「私の息子である貴方には王位を継承する資格があります。今はその身分を隠し、王に仕えなさい。そして、いずれ王を倒し、その身が王になるのです。
・・・元より、自分のことしか考えていなかったアレは『王』に相応しくない存在なのですから・・・・・・」
――母上はオレにそう言って王城へと送り出した。
正直、王に対してオレも思うことはあったが、オレはその言葉を全て鵜呑みにしてはいなかった。
確かに、『選定の剣』を損失したばかりかその代わりとなる聖剣を鞘ごと紛失したり、聖槍を扱うようになってから国内に王に対してとある悪評が広まったりしたが、悪評は王自身が女であることを明かすと共にした宣言で収まったし、なにより王が即位して統治を始てからブリテンの状況は少しずつではあるが良くなっていたからだ。
――ただ、火のない所に煙は立たぬと言う言葉もある。
もしかしたら、モルガンの言うことや悪評も事実かもしれない可能性もあるため、オレは最初は王を見定めるつもりだった。
だが、実際に王城に入って城内や戦場でオレなりに王を観察したり調査した結果、その懸念は杞憂に終わった。
まず、悪評の一つに「王は一人だけ贅沢をしている」というものがあったが、王自身は身なりはしっかり王に相応しいものにしていたが、特別きらびやかにしている訳ではなく、常識の範囲内のもので、むしろモルガンや地方の領主の方が着飾っていると言えた。
また、王も個人の資産を持っていたし、それを運用していたものの、その利益は円卓最古参で「一本の釘すらも無駄にしない」サー・ケイが国家運営のために管理、運用していて、王自身が私的に使用することなど出来ないようになっていた。
「聖槍により女神に近しい肉体になり食事は必要なくなったので、公務上のやむを得ない会食や祝い事の席以外では今後食事をしない」と言う、最初は悪評を払拭するための放言だと思っていた宣言も、円卓を含む城内の人間に聞いたところ、宣言から実際に王が食事をしているところを見たことが無いらしく、王自身も証明の一つとして城内の食事の時間は皆の前に必ずいる様にしていた。
(流石にその際は“皆が食事をし辛いだろう”と言うことで王には水や白湯が用意されていたが)
この時点で、オレはモルガンの言っていたことは嘘だったと思ったが、それを更に裏付ける決定的な出来事があった。
それはある日、頻度も規模も増してきていた蛮族との戦闘時のことだった。
その日、蛮族と戦闘中に突如、哨戒網に補足出来なかった敵が出現したのだ。
幸いなことに現時点で戦闘中の敵の増援でもなく規模も大きくなかったものの、場所が問題だった。
敵の出現位置はこの戦場から遠く離れており、更に敵の進行方向に村があったのだ。
――オレはこの報告を聞いたとき時、王は村を見捨てると思っていた。
今まで王のことを見ていたオレは、王は『無駄』を嫌うことを知っていたからだ。
村の規模は精々50人にも満たない小さな村。それを救おうとすれば、距離と時間的に馬を潰すことになり、蛮族と戦闘を行う以上、昔よりは減ったとはいえ戦傷者が必ず出る。
――どう考えても釣り合わない。
オレがそんなことを考えていると王は湖の騎士に指示を出し、この戦場を任せると少数の騎馬隊を連れ救援のために出撃しようとしていた。
――そんな王の姿を見てオレは大いに己を恥じた。
オレは今まで何を見ていたのか?
王は今まで私腹を肥やすこと無なく国のために尽くしてきていたではないか。
その王が無駄だから、釣り合わないからと民草を見捨てる?
――そんなこと、王がする訳ないだろうがッ!!!
オレは無我夢中で出撃しようとする王の下へ行き、自分も連れて行って欲しいと懇願した。
獅子を模した兜で王の顔は分からなかったが、王はただ一言、
「ならば着いてこい」
そう言った。
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結果から言うと村は救えた。
連れてきた騎馬隊の馬は現場に到着するまでは持ったのだが強行軍だったため到着するとともに死亡したが、部隊自体の戦死者は無しだった。まぁ、流石に兵達は疲労困憊の状態で戦闘が終わると皆ぐったりと横になっていた。
オレはその様子を苦笑いしつつも見ていたが、ふと王の姿が見えないことに気が付いた。
慌てて王を探すと王は小高い丘に兜を外して立ち、村の方を眺めていた。
その姿を見てオレは驚愕した。
――だって、王が微笑んでいたのだ。
王は普段、ほとんど表情を変えず感情を表さない。
聖槍を手にする前は違ったらしいが、聖槍を手にしてからは王が表情を変えたところを見た存在はいないらしい。
だから、「王は人ではなくなってしまった。人の心がない」などと言うヤツもいたが、そんなことなどなかったのだ。
だって、あんなに民を慈しんで微笑むことができる王に人の心がないなんてあるはずがないっ!!
オレは王の姿を、微笑みを心に刻み込み、一生の宝にすることにした。
例え、あの微笑みをもう二度と見る事が出来なかったとしても、オレに向けられなかったとしても、王のあの微笑みは特定の個人に向けられるものではなく、国へ、民へ向けられるものなのだから。
――――そう思っていたのに、なんで・・・・・・。