手は、最後までオークだのと怯えっぱなしで……まともに感謝すらしなかったじゃないですか!」

「そうだな」

「だったら……なんでですか……!」

「そりゃあ、危ない目に遭ってる人がいたら助けなきゃだろ」

 

 俺の返答を聞いて、ミリアはへなへなと尻もちをついた。俯きながら、ぽつぽつと静かに喋り始める。

 

「……ヨウスケさんのこと、優しいって言いましたけど、撤回します。……あなたはバカです。本当に……呆れてしまうほどのお人好し。そんなんじゃいつか、後悔しますよ……」

「……」

「あなたに言いたいことが沢山あります……文句も……感謝も。でも、その前に」

 

 ミリアはすっくと立ちあがると、周囲に集まってきた魔物たちへと向き直った。無数の獰猛な魔獣たちが唸っているのに、彼女に怯んだところはない。

 

「一緒に戦いましょう! そしたら、二人で焼き肉パーティーです!」

「戦うって……ミリアは大丈夫なのか?」

 

 不安になった俺が尋ねると、ミリアは「ふふん」と得意げに言った。

 

「私の不思議現象は、戦いには持ってこいなんですよ? それに今なら、いくらでも感情が湧き出てきますから! むしろ、ヨウスケさんこそ気を付けてくださいね?」

 

 その宣言と共に、炎、氷、電気、風、あらゆるものがミリアの周囲で渦巻いた。そんな彼女の顔には、出会った時と同じ、見とれてしまうほど綺麗な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

「……こうして、俺とミリアは一緒に行動するようになったわけだ。この後、二人がかりで魔獣をさっさと倒して、ちょっと仮眠取ってから、おかしなテンションのまま焼き肉パーティーをした。死にかけてた俺たちの血や肉になってくれた魔物たちに感謝だな……」

「なるほどー……ミリアちゃんとは、こうして出会ったんですね」

「俺はこれを見るの二度目だけど……ものすごい出会いだよね」

 

 俺と藤宮は、おじさんが異世界に転移したばかりの記憶を見ていた。俺は一度おじさんを問い詰めた時に見たけど、何度見ても壮絶な体験だと思う。

 

 そこで、藤宮がふと思いついたように言った。

 

「ところで、おじさん。疑問なんですけど」

「ん? なに?」

「ミリアちゃんの不思議現象って、結局何なんですか? 最早呪いみたいに見えるんですけど……」

「あー……あの子は『精霊の(いと)し子』だったんだよ」

「精霊の愛し子……? つまり、あの現象は精霊さん関係だったってことですか? なんでそんなことを……?」

「その名の通り、『精霊の愛し子』ってのは、精霊にめちゃくちゃ好かれる体質の人を言うんだ。だから、あの不思議現象は、精霊的には『君が嬉しそうだから私も嬉しい』とか、『君が悲しんでるから慰めてあげるね』みたいな感じだったらしいんだよな……つまり、精霊側に悪気は全くなかったわけだ」

「人間と根本的に感性がズレてるあたり……まさに精霊さんって感じですね」

「うん……」

 

 俺と藤宮は、祭壇(今日の捧げものはアジの開きの頭だ)に思わず目を向けた。やっぱり精霊さんは、人の尺度で測ることのできない存在なのだろう。

 

 そんな俺たちに、おじさんが画面を指さしながら言った。

 

「ほら、ここでそれが分かったんだ」

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

「ふうー。食った食った」

「私もお腹いっぱいです……」

 

 協力して解体した魔獣を貪るように食べ、やっと人心地ついた俺たちは、朝焼けの草原に並んで横たわっていた。狭い檻の中より、こっちのほうがずっと良い。

 

「そういえば、ミリア」

「んー……なんですかー……私ちょっと眠くて……」

 

 ミリアは目をこすりながら、コロンとこちらに寝返りを打った。

 

「どうやら、俺は精霊の言葉が聞こえるみたいなんだが」

「へー……すごいですね……むにゃ……」

「さっきから精霊さんの言葉を聞いているかぎり、ミリアの不思議現象は精霊さんがやっているっぽいぞ」

「えっ!? ちょっと、詳しくお願いします!!」

「あ、ああ」

 

 そうして俺は、精霊さんたちの通訳として、彼女がどういう状況に置かれているのかを説明した。

 

 精霊さんはミリアを困らせようとしたわけじゃないこと、むしろ可愛がっている証拠だということ、どうやら精霊さんと人間では認識に大きな隔たりがあるようだということ、などなど。

 

 全てを聞き終えたミリアは、大きなため息と共に言った。

 

「精霊様たちが、私を大切に思ってくださっていることは分かりました……でもそれなら、私は普通の人に混じって生活するのは一生無理そうですね。ふとした拍子に炎を出してしまうんですもん」

 

 ミリアの顔はいくぶんスッキリとはしていたが、それでも少し寂しそうだった。自分の運命を、諦めと共に受け入れようとしているようだった。

 

 そんなミリアに、俺は言った。

 

「なら、説得してみようか?」

「えっ?」

「ちょっと待っててな」

「は? ん? 説得、と言いましたか? 精霊様を?」

 

 なにやら混乱している様子のミリアは放っておいて、俺は精霊さんたちと会話を始めた。

 

「あのー……すみません。わたくし、シバザキと申しますが……あっ、はい。お世話になっておりますー……それでですね、今回はミリアさんの件についてお願いしたいことがございまして……ああ、はい、彼女を大切になさっているのは存じ上げておりますが……はい……はい。ええ。ですので……私も彼女に付き添ってしっかりと守りますので……ええ」

 

 ポカーンとした顔(目のかわりに口があんぐりと空いている)のミリアをよそに、俺は精霊さんと交渉した。そうして、かれこれ五分くらい経った頃。

 

「……よし。許可が出たぞ」

「きょ、許可って?」

「俺が目の届く範囲で監督している間は、むやみに火とか出したりしないようにしてくれるそうだ」

「せ、精霊様を、本当に説得したの? そんなこと、できるの?」

「本当だって。ほら、試してみればいい」

「……さっきから、過去最高に驚いてるのに火の粉一つ出てないよ……」

 

 どうやら、ちゃんと説得できたいたらしい。驚きのあまり、ミリアの敬語がとれている。「まさか……本当に……」なんてブツブツ言っている彼女に、俺は一つ謝った。

 

「それと……事後報告で申し訳ないけど、これからは俺と一緒に行動してくれないか? 精霊さんも、自分たちと話せる俺が側にいると心強いらしくてな」

「……逆に、ここで別れるつもりだったんですか?」

「い、いや。そういうわけじゃないけど、一応な。日本では、こういうのは一度確認するものなんだよ」

「面倒くさい風習があるんですね……ですが、それよりも」

 

 ミリアは居住まいをただして、正座でこちらに向き直った。

 

「まさか、ヨウスケさん、いえ、ヨウスケ様が神様だとは存じ上げませんでした。数々のご無礼を、どうかお許しください」

「はっ? どうしたんだ急に!?」

「精霊様のお言葉を聞けるだけでなく、そのお力を借り、さらには説得までなさるとは……あなたが神でなくて何だというのでしょう」

 

 混乱する俺に向かって、彼女は綺麗な土下座を決めた。

 

「不束者ですが、どうかヨウスケ様のお傍に置いてください。お願いいたします」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は神様なんかじゃない! それに……」

「? それに?」

 

 ミリアが不思議そうに顔を上げる。その顔を見ていると、これまでの短期間で色々なことがあったなあと思う。右も左も分からない世界で初めて受けた無数の暴力、俺をオークと罵る人々、日本では経験したことの無かった飢えと渇き。そして何より、そんな世界でも、辛い中お互いに笑い合ったかけがえのない友人のこと。

 

「その……今更、そんな他人行儀なこと言わないでくれ。これからは一緒に行動するんだし、俺たちは……もう、友達だろう?」

「! はいっ!」

「うわっ!」

 

 ガバリと飛びついてきたミリアにバランスを崩され、草原に尻もちをつく。

 

「いてて……どうしたんだ、突然?」

「ヨウスケさん……あなたはやっぱり神様です。友達ですけど、神様です。だから……私を救い出してくれて、ありがとう! ヨウスケさん!」

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 画面越しにも溢れてくる、明るい感情。朝焼けの草原で涙する盲目の少女は、まるで一つの絵画のようだった。

 

 ミリアちゃんの言葉、雰囲気に、藤宮も俺もしばし絶句していた。画面の中の当時のおじさんも、固まってしまっているようだった。

 

 やがて、おじさんは画面を消して言った。

 

「まあ、なんというか……十七年間辛いことだらけの異世界生活だったけど……見ての通り、最初はかなりいいスタートを切れたんだ!」

 

 その言葉に俺と藤宮は、心からの大きな頷きで応えた。






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