カードファイト!! ヴァンガード LunaLight   作:バビロン@VG

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第7話 展覧会の絵

 

風が吹いて、桜の花びらが散った。

 

春の陽気。空に広がる青い色。

穏やかな気候が、春の訪れを感じさせる。

 

公園内、花束を持った少女が近づいて──

 

「……ヒカル」

 

ベンチに座っている、小柄な少女に声をかけた。

長い黒髪の少女──ヒカルが顔をあげる。

 

「……ミコトお姉ちゃん」

 

どこか暗い声を出すヒカル。

しゅんとした様子で、顔を伏せている。

 

「大丈夫、行けそう?」

 

優しく声をかける少女──ミコト。

花束を胸に抱き、目線をそらす。

 

「もし無理なら、あたしだけで──」

 

「そんなことない! そんなことないよ!」

 

ミコトの言葉を、ヒカルが遮った。

顔をあげるヒカル。真っ直ぐに、ミコトを見る。

 

「行かないなんて……そんなこと、絶対ない!」

 

決意に満ちた目を向けているヒカル。

ミコトがどこか辛そうに、視線を伏せた。

 

2人の間を、穏やかな風が通り抜けていく。

 

「……うん、そうだね」

 

しばしの間の後、ミコトが頷いた。

花束を片手に、手を伸ばす。

 

「じゃ、行こ?」

 

ミコトが優しく、微笑んだ。

伸ばされたミコトの手を、ヒカルが掴む。

 

2人が並んで、歩き始めた。

 

街の雑踏。バス乗り場。バスの中。

閑静な住宅街を抜けて──

 

優雅な造りの大邸宅の前に、2人が立った。

 

「…………」

 

無言で門の柵を開けるミコト。

広々とした庭を、2人は進んでいく。

大きな扉の前、チャイムを鳴らして──

 

「……いらっしゃい」

 

扉が開き、一人の女性が姿を見せた。

黒い髪の美しい女性。茶色の瞳。

 

憂うような雰囲気を、女性は漂わせている。

 

「……お邪魔します」

 

丁寧に頭を下げるミコトとヒカル。

そのまま中へと入った。

 

しんと、家の中は静まり返っている。

 

「来てくれて嬉しいわ。ゆっくりして頂戴ね」

 

ミコト達を迎え入れた黒髪の女性が、

にっこりと微笑みを浮かべた。

 

その顔には、疲れがにじみ出ている。

 

「……ありがとうございます」

 

再び会釈するミコト。

ヒカルの手を引いて、家の中を進んでいく。

 

扉の前、花束を持ったミコトが立ちつくす。

 

「…………」

 

緊張したように、扉を見つめているミコト。

ヒカルがミコトの手をぎゅっと握った。

 

「……ミコトお姉ちゃん」

 

不安そうな声を出すヒカル。

ミコトの事を見上げる。

 

「……うん、分かってる」

 

ヒカルの言葉に、ミコトが頷いた。

意を決したように、ドアノブに手をかける。

 

扉を開けて──

 

「……ツキちゃん?」

 

部屋の中、ミコトが呼びかけた。

静まり返っている部屋。薄暗い室内。

 

ばさばさと、白いカーテンが揺れて──

 

「……ミコト、ヒカル」

 

御導ツキが、扉の方に顔を向けた。

大きな白いベッド。半身を起こしているツキ。

水色のパジャマに、黒縁の眼鏡をかけた姿。

 

にっこりと笑みを浮かべ──

 

「久しぶり! カワイイ後輩達!」

 

ツキが、片手をあげて微笑んだ。

立ち尽くしている2人。沈黙が流れる。

 

ツキが眉をひそめた。

 

「ん? どしたの、感動の再会の場面なのに」

 

軽い口調で話しているツキ。

以前と変わらぬ様子。明るい雰囲気。

 

ヒカルが駆けだして──

 

「……ツキちゃん!!」

 

大声をあげ、ツキの胸に飛び込んだ。

思わず、ツキが目を丸くする。

 

「わわわ、ヒカル!?」

 

びっくりしているツキ。

ヒカルが顔をあげ、潤んだ目を向けた。

 

「ずっと、ずっと心配してたんだよ!! 大会の途中、急に倒れちゃったって聞いて、その後はずっと、病院にいて……!!」

 

つっかえつっかえ、何とか話しているヒカル。

ツキに抱き着きながら、涙を流す。

 

「本当に、本当に死んじゃうんじゃないかって、あたし、あたし……!!」

 

ぶるぶると震えているヒカル。

そのまま大声をあげて、泣き始めた。

 

ツキが困ったように、頬をかく。

 

「……参ったなぁ」

 

泣いているヒカルの頭を撫でるツキ。

ミコトの方へと顔を向ける。

 

「ねぇ、ミコト。ちょっと助けてよ~」

 

眼鏡をかけたツキが、甘えるような声を出した。

無言で、ゆっくりと近づいてくるミコト。

 

その顔は、花束に隠れて見えない。

 

「……ミコト?」

 

首をかしげるツキ。

怪訝そうに、ミコトに向かって訊ねる。

 

ミコトの手から、花束が落ちて──

 

「うっ、ううっ……!!」

 

ぼろぼろと、ミコトの目から涙が落ちた。

顔を両手で覆うミコト。嗚咽があがる。

 

ツキが目を大きく見開いた。

 

「み、ミコト!?」

 

おろおろとしているツキ。

ミコトが涙をぬぐいながら、口を開く。

 

「ごめんね、ツキちゃん……! あたし、ツキちゃんの身体のこと、全然知らなくて……。あたし、あたし……!」

 

ミコトの言葉が途切れる。

そのまま大きく声をあげ、ミコトが泣き始めた。

 

2人が泣く声が、部屋の中に響き渡る。

 

顔を伏せて──

 

「……ごめんね、2人とも」

 

ぽつりと、ツキが呟いた。

視線をそらすツキ。窓の外を眺める。

 

澄み渡る青い空が、そこには広がっていた。

 

時間が流れて──

 

「少し、落ち着けた?」

 

ツキが、2人に向かって優しく訊ねた。

2人がなんとか、頷く。

 

「ごめん、ツキちゃん……。あたし、本当に、心配で、つい……」

 

しゅんとしているヒカル。

ツキが手を振った。

 

「いいよ! 正直、嬉しかったから!」

 

笑顔を浮かべているツキ。

 

「それにさ、ほら! すっかり元気になったでしょ! ツキちゃんは不死身なんだよ!」

 

両手を広げているツキ。

以前と変わらない、明るい声で話す。

 

「こうしてお家にも帰ってこれたしね! だから何も、心配しなくていいんだよ!」

 

ヒカルの顔に、ようやく笑みが浮かんだ。

 

「……うん!」

 

涙をぬぐうヒカル。

にっこりと微笑むと、ツキの方を向く。

 

「ねぇねぇ、ツキちゃん。その眼鏡、どうしちゃったの?」

 

じっと、ツキの顔を見つめているヒカル。

黒縁の、細いフレームの眼鏡。薄いレンズ。

 

ツキが目をつぶった。

 

「よく聞いてくれたね、ヒカル!」

 

得意そうな顔のツキ。

眼鏡のツルを手で押し上げて──

 

「こっちの方が、賢こそうに見えるでしょ!」

 

ツキが、明るく言い切った。

浮かんでいるドヤ顔。ヒカルが笑った。

 

「えー、なにそれ! 冗談でしょ?」

 

「いやいや、本当だよ。これ付けてるとね、すごく頭が良くなった気分になるから!」

 

きゃっときゃっと声をあげながら、

楽しそうに話している2人。

 

ミコトは目を伏せ、無言のままでいる。

 

「ねぇ、ミコト。ミコトもそう思うよね?」

 

ツキが、ミコトに向かって問いかけた。

名前を呼ばれ、はっとなるミコト。顔をあげる。

 

「えっ、な、なに?」

 

戸惑った様子のミコト。

ツキが不満そうな表情を浮かべた。

 

「あー、話し聞いてなかったでしょー。ダメだよ、カワイイ後輩! 目上の人には敬意を払わないと!」

 

わざとらしく、怒ったように言うツキ。

普段のミコトなら、ムキになるような言葉。

 

ミコトの視線が下がって──

 

「ご、ごめん、ツキちゃん……」

 

落ち込んだように、ミコトがそう答えた。

弱々しい声。沈んだ表情。

 

ツキの顔から、表情が消える。

 

「ミコトお姉ちゃん……?」

 

ヒカルもまた、首をかしげた。

心配するような目を向けているヒカル。

 

3人の間から、会話が消えた。

 

「……ねぇ、ミコト」

 

ツキが何かを言いかけた時だった。

ミコトが顔をあげて──

 

「……ごめん! なんか、感動しちゃって、ぼーっとしちゃってたみたい!」

 

普段と同じ、明るい声を出した。

照れたような笑みを、ミコトが浮かべる。

 

ヒカルがホッとしたように、息を吐いた。

 

「もー、ミコトお姉ちゃんったら、ダメだよ!」

 

「ごめんごめん、ヒカル!」

 

両手を合わせて謝っているミコト。

笑顔のまま、「アハハ」と声をあげる。

 

「……ミコト」

 

ぼそりと、小さく呟くツキ。

その目が真剣な光を帯びている。

 

ミコトが2人に近づいた。

 

「ねぇ、ツキちゃん。聞いてよ。ヒカルったら、ツキちゃんがいない間にね……」

 

普段と変わらぬ様子で、話し出すミコト。

そのまま、他愛のない話が延々と続く。

 

「へぇ、そうなんだー」

 

相槌をうっているツキ。

楽し気な雰囲気。3人の笑い声。

 

以前と変わらぬ光景が、そこには広がっている。

 

陽は沈み、青色が橙色に染まった。

黄昏の時間。夜の足音が忍び寄る。

 

「あっ、もうこんな時間なんだ」

 

時計を見て、ミコトが声をあげた。

ヒカルもまた目を丸くする。

 

「えっ、本当だ!? もうこんな時間!?」

 

外を見て、驚きの声をあげるヒカル。

ツキが息を吐いた。

 

「楽しい時間は、あっという間だね」

 

感慨深い口調のツキ。

愛おしそうな目を、2人の方に向ける。

 

「それじゃあ、そろそろ帰らないとね」

 

立ち上がるミコト。

ヒカルに向かって、手を伸ばす。

 

「ほら、ヒカル」

 

「……うー、もう少し、ダメ?」

 

ミコトを見上げているヒカル。

静かに、ミコトが首を振った。

 

「ダメだよ。もう夜なんだから。そろそろ帰らないと、怒られちゃうよ」

 

「……はーい」

 

渋々、ヒカルが頷いた。

伸ばされたミコトの手を、ヒカルが掴む。

 

ミコトが、微笑んだ。

 

「……それじゃ、ツキちゃん。また来るね」

 

どこかぎこちなく、話しているミコト。

ほんの一瞬、その表情が暗くなった。

 

「……そうだね」

 

ツキが腕を組む。

何かを思案するかのように、目を閉じた。

 

「……ツキちゃん?」

 

不思議そうに、その様子を見ているヒカル。

ミコトもまた「どしたの?」と訊ねる。

 

ゆっくりと、その目を開けて──

 

「ねぇ、2人とも!!」

 

不意に、ツキが大きな笑みを浮かべた。

ミコトとヒカルを見つめるツキ。

 

悪戯っ子のような表情を浮かべて──

 

「ちょっとさ、悪い事に付き合ってくれない?」

 

ツキが、2人に向かってそう訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ、本当にいいの? ツキちゃん……」

 

不安そうな声を出すミコト。

ブレザー姿のツキを、見上げる。

 

ツキが手をひらひらとさせた。

 

「平気だよー。ミコトったら心配性~」

 

からかうような口調のツキ。

にっこりと微笑んで──

 

「それにさ、やっぱり一度はやってみたいじゃん! 夜中に、こっそり家を抜け出すっての! これぞ青春の1ページ!」

 

ツキが、力強く断言した。

眼鏡越し、目を輝かせているツキ。

 

目の前には、夜の街が広がっていた。

 

行き交う人々。騒がしい雑踏。様々な光。

陽は沈み、深い黒色に満ちている空。

 

金色の満月が、3人を見下ろしている。

 

「あ、あたしも、ちょっとドキドキする……!」

 

上ずった声を出しているヒカル。

 

「こんな時間に外にいるのバレたら、パパとママに怒られちゃいそう……!」

 

興奮したように、辺りを見回すヒカル。

横のミコトもまた、頷いた。

 

「あたしの所も、わりと放任的だけど、さすがにこれはバレたらお説教かな……」

 

暗い声で話すミコト。

ツキが楽しそうに笑った。

 

「アハハ! それでこそ青春だよ、カワイイ後輩達! たまには悪い事もしないとね!」

 

嬉しそうに微笑んでいるツキ。

満足げに、行き交う人々の姿を眺めている。

 

「ねぇ、ツキちゃん。それで、わざわざ家を抜け出して、どこか行きたい所あるの?」

 

ツキに向かって、訊ねるミコト。

その言葉に、ツキが頷いた。

 

「もちろんだよ! このツキちゃんには、完璧な計画があるんだから!」

 

得意そうに指を伸ばすツキ。

2人が首をかしげた。

 

ツキが口を開く。

 

「私が行きたい所はね──」

 

その先に続いた言葉を聞いて、

ミコトとヒカルが驚いた。

 

「えっ!?」

 

「そ、そんなところでいいの!?」

 

声をあげる2人。

ツキがどこか不満そうな表情を浮かべる。

 

「えー。そこは、もっと嬉しそうに同意してくれないと、ツキちゃんは寂しいよー」

 

ぶーぶーと文句を言うツキ。

ミコトとヒカルが顔を見合わせた。

 

「まぁ、別にいいけど……」

 

小声で言うミコト。

ツキが嬉しそうに手を合わせた。

 

「おぉ、さすがはミコト! それじゃあ、早速だけど案内お願いね!」

 

にっこりと笑っているツキ。

ミコトがハァと、短く息を吐いた。

 

夜の街を、3人が並んで歩いていく。

 

「んー、やっぱり外を歩くのは気持ちいいねー」

 

黒い髪を揺らしながら、呟くツキ。

横のヒカルがツキを見上げた。

 

「夏に倒れてから、ずっと入院してたもんね、ツキちゃん……」

 

心配するような口調のヒカル。

ツキが両手を広げた。

 

「そうだねー。ずーっと病院のベッドにいたみたい。まぁ、正直、最初の方はいまいち覚えてないんだけどね」

 

軽く話すツキ。

ハッと、思い出したかのように手を叩く。

 

「そういえば、私が最後に出てた大会って、どうなったの? なんか迷惑かけちゃった?」

 

緊張した表情を、ツキが浮かべた。

ミコトがため息をつく。

 

「倒れてるツキちゃんが発見されて、すごい大騒ぎにはなったよ。大会は一時中断されただけで無事に終わったけど」

 

「そ、そうなんだ……」

 

ホッとしているツキ。

胸に手をあてながら、目をつぶる。

 

「いつか、普及協会の人にはちゃんと謝らないといけないね。うーん、気が重い……」

 

ぶつぶつと呟いているツキ。

ミコトが黙って、首を振った。

 

歩き続ける3人。会話が続く。

 

ミコトが立ち止まって──

 

「……はい、着いたよ」

 

ツキに向かって、そう告げた。

前に出るツキ。その口から感嘆の息が漏れる。

 

眼鏡の奥の目を輝かせて──

 

「ここが、私のカワイイ後輩達が出会った、伝説の公園なんだね!」

 

ツキが、興奮した声を出した。

広々とした空間。風に揺れる木々。街灯の光。

 

夜の公園が、目の前に静かに広がっている。

 

「伝説って……いつから伝説になったのよ」

 

呆れたようにつっこむミコト。

ヒカルが拳を突き上げた。

 

「あ、あたしは良いと思うよ! 伝説の公園!」

 

ツキに同調しているヒカル。

ミコトが額に手をあてた。

 

「いや、そういうことじゃなくて……」

 

「ほらほら、お喋りもいいけどさ! 早く中に入ろうよ、ミコト、ヒカル!」

 

はしゃいだ様子のツキ。

急かすように、2人に呼びかける。

 

3人が、公園の中を進んでいった。

 

「おー、ここが、なるほどー」

 

観光地に来たようなテンションのツキ。

あちこち、目移りしながら歩いていく。

 

「そんなに来たかったの? ただの公園だよ」

 

改めて訊ねるミコト。

ツキがすぐさま頷いた。

 

「もちろん。だってさ、ヒカルがずーっと自慢してるんだもん。この公園で、ミコトお姉ちゃんに助けられたんだーって!」

 

「えっ!?」

 

声をあげるヒカル。

ミコトが目を細めた。

 

「なに、ヒカル? そんな事話してたの?」

 

「え、えと。そ、それは……」

 

恥ずかしそうに顔を伏せるヒカル。

ツキがヒカルの肩に手を乗せた。

 

「そうだよー。だからさ、私も一回、その伝説の場所を見てみたくてさー」

 

どこかからかうように話すツキ。

ミコトが顔をしかめ、じとっとした目を向けた。

 

「もー、ツキちゃんったら……」

 

「お、調子が戻ってきたね、ミコト!」

 

楽しそうなツキ。

ヒカルは顔を赤くして、黙っている。

 

ファイトテーブルの近く、ベンチに座って──

 

「いやー、最高だね!」

 

ツキが、満足そうに声をあげた。

空を見上げているツキ。満月の浮かぶ空。

 

「まぁ、楽しかったならいいけどさ」

 

ツキの隣りに座っているミコトが、微笑んだ。

ヒカルもまた笑みを浮かべ、手をあげる。

 

「あたしも! またツキちゃんとミコトお姉ちゃんの3人で遊べて、すっごく楽しい!」

 

弾むような声を出すヒカル。

ツキが「でしょー?」とデレデレする。

 

月の光が、3人の姿を照らす。

 

「ねぇ、2人とも」

 

おもむろに、ツキが口を開いた。

月を見上げているツキ。穏やかな表情。

 

「なぁに、ツキちゃん?」

 

不思議そうに、ヒカルが訊ねた。

風が吹いて、周りの木々がざわざわと揺れる。

 

「私ね、2人に知ってもらいたいことがあるの」

 

透き通るような声で、ツキが話した。

ミコトの表情が一瞬、強張る。

 

「知ってもらいたいこと?」

 

きょとんとしているヒカル。

ツキが頷いた。

 

「うん。誰にも話してない、私の秘密」

 

天に向かって、手をかざすツキ。

神秘的な美しさを讃えた横顔。真剣な目。

 

ゆっくりと、ツキが口を開く。

 

「私ね、実は……」

 

言葉を途切れさすツキ。

静かな間。風で木が揺れる音だけが響く。

 

にっこりと笑みを浮かべて──

 

「この髪の毛、染めたいの!!」

 

楽しそうに、ツキがそう言い放った。

わずかな間。ミコトが目を見開く。

 

「……は?」

 

「ほら、私ってピアニストでしょ? あんまり奇抜な色とかにすると、親に注意されちゃうから。だからずっと我慢してるんだよねー」

 

笑いながら話しているツキ。

ミコトは唖然として、口を開けている。

 

「ツキちゃん、何色にしたいの?」

 

無邪気に訊ねるヒカル。

ツキが嬉しそうに顔を向けた。

 

「よく聞いてくれたね、ヒカル! 実はずーっと前から、それは決めているのだよ! 私が染めたい色はねぇ」

 

意気揚々な様子のツキ。

指を伸ばして、得意そうな表情を浮かべる。

 

2人に向かって──

 

「ずばり、緑色!!」

 

ツキが、とても誇らしげにそう答えた。

ヒカルが驚いたようにのけぞる。

 

「み、緑色!?」

 

「そう! 絶対、かっこいいでしょ!」

 

自信満々のツキ。

ヒカルが複雑そうに、答えに窮する。

 

大きなため息をついて──

 

「絶対やめて。超似合わないから」

 

ミコトが、冷ややかにそう言い切った。

ツキがガーンとショックを受ける。

 

「えっ、えぇ!? 嘘でしょ!?」

 

「マジだから。冗談でもやめてね、本当に」

 

鋭い目を向けているミコト。

威圧感にも似た雰囲気が、全身から漂っている。

 

「うぅ、そんなぁ……」

 

しくしくと、悲しそうに嘆いているツキ。

ミコトが再びため息をついた。

 

「ツキちゃんは、今の黒い髪が一番だよ。今更、そんな変える事ないって」

 

「だってだって、ミコトは染めてるじゃない!」

 

ミコトの茶色の髪を指差すツキ。

恥ずかしそうに、ミコトが視線をそらした。

 

「こ、これは、お母さんに勧められて……」

 

小さくなっていくミコトの声。

ツキが羨ましそうな目を向けた。

 

「いいなー。ミコトの家、美容室だもんね」

 

「……別に、関係ないよ」

 

「いやいや、オシャレさが違うもん。うーん、でもそっかー。ミコトが言うなら、やっぱり似合わないのかなぁ……」

 

少ししょんぼりとしているツキ。

ミコトが気まずそうな表情を浮かべた。

 

考えるような間を置いて──

 

「……どうしてもって言うなら、メッシュとかワンポイントカラーで緑入れてみたら? それなら、ツキちゃんにもきっと似合うよ」

 

ミコトが、そう提案した。

勢いよく、ツキが顔をあげる。

 

「ほ、本当!?」

 

「うん。少なくとも、全部緑よりマシ──」

 

そう言いかけたミコトを、

 

「ナイス提案! ありがとー、ミコトー!」

 

ツキが、思い切り抱き寄せた。

嬉しそうに、ミコトをハグしているツキ。

 

「もー、ツキちゃん……」

 

呆れたように、ミコトが声をあげた。

されるがままになっているミコト。慣れた対応。

 

ミコトがわずかに、顔を伏せる。

 

「あ、あのさ、あたしも、髪染めたいかも!」

 

おずおずと、ヒカルが声をあげた。

ツキが目をキラキラとさせる。

 

「おー、いいね! なら、3人で染めようよ! ミコトの家の美容室でさ!」

 

「ちょっとちょっと、勝手に……!」

 

不満そうなミコト。

ヒカルが元気に手をあげる。

 

「あ、あたしね! 実は、大きくなったら、ピンク色の髪にしたいなーってずっと思ってたの! ど、どうかな?」

 

ミコトに向かって、訊ねるヒカル。

ツキがミコトを離し、手を合わせた。

 

「いいじゃない、すっごいカワイイと思うよ!」

 

べた褒めしているツキ。

ヒカルが「えへへ」と照れたように笑う。

 

「えー、ピンク?」

 

ヒカルの方を向くミコト。

口元に手を当てながら、考える。

 

「まぁ、ツキちゃんの緑よりは全然いいけど。うーん……」

 

じっと、ヒカルの顔を見つめているミコト。

おもむろに、口を開くと──

 

「……ヒカルなら、金髪とか似合うんじゃない?」

 

そう、ミコトが答えた。

ヒカルが驚く。

 

「えー、金髪!?」

 

どこか不満そうな声を出すヒカル。

怒ったような表情が、その顔に浮かぶ。

 

「そんな、イヤだよ! それだと、不良みたいになっちゃう!」

 

ぷりぷりとしているヒカル。

ミコトが首を振った。

 

「そんなことないよ。ヒカル、カワイイから。お人形さんみたいになれると思うよ」

 

優しい口調のミコト。

ヒカルの顔から怒りが消えた。

 

「……そ、そう? そうかな?」

 

満更でもない反応になるヒカル。

恥ずかしそうに頬を染める。

 

「み、ミコトお姉ちゃんがそう言うなら……」

 

顔を伏せ、指をもじもじとさせているヒカル。

ミコトは楽しそうにその様子を見ている。

 

ツキがニッと笑った。

 

「でもさー、不良になったヒカルも面白そうじゃない?」

 

ミコト達に向かって問いかけるツキ。

からかうような笑みが広がる。

 

「金髪にして、ばちばちのまつ毛しちゃってさ! ピアス開けて、カラコンなんかも入れちゃって。服装もバシッと決めちゃってさー!」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

驚愕するヒカル。

ミコトが大きく笑い声をあげた。

 

「あはは! ツキちゃん、それ最高! 案外、そっちの方が似合うかも!」

 

笑い合っているミコトとツキ。

ヒカルが再び怒りの表情を浮かべた。

 

「も、もう! 2人とも! あたし、そんな風にならないよ!」

 

声を荒げるヒカル。

ツキが笑いながら、手を振る。

 

「大丈夫、冗談だって! それに、もしヒカルがそうなったとしても、私達はずっと友達だよ!」

 

断言するツキ。

横のミコトもまた、頷いた。

 

「そうだよ。それに、もし本当にグレちゃったら、ちゃーんとあたしが止めてあげるからさ」

 

冗談めかした口調のミコト。

ヒカルがムキになって、言い返した。

 

「だ、だから、グレないし、不良になんてならないってば!」

 

大きく言うヒカル。

喋り続けている3人。他愛のない話しが続く。

 

時が流れて──

 

「あっ、ヤバ」

 

ツキが、スマホを見て声をあげた。

小刻みな振動。表示された「ママ」の文字。

 

ツキがスマホを耳にあてる。

 

「もしもし? うん、はい。うん……」

 

黙って会話を聞いているツキ。

最後に「うん、ごめんー」と言い通話を切る。

 

ツキが舌を出した。

 

「やー、怒られちゃった。さて、それじゃあ、そろそろ本当に帰らないとね」

 

ミコト達に呼びかけるツキ。

2人が頷いた。

 

「そうね、そろそろ限界」

 

「あたしも、ちょっと眠い……」

 

目を半開きにして、眠そうなヒカル。

ツキが立ち上がった。

 

「うん、2人とも、付き合ってくれてありがとう! 最高の思い出になったよ!」

 

輝くような笑顔を浮かべているツキ。

ミコトとヒカルが笑い合った。

 

ツキがスマホを操作する。

 

「それじゃ、タクシー呼ぶね。2人とも家まで送って行くから」

 

「えっ、そんな、悪いよ!」

 

「いいから、いいから。年上の言う事は素直に聞くものだよ! それに、私も乗らないと道分からないから、帰れないし~」

 

冗談めかして話しているツキ。

ヒカルが「別にいいのに……」と呟く。

無言のミコト。

 

月の光が降り注いで──

 

公園の横に、タクシーが到着した。

後部座席に3人が乗り込む。

 

「それじゃあ、まずは──」

 

運転手に向かって口を開くツキ。

だがツキが話すよりも早く、

 

「ヒカルの家の方が、ここから近いよ」

 

ミコトがそう告げた。

ツキが驚いたように、ミコトの方を見る。

 

ミコトがヒカルを見つめた。

 

「ね、そうでしょ?」

 

「えっ、あ、そうかな……?」

 

自信なく答えるヒカル。

一瞬の間の後、ツキがフッと微笑んだ。

 

「そうだね。じゃあまずは、ヒカルの家からで」

 

「あっ、う、うん!」

 

頷くヒカル。

運転手に向かって、住所を伝える。

 

タクシーが走り出した。

 

「ねぇ、ツキちゃん、聞いて聞いて! あのね、あたし、ツキちゃんがいない間に、デッキのカードをね……!」

 

楽しそうに話し続けているヒカル。

ツキは微笑みながら、その話しを聞いている。

 

時間が過ぎて──

 

タクシーが止まり、ドアが開いた。

 

「それじゃあね、ツキちゃん! ミコトお姉ちゃん!」

 

タクシーから降りるヒカル。

にっこりと笑いながら、元気に手を振る。

 

「あたし、ツキちゃんと久しぶりに会えて、今日はすごく嬉しかったし、楽しかった!」

 

目を輝かせているヒカル。

無邪気な笑みを浮かべながら──

 

「じゃあ、"またね"!!」

 

ヒカルが、2人に向かってそう言った。

目を伏せがちに、沈黙するミコト。

 

ツキが片手をあげた。

 

「うん、またね! ヒカル!」

 

明るい声で答えるツキ。

にっこりと笑いながら、手を振る。

 

ドアが閉まって、タクシーが再び走り出した。

 

「さて、それじゃあ次はミコトの家だね!」

 

明るく話しているツキ。

ミコトは黙って、窓の外を眺めている。

 

「えーっと、ミコトの家の住所って──」

 

言いかけたツキの言葉を、

 

「ツキちゃん」

 

ミコトの言葉が、遮った。

静かな声。決意を感じる声色。

 

ツキが、首をかしげた。

 

「ん? どうしたの?」

 

微笑んでいるツキ。

ミコトの方を、覗き込むように見る。

 

顔を向けて──

 

「大事な話しがあるの」

 

ミコトが、鋭い目を向けた。

真剣な表情。茶色の瞳がツキの姿を捉える。

 

無言の車内。窓から見える、金色の満月。

 

「……そっか」

 

ツキが、小さな声で呟いた。

フッと息を吐くツキ。前を向いて──

 

「運転手さん!」

 

声をあげるツキ。

笑顔を浮かべながら──

 

「今から言う住所にお願いします!」

 

ツキが、自分の家の住所を運転手に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳は落ち、辺りは静まり返っている。

 

金色の満月が浮かぶ空。暗い夜。

ばさばさと、白いカーテンが風に揺れる。

 

黒いテーブルを挟んで──

 

「それで、ミコト?」

 

ツキが、ミコトに向かって静かに訊ねた。

微笑んでいるツキ。両手を広げる。

 

「大事な話しって、何かな? ひょっとして、愛の告白とか? やーん、ミコトってば、案外大胆なんだねー」

 

デレデレとした様子のツキ。

ミコトは暗い表情のまま、顔を伏せている。

 

「……ツキちゃん」

 

ぽつりと、呟くように話すミコト。

小さく、かすかに震えた声が響く。

 

「ん? なぁに?」

 

聞き返すツキ。

ミコトが一瞬、言葉を詰まらせた。

 

ぎゅっと、ミコトが拳を握る。

 

「……本当は」

 

聞き取れない程、小さな声。

薄暗い室内。月明かりが2人を照らす。

 

白いカーテンが揺れて──

 

「本当は、あとどれくらい会えるの?」

 

ミコトの言葉が、闇の中に溶けるよう響いた。

しんと、静まり返っている室内。音のない空間。

 

ツキが肩をすくめた。

 

「……どういう意味かな? ツキちゃん、何が言いたいのかさっぱり──」

 

「とぼけないでよ!!」

 

ミコトが声を荒げた。

悲鳴のような声。ミコトが顔をあげる。

 

大粒の涙が、その瞳には浮かんでいた。

 

「ツキちゃん、心配ないなんて、嘘ついて……!! 本当は、違うんでしょ!? 本当は、本当は……」

 

途切れ途切れ、言葉を紡いでいるミコト。

涙を流しながら──

 

「本当は……もう、治らないって分かったから!! だから、お家に帰ってきたんでしょ!!」

 

ミコトが、叫ぶように言い放った。

声をあげて、ミコトが泣き始める。

 

「あたし、いっぱい、調べたの……。ネットとか、本とかで……。もう死ぬのが分かっている患者に対して、最期をどう過ごすか決めさせる治療があるって……!!」

 

涙をぬぐいながら、喋っているミコト。

ツキは黙って、その言葉を聞いている。

 

ミコトが顔をあげた。

 

「ねぇ、ツキちゃん!! お願いだから、嘘つかないでよ!! あたし、あたしは……!!」

 

悲愴な表情を浮かべているミコト。

ぽたぽたと、涙が流れて床に落ちた。

 

ツキが小さく首を振った。

 

「……参ったなぁ」

 

心の底から、困った表情を浮かべているツキ。

ため息をつくと、視線をそらす。

 

「ごめんね、ミコト……」

 

謝罪の言葉を口にするツキ。

窓の外、金色の満月を眺める。

 

「私、諦めたくなかったんだけどなぁ……」

 

ぽつりと、小さく呟くツキ。

フッと、どこか自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「でもさ、もう、どうにもならないみたい。私の身体、もう限界みたいなんだよね」

 

ツキが両手を広げた。

穏やかな微笑み。諦めたような声。

 

「眼鏡がないと、目もよく見えないしさ。ピアノも弾けなくなっちゃったし……」

 

指を伸ばしているツキ。

白く細い指を、見つめる。

 

「正直、あとどれくらい時間があるかは、私にも分からない。だけど……」

 

いつもと変わらぬ声のツキ。

微笑みを崩さないまま、続ける。

 

「きっと、あんまり長くはないんじゃないかな。アハハ……」

 

空虚な笑い声。頬をかくツキ。

ミコトがうっと、声を漏らした。

 

「嫌だ、嫌だよ、ツキちゃん……!!」

 

頭を抱えているミコト。

ぶるぶると、その身体は震えている。

 

「死んじゃうなんて、絶対嫌!! だって、だってまだ、あたしもヒカルも、ツキちゃんと一緒にいたいもん!! もっと、ずっと、一緒に……!!」

 

嗚咽を漏らしているミコト。

ツキは黙って、考えるように目を細めている。

 

風が吹いて──

 

「ねぇ、ミコト」

 

ツキが、穏やかに呼びかけた。

黒い髪がふわりと広がる。

 

「お願いがあるの」

 

にっこりと微笑んでいるツキ。

静かに、白いデッキケースを取り出す。

 

月の光が、テーブルの上に降り注いで──

 

「私と、ファイトして!」

 

大きく言い、ツキがデッキケースを構えた。

ミコトが顔をあげる。

 

「ファイト……?」

 

涙でぐずぐずになっているミコト。

何とかして、ツキの方を向く。

 

ツキがいつもの、自信に満ちた笑みを浮かべた。

 

「そう。私とミコト、いつもの真剣勝負!」

 

明るい声で話しているツキ。

両手を広げる。

 

「ミコトはいつだって勝気で、私に勝つためにがんばってて。私、そんなミコトが大好きだから! だからお願いミコト、今ここで、私と本気でファイトして! きっと……」

 

一瞬、言葉が途切れるツキ。

わずかに、その目線が下がる。

 

「……きっと、これが最後だと思うから」

 

静かな言葉。消え入るような声。

月が雲に隠れ、二人の姿が闇に溶ける。

 

安らかな静寂だけが、室内を満たした。

 

「……ツキちゃん」

 

涙をぬぐうミコト。

よろよろと、背筋を伸ばす。

 

赤いデッキケースを、ミコトが取り出した。

 

「……分かったよ」

 

か細く、震えている声。

泣きそうな表情を浮かべながら、

 

「それが、ツキちゃんの望みなら……!」

 

振り絞るように、ミコトがそう言った。

震えている手。浅く乱れた呼吸。

 

ツキが、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「……優しいね、ミコトは」

 

ぽつりとつぶやくツキ。

指を伸ばし、かけていた眼鏡を外す。

 

白いカーテンがばさばさと揺れて──

 

「じゃあ、はじめようか」

 

ツキの声が、静かに響いた。

黒いテーブルを挟んで、対峙している2人。

 

向かい合う、月のスリーブに入ったカード。

 

「いくよ、カワイイ後輩」

 

すっと、ツキが指をカードの上に置いた。

深呼吸しているミコト。指を伸ばす。

 

月の光が差し込んで──

 

「スタンドアップ・ヴァンガード!!」

 

2人の指が、カードをめくった。

 

「《サンセット・エッグ》!」

 

「……《天弓の騎士 ベイス》」

 

 

サンセット・エッグ

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― 人知れず眠る、夢幻の遺伝子を秘めた卵。

 

 

天弓の騎士 ベイス

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー6000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。

― 天空の民は自らが選ばれし者であると心得ている。

 

 

表になる2枚のカード。

月の光が、その姿を照らす。

 

「私のターン」

 

微笑みながら、ツキがそう宣言した。

カードを引くツキ。1枚を選ぶ。

 

「《緑の魔少女 "ダスク"》にライド」

 

ぱさりと、1枚のカードが置かれる。

緑の髪の少女が描かれたカード。

 

「スキルで、ルナコクンを手札に」

 

 

緑の魔少女 "ダスク"

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが「サンセット・エッグ」からライドして登場した時、あなたの山札から「ルナコクン」を1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルする。

― 才華に溢れる少女を、人々は"夜"の名前で表現した。

 

 

山札を広げるツキ。

金色の繭の妖精のカードを、表にする。

 

 

ルナコクン

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー5000 / シールド5000 / ☆1

【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。

― あたしの姿、あなたにはどう見える?

 

 

「ターンエンド」

 

カードを手札に加えながら、静かに言うツキ。

ミコトの方を見据える。

 

「……あたしのターン」

 

暗い声のミコト。

カードを引くと、苦しそうに1枚を選ぶ。

 

「《天剣の騎士 フォート》にライド……」

 

 

天剣の騎士 フォート

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが「天槍の騎士 ルクス」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を2枚公開する]ことで、あなたの山札を上から1枚公開し、それがユニットカードなら(R)にコールし、違うなら、ドロップに置く。

【起】【(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、グレード3のあなたのヴァンガードを1枚選び、そのターン中、パワー+5000。

― 「クラウドナイツ」は地上の法と秩序を空から守る。

 

 

「ベイスのスキルで1枚ドロー……」

 

さらにカードを引くミコト。

ヴァンガードの上に、指を置く。

 

「フォートで、アタック……!」

 

「ノーガード」

 

穏やかに宣言するツキ。

ミコトが「チェック・ザ・ドライブ」と言い、

山札の上のカードを表にして見せた。

 

 

ペインキラー・エンジェル

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。

― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。

 

 

「ダメージチェック」

 

カードをめくるツキ。

そのまま、1枚を横向きに置く。

 

 

スプライト・マドンナ

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが(R)に登場した時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から「ルナコクン」を1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルする。

― もう一度、夢を魅せて、ア・ゲ・ル。

 

 

ツキ ダメージ0→1

 

 

「ターンエンド……」

 

顔を伏せ、宣言するミコト。

カードを持つ手が、かすかに震えている。

 

「私のターン」

 

カードを引くツキ。

手札の中の1枚を指で挟み、捨てる。

 

「《秘めたる才気 "ミッドナイト"》にライド」

 

重ねられる1枚。

少し成長した、緑の髪の少女の姿。

 

 

秘めたる才気 "ミッドナイト"

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ストイケイア - インセクト 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが「緑の魔少女 "ダスク"」からライドして登場した時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。

― 比類なき才能。彼女には直系の血が流れている。

 

 

「スキルで、《ミニュアデス》を表に」

 

手を伸ばすツキ。

白い兎のスリーブに入ったカード、

影の光を纏う蛍の女怪人の姿が表になる。

 

 

ミニュアデス

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ストイケイア - インセクト 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【メタモルフォシス】-「ルナコクン」

((R)の指定ユニットをシャドウゾーンに置くことで、表のこのカードを登場させてもよい)

【起】【(V)/(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、そのターン中、あなたのヴァンガードは、相手のヴァンガードが持つ能力をすべて得る。

【永】【(R)】あなたのターン終了時、【コスト】[このユニットをシャドウゾーンに表で置く]ことで、1枚引く。

― 影の蛍が照らすのは、相反する「真実」の夢。

 

 

ツキが指をカードの上に置いた。

 

「ミッドナイトで、アタック」

 

静かな宣言。

カードを横に動かすツキ。

 

ミコトが、震える声で答える。

 

「ノーガード……」

 

「ドライブチェック」

 

すっと、手を伸ばすツキ。

カードを表にする。

 

 

賛美を告げる影の舞

ノーマルオーダー 〈3〉

ストイケイア

「セレネシス」を含むあなたのヴァンガードがいるなら、プレイできる!

あなたのシャドウゾーンから「ルナコクン」を1枚選び、(R)にコールする。

― 踊りましょう。この歓喜を、姫様に。

 

 

「ダメージチェック……」

 

ミコトもまた、カードをめくった。

白い天馬のような姿のカードが、場に置かれる。

 

 

アイジスメア・ドラゴン

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - コスモドラゴン 

パワー6000 / シールド0 / ☆1

【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)

【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。

― この痛み……私が全て引き受けましょう。

 

 

ミコト ダメージ0→1

 

 

「ターンエンドだよ」

 

透き通るような、穏やかな声。

手札を片手に、ツキがにっこりと笑った。

 

ミコトは顔を伏せている。

 

「あたしのターン……」

 

デッキからカードを引くミコト。

1枚を選ぶと、カードを掴む。

 

「《天槍の騎士 ルクス》にライド……」

 

カードを置くミコト。

白い鎧の騎士の姿が描かれたカードが現れる。

 

 

天槍の騎士 ルクス

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ケテルサンクチュアリ - エルフ 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが「頂の天帝 バスティオン」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を3枚公開する]ことで、1枚引く。

【永】【(R)】:あなたのターン中、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、このユニットは『ブースト』を得て、パワー+5000。

― 俺達に任せておけって。しっかり守ってやるからよ。

 

 

「フォートのスキルで、手札の2枚を公開……」

 

カードを少しだけずらすミコト。

暗闇の中、2枚のカードを掲げる。

 

 

戦禍の騎士 フォサド

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。

【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。

― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。

 

 

寛解の太刀 ファヌエル

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、【コスト】[【カウンターブラスト】(2)]することで、そのバトル中、このユニットのクリティカル+1。

― 空の患者も地上の怪我も、私が必ず治してみせるわ。

 

 

「山札の上を見て……ラマーナを、コール」

 

デッキの一番上を見るミコト。

そのまま、カードをヴァンガードの横に置く。

 

 

激甚の魔女 ラマーナ

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - エルフ 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。

― そこで跪け!

 

 

並び立つ騎士と魔女。

ミコトがヴァンガードのカードを動かす。

 

「ルクスでアタック……!」

 

「ノーガード」

 

迷いなく、そう宣言するツキ。

ミコトがカードをめくった。

 

 

プラチナム・ウルフ

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - ハイビースト 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【起】【(R)】:【コスト】[【ソウルブラスト】(2)]することで、そのターン中、このユニットのパワー+5000。

― 白金の狼は地上の民に寄り添う。

 

 

「ダメージチェック。ノートリガー」

 

指を動かして、カードを見せるツキ。

そのままゆっくりと、カードを横に置く。

 

 

共謀怪人 アドマンティス

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが(R)に登場した時、あなたの他のリアガードを1枚選び、そのターン中、パワー+5000。

― 自ら手を見下すのは、あくまで最後の手段でいい。

 

 

ツキ ダメージ1→2

 

 

真っ直ぐに前を向いているツキ。

ミコトが震える指で、さらにカードを動かす。

 

「ラマーナで、アタック……!」

 

カードを横にするミコト。

顔をあげて、ツキの言葉を待つ。

 

微笑みを讃えながら──

 

「ノーガード」

 

ツキが、静かにそう宣言した。

「うっ……!」と、声を漏らすミコト。

 

ツキのダメージに、カードが置かれる。

 

 

流麗怪人 グロリアス・スタッグ

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ストイケイア - インセクト 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、相手のユニットがすべて【レスト】しているなら、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。

【自】【(R)】:このユニットがアタックしたバトル終了時、あなたのヴァンガードが「夢幻蝶姫 セレネシス」なら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。

― 特級怪人の実力、見せてあげる。

 

 

ツキ ダメージ2→3

 

 

「ターン、エンド……」

 

暗闇の室内に、ミコトの声が響く。

顔を隠すように、手札を持っているミコト。

 

ツキが、デッキの上に手を乗せた。

 

「私のターン」

 

カードを引くツキ。

1枚を捨てると、手を伸ばしカードを掴んだ。

 

月のスリーブに入ったカードを構えて──

 

「《夢幻蝶姫 セレネシス》にライド」

 

静かに、ツキがカードを置いた。

影の世界を統べる虫の姫君が、優雅に姿を現す。

 

 

夢幻蝶姫 セレネシス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ストイケイア - インセクト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。

― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。

 

 

「スキルで、メレアグリデスを表に」

 

白い兎のスリーブに入ったカードの中、

影の翼を持つ蝶の女怪人のカードを選ぶツキ。

 

手札の1枚を掴む。

 

「ルナコクンをコール」

 

虫の姫君の横、金色の繭の妖精が姿を見せた。

 

 

ルナコクン

ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー5000 / シールド5000 / ☆1

【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。

― あたしの姿、あなたにはどう見える?

 

 

すっと、カードを手に取るツキ。

目線を切って──

 

「メレアグリデスに、メタモルフォシス」

 

2枚のカードが、入れ替わった。

影と夢。2つの世界が重なるように混じり合い、

青白い蝶の女怪人が降臨する。

 

 

メレアグリデス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ストイケイア - インセクト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【メタモルフォシス】-「ルナコクン」((R)の指定ユニットをシャドウゾーンに置くことで、表のこのカードを登場させてもよい)

【起】【(V)/(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1),あなたのドロップから【超】トリガー以外のトリガーユニットを1枚シャドウゾーンに置く]ことで、相手のヴァンガードがグレード3以上なら、そのトリガー効果を1回発動する。

― 影の蝶が魅せるのは、光輝く「奇跡」の夢。

 

 

「メレアグリデス……?」

 

困惑したような声のミコト。

ツキが微笑みながら、手を伸ばす。

 

「スキル発動。ドロップのトリガーを1枚、シャドウゾーンへ」

 

ダメージの1枚を裏返すツキ。

ドロップのカードを、影の領域へと置く。

 

 

晴朗の乙女 レェナ

トリガーユニット 【引】+10000

(ドロートリガー) 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - バイオロイド 

パワー4000 / シールド5000 / ☆1

【永】【(G)】:相手のヴァンガードがグレード3以上なら、このユニットのシールド+5000

― こんなに良いお天気なのですよ?お散歩しましょ~♪

 

 

桃色の乙女のカード。

暗闇の中、カードが置かれる音だけが響く。

 

条件を満たしていないので、効果は発動しない。

 

「セレネシスのスキル。メレアグリデスの能力をコピー。スキルを発動して、ドロップのトリガーをシャドウゾーンに」

 

ヴァンガードの下のソウルを抜き取るツキ。

淡々と話しながら、カードを動かしていく。

 

 

夢幻蝶姫 セレネシス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ストイケイア - インセクト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。

― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。

 

 

影の領域に、さらにカードが置かれた。

 

 

ドリーミング・バタフライ

トリガーユニット【治】 +10000

(ヒールトリガー) 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー5000 / シールド15000 / ☆1

(【治】はデッキに4枚までしか入れられる。)

― 夢の世界へと誘う、煌めく鱗粉。

 

 

先程と同様。条件を満たしていないため、

トリガー効果は発揮されない。

 

ミコトが顔をあげた。

 

「ツキちゃん……?」

 

不安そうな声。動揺している瞳。

流れるように、ツキがカードの上に指をのせた。

 

「じゃあ、いくよ」

 

笑っているツキ。

カードを横向きへと動かした。

 

「セレネシスで、ヴァンガードにアタック」

 

攻撃の宣言。カードが動かされ、

虫の姫君の目がミコトの方へと向けられる。

 

 

夢幻蝶姫 セレネシス パワー13000

 

 

何の能力も、効果もない攻撃。

ミコトが言葉を詰まらせるようにして、言う。

 

「ノー、ガード……!」

 

苦しそうな表情のミコト。

浅く早い呼吸。乱れた息遣い。

 

ツキが手を伸ばした。

 

「ツインドライブ」

 

カードをめくっていくツキ。

2枚のカードが、その手元で表になる。

 

「ファーストチェック、ノートリガー。セカンドチェック、クリティカルトリガー」

 

 

賛美を告げる影の舞

ノーマルオーダー 〈3〉

ストイケイア

「セレネシス」を含むあなたのヴァンガードがいるなら、プレイできる!

あなたのシャドウゾーンから「ルナコクン」を1枚選び、(R)にコールする。

― 踊りましょう。この歓喜を、姫様に。

 

 

シャドウ・レディバグ

トリガーユニット 【☆】+10000

(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー5000 / シールド15000 / ☆1

― 影の世界には、かつて失われた遺伝子が隠されている。

 

 

めくられた1枚。

影の世界に住まう、天道虫の女怪人のカード。

 

「クリティカルはセレネシス、パワーはメレアグリデスへ!」

 

明るい声で、ツキがそう宣言した。

顔を伏せているミコト。

 

ダメージに、2枚のカードが置かれる。

 

 

ペインキラー・エンジェル

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。

― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。

 

 

天槍の騎士 ルクス

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ケテルサンクチュアリ - エルフ 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【自】:このユニットが「頂の天帝 バスティオン」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を3枚公開する]ことで、1枚引く。

【永】【(R)】:あなたのターン中、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、このユニットは『ブースト』を得て、パワー+5000。

― 俺達に任せておけって。しっかり守ってやるからよ。

 

 

ミコト ダメージ1→3

 

 

「うっ、うぅっ……!」

 

小さく、うめいているミコト。

ツキが微笑みながら、指をカードに乗せた。

 

「メレアグリデスで、アタック!」

 

カードを動かすツキ。

蝶の女怪人による攻撃。静かな間。

 

ミコトが、ぎゅっと手を握った。

 

「ノーガード……!」

 

手札を見ることもなく、宣言するミコト。

震えながら、カードをダメージに置く。

 

 

戦禍の騎士 フォサド

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。

【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。

― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。

 

 

ミコト ダメージ3→4

 

 

「ターンエンドだよ」

 

静かに、そう宣言するツキ。

口元に笑みを浮かべながら、目を細めている。

 

息を乱しながら──

 

「あたしのターン……!」

 

ミコトが、なんとかそう宣言した。

小刻みに震える手で、カードを引くミコト。

 

手札のカードを一瞥する。

 

「あ、あたし、あたしは……!!」

 

指をふらふらとさせているミコト。

迷い苦しむように、言葉が出てこなくなる。

 

風が吹いて、カーテンの揺れる音が響いた。

 

「ねぇ、ミコト」

 

薄暗い室内に、ツキの言葉が響く。

顔を上げ、視線を向けるミコト。

 

月の光に照らされて──

 

「私、ミコトの本気が見たいな」

 

ツキが、優しく微笑んだ。

 

「お願い。かっこいい所、見せてよ」

 

手を伸ばしているツキ。

輝くような笑顔。煌めいている姿。

 

ミコトが目を見開く。そして──

 

「うっ、うああああっ!!」

 

その口から、叫ぶような声があがった。

ミコトの目から、涙がこぼれる。

 

カードを掴んで──

 

「《剣聖騎竜 グラムグレイス》にライド!!」

 

叩きつけるように、ミコトがカードを置いた。

 

 

剣聖騎竜 グラムグレイス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - コスモドラゴン 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【永】【(V)】:あなたのペルソナライドは後列のユニットのパワーも増加させる。

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1), 【ソウルブラスト】(1)]することで、1枚引き、あなたの手札から1枚選び、中央後列の(R)にコールし、そのターン中、そのユニットは後列からでもアタックでき、パワー+10000。

【自】【(V)】:あなたの中央後列のリアガードがアタックしたバトル終了時、そのユニットをソウルに置き、1枚引く。

― 蒼空より来たれ、我が刃。龍血伝承・閃耀不壊!

 

 

「スキルで1枚ドロー!! 手札のファヌエルをコール!! 後列からアタック可能に!!」

 

ダメージのカードを裏返すミコト。

手札の中から、天使の描かれたカードを出す。

 

 

寛解の太刀 ファヌエル

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、【コスト】[【カウンターブラスト】(2)]することで、そのバトル中、このユニットのクリティカル+1。

― 空の患者も地上の怪我も、私が必ず治してみせるわ。

 

 

黙って、微笑んでいるツキ。

手札のカードを、ミコトが掴む。

 

「フォサド!! ペインキラー!! ヴェーチェルをコール!!」

 

選ばれた3枚のカード。

ミコトの盤面が、全て埋まった。

 

 

戦禍の騎士 フォサド

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。

【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。

― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。

 

 

ペインキラー・エンジェル

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - エンジェル 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。

― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。

 

 

天風の剣士 ヴェーチェル

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがブーストした時、そのターン中、このユニットのパワー+2000。

― この風が、必ず勝利を運び込むわっ!

 

 

「うんうん」

 

頷いているツキ。

楽しそうに、盤面へと視線を向けている。

 

だんと、ミコトが荒々しくカードに指を置いた。

 

「ペインキラーのブースト、フォサドでヴァンガードにアタック!!」

 

泣きながら、カードを動かすミコト。

ツキが目を伏せた。

 

「ノーガード」

 

穏やかな表情のツキ。

カードをめくると、静かに置く。

 

 

ノブレス・フリット

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ストイケイア - インセクト 

パワー8000 / シールド5000 / ☆1

【永】【(R)】:あなたのターン中、相手のヴァンガードがグレード3以上なら、このユニットのパワー+5000。

― 綺麗だろう?光を振りまくボクの姿は。

 

 

ツキ ダメージ3→4

 

 

「ヴェーチェルのブースト、ラマーナでアタック!!」

 

畳みかけるように言うミコト。

まるで悲鳴のような声が、響く。

 

「ノーガード」

 

手札を片手に、そう宣言するツキ。

カードがさらに、ダメージへと置かれた。

 

 

流麗怪人 グロリアス・スタッグ

ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)

ストイケイア - インセクト 

パワー10000 / シールド5000 / ☆1

【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、相手のユニットがすべて【レスト】しているなら、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。

【自】【(R)】:このユニットがアタックしたバトル終了時、あなたのヴァンガードが「夢幻蝶姫 セレネシス」なら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。

― 特級怪人の実力、見せてあげる。

 

 

ツキ ダメージ4→5

 

 

ダメージ5。追い詰められるツキ。

穏やかな微笑みを浮かべて、ミコトを見つめる。

 

指を動かして──

 

「グラムグレイスで、アタック!!」

 

ミコトが、大きく宣言した。

泣きじゃくるような声。頬をつたう涙。

 

ツキが、カードを掴む。

 

「完全ガード」

 

2人の間に置かれる1枚。

緑色の竜のカードが、ぱさりと置かれる。

 

 

プラナプリベント・ドラゴン

ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)

ストイケイア - ネイチャードラゴン 

パワー6000 / シールド0 / ☆1

【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)

【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。

― 護って見せるよ。やっと芽生えた命なんだから。

 

 

さらに手札を捨てるツキ。

その手に残ったカードは、6枚。

 

「チェック・ザ・ドライブ!!」

 

デッキに手を伸ばすミコト。

カードをめくる。

 

「ファーストチェック、クリティカルトリガー!! 効果は全てファヌエルへ!!」

 

 

天槌の騎士 グルカント

トリガーユニット 【☆】+10000

(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー5000 / シールド15000 / ☆1

― 騒ぎを起こした罪は重い。過度な酌量は不要だ。

 

 

騎士の姿が描かれたカードを見せるミコト。

自分の場の天使のカードを示す。

 

「セカンドチェック!!」

 

泣きながら、宣言するミコト。

カードをめくって──

 

「ゲット、クリティカルトリガー!!」

 

その手の中のカードを、見せつけた。

 

 

白牙の魔女 ディスマ

トリガーユニット 【☆】+10000

(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)

ケテルサンクチュアリ - ヒューマン 

パワー5000 / シールド15000 / ☆1

― さ~て、どの子から行かせようかな~?

 

 

「ミコト……」

 

嬉しそうに呟いているツキ。

ミコトが腕をなぐように、動かす。

 

「効果は全て、ファヌエルへ!!」

 

ミコトの場に残った天使のカード。

トリガーによる強化が、集中していく。

 

カードの上、指を乗せて──

 

「あたし、あたしは……ファヌエルで……!!」

 

言葉が途切れるミコト。

顔をあげて、ツキの方を見る。

 

ツキは何も言わず、優しく微笑んでいる。

 

「ファヌエルで……!!」

 

ぶるぶると、震えている指先。

呼吸が乱れて、言葉がつかえる。

 

カードを横向きに動かして──

 

「ヴァンガードに、アタック……!!」

 

振り絞るように、ミコトが宣言した。

風が吹いて、白いカーテンがばさばさと揺れる。

 

 

寛解の太刀 ファヌエル パワー43000

 

 

部屋の中に差し込んでいる、月の光。

テーブルの上のカードを、柔らかに照らす。

 

ゆっくりと、ツキが口を開いて──

 

「ノーガード」

 

2人の間に、その言葉が響いた。

デッキの上に手を乗せるツキ。一瞬の間。

 

カードが表になって──

 

「ダメージチェック。ノートリガー」

 

最後の1枚が、ダメージへと置かれた。

 

 

夢幻蝶姫 セレネシス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ストイケイア - インセクト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。

― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。

 

 

ツキ ダメージ5→6

 

 

ぱさりと、置かれる1枚。

ミコトのすすり泣く声だけが、室内に響く。

 

「……やっぱり、勝てなかったね」

 

ダメージのカードを見ながら、呟くツキ。

だがすぐに、顔を上げて笑顔を見せた。

 

「ううん、違うか。ミコトが、強くなったんだね! もう、私よりも!」

 

明るい声でそう話すツキ。

嬉しそうに、両手を握り合わせた。

 

「おめでとう、ミコト! やっぱり、弟子は最後に師匠を超えてくれないとね! 私も、とっても嬉しくて──」

 

祝福の言葉をかけるツキに向かって、

 

「違う!! 違う違う違う!!」

 

ミコトが、叫ぶように声を荒げた。

ツキが驚き、たじろぐ。

 

涙を流しながら──

 

「あたしは、強くなんてないッ!! だって、だって……!!」

 

泣き続けているミコト。

その手からカードが落ちる。

 

「ツキちゃん、もう、ボロボロで……!! ファイトなんて、できる状態じゃなくて……!! こんな、こんなの……!!」

 

両手で顔を覆うミコト。

その場にへたり込んで、泣き始める。

 

「ごめん、ごめんね、ツキちゃん……!」

 

謝り続けているミコト。

暗闇の室内に、ミコトの泣く声だけが響く。

 

「……ミコト」

 

泣いているミコトを見下ろしているツキ。

ゆっくりと、ミコトに近づく。

 

「……ごめんね。私、がんばってみたんだけど。今の私には、これが限界みたい。辛い思いさせちゃったね」

 

ぽつりと、呟いているツキ。

何かを考えるように、目を閉じる。

 

ツキが頷いた。

 

「ねぇ、ミコト!」

 

明るい声で呼びかけるツキ。

しゃがみこみ、ミコトと目線の高さを合わせる。

 

「……え?」

 

泣いていたミコトが、顔をあげる。

にっこりと、ツキが笑って──

 

「はい! これ、あげる!」

 

白いデッキケースを、ツキが差し出した。

ミコトが目を丸くする。

 

「えっ? えっ?」

 

「私の自慢のデッキ! ミコトにあげるよ!」

 

デッキケースを見つめているミコト。

月の光に照らされ、表面がきらきらと輝く。

 

「なん、で……?」

 

呆然としているミコト。

ツキが微笑んだ。

 

「ミコトには、今日いーっぱい付き合ってもらったから! そのお礼だよ!」

 

優しい声色で話しているツキ。

ぽんと、ミコトの肩に手をのせる。

 

「それにさ、きっとこの子達も、もっと戦いたいって思ってるから! 私にはもうできないから、代わりにお願い!」

 

甘えるように「ね?」と言うツキ。

ミコトの手に、デッキケースを握らせた。

 

「ミコトなら、私より強くなれる。プロにだってなれるって、私は本気で思ってるよ!」

 

「……ツキちゃん」

 

小刻みに震えているミコト。

その手の中のデッキケースを見つめる。

 

ツキが腕を伸ばして──

 

「今まで本当にありがとう、カワイイ後輩!!」

 

優しく、ツキがミコトを抱き寄せた。

柔らかな感触。温もりと、花の香りが伝わる。

 

「ツキちゃん……!!」

 

嗚咽をもらすミコト。

ぎゅっと、ツキの身体を精一杯抱きしめる。

 

泣いているミコトの耳元で──

 

「愛してるよ、ミコト」

 

そっと、ツキがささやいた。

2人だけの部屋。月の光が、優しく降り注ぐ。

 

真夜中の時間。満月の夜。

 

やがて、ミコトの姿が部屋から消えた。

一人きりの空間。ベッドで横になっているツキ。

 

「月が綺麗だなぁ……」

 

窓の外に浮かぶ月を見て、呟くツキ。

穏やかな微笑み。瞼を閉じて──

 

御導ツキが、永遠の眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらいの時間が経ったのか。

 

薄暗い部屋の中に、私は1人でいた。

ぼんやりとした頭。閉じられたカーテン。

 

カチカチと、時計の針の音が響く。

 

「……ツキちゃん」

 

ベッドの上にうずくまり、呟く。

最後に会った日の真夜中、ツキちゃんは──

 

きーんという耳鳴りが響いた。

 

「っ!!」

 

痛みに顔をしかめる。耐え切れず、

ぐしゃぐしゃと、私は髪をかきむしった。

 

時間が経って、徐々に痛みが収まる。

 

「ごめん、ごめんね、ツキちゃん……!!」

 

息を切らしながら、私は謝り続けた。

涙がこぼれる。今日は、とても大事な日なのに。

 

行かなくちゃ、いけないのに……!!

 

ぎゅっと、目をつぶる。

暗い闇の中に、白い光景が浮かび上がった。

 

「やぁ、ミコト!」

 

笑顔を浮かべているツキちゃんの姿。

黒いテーブルの前で、手を振っている。

 

「どうしたの? 元気ないよ?」

 

最期に聞いたのと、全く同じ声。明るい雰囲気。

私の記憶の中に残る、完璧な姿。

 

頭を抱えて──

 

「お願い、やめて!!」

 

そう、声に出して言った。

ツキちゃんの姿がぼやけて、消える。

 

暗闇だけが、後に残った。

 

「うぅっ……うっ……!!」

 

うめき声のような声が出る。

胸に感じる息苦しさ。覚めない夢。

 

あの日の夜の記憶が、頭から離れない。

 

「あたし、あたしは……!!」

 

口元を抑える。涙が溢れた。

ぐるぐると、頭の中の思考がかき乱れる。

 

時計の針の音が響く。

 

いつまでそれが続いていたのか。

時間の感覚がない中で──

 

「……ミコトお姉ちゃん?」

 

コンコンと、部屋のドアを叩く音がした。

呼びかける声。ハッとなって、顔をあげる。

 

扉越しに──

 

「あたし、ヒカルだよ。久しぶり……」

 

ヒカルの声が、部屋の中へと響いた。

凍り付いたように、私は扉の方を見る。

 

少しの間の後、ヒカルの声が続いた。

 

「ミコトお姉ちゃん、ずっと、学校に行けてないって聞いて……。ツキちゃんの事もあったから、その、あたし、心配で……」

 

たどたどしく話しているヒカル。

沈んだ気持ちが、言葉から伝わってくる。

 

「……今日ね、その、ツキちゃんの、お葬式の日だったんだ」

 

ぽつりと、話すヒカル。

 

「あんなにたくさんの人が来るなんて、あたし、びっくりしちゃった。ツキちゃん、やっぱり凄い人だったんだね。色んな人が来てて……」

 

淡々とした口調のヒカル。

思い出すように、言葉が流れる。

 

「最後の大会で当たった、対戦相手の女の子とか。あと、ツキちゃんが倒しちゃったプロの人も来てたよ。凄い剣幕で怒ってた。泣きながら、『ふざけるな!』とか『勝ち逃げするな!』とか、大騒ぎで……」

 

苦笑するように、ヒカルが息を吐く。

 

「ツキちゃんがいたら、きっと怒ってたよね。『うるさい、迷惑!』とか言っちゃってさ。ツキちゃんあれで、自分の事はけっこう棚にあげちゃうから……」

 

乾いた笑い声を、ヒカルがあげた。

私はただ、黙り込んでいる。

 

「でも、お葬式にも、ミコトお姉ちゃんは来てなくて……。それで、あたし……」

 

言葉が途切れる。流れる沈黙。

扉を隔てて、私達は向かい合っている。

 

「……ヒカル、あたしは」

 

なんとかして、私は口を開いた。

消え入りそうなほどの、小さな声。

 

「うん、分かってるよ」

 

扉の向こうで、ヒカルが答えた。

思わず驚く。だがすぐに、偶然だと気付いた。

 

「ミコトお姉ちゃんも今、すごく苦しんでるんだって。あたしより、ツキちゃんとは長く一緒にいたんだもんね。だから、仕方ないんだって……」

 

自分に言い聞かせるように、喋っているヒカル。

ぐすんと、鼻を鳴らす音がする。

 

「だけど……だけどね。本当は、あたしも、寂しくて……! ミコトお姉ちゃんも、ツキちゃんもいなくなっちゃって……! あたし、あたし……!」

 

ヒカルの声が震える。

扉越しにも、ヒカルが泣いているのが分かった。

 

私は、動けずにいる。

 

「ごめんね、勝手に来ちゃったのに……」

 

鼻をすする音。

ヒカルが深く、息を吐いた。

 

「ミコトお姉ちゃんも、辛いのに。あたしだけが甘えたりする訳には、いかないもんね……」

 

どこか寂しそうに、そう話すヒカル。

一瞬の間の後、ヒカルの言葉が続いた。

 

「ねぇ、ミコトお姉ちゃん! あたし、ずっと待ってるから! だからまた今度、一緒にヴァンガードやろうね! 約束だよ!」

 

以前と同じような、明るい声。

私の返事を期待するかのような間。

 

沈黙が流れる。

 

「……それじゃ、ミコトお姉ちゃん、またね!」

 

悲しそうに、そう呼びかけるヒカル。

再び、鼻をすする音が響く。

 

足音と共に、ヒカルが去って行った。

 

「……ヒカル」

 

ベッドの上で呟く。

後悔の念が渦巻いて、胸を締め付けた。

 

「ごめん、ヒカル……! あたし……!」

 

じわりと、視界が滲んでかすれた。

涙が零れ落ちる。再び、目の前が白く染まった。

 

記憶の海が視界に広がって──

 

「うぅっ……!!」

 

再現された記憶の中、私は苦しみの声をあげた。

 

「ねぇ、ミコト」

 

透き通るような、ツキちゃんの声。

満月の空。カーテンの揺れる音。

 

「お願いがあるの」

 

テーブルの前、微笑んでいるツキちゃん。

永遠に続く夜が、私の頭の中で再現される。

 

時が過ぎて──

 

気が付くと、目の前に現実世界が広がっていた。

どれくらい経ったのか、時間の感覚がない。

 

「……ヒカル」

 

先程のヒカルの言葉を、思い出す。

よろよろと、ベッドから降りて立ち上がった。

 

部屋の中を歩いて──

 

テーブルの前に、私は座り込んだ。

目の前に置かれた、2つのデッキケース。

赤い色のものと、白い色のもの。

 

おそるおそる、手を伸ばす。

 

「……ツキちゃん」

 

白い色のデッキケースから、

カードを取り出して手の中で広げた。

 

 

夢幻蝶姫 セレネシス

ノーマルユニット 〈3〉

(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)

ストイケイア - インセクト 

パワー13000 / シールドなし / ☆1

【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。

【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。

― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。

 

 

ツキちゃんの仲間。遺されたカード。

輝きを失ったそれらは、静かに沈黙している。

 

あの日の記憶が、白く脳裏に蘇り始めて──

 

「っ!!」

 

思わず、カードを素早くケースへとしまった。

乱れる呼吸。胸が苦しくなる。

 

「ツキちゃん、あたし、あたし……!」

 

視界に白い線が入り乱れた。

倒れそうになって、私は机を腕で掴む。

 

机が揺れて、赤いデッキケースが倒れた。

 

「……あっ!」

 

声をあげる私。

ばさりと、ケースの中のカードが飛び出た。

 

1枚のカードが、目の前に落ちて──

 

「ひっ!!」

 

私の口から、小さな悲鳴が上がった。

目の前のカードを、怯えながら見る。

 

 

剣■■■ グ■ム■■イ■

ノー■■■■ッ■ 〈■〉

(ツ■ン■■■■■■) (■■■ライ■)

ケ■■■■クチ■アリ - コ■■ドラゴン 

パ■■■■■■■ / シ■■ド■■ / ■■

【■】【(V)】:■■■のペ■■■■イドは■■の■■ッ■の■■■も増■さ■■。

【起】【(■)】【タ■■■回】:【コ■■】[【カ■■ター■■ス■】(■), 【■■ル■■スト】(■)]■■■とで、■■■き、■■■の■■か■■枚選■、中■■■の(R)■■■ルし、その■■■■■■のユ■■■は■■か■■■ア■■■でき、■■ー+■■■0■。

【■】【(■)】:■■■の中■■■の■■ガー■■■タック■■■■■終了■、■■ユ■■■を■■■に■き、■■■■。

― ■■■り来■■、■■■。■■■■・■■■壊■

 

 

「な、なに、これ……!!」

 

恐怖に慄く。

黒いもやのような物が、憑りつくかのように

カードの表面を覆っていた。

 

「あ、あたし、あたし……!!」

 

ガタガタと身体が震え、寒気を感じた。

全てのカードに、黒いもやは憑りついている。

 

黒いもやが、煙のように吹きあがる。

 

「あっ、あぁぁあぁ……!!」

 

恐怖の声が、私の口から漏れる。

黒いもやが手の形になった。

 

「嫌っ、嫌っ、嫌ぁ!!」

 

涙を流して、後ずさる私。

黒い手がさらに大きくなって、迫る。

 

目をつぶって──

 

「ツキちゃん、助けてッ!!」

 

思わず、そう叫んだ。

一瞬、柔らかな風が目の前を吹き抜ける。

 

沈黙が流れ、何も起こらなかった。

 

「……?」

 

おそるおそる、目を開ける。

目の前に迫っていた黒い手は、どこにもない。

 

だが──

 

「ッ!!」

 

目の前のカードを見て、私は口元を抑えた。

カードの表面、黒いもやが残ったままでいる。

 

急いで、カードをデッキケースへと仕舞った。

 

「うっ、うぅっ……!!」

 

恐怖でえずいている私。

白いデッキケースのカードを、再び取り出す。

 

黒いもやは、そこにはない。

 

「あたし、あたしのカードだけ……!!」

 

赤い色のデッキケースを見ながら、呟く私。

これもまた、白い空間と同じように、

私の頭が創り出した幻なのか。結論は出ない。

 

「あたし、どうしたら……!!」

 

心の底から、助けを求めている私。

だが助けてくれる人は、誰もいない。

 

赤い色のデッキケースが、黒いもやに包まれる。

 

「うっ、あぁっ、ああぁあぁ……!!」

 

再び、恐怖が心の中から湧き上がってくる。

罪悪感。白い空間。黒いもや。

 

何もかもが、限界だった。

 

無我夢中に、赤いデッキケースを掴む。

近くにあった上着を手に取って──

 

気が付くと、私は家を飛び出していた。

 

黄昏の空。夕暮れと夜の、狭間の時間。

薄暗くなっている街の中を、私は駆けていく。

 

「うっ……うぅっ……!」

 

涙をぬぐいながら、ひたすらに走る。

目的地はない。ただ、ふさわしい場所を探す。

夜の街の光景が、視界の端を流れていった。

 

そして──

 

「はぁ、はぁ……!!」

 

膝に手をついて、私はその場で立ち止まった。

苦しい呼吸。よろよろと、身体がふらつく。

 

そこは、河の間に架けられた橋の上の道だった。

 

「……ここ、なら」

 

息を切らしながら、呟く私。

柵から身を乗り出して、下を見る。

 

暗い川の水が、そこには広がっている。

 

「…………」

 

闇を映したような、冷たい色。

まるで大きく口を開けているかのように、

水は静かに佇み、何かを待っている。

 

「…………」

 

持っていた赤い色のデッキケースを、開ける。

漏れ出る黒いもや。私の手に、纏わりつく。

 

ぎゅっと、デッキを掴んだ。

 

「……ッ!」

 

黒いもやにつつまれたカード達を見る。

今までの思い出が、頭の中に浮かんでいった。

 

3人で過ごした時間。笑い声。煌めく光景。

 

それはかけがえのない、大切なもの。

私と、ヒカルと、ツキちゃんの、皆の記憶。

 

涙が頬を伝って──

 

「ごめんなさい……」

 

小さく、私は呟いた。

顔を伏せて、手を伸ばす。

 

掴んでいたデッキを、離した。

 

ふわりとカードが広がって、下に落ちていく。

水の中に、私のカードが飲み込まれていった。

 

「うっ、うぅっ……!!」

 

赤いデッキケースが道路に落ちる。

柵に掴まりながら、私は嗚咽を漏らした。

 

後悔の念に苛まれている私に向かって──

 

「……ミコトお姉ちゃん?」

 

後ろから、声がした。

ハッとなって、振り返る私。

 

ヒカルが、困惑した表情を浮かべていた。

 

「なん、で……?」

 

かすれた声で、訊ねる私。

ヒカルの目が潤んだ。

 

「あ、あたし、やっぱりミコトお姉ちゃんに会いたくて……! それで、お家に戻ったら、ミコトお姉ちゃんが出ていくのが見えて、それで……!」

 

たどたどしく、説明しているヒカル。

その目が、真っすぐ私に向けられる。

 

「ミコトお姉ちゃん、どうして……!」

 

困惑しきった声のヒカル。

やがて、その表情に怒りが浮かんで──

 

「──どうして、そんな酷いことするのっ!?」

 

ヒカルが、大きく叫んだ。

涙を浮かべているヒカル。私の方に詰め寄る。

 

「ヴァンガードは、あたし達の……ツキちゃんとの、大切な思い出なのに!! なのにどうして!! どうして捨てたりなんてするの!?」

 

今までにない程の剣幕。

私は何とかして、口を開く。

 

「ヒカル、待って。あ、あたしは……!」

 

説明しようとする私。

だが私の声は小さく、その言葉は届かない。

 

ヒカルが近づく。

 

「あたしとも……あたしとも、約束したのに!! また一緒にやるって、約束したのに!!」

 

泣きながら、大きく声を荒げているヒカル。

キッと、鋭い目を私に向ける。

 

「ミコトお姉ちゃん、あたしの事、そんなに嫌いになっちゃったの!? あたしとツキちゃんの事、捨てたくなっちゃったの!?」

 

「ち、違う。違うよ、ヒカル……!」

 

自分でも情けないほど、小さな声。

ヒカルには届かず、周りの雑音にかき消される。

 

ヒカルが、さらに近寄って──

 

「答えてよッ!! ミコトお姉ちゃんッ!!」

 

その手が、私の身体を突き飛ばした。

周りの景色がスローモーションのように流れる。

 

ヒカルに悪意がなかったのは、分かっていた。

 

ただ怒りにかられて、少し感情的になっただけ。

それほど強い力で押された訳でもなかった。

 

だけど、私はその時、もはや限界だった。

 

何日もまともに眠れていなくて、

食事もできてなかった。頭の中はぐちゃぐちゃで

今にも壊れてしまいそうだった。

 

だからこそ、私はまともに倒れこんで──

 

鈍くて嫌な音が、私の中で響いた。

 

「っ!!」

 

目の中で火花が散って、視界が一瞬暗くなる。

きーんという耳鳴り。意識がわずかに遠のいた。

 

黄昏の空が目に映って──

 

気が付くと、私は数人の人に囲まれていた。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

「誰か、救急車呼んで!!」

 

慌ただしい声。騒がしい雰囲気。

右腕から広がる鈍い痛みに、私は顔をしかめた。

 

「おい、君、なにやってるんだ!」

 

問い詰めるような声が響く。

途切れそうな意識の中、顔をあげた。

 

ヒカルが、怯えたような表情を浮かべていた。

 

「ち、違くて……! あ、あたし、そんな、そんなつもりじゃ、なくて……!」

 

真っ青になっているヒカル。

涙を流し、絶望したように顔に手を当てている。

 

私とヒカルの目が合った。

 

「……ヒカル」

 

ぼそりと、呟く私。

「大丈夫だよ」と言いたかったが、声が出ない。

 

ぶるぶると、ヒカルの身体が震えて──

 

「う、うわあああああああん!!」

 

ヒカルが、大きく叫んだ。

泣きじゃくりながら、ヒカルが駆けだす。

 

「お、おい! 待ちなさい!」

 

「逃げたぞ!」

 

周りから上がる声。

私もまた、左手を伸ばす。

 

「ヒカル、待って。ヒカル……!」

 

ぼそぼそと呟く私。

鈍い痛みが、右腕からじわじわと広がる。

くらくらとする頭。意識が途切れて──

 

目の前が、真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、私は病院のベッドにいた。

 

骨折の他に、栄養状態も悪かった。

白衣を着たお医者さんが、そう説明してくれた。

 

「一人で遊んでいて、転んだの」

 

骨を折った時の事を聞かれて、私はそう答えた。

病院の人。ママとパパ。そして警察。

 

誰にも、ヒカルの事は話さなかった。

 

「……ヒカル」

 

病室のベッドの上、呟く私。

何度も連絡を取ろうとするが、返信はない。

 

きっと、ヒカルは私に怒っているんだ。

 

『どうして、そんな酷い事するのっ!?』

 

あの時の言葉が思い返される。

涙の浮かんだ目に、怒りの表情。それも当然だ。

 

だって私は、ヒカルを傷つけたから。

 

ヒカルも、ツキちゃんも、大切な思い出も。

全て何もかも、私は踏みにじった。私のせいで。

 

目を閉じると、白い空間が広がった。

 

「やぁ、カワイイ後輩!」

 

明るい声で、手を振っているツキちゃん。

後ろからヒカルの姿が現れる。

 

「あっ、ミコトお姉ちゃん!」

 

楽しそうな声をあげているヒカル。

にっこりと、2人が微笑みかけてくる。

 

視界の端から、黒い色が広がって──

 

「ねぇ、ミコト。お願いがあるの」

 

あの日の夜の光景が、浮かび上がった。

黒いテーブル。満月の光。白いカーテン。

 

全てが再現された、永遠の夜。

 

「……分かってる」

 

記憶の中で、私は答えた。

いつのまにか、手にはデッキが握られている。

 

黒いもやがかかった、捨てられたカード達が。

 

「じゃあ、はじめようか」

 

ツキちゃんの声。私は頷く。

指を伸ばして、カードに触れた。

 

これはきっと、罰なんだ。

 

神様が私に与えた、贖罪の空間。

この中で私は、自分の罪と向き合い続ける。

 

いつまでも、いつまでも。私が死ぬまで。

 

「スタンドアップ・ヴァンガード」

 

私達の声と共に、カードがめくられた。

黒いもやが、2枚のカードの上を漂っている。

 

 

サ■■ッ■・エ■■

ノー■■■ニッ■ 〈0〉 (■■■ト)

スト■■■ア - ■ン■■ト 

パ■■■00■ / シ■■ド■■00 / ☆■

【■】:■のユ■■■が■■ド■■■時、■■■が■■なら、■■■■。

― 人■■■眠■、■■■遺■子■■■■■。

 

 

■■■騎■ ベ■■

■■■ル■■ット 〈■〉 (ブ■■■)

■■■サン■チ■■■ - エ■■ェ■ 

■■■6■■0 / シ■■■■■00 / ■■

【自】:こ■■■ッ■■■■■■れ■■、あ■■■■■■ら、■■■く。

― ■■■民■■■■選■■■■で■■■■■て■■。

 

 

「私のターン」

 

微笑んでいるツキちゃん。

あの日の戦いが、何度も繰り返されていく。

 

桜の花びらが散って──

 

私は1人、中学校への道を歩いていた。

学校指定のブレザー。右腕を吊っている私。

 

同じ制服の女子が、ひそひそと話し出す。

 

「見て、やっぱり噂って本当だったんだ」

 

「あの、歩いてたら、いきなり暴力事件に巻き込まれたってやつ?」

 

「そうそう。それで入院してて、卒業式にも出られなかったんだよ」

 

「やだ、カワイソー」

 

同情の目が、私へと向けられる。

私は何も言わず、彼女たちの横を通り過ぎた。

 

もう誰とも、関わりたくなかった。

 

月日が流れていく。

染めていた髪の色は抜けて、黒に戻った。

短くしていた髪は切らなくなり、伸びていった。

 

「悪いけど、そういうの、好きじゃないから」

 

遊びに誘われても、全て断った。

最初は優しかった周りも、やがて離れて行った。

 

私は、一人ぼっちだった。

 

「なぁ、ヴァンガードやろうぜ!」

 

教室の中央で、

クラスメイト達が楽しそうに話していた。

騒がしい集団。一人が私に気付いた。

 

「氷川さんもどう? 一緒にやらない?」

 

気さくな声。明るい笑顔。

一瞬、ヒカルの顔が頭に浮かんだ。

 

椅子から立ち上がって──

 

「私、ヴァンガードはもうやめたの」

 

そう、冷たく言い放った。

教室から出ていく私。後ろから声が響く。

 

「なんだよ、お高くとまっちゃって」

 

「ほっときなよ。あの子、誰にでもああだし」

 

笑い声があがる。

私は無言で、廊下を歩いていく。

 

「……ツキちゃん」

 

階段に座りながら、私は呟く。

白いデッキケース。私にとっての、お守り。

 

膝に顔をうずめて──

 

「もう一度、会いたいよ。ヒカル……!」

 

夕暮れの校舎、

誰もいない空間に、私の声が響いた。

ぽたぽたと、涙がこぼれる。

 

そして、さらに月日が流れて──

 

「おはよう、氷川さん!」

 

私は、高校へと進学していた。

椅子に座りながら、頭を下げる。

 

「日枝さん、おはようございます」

 

冷たく挨拶する私。

それ以上は何も言わず、私は窓の外を眺める。

 

あの日以来、ヒカルとは一度も会えていない。

 

白い空間に現れるのは、過去のヒカル。

私を慕う、可愛らしい少女の時の姿だけだ。

 

だけどその姿も、長年の時で薄れてきている。

 

「……ヒカル」

 

会いたい気持ちに変わりはない。

だけど、私にはもう、会う資格はない。

 

だから──

 

夜の時間。自分の部屋の中。

ベッドの中で、私は静かに目を閉じた。

 

目の前に、白い空間が広がる。

 

「おかえり、ミコトお姉ちゃん!」

 

黒い髪の少女が、笑顔を浮かべた。

口から上、白いもやで隠れた顔。

 

少女が両手をあげて──

 

「じゃあ、また遊ぼう! いつもみたいに!」

 

明るい声で、少女がそう言った。

私は黙ったまま、こくりと頷く。

 

「やったー! ミコトお姉ちゃん、大好き!」

 

嬉しそうに喜ぶ少女。

無邪気な笑い声が、白い空間に響く。

終わらない夜に背を向けて──

 

私は、思い出の中に逃げ続けていた。

 

「ツキちゃん、ヒカル……」

 

白い空間の中、声をあげる私。

涙を流しながら──

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

 

謝罪の言葉を、呟いた。

両手で顔を覆う。静かに泣き崩れる私。

 

ただひたすら、贖罪の日々が続く。

 

高校にあがっても、それは変わらない。

誰とも関わらず、続けるだけ。そう思っていた。

 

あの日、教室であの言葉を聞くまでは。

 

「──ルーンシャトー」

 

お昼休みの教室。

唐突に、その名前が響いた。

 

私の心臓が、どくんと脈打つ。

 

「なんだか、怪しい話しぞよ」

 

話し込んでいる3人の女子生徒。

あれこれと、楽しそうにお喋りしている。

 

関わる気はない。そう決めていた。だが──

 

「……ヒカル」

 

ぼそりと、私は呟く。

ルーンシャトーの事を調べられたら、

再びヒカルが傷つくのではないか。

 

それだけが、私には心配だった。

 

「この辺りはカードショップも多いのよね」

 

きゃぴきゃぴと話している女子生徒。

しばし考えた後、私はため息をつく。

 

いずれにせよ、下手な事はして欲しくない。

 

席から立ち上がり、つかつかと歩く。

浮かれた様子の女子生徒に向かって──

 

「日枝さん」

 

私は、冷たい声で話しかけた……。

 






本日の《俺のカードを見ろ!》は、
都合により休止となります。
 
つづく?
 
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