カードファイト!! ヴァンガード LunaLight 作:バビロン@VG
風が吹いて、桜の花びらが散った。
春の陽気。空に広がる青い色。
穏やかな気候が、春の訪れを感じさせる。
公園内、花束を持った少女が近づいて──
「……ヒカル」
ベンチに座っている、小柄な少女に声をかけた。
長い黒髪の少女──ヒカルが顔をあげる。
「……ミコトお姉ちゃん」
どこか暗い声を出すヒカル。
しゅんとした様子で、顔を伏せている。
「大丈夫、行けそう?」
優しく声をかける少女──ミコト。
花束を胸に抱き、目線をそらす。
「もし無理なら、あたしだけで──」
「そんなことない! そんなことないよ!」
ミコトの言葉を、ヒカルが遮った。
顔をあげるヒカル。真っ直ぐに、ミコトを見る。
「行かないなんて……そんなこと、絶対ない!」
決意に満ちた目を向けているヒカル。
ミコトがどこか辛そうに、視線を伏せた。
2人の間を、穏やかな風が通り抜けていく。
「……うん、そうだね」
しばしの間の後、ミコトが頷いた。
花束を片手に、手を伸ばす。
「じゃ、行こ?」
ミコトが優しく、微笑んだ。
伸ばされたミコトの手を、ヒカルが掴む。
2人が並んで、歩き始めた。
街の雑踏。バス乗り場。バスの中。
閑静な住宅街を抜けて──
優雅な造りの大邸宅の前に、2人が立った。
「…………」
無言で門の柵を開けるミコト。
広々とした庭を、2人は進んでいく。
大きな扉の前、チャイムを鳴らして──
「……いらっしゃい」
扉が開き、一人の女性が姿を見せた。
黒い髪の美しい女性。茶色の瞳。
憂うような雰囲気を、女性は漂わせている。
「……お邪魔します」
丁寧に頭を下げるミコトとヒカル。
そのまま中へと入った。
しんと、家の中は静まり返っている。
「来てくれて嬉しいわ。ゆっくりして頂戴ね」
ミコト達を迎え入れた黒髪の女性が、
にっこりと微笑みを浮かべた。
その顔には、疲れがにじみ出ている。
「……ありがとうございます」
再び会釈するミコト。
ヒカルの手を引いて、家の中を進んでいく。
扉の前、花束を持ったミコトが立ちつくす。
「…………」
緊張したように、扉を見つめているミコト。
ヒカルがミコトの手をぎゅっと握った。
「……ミコトお姉ちゃん」
不安そうな声を出すヒカル。
ミコトの事を見上げる。
「……うん、分かってる」
ヒカルの言葉に、ミコトが頷いた。
意を決したように、ドアノブに手をかける。
扉を開けて──
「……ツキちゃん?」
部屋の中、ミコトが呼びかけた。
静まり返っている部屋。薄暗い室内。
ばさばさと、白いカーテンが揺れて──
「……ミコト、ヒカル」
御導ツキが、扉の方に顔を向けた。
大きな白いベッド。半身を起こしているツキ。
水色のパジャマに、黒縁の眼鏡をかけた姿。
にっこりと笑みを浮かべ──
「久しぶり! カワイイ後輩達!」
ツキが、片手をあげて微笑んだ。
立ち尽くしている2人。沈黙が流れる。
ツキが眉をひそめた。
「ん? どしたの、感動の再会の場面なのに」
軽い口調で話しているツキ。
以前と変わらぬ様子。明るい雰囲気。
ヒカルが駆けだして──
「……ツキちゃん!!」
大声をあげ、ツキの胸に飛び込んだ。
思わず、ツキが目を丸くする。
「わわわ、ヒカル!?」
びっくりしているツキ。
ヒカルが顔をあげ、潤んだ目を向けた。
「ずっと、ずっと心配してたんだよ!! 大会の途中、急に倒れちゃったって聞いて、その後はずっと、病院にいて……!!」
つっかえつっかえ、何とか話しているヒカル。
ツキに抱き着きながら、涙を流す。
「本当に、本当に死んじゃうんじゃないかって、あたし、あたし……!!」
ぶるぶると震えているヒカル。
そのまま大声をあげて、泣き始めた。
ツキが困ったように、頬をかく。
「……参ったなぁ」
泣いているヒカルの頭を撫でるツキ。
ミコトの方へと顔を向ける。
「ねぇ、ミコト。ちょっと助けてよ~」
眼鏡をかけたツキが、甘えるような声を出した。
無言で、ゆっくりと近づいてくるミコト。
その顔は、花束に隠れて見えない。
「……ミコト?」
首をかしげるツキ。
怪訝そうに、ミコトに向かって訊ねる。
ミコトの手から、花束が落ちて──
「うっ、ううっ……!!」
ぼろぼろと、ミコトの目から涙が落ちた。
顔を両手で覆うミコト。嗚咽があがる。
ツキが目を大きく見開いた。
「み、ミコト!?」
おろおろとしているツキ。
ミコトが涙をぬぐいながら、口を開く。
「ごめんね、ツキちゃん……! あたし、ツキちゃんの身体のこと、全然知らなくて……。あたし、あたし……!」
ミコトの言葉が途切れる。
そのまま大きく声をあげ、ミコトが泣き始めた。
2人が泣く声が、部屋の中に響き渡る。
顔を伏せて──
「……ごめんね、2人とも」
ぽつりと、ツキが呟いた。
視線をそらすツキ。窓の外を眺める。
澄み渡る青い空が、そこには広がっていた。
時間が流れて──
「少し、落ち着けた?」
ツキが、2人に向かって優しく訊ねた。
2人がなんとか、頷く。
「ごめん、ツキちゃん……。あたし、本当に、心配で、つい……」
しゅんとしているヒカル。
ツキが手を振った。
「いいよ! 正直、嬉しかったから!」
笑顔を浮かべているツキ。
「それにさ、ほら! すっかり元気になったでしょ! ツキちゃんは不死身なんだよ!」
両手を広げているツキ。
以前と変わらない、明るい声で話す。
「こうしてお家にも帰ってこれたしね! だから何も、心配しなくていいんだよ!」
ヒカルの顔に、ようやく笑みが浮かんだ。
「……うん!」
涙をぬぐうヒカル。
にっこりと微笑むと、ツキの方を向く。
「ねぇねぇ、ツキちゃん。その眼鏡、どうしちゃったの?」
じっと、ツキの顔を見つめているヒカル。
黒縁の、細いフレームの眼鏡。薄いレンズ。
ツキが目をつぶった。
「よく聞いてくれたね、ヒカル!」
得意そうな顔のツキ。
眼鏡のツルを手で押し上げて──
「こっちの方が、賢こそうに見えるでしょ!」
ツキが、明るく言い切った。
浮かんでいるドヤ顔。ヒカルが笑った。
「えー、なにそれ! 冗談でしょ?」
「いやいや、本当だよ。これ付けてるとね、すごく頭が良くなった気分になるから!」
きゃっときゃっと声をあげながら、
楽しそうに話している2人。
ミコトは目を伏せ、無言のままでいる。
「ねぇ、ミコト。ミコトもそう思うよね?」
ツキが、ミコトに向かって問いかけた。
名前を呼ばれ、はっとなるミコト。顔をあげる。
「えっ、な、なに?」
戸惑った様子のミコト。
ツキが不満そうな表情を浮かべた。
「あー、話し聞いてなかったでしょー。ダメだよ、カワイイ後輩! 目上の人には敬意を払わないと!」
わざとらしく、怒ったように言うツキ。
普段のミコトなら、ムキになるような言葉。
ミコトの視線が下がって──
「ご、ごめん、ツキちゃん……」
落ち込んだように、ミコトがそう答えた。
弱々しい声。沈んだ表情。
ツキの顔から、表情が消える。
「ミコトお姉ちゃん……?」
ヒカルもまた、首をかしげた。
心配するような目を向けているヒカル。
3人の間から、会話が消えた。
「……ねぇ、ミコト」
ツキが何かを言いかけた時だった。
ミコトが顔をあげて──
「……ごめん! なんか、感動しちゃって、ぼーっとしちゃってたみたい!」
普段と同じ、明るい声を出した。
照れたような笑みを、ミコトが浮かべる。
ヒカルがホッとしたように、息を吐いた。
「もー、ミコトお姉ちゃんったら、ダメだよ!」
「ごめんごめん、ヒカル!」
両手を合わせて謝っているミコト。
笑顔のまま、「アハハ」と声をあげる。
「……ミコト」
ぼそりと、小さく呟くツキ。
その目が真剣な光を帯びている。
ミコトが2人に近づいた。
「ねぇ、ツキちゃん。聞いてよ。ヒカルったら、ツキちゃんがいない間にね……」
普段と変わらぬ様子で、話し出すミコト。
そのまま、他愛のない話が延々と続く。
「へぇ、そうなんだー」
相槌をうっているツキ。
楽し気な雰囲気。3人の笑い声。
以前と変わらぬ光景が、そこには広がっている。
陽は沈み、青色が橙色に染まった。
黄昏の時間。夜の足音が忍び寄る。
「あっ、もうこんな時間なんだ」
時計を見て、ミコトが声をあげた。
ヒカルもまた目を丸くする。
「えっ、本当だ!? もうこんな時間!?」
外を見て、驚きの声をあげるヒカル。
ツキが息を吐いた。
「楽しい時間は、あっという間だね」
感慨深い口調のツキ。
愛おしそうな目を、2人の方に向ける。
「それじゃあ、そろそろ帰らないとね」
立ち上がるミコト。
ヒカルに向かって、手を伸ばす。
「ほら、ヒカル」
「……うー、もう少し、ダメ?」
ミコトを見上げているヒカル。
静かに、ミコトが首を振った。
「ダメだよ。もう夜なんだから。そろそろ帰らないと、怒られちゃうよ」
「……はーい」
渋々、ヒカルが頷いた。
伸ばされたミコトの手を、ヒカルが掴む。
ミコトが、微笑んだ。
「……それじゃ、ツキちゃん。また来るね」
どこかぎこちなく、話しているミコト。
ほんの一瞬、その表情が暗くなった。
「……そうだね」
ツキが腕を組む。
何かを思案するかのように、目を閉じた。
「……ツキちゃん?」
不思議そうに、その様子を見ているヒカル。
ミコトもまた「どしたの?」と訊ねる。
ゆっくりと、その目を開けて──
「ねぇ、2人とも!!」
不意に、ツキが大きな笑みを浮かべた。
ミコトとヒカルを見つめるツキ。
悪戯っ子のような表情を浮かべて──
「ちょっとさ、悪い事に付き合ってくれない?」
ツキが、2人に向かってそう訊ねた。
「ね、ねぇ、本当にいいの? ツキちゃん……」
不安そうな声を出すミコト。
ブレザー姿のツキを、見上げる。
ツキが手をひらひらとさせた。
「平気だよー。ミコトったら心配性~」
からかうような口調のツキ。
にっこりと微笑んで──
「それにさ、やっぱり一度はやってみたいじゃん! 夜中に、こっそり家を抜け出すっての! これぞ青春の1ページ!」
ツキが、力強く断言した。
眼鏡越し、目を輝かせているツキ。
目の前には、夜の街が広がっていた。
行き交う人々。騒がしい雑踏。様々な光。
陽は沈み、深い黒色に満ちている空。
金色の満月が、3人を見下ろしている。
「あ、あたしも、ちょっとドキドキする……!」
上ずった声を出しているヒカル。
「こんな時間に外にいるのバレたら、パパとママに怒られちゃいそう……!」
興奮したように、辺りを見回すヒカル。
横のミコトもまた、頷いた。
「あたしの所も、わりと放任的だけど、さすがにこれはバレたらお説教かな……」
暗い声で話すミコト。
ツキが楽しそうに笑った。
「アハハ! それでこそ青春だよ、カワイイ後輩達! たまには悪い事もしないとね!」
嬉しそうに微笑んでいるツキ。
満足げに、行き交う人々の姿を眺めている。
「ねぇ、ツキちゃん。それで、わざわざ家を抜け出して、どこか行きたい所あるの?」
ツキに向かって、訊ねるミコト。
その言葉に、ツキが頷いた。
「もちろんだよ! このツキちゃんには、完璧な計画があるんだから!」
得意そうに指を伸ばすツキ。
2人が首をかしげた。
ツキが口を開く。
「私が行きたい所はね──」
その先に続いた言葉を聞いて、
ミコトとヒカルが驚いた。
「えっ!?」
「そ、そんなところでいいの!?」
声をあげる2人。
ツキがどこか不満そうな表情を浮かべる。
「えー。そこは、もっと嬉しそうに同意してくれないと、ツキちゃんは寂しいよー」
ぶーぶーと文句を言うツキ。
ミコトとヒカルが顔を見合わせた。
「まぁ、別にいいけど……」
小声で言うミコト。
ツキが嬉しそうに手を合わせた。
「おぉ、さすがはミコト! それじゃあ、早速だけど案内お願いね!」
にっこりと笑っているツキ。
ミコトがハァと、短く息を吐いた。
夜の街を、3人が並んで歩いていく。
「んー、やっぱり外を歩くのは気持ちいいねー」
黒い髪を揺らしながら、呟くツキ。
横のヒカルがツキを見上げた。
「夏に倒れてから、ずっと入院してたもんね、ツキちゃん……」
心配するような口調のヒカル。
ツキが両手を広げた。
「そうだねー。ずーっと病院のベッドにいたみたい。まぁ、正直、最初の方はいまいち覚えてないんだけどね」
軽く話すツキ。
ハッと、思い出したかのように手を叩く。
「そういえば、私が最後に出てた大会って、どうなったの? なんか迷惑かけちゃった?」
緊張した表情を、ツキが浮かべた。
ミコトがため息をつく。
「倒れてるツキちゃんが発見されて、すごい大騒ぎにはなったよ。大会は一時中断されただけで無事に終わったけど」
「そ、そうなんだ……」
ホッとしているツキ。
胸に手をあてながら、目をつぶる。
「いつか、普及協会の人にはちゃんと謝らないといけないね。うーん、気が重い……」
ぶつぶつと呟いているツキ。
ミコトが黙って、首を振った。
歩き続ける3人。会話が続く。
ミコトが立ち止まって──
「……はい、着いたよ」
ツキに向かって、そう告げた。
前に出るツキ。その口から感嘆の息が漏れる。
眼鏡の奥の目を輝かせて──
「ここが、私のカワイイ後輩達が出会った、伝説の公園なんだね!」
ツキが、興奮した声を出した。
広々とした空間。風に揺れる木々。街灯の光。
夜の公園が、目の前に静かに広がっている。
「伝説って……いつから伝説になったのよ」
呆れたようにつっこむミコト。
ヒカルが拳を突き上げた。
「あ、あたしは良いと思うよ! 伝説の公園!」
ツキに同調しているヒカル。
ミコトが額に手をあてた。
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ほらほら、お喋りもいいけどさ! 早く中に入ろうよ、ミコト、ヒカル!」
はしゃいだ様子のツキ。
急かすように、2人に呼びかける。
3人が、公園の中を進んでいった。
「おー、ここが、なるほどー」
観光地に来たようなテンションのツキ。
あちこち、目移りしながら歩いていく。
「そんなに来たかったの? ただの公園だよ」
改めて訊ねるミコト。
ツキがすぐさま頷いた。
「もちろん。だってさ、ヒカルがずーっと自慢してるんだもん。この公園で、ミコトお姉ちゃんに助けられたんだーって!」
「えっ!?」
声をあげるヒカル。
ミコトが目を細めた。
「なに、ヒカル? そんな事話してたの?」
「え、えと。そ、それは……」
恥ずかしそうに顔を伏せるヒカル。
ツキがヒカルの肩に手を乗せた。
「そうだよー。だからさ、私も一回、その伝説の場所を見てみたくてさー」
どこかからかうように話すツキ。
ミコトが顔をしかめ、じとっとした目を向けた。
「もー、ツキちゃんったら……」
「お、調子が戻ってきたね、ミコト!」
楽しそうなツキ。
ヒカルは顔を赤くして、黙っている。
ファイトテーブルの近く、ベンチに座って──
「いやー、最高だね!」
ツキが、満足そうに声をあげた。
空を見上げているツキ。満月の浮かぶ空。
「まぁ、楽しかったならいいけどさ」
ツキの隣りに座っているミコトが、微笑んだ。
ヒカルもまた笑みを浮かべ、手をあげる。
「あたしも! またツキちゃんとミコトお姉ちゃんの3人で遊べて、すっごく楽しい!」
弾むような声を出すヒカル。
ツキが「でしょー?」とデレデレする。
月の光が、3人の姿を照らす。
「ねぇ、2人とも」
おもむろに、ツキが口を開いた。
月を見上げているツキ。穏やかな表情。
「なぁに、ツキちゃん?」
不思議そうに、ヒカルが訊ねた。
風が吹いて、周りの木々がざわざわと揺れる。
「私ね、2人に知ってもらいたいことがあるの」
透き通るような声で、ツキが話した。
ミコトの表情が一瞬、強張る。
「知ってもらいたいこと?」
きょとんとしているヒカル。
ツキが頷いた。
「うん。誰にも話してない、私の秘密」
天に向かって、手をかざすツキ。
神秘的な美しさを讃えた横顔。真剣な目。
ゆっくりと、ツキが口を開く。
「私ね、実は……」
言葉を途切れさすツキ。
静かな間。風で木が揺れる音だけが響く。
にっこりと笑みを浮かべて──
「この髪の毛、染めたいの!!」
楽しそうに、ツキがそう言い放った。
わずかな間。ミコトが目を見開く。
「……は?」
「ほら、私ってピアニストでしょ? あんまり奇抜な色とかにすると、親に注意されちゃうから。だからずっと我慢してるんだよねー」
笑いながら話しているツキ。
ミコトは唖然として、口を開けている。
「ツキちゃん、何色にしたいの?」
無邪気に訊ねるヒカル。
ツキが嬉しそうに顔を向けた。
「よく聞いてくれたね、ヒカル! 実はずーっと前から、それは決めているのだよ! 私が染めたい色はねぇ」
意気揚々な様子のツキ。
指を伸ばして、得意そうな表情を浮かべる。
2人に向かって──
「ずばり、緑色!!」
ツキが、とても誇らしげにそう答えた。
ヒカルが驚いたようにのけぞる。
「み、緑色!?」
「そう! 絶対、かっこいいでしょ!」
自信満々のツキ。
ヒカルが複雑そうに、答えに窮する。
大きなため息をついて──
「絶対やめて。超似合わないから」
ミコトが、冷ややかにそう言い切った。
ツキがガーンとショックを受ける。
「えっ、えぇ!? 嘘でしょ!?」
「マジだから。冗談でもやめてね、本当に」
鋭い目を向けているミコト。
威圧感にも似た雰囲気が、全身から漂っている。
「うぅ、そんなぁ……」
しくしくと、悲しそうに嘆いているツキ。
ミコトが再びため息をついた。
「ツキちゃんは、今の黒い髪が一番だよ。今更、そんな変える事ないって」
「だってだって、ミコトは染めてるじゃない!」
ミコトの茶色の髪を指差すツキ。
恥ずかしそうに、ミコトが視線をそらした。
「こ、これは、お母さんに勧められて……」
小さくなっていくミコトの声。
ツキが羨ましそうな目を向けた。
「いいなー。ミコトの家、美容室だもんね」
「……別に、関係ないよ」
「いやいや、オシャレさが違うもん。うーん、でもそっかー。ミコトが言うなら、やっぱり似合わないのかなぁ……」
少ししょんぼりとしているツキ。
ミコトが気まずそうな表情を浮かべた。
考えるような間を置いて──
「……どうしてもって言うなら、メッシュとかワンポイントカラーで緑入れてみたら? それなら、ツキちゃんにもきっと似合うよ」
ミコトが、そう提案した。
勢いよく、ツキが顔をあげる。
「ほ、本当!?」
「うん。少なくとも、全部緑よりマシ──」
そう言いかけたミコトを、
「ナイス提案! ありがとー、ミコトー!」
ツキが、思い切り抱き寄せた。
嬉しそうに、ミコトをハグしているツキ。
「もー、ツキちゃん……」
呆れたように、ミコトが声をあげた。
されるがままになっているミコト。慣れた対応。
ミコトがわずかに、顔を伏せる。
「あ、あのさ、あたしも、髪染めたいかも!」
おずおずと、ヒカルが声をあげた。
ツキが目をキラキラとさせる。
「おー、いいね! なら、3人で染めようよ! ミコトの家の美容室でさ!」
「ちょっとちょっと、勝手に……!」
不満そうなミコト。
ヒカルが元気に手をあげる。
「あ、あたしね! 実は、大きくなったら、ピンク色の髪にしたいなーってずっと思ってたの! ど、どうかな?」
ミコトに向かって、訊ねるヒカル。
ツキがミコトを離し、手を合わせた。
「いいじゃない、すっごいカワイイと思うよ!」
べた褒めしているツキ。
ヒカルが「えへへ」と照れたように笑う。
「えー、ピンク?」
ヒカルの方を向くミコト。
口元に手を当てながら、考える。
「まぁ、ツキちゃんの緑よりは全然いいけど。うーん……」
じっと、ヒカルの顔を見つめているミコト。
おもむろに、口を開くと──
「……ヒカルなら、金髪とか似合うんじゃない?」
そう、ミコトが答えた。
ヒカルが驚く。
「えー、金髪!?」
どこか不満そうな声を出すヒカル。
怒ったような表情が、その顔に浮かぶ。
「そんな、イヤだよ! それだと、不良みたいになっちゃう!」
ぷりぷりとしているヒカル。
ミコトが首を振った。
「そんなことないよ。ヒカル、カワイイから。お人形さんみたいになれると思うよ」
優しい口調のミコト。
ヒカルの顔から怒りが消えた。
「……そ、そう? そうかな?」
満更でもない反応になるヒカル。
恥ずかしそうに頬を染める。
「み、ミコトお姉ちゃんがそう言うなら……」
顔を伏せ、指をもじもじとさせているヒカル。
ミコトは楽しそうにその様子を見ている。
ツキがニッと笑った。
「でもさー、不良になったヒカルも面白そうじゃない?」
ミコト達に向かって問いかけるツキ。
からかうような笑みが広がる。
「金髪にして、ばちばちのまつ毛しちゃってさ! ピアス開けて、カラコンなんかも入れちゃって。服装もバシッと決めちゃってさー!」
「えっ、えぇっ!?」
驚愕するヒカル。
ミコトが大きく笑い声をあげた。
「あはは! ツキちゃん、それ最高! 案外、そっちの方が似合うかも!」
笑い合っているミコトとツキ。
ヒカルが再び怒りの表情を浮かべた。
「も、もう! 2人とも! あたし、そんな風にならないよ!」
声を荒げるヒカル。
ツキが笑いながら、手を振る。
「大丈夫、冗談だって! それに、もしヒカルがそうなったとしても、私達はずっと友達だよ!」
断言するツキ。
横のミコトもまた、頷いた。
「そうだよ。それに、もし本当にグレちゃったら、ちゃーんとあたしが止めてあげるからさ」
冗談めかした口調のミコト。
ヒカルがムキになって、言い返した。
「だ、だから、グレないし、不良になんてならないってば!」
大きく言うヒカル。
喋り続けている3人。他愛のない話しが続く。
時が流れて──
「あっ、ヤバ」
ツキが、スマホを見て声をあげた。
小刻みな振動。表示された「ママ」の文字。
ツキがスマホを耳にあてる。
「もしもし? うん、はい。うん……」
黙って会話を聞いているツキ。
最後に「うん、ごめんー」と言い通話を切る。
ツキが舌を出した。
「やー、怒られちゃった。さて、それじゃあ、そろそろ本当に帰らないとね」
ミコト達に呼びかけるツキ。
2人が頷いた。
「そうね、そろそろ限界」
「あたしも、ちょっと眠い……」
目を半開きにして、眠そうなヒカル。
ツキが立ち上がった。
「うん、2人とも、付き合ってくれてありがとう! 最高の思い出になったよ!」
輝くような笑顔を浮かべているツキ。
ミコトとヒカルが笑い合った。
ツキがスマホを操作する。
「それじゃ、タクシー呼ぶね。2人とも家まで送って行くから」
「えっ、そんな、悪いよ!」
「いいから、いいから。年上の言う事は素直に聞くものだよ! それに、私も乗らないと道分からないから、帰れないし~」
冗談めかして話しているツキ。
ヒカルが「別にいいのに……」と呟く。
無言のミコト。
月の光が降り注いで──
公園の横に、タクシーが到着した。
後部座席に3人が乗り込む。
「それじゃあ、まずは──」
運転手に向かって口を開くツキ。
だがツキが話すよりも早く、
「ヒカルの家の方が、ここから近いよ」
ミコトがそう告げた。
ツキが驚いたように、ミコトの方を見る。
ミコトがヒカルを見つめた。
「ね、そうでしょ?」
「えっ、あ、そうかな……?」
自信なく答えるヒカル。
一瞬の間の後、ツキがフッと微笑んだ。
「そうだね。じゃあまずは、ヒカルの家からで」
「あっ、う、うん!」
頷くヒカル。
運転手に向かって、住所を伝える。
タクシーが走り出した。
「ねぇ、ツキちゃん、聞いて聞いて! あのね、あたし、ツキちゃんがいない間に、デッキのカードをね……!」
楽しそうに話し続けているヒカル。
ツキは微笑みながら、その話しを聞いている。
時間が過ぎて──
タクシーが止まり、ドアが開いた。
「それじゃあね、ツキちゃん! ミコトお姉ちゃん!」
タクシーから降りるヒカル。
にっこりと笑いながら、元気に手を振る。
「あたし、ツキちゃんと久しぶりに会えて、今日はすごく嬉しかったし、楽しかった!」
目を輝かせているヒカル。
無邪気な笑みを浮かべながら──
「じゃあ、"またね"!!」
ヒカルが、2人に向かってそう言った。
目を伏せがちに、沈黙するミコト。
ツキが片手をあげた。
「うん、またね! ヒカル!」
明るい声で答えるツキ。
にっこりと笑いながら、手を振る。
ドアが閉まって、タクシーが再び走り出した。
「さて、それじゃあ次はミコトの家だね!」
明るく話しているツキ。
ミコトは黙って、窓の外を眺めている。
「えーっと、ミコトの家の住所って──」
言いかけたツキの言葉を、
「ツキちゃん」
ミコトの言葉が、遮った。
静かな声。決意を感じる声色。
ツキが、首をかしげた。
「ん? どうしたの?」
微笑んでいるツキ。
ミコトの方を、覗き込むように見る。
顔を向けて──
「大事な話しがあるの」
ミコトが、鋭い目を向けた。
真剣な表情。茶色の瞳がツキの姿を捉える。
無言の車内。窓から見える、金色の満月。
「……そっか」
ツキが、小さな声で呟いた。
フッと息を吐くツキ。前を向いて──
「運転手さん!」
声をあげるツキ。
笑顔を浮かべながら──
「今から言う住所にお願いします!」
ツキが、自分の家の住所を運転手に伝えた。
夜の帳は落ち、辺りは静まり返っている。
金色の満月が浮かぶ空。暗い夜。
ばさばさと、白いカーテンが風に揺れる。
黒いテーブルを挟んで──
「それで、ミコト?」
ツキが、ミコトに向かって静かに訊ねた。
微笑んでいるツキ。両手を広げる。
「大事な話しって、何かな? ひょっとして、愛の告白とか? やーん、ミコトってば、案外大胆なんだねー」
デレデレとした様子のツキ。
ミコトは暗い表情のまま、顔を伏せている。
「……ツキちゃん」
ぽつりと、呟くように話すミコト。
小さく、かすかに震えた声が響く。
「ん? なぁに?」
聞き返すツキ。
ミコトが一瞬、言葉を詰まらせた。
ぎゅっと、ミコトが拳を握る。
「……本当は」
聞き取れない程、小さな声。
薄暗い室内。月明かりが2人を照らす。
白いカーテンが揺れて──
「本当は、あとどれくらい会えるの?」
ミコトの言葉が、闇の中に溶けるよう響いた。
しんと、静まり返っている室内。音のない空間。
ツキが肩をすくめた。
「……どういう意味かな? ツキちゃん、何が言いたいのかさっぱり──」
「とぼけないでよ!!」
ミコトが声を荒げた。
悲鳴のような声。ミコトが顔をあげる。
大粒の涙が、その瞳には浮かんでいた。
「ツキちゃん、心配ないなんて、嘘ついて……!! 本当は、違うんでしょ!? 本当は、本当は……」
途切れ途切れ、言葉を紡いでいるミコト。
涙を流しながら──
「本当は……もう、治らないって分かったから!! だから、お家に帰ってきたんでしょ!!」
ミコトが、叫ぶように言い放った。
声をあげて、ミコトが泣き始める。
「あたし、いっぱい、調べたの……。ネットとか、本とかで……。もう死ぬのが分かっている患者に対して、最期をどう過ごすか決めさせる治療があるって……!!」
涙をぬぐいながら、喋っているミコト。
ツキは黙って、その言葉を聞いている。
ミコトが顔をあげた。
「ねぇ、ツキちゃん!! お願いだから、嘘つかないでよ!! あたし、あたしは……!!」
悲愴な表情を浮かべているミコト。
ぽたぽたと、涙が流れて床に落ちた。
ツキが小さく首を振った。
「……参ったなぁ」
心の底から、困った表情を浮かべているツキ。
ため息をつくと、視線をそらす。
「ごめんね、ミコト……」
謝罪の言葉を口にするツキ。
窓の外、金色の満月を眺める。
「私、諦めたくなかったんだけどなぁ……」
ぽつりと、小さく呟くツキ。
フッと、どこか自嘲的な笑みを浮かべた。
「でもさ、もう、どうにもならないみたい。私の身体、もう限界みたいなんだよね」
ツキが両手を広げた。
穏やかな微笑み。諦めたような声。
「眼鏡がないと、目もよく見えないしさ。ピアノも弾けなくなっちゃったし……」
指を伸ばしているツキ。
白く細い指を、見つめる。
「正直、あとどれくらい時間があるかは、私にも分からない。だけど……」
いつもと変わらぬ声のツキ。
微笑みを崩さないまま、続ける。
「きっと、あんまり長くはないんじゃないかな。アハハ……」
空虚な笑い声。頬をかくツキ。
ミコトがうっと、声を漏らした。
「嫌だ、嫌だよ、ツキちゃん……!!」
頭を抱えているミコト。
ぶるぶると、その身体は震えている。
「死んじゃうなんて、絶対嫌!! だって、だってまだ、あたしもヒカルも、ツキちゃんと一緒にいたいもん!! もっと、ずっと、一緒に……!!」
嗚咽を漏らしているミコト。
ツキは黙って、考えるように目を細めている。
風が吹いて──
「ねぇ、ミコト」
ツキが、穏やかに呼びかけた。
黒い髪がふわりと広がる。
「お願いがあるの」
にっこりと微笑んでいるツキ。
静かに、白いデッキケースを取り出す。
月の光が、テーブルの上に降り注いで──
「私と、ファイトして!」
大きく言い、ツキがデッキケースを構えた。
ミコトが顔をあげる。
「ファイト……?」
涙でぐずぐずになっているミコト。
何とかして、ツキの方を向く。
ツキがいつもの、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「そう。私とミコト、いつもの真剣勝負!」
明るい声で話しているツキ。
両手を広げる。
「ミコトはいつだって勝気で、私に勝つためにがんばってて。私、そんなミコトが大好きだから! だからお願いミコト、今ここで、私と本気でファイトして! きっと……」
一瞬、言葉が途切れるツキ。
わずかに、その目線が下がる。
「……きっと、これが最後だと思うから」
静かな言葉。消え入るような声。
月が雲に隠れ、二人の姿が闇に溶ける。
安らかな静寂だけが、室内を満たした。
「……ツキちゃん」
涙をぬぐうミコト。
よろよろと、背筋を伸ばす。
赤いデッキケースを、ミコトが取り出した。
「……分かったよ」
か細く、震えている声。
泣きそうな表情を浮かべながら、
「それが、ツキちゃんの望みなら……!」
振り絞るように、ミコトがそう言った。
震えている手。浅く乱れた呼吸。
ツキが、穏やかな笑みを浮かべる。
「……優しいね、ミコトは」
ぽつりとつぶやくツキ。
指を伸ばし、かけていた眼鏡を外す。
白いカーテンがばさばさと揺れて──
「じゃあ、はじめようか」
ツキの声が、静かに響いた。
黒いテーブルを挟んで、対峙している2人。
向かい合う、月のスリーブに入ったカード。
「いくよ、カワイイ後輩」
すっと、ツキが指をカードの上に置いた。
深呼吸しているミコト。指を伸ばす。
月の光が差し込んで──
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
2人の指が、カードをめくった。
「《サンセット・エッグ》!」
「……《天弓の騎士 ベイス》」
サンセット・エッグ
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 人知れず眠る、夢幻の遺伝子を秘めた卵。
天弓の騎士 ベイス
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー6000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットがライドされた時、あなたが後攻なら、1枚引く。
― 天空の民は自らが選ばれし者であると心得ている。
表になる2枚のカード。
月の光が、その姿を照らす。
「私のターン」
微笑みながら、ツキがそう宣言した。
カードを引くツキ。1枚を選ぶ。
「《緑の魔少女 "ダスク"》にライド」
ぱさりと、1枚のカードが置かれる。
緑の髪の少女が描かれたカード。
「スキルで、ルナコクンを手札に」
緑の魔少女 "ダスク"
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが「サンセット・エッグ」からライドして登場した時、あなたの山札から「ルナコクン」を1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルする。
― 才華に溢れる少女を、人々は"夜"の名前で表現した。
山札を広げるツキ。
金色の繭の妖精のカードを、表にする。
ルナコクン
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。
― あたしの姿、あなたにはどう見える?
「ターンエンド」
カードを手札に加えながら、静かに言うツキ。
ミコトの方を見据える。
「……あたしのターン」
暗い声のミコト。
カードを引くと、苦しそうに1枚を選ぶ。
「《天剣の騎士 フォート》にライド……」
天剣の騎士 フォート
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが「天槍の騎士 ルクス」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を2枚公開する]ことで、あなたの山札を上から1枚公開し、それがユニットカードなら(R)にコールし、違うなら、ドロップに置く。
【起】【(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、グレード3のあなたのヴァンガードを1枚選び、そのターン中、パワー+5000。
― 「クラウドナイツ」は地上の法と秩序を空から守る。
「ベイスのスキルで1枚ドロー……」
さらにカードを引くミコト。
ヴァンガードの上に、指を置く。
「フォートで、アタック……!」
「ノーガード」
穏やかに宣言するツキ。
ミコトが「チェック・ザ・ドライブ」と言い、
山札の上のカードを表にして見せた。
ペインキラー・エンジェル
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。
― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。
「ダメージチェック」
カードをめくるツキ。
そのまま、1枚を横向きに置く。
スプライト・マドンナ
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが(R)に登場した時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、あなたの山札から「ルナコクン」を1枚まで探し、公開して手札に加え、山札をシャッフルする。
― もう一度、夢を魅せて、ア・ゲ・ル。
ツキ ダメージ0→1
「ターンエンド……」
顔を伏せ、宣言するミコト。
カードを持つ手が、かすかに震えている。
「私のターン」
カードを引くツキ。
手札の中の1枚を指で挟み、捨てる。
「《秘めたる才気 "ミッドナイト"》にライド」
重ねられる1枚。
少し成長した、緑の髪の少女の姿。
秘めたる才気 "ミッドナイト"
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ストイケイア - インセクト
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが「緑の魔少女 "ダスク"」からライドして登場した時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
― 比類なき才能。彼女には直系の血が流れている。
「スキルで、《ミニュアデス》を表に」
手を伸ばすツキ。
白い兎のスリーブに入ったカード、
影の光を纏う蛍の女怪人の姿が表になる。
ミニュアデス
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ストイケイア - インセクト
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【メタモルフォシス】-「ルナコクン」
((R)の指定ユニットをシャドウゾーンに置くことで、表のこのカードを登場させてもよい)
【起】【(V)/(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、そのターン中、あなたのヴァンガードは、相手のヴァンガードが持つ能力をすべて得る。
【永】【(R)】あなたのターン終了時、【コスト】[このユニットをシャドウゾーンに表で置く]ことで、1枚引く。
― 影の蛍が照らすのは、相反する「真実」の夢。
ツキが指をカードの上に置いた。
「ミッドナイトで、アタック」
静かな宣言。
カードを横に動かすツキ。
ミコトが、震える声で答える。
「ノーガード……」
「ドライブチェック」
すっと、手を伸ばすツキ。
カードを表にする。
賛美を告げる影の舞
ノーマルオーダー 〈3〉
ストイケイア
「セレネシス」を含むあなたのヴァンガードがいるなら、プレイできる!
あなたのシャドウゾーンから「ルナコクン」を1枚選び、(R)にコールする。
― 踊りましょう。この歓喜を、姫様に。
「ダメージチェック……」
ミコトもまた、カードをめくった。
白い天馬のような姿のカードが、場に置かれる。
アイジスメア・ドラゴン
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - コスモドラゴン
パワー6000 / シールド0 / ☆1
【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)
【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。
― この痛み……私が全て引き受けましょう。
ミコト ダメージ0→1
「ターンエンドだよ」
透き通るような、穏やかな声。
手札を片手に、ツキがにっこりと笑った。
ミコトは顔を伏せている。
「あたしのターン……」
デッキからカードを引くミコト。
1枚を選ぶと、カードを掴む。
「《天槍の騎士 ルクス》にライド……」
カードを置くミコト。
白い鎧の騎士の姿が描かれたカードが現れる。
天槍の騎士 ルクス
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ケテルサンクチュアリ - エルフ
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが「頂の天帝 バスティオン」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を3枚公開する]ことで、1枚引く。
【永】【(R)】:あなたのターン中、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、このユニットは『ブースト』を得て、パワー+5000。
― 俺達に任せておけって。しっかり守ってやるからよ。
「フォートのスキルで、手札の2枚を公開……」
カードを少しだけずらすミコト。
暗闇の中、2枚のカードを掲げる。
戦禍の騎士 フォサド
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。
【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。
― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。
寛解の太刀 ファヌエル
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、【コスト】[【カウンターブラスト】(2)]することで、そのバトル中、このユニットのクリティカル+1。
― 空の患者も地上の怪我も、私が必ず治してみせるわ。
「山札の上を見て……ラマーナを、コール」
デッキの一番上を見るミコト。
そのまま、カードをヴァンガードの横に置く。
激甚の魔女 ラマーナ
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - エルフ
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、【コスト】[【カウンターブラスト】(1)]することで、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。
― そこで跪け!
並び立つ騎士と魔女。
ミコトがヴァンガードのカードを動かす。
「ルクスでアタック……!」
「ノーガード」
迷いなく、そう宣言するツキ。
ミコトがカードをめくった。
プラチナム・ウルフ
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - ハイビースト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【起】【(R)】:【コスト】[【ソウルブラスト】(2)]することで、そのターン中、このユニットのパワー+5000。
― 白金の狼は地上の民に寄り添う。
「ダメージチェック。ノートリガー」
指を動かして、カードを見せるツキ。
そのままゆっくりと、カードを横に置く。
共謀怪人 アドマンティス
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが(R)に登場した時、あなたの他のリアガードを1枚選び、そのターン中、パワー+5000。
― 自ら手を見下すのは、あくまで最後の手段でいい。
ツキ ダメージ1→2
真っ直ぐに前を向いているツキ。
ミコトが震える指で、さらにカードを動かす。
「ラマーナで、アタック……!」
カードを横にするミコト。
顔をあげて、ツキの言葉を待つ。
微笑みを讃えながら──
「ノーガード」
ツキが、静かにそう宣言した。
「うっ……!」と、声を漏らすミコト。
ツキのダメージに、カードが置かれる。
流麗怪人 グロリアス・スタッグ
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ストイケイア - インセクト
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、相手のユニットがすべて【レスト】しているなら、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。
【自】【(R)】:このユニットがアタックしたバトル終了時、あなたのヴァンガードが「夢幻蝶姫 セレネシス」なら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。
― 特級怪人の実力、見せてあげる。
ツキ ダメージ2→3
「ターン、エンド……」
暗闇の室内に、ミコトの声が響く。
顔を隠すように、手札を持っているミコト。
ツキが、デッキの上に手を乗せた。
「私のターン」
カードを引くツキ。
1枚を捨てると、手を伸ばしカードを掴んだ。
月のスリーブに入ったカードを構えて──
「《夢幻蝶姫 セレネシス》にライド」
静かに、ツキがカードを置いた。
影の世界を統べる虫の姫君が、優雅に姿を現す。
夢幻蝶姫 セレネシス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。
― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。
「スキルで、メレアグリデスを表に」
白い兎のスリーブに入ったカードの中、
影の翼を持つ蝶の女怪人のカードを選ぶツキ。
手札の1枚を掴む。
「ルナコクンをコール」
虫の姫君の横、金色の繭の妖精が姿を見せた。
ルナコクン
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。
― あたしの姿、あなたにはどう見える?
すっと、カードを手に取るツキ。
目線を切って──
「メレアグリデスに、メタモルフォシス」
2枚のカードが、入れ替わった。
影と夢。2つの世界が重なるように混じり合い、
青白い蝶の女怪人が降臨する。
メレアグリデス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【メタモルフォシス】-「ルナコクン」((R)の指定ユニットをシャドウゾーンに置くことで、表のこのカードを登場させてもよい)
【起】【(V)/(R)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1),あなたのドロップから【超】トリガー以外のトリガーユニットを1枚シャドウゾーンに置く]ことで、相手のヴァンガードがグレード3以上なら、そのトリガー効果を1回発動する。
― 影の蝶が魅せるのは、光輝く「奇跡」の夢。
「メレアグリデス……?」
困惑したような声のミコト。
ツキが微笑みながら、手を伸ばす。
「スキル発動。ドロップのトリガーを1枚、シャドウゾーンへ」
ダメージの1枚を裏返すツキ。
ドロップのカードを、影の領域へと置く。
晴朗の乙女 レェナ
トリガーユニット 【引】+10000
(ドロートリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - バイオロイド
パワー4000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(G)】:相手のヴァンガードがグレード3以上なら、このユニットのシールド+5000
― こんなに良いお天気なのですよ?お散歩しましょ~♪
桃色の乙女のカード。
暗闇の中、カードが置かれる音だけが響く。
条件を満たしていないので、効果は発動しない。
「セレネシスのスキル。メレアグリデスの能力をコピー。スキルを発動して、ドロップのトリガーをシャドウゾーンに」
ヴァンガードの下のソウルを抜き取るツキ。
淡々と話しながら、カードを動かしていく。
夢幻蝶姫 セレネシス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。
― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。
影の領域に、さらにカードが置かれた。
ドリーミング・バタフライ
トリガーユニット【治】 +10000
(ヒールトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
(【治】はデッキに4枚までしか入れられる。)
― 夢の世界へと誘う、煌めく鱗粉。
先程と同様。条件を満たしていないため、
トリガー効果は発揮されない。
ミコトが顔をあげた。
「ツキちゃん……?」
不安そうな声。動揺している瞳。
流れるように、ツキがカードの上に指をのせた。
「じゃあ、いくよ」
笑っているツキ。
カードを横向きへと動かした。
「セレネシスで、ヴァンガードにアタック」
攻撃の宣言。カードが動かされ、
虫の姫君の目がミコトの方へと向けられる。
夢幻蝶姫 セレネシス パワー13000
何の能力も、効果もない攻撃。
ミコトが言葉を詰まらせるようにして、言う。
「ノー、ガード……!」
苦しそうな表情のミコト。
浅く早い呼吸。乱れた息遣い。
ツキが手を伸ばした。
「ツインドライブ」
カードをめくっていくツキ。
2枚のカードが、その手元で表になる。
「ファーストチェック、ノートリガー。セカンドチェック、クリティカルトリガー」
賛美を告げる影の舞
ノーマルオーダー 〈3〉
ストイケイア
「セレネシス」を含むあなたのヴァンガードがいるなら、プレイできる!
あなたのシャドウゾーンから「ルナコクン」を1枚選び、(R)にコールする。
― 踊りましょう。この歓喜を、姫様に。
シャドウ・レディバグ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― 影の世界には、かつて失われた遺伝子が隠されている。
めくられた1枚。
影の世界に住まう、天道虫の女怪人のカード。
「クリティカルはセレネシス、パワーはメレアグリデスへ!」
明るい声で、ツキがそう宣言した。
顔を伏せているミコト。
ダメージに、2枚のカードが置かれる。
ペインキラー・エンジェル
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。
― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。
天槍の騎士 ルクス
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ケテルサンクチュアリ - エルフ
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【自】:このユニットが「頂の天帝 バスティオン」にライドされた時、【コスト】[手札からグレード3を3枚公開する]ことで、1枚引く。
【永】【(R)】:あなたのターン中、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、このユニットは『ブースト』を得て、パワー+5000。
― 俺達に任せておけって。しっかり守ってやるからよ。
ミコト ダメージ1→3
「うっ、うぅっ……!」
小さく、うめいているミコト。
ツキが微笑みながら、指をカードに乗せた。
「メレアグリデスで、アタック!」
カードを動かすツキ。
蝶の女怪人による攻撃。静かな間。
ミコトが、ぎゅっと手を握った。
「ノーガード……!」
手札を見ることもなく、宣言するミコト。
震えながら、カードをダメージに置く。
戦禍の騎士 フォサド
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。
【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。
― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。
ミコト ダメージ3→4
「ターンエンドだよ」
静かに、そう宣言するツキ。
口元に笑みを浮かべながら、目を細めている。
息を乱しながら──
「あたしのターン……!」
ミコトが、なんとかそう宣言した。
小刻みに震える手で、カードを引くミコト。
手札のカードを一瞥する。
「あ、あたし、あたしは……!!」
指をふらふらとさせているミコト。
迷い苦しむように、言葉が出てこなくなる。
風が吹いて、カーテンの揺れる音が響いた。
「ねぇ、ミコト」
薄暗い室内に、ツキの言葉が響く。
顔を上げ、視線を向けるミコト。
月の光に照らされて──
「私、ミコトの本気が見たいな」
ツキが、優しく微笑んだ。
「お願い。かっこいい所、見せてよ」
手を伸ばしているツキ。
輝くような笑顔。煌めいている姿。
ミコトが目を見開く。そして──
「うっ、うああああっ!!」
その口から、叫ぶような声があがった。
ミコトの目から、涙がこぼれる。
カードを掴んで──
「《剣聖騎竜 グラムグレイス》にライド!!」
叩きつけるように、ミコトがカードを置いた。
剣聖騎竜 グラムグレイス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - コスモドラゴン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(V)】:あなたのペルソナライドは後列のユニットのパワーも増加させる。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1), 【ソウルブラスト】(1)]することで、1枚引き、あなたの手札から1枚選び、中央後列の(R)にコールし、そのターン中、そのユニットは後列からでもアタックでき、パワー+10000。
【自】【(V)】:あなたの中央後列のリアガードがアタックしたバトル終了時、そのユニットをソウルに置き、1枚引く。
― 蒼空より来たれ、我が刃。龍血伝承・閃耀不壊!
「スキルで1枚ドロー!! 手札のファヌエルをコール!! 後列からアタック可能に!!」
ダメージのカードを裏返すミコト。
手札の中から、天使の描かれたカードを出す。
寛解の太刀 ファヌエル
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、グレード3のあなたのユニットが3枚以上なら、【コスト】[【カウンターブラスト】(2)]することで、そのバトル中、このユニットのクリティカル+1。
― 空の患者も地上の怪我も、私が必ず治してみせるわ。
黙って、微笑んでいるツキ。
手札のカードを、ミコトが掴む。
「フォサド!! ペインキラー!! ヴェーチェルをコール!!」
選ばれた3枚のカード。
ミコトの盤面が、全て埋まった。
戦禍の騎士 フォサド
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(R)】:このユニットは相手のカードの効果で選べない。
【自】【(R)】:このユニットのアタックがヒットした時、【カウンターチャージ】(1)/【ソウルチャージ】(1)。
― 何としても抗う。逆境の中に勝機はある。
ペインキラー・エンジェル
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - エンジェル
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストしたバトル終了時、【コスト】[【ソウルブラスト】(1), このユニットを退却させる]ことで、1枚引く。
― 心配不要です。チクリとすればおしまいですから。
天風の剣士 ヴェーチェル
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがブーストした時、そのターン中、このユニットのパワー+2000。
― この風が、必ず勝利を運び込むわっ!
「うんうん」
頷いているツキ。
楽しそうに、盤面へと視線を向けている。
だんと、ミコトが荒々しくカードに指を置いた。
「ペインキラーのブースト、フォサドでヴァンガードにアタック!!」
泣きながら、カードを動かすミコト。
ツキが目を伏せた。
「ノーガード」
穏やかな表情のツキ。
カードをめくると、静かに置く。
ノブレス・フリット
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー8000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(R)】:あなたのターン中、相手のヴァンガードがグレード3以上なら、このユニットのパワー+5000。
― 綺麗だろう?光を振りまくボクの姿は。
ツキ ダメージ3→4
「ヴェーチェルのブースト、ラマーナでアタック!!」
畳みかけるように言うミコト。
まるで悲鳴のような声が、響く。
「ノーガード」
手札を片手に、そう宣言するツキ。
カードがさらに、ダメージへと置かれた。
流麗怪人 グロリアス・スタッグ
ノーマルユニット 〈2〉 (インターセプト)
ストイケイア - インセクト
パワー10000 / シールド5000 / ☆1
【自】【(R)】:このユニットがアタックした時、相手のユニットがすべて【レスト】しているなら、そのバトル中、このユニットのパワー+5000。
【自】【(R)】:このユニットがアタックしたバトル終了時、あなたのヴァンガードが「夢幻蝶姫 セレネシス」なら、【コスト】[このユニットをソウルに置く]ことで、【カウンターチャージ】(1)。
― 特級怪人の実力、見せてあげる。
ツキ ダメージ4→5
ダメージ5。追い詰められるツキ。
穏やかな微笑みを浮かべて、ミコトを見つめる。
指を動かして──
「グラムグレイスで、アタック!!」
ミコトが、大きく宣言した。
泣きじゃくるような声。頬をつたう涙。
ツキが、カードを掴む。
「完全ガード」
2人の間に置かれる1枚。
緑色の竜のカードが、ぱさりと置かれる。
プラナプリベント・ドラゴン
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - ネイチャードラゴン
パワー6000 / シールド0 / ☆1
【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)
【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。
― 護って見せるよ。やっと芽生えた命なんだから。
さらに手札を捨てるツキ。
その手に残ったカードは、6枚。
「チェック・ザ・ドライブ!!」
デッキに手を伸ばすミコト。
カードをめくる。
「ファーストチェック、クリティカルトリガー!! 効果は全てファヌエルへ!!」
天槌の騎士 グルカント
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― 騒ぎを起こした罪は重い。過度な酌量は不要だ。
騎士の姿が描かれたカードを見せるミコト。
自分の場の天使のカードを示す。
「セカンドチェック!!」
泣きながら、宣言するミコト。
カードをめくって──
「ゲット、クリティカルトリガー!!」
その手の中のカードを、見せつけた。
白牙の魔女 ディスマ
トリガーユニット 【☆】+10000
(クリティカルトリガー) 〈0〉 (ブースト)
ケテルサンクチュアリ - ヒューマン
パワー5000 / シールド15000 / ☆1
― さ~て、どの子から行かせようかな~?
「ミコト……」
嬉しそうに呟いているツキ。
ミコトが腕をなぐように、動かす。
「効果は全て、ファヌエルへ!!」
ミコトの場に残った天使のカード。
トリガーによる強化が、集中していく。
カードの上、指を乗せて──
「あたし、あたしは……ファヌエルで……!!」
言葉が途切れるミコト。
顔をあげて、ツキの方を見る。
ツキは何も言わず、優しく微笑んでいる。
「ファヌエルで……!!」
ぶるぶると、震えている指先。
呼吸が乱れて、言葉がつかえる。
カードを横向きに動かして──
「ヴァンガードに、アタック……!!」
振り絞るように、ミコトが宣言した。
風が吹いて、白いカーテンがばさばさと揺れる。
寛解の太刀 ファヌエル パワー43000
部屋の中に差し込んでいる、月の光。
テーブルの上のカードを、柔らかに照らす。
ゆっくりと、ツキが口を開いて──
「ノーガード」
2人の間に、その言葉が響いた。
デッキの上に手を乗せるツキ。一瞬の間。
カードが表になって──
「ダメージチェック。ノートリガー」
最後の1枚が、ダメージへと置かれた。
夢幻蝶姫 セレネシス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。
― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。
ツキ ダメージ5→6
ぱさりと、置かれる1枚。
ミコトのすすり泣く声だけが、室内に響く。
「……やっぱり、勝てなかったね」
ダメージのカードを見ながら、呟くツキ。
だがすぐに、顔を上げて笑顔を見せた。
「ううん、違うか。ミコトが、強くなったんだね! もう、私よりも!」
明るい声でそう話すツキ。
嬉しそうに、両手を握り合わせた。
「おめでとう、ミコト! やっぱり、弟子は最後に師匠を超えてくれないとね! 私も、とっても嬉しくて──」
祝福の言葉をかけるツキに向かって、
「違う!! 違う違う違う!!」
ミコトが、叫ぶように声を荒げた。
ツキが驚き、たじろぐ。
涙を流しながら──
「あたしは、強くなんてないッ!! だって、だって……!!」
泣き続けているミコト。
その手からカードが落ちる。
「ツキちゃん、もう、ボロボロで……!! ファイトなんて、できる状態じゃなくて……!! こんな、こんなの……!!」
両手で顔を覆うミコト。
その場にへたり込んで、泣き始める。
「ごめん、ごめんね、ツキちゃん……!」
謝り続けているミコト。
暗闇の室内に、ミコトの泣く声だけが響く。
「……ミコト」
泣いているミコトを見下ろしているツキ。
ゆっくりと、ミコトに近づく。
「……ごめんね。私、がんばってみたんだけど。今の私には、これが限界みたい。辛い思いさせちゃったね」
ぽつりと、呟いているツキ。
何かを考えるように、目を閉じる。
ツキが頷いた。
「ねぇ、ミコト!」
明るい声で呼びかけるツキ。
しゃがみこみ、ミコトと目線の高さを合わせる。
「……え?」
泣いていたミコトが、顔をあげる。
にっこりと、ツキが笑って──
「はい! これ、あげる!」
白いデッキケースを、ツキが差し出した。
ミコトが目を丸くする。
「えっ? えっ?」
「私の自慢のデッキ! ミコトにあげるよ!」
デッキケースを見つめているミコト。
月の光に照らされ、表面がきらきらと輝く。
「なん、で……?」
呆然としているミコト。
ツキが微笑んだ。
「ミコトには、今日いーっぱい付き合ってもらったから! そのお礼だよ!」
優しい声色で話しているツキ。
ぽんと、ミコトの肩に手をのせる。
「それにさ、きっとこの子達も、もっと戦いたいって思ってるから! 私にはもうできないから、代わりにお願い!」
甘えるように「ね?」と言うツキ。
ミコトの手に、デッキケースを握らせた。
「ミコトなら、私より強くなれる。プロにだってなれるって、私は本気で思ってるよ!」
「……ツキちゃん」
小刻みに震えているミコト。
その手の中のデッキケースを見つめる。
ツキが腕を伸ばして──
「今まで本当にありがとう、カワイイ後輩!!」
優しく、ツキがミコトを抱き寄せた。
柔らかな感触。温もりと、花の香りが伝わる。
「ツキちゃん……!!」
嗚咽をもらすミコト。
ぎゅっと、ツキの身体を精一杯抱きしめる。
泣いているミコトの耳元で──
「愛してるよ、ミコト」
そっと、ツキがささやいた。
2人だけの部屋。月の光が、優しく降り注ぐ。
真夜中の時間。満月の夜。
やがて、ミコトの姿が部屋から消えた。
一人きりの空間。ベッドで横になっているツキ。
「月が綺麗だなぁ……」
窓の外に浮かぶ月を見て、呟くツキ。
穏やかな微笑み。瞼を閉じて──
御導ツキが、永遠の眠りについた。
どれくらいの時間が経ったのか。
薄暗い部屋の中に、私は1人でいた。
ぼんやりとした頭。閉じられたカーテン。
カチカチと、時計の針の音が響く。
「……ツキちゃん」
ベッドの上にうずくまり、呟く。
最後に会った日の真夜中、ツキちゃんは──
きーんという耳鳴りが響いた。
「っ!!」
痛みに顔をしかめる。耐え切れず、
ぐしゃぐしゃと、私は髪をかきむしった。
時間が経って、徐々に痛みが収まる。
「ごめん、ごめんね、ツキちゃん……!!」
息を切らしながら、私は謝り続けた。
涙がこぼれる。今日は、とても大事な日なのに。
行かなくちゃ、いけないのに……!!
ぎゅっと、目をつぶる。
暗い闇の中に、白い光景が浮かび上がった。
「やぁ、ミコト!」
笑顔を浮かべているツキちゃんの姿。
黒いテーブルの前で、手を振っている。
「どうしたの? 元気ないよ?」
最期に聞いたのと、全く同じ声。明るい雰囲気。
私の記憶の中に残る、完璧な姿。
頭を抱えて──
「お願い、やめて!!」
そう、声に出して言った。
ツキちゃんの姿がぼやけて、消える。
暗闇だけが、後に残った。
「うぅっ……うっ……!!」
うめき声のような声が出る。
胸に感じる息苦しさ。覚めない夢。
あの日の夜の記憶が、頭から離れない。
「あたし、あたしは……!!」
口元を抑える。涙が溢れた。
ぐるぐると、頭の中の思考がかき乱れる。
時計の針の音が響く。
いつまでそれが続いていたのか。
時間の感覚がない中で──
「……ミコトお姉ちゃん?」
コンコンと、部屋のドアを叩く音がした。
呼びかける声。ハッとなって、顔をあげる。
扉越しに──
「あたし、ヒカルだよ。久しぶり……」
ヒカルの声が、部屋の中へと響いた。
凍り付いたように、私は扉の方を見る。
少しの間の後、ヒカルの声が続いた。
「ミコトお姉ちゃん、ずっと、学校に行けてないって聞いて……。ツキちゃんの事もあったから、その、あたし、心配で……」
たどたどしく話しているヒカル。
沈んだ気持ちが、言葉から伝わってくる。
「……今日ね、その、ツキちゃんの、お葬式の日だったんだ」
ぽつりと、話すヒカル。
「あんなにたくさんの人が来るなんて、あたし、びっくりしちゃった。ツキちゃん、やっぱり凄い人だったんだね。色んな人が来てて……」
淡々とした口調のヒカル。
思い出すように、言葉が流れる。
「最後の大会で当たった、対戦相手の女の子とか。あと、ツキちゃんが倒しちゃったプロの人も来てたよ。凄い剣幕で怒ってた。泣きながら、『ふざけるな!』とか『勝ち逃げするな!』とか、大騒ぎで……」
苦笑するように、ヒカルが息を吐く。
「ツキちゃんがいたら、きっと怒ってたよね。『うるさい、迷惑!』とか言っちゃってさ。ツキちゃんあれで、自分の事はけっこう棚にあげちゃうから……」
乾いた笑い声を、ヒカルがあげた。
私はただ、黙り込んでいる。
「でも、お葬式にも、ミコトお姉ちゃんは来てなくて……。それで、あたし……」
言葉が途切れる。流れる沈黙。
扉を隔てて、私達は向かい合っている。
「……ヒカル、あたしは」
なんとかして、私は口を開いた。
消え入りそうなほどの、小さな声。
「うん、分かってるよ」
扉の向こうで、ヒカルが答えた。
思わず驚く。だがすぐに、偶然だと気付いた。
「ミコトお姉ちゃんも今、すごく苦しんでるんだって。あたしより、ツキちゃんとは長く一緒にいたんだもんね。だから、仕方ないんだって……」
自分に言い聞かせるように、喋っているヒカル。
ぐすんと、鼻を鳴らす音がする。
「だけど……だけどね。本当は、あたしも、寂しくて……! ミコトお姉ちゃんも、ツキちゃんもいなくなっちゃって……! あたし、あたし……!」
ヒカルの声が震える。
扉越しにも、ヒカルが泣いているのが分かった。
私は、動けずにいる。
「ごめんね、勝手に来ちゃったのに……」
鼻をすする音。
ヒカルが深く、息を吐いた。
「ミコトお姉ちゃんも、辛いのに。あたしだけが甘えたりする訳には、いかないもんね……」
どこか寂しそうに、そう話すヒカル。
一瞬の間の後、ヒカルの言葉が続いた。
「ねぇ、ミコトお姉ちゃん! あたし、ずっと待ってるから! だからまた今度、一緒にヴァンガードやろうね! 約束だよ!」
以前と同じような、明るい声。
私の返事を期待するかのような間。
沈黙が流れる。
「……それじゃ、ミコトお姉ちゃん、またね!」
悲しそうに、そう呼びかけるヒカル。
再び、鼻をすする音が響く。
足音と共に、ヒカルが去って行った。
「……ヒカル」
ベッドの上で呟く。
後悔の念が渦巻いて、胸を締め付けた。
「ごめん、ヒカル……! あたし……!」
じわりと、視界が滲んでかすれた。
涙が零れ落ちる。再び、目の前が白く染まった。
記憶の海が視界に広がって──
「うぅっ……!!」
再現された記憶の中、私は苦しみの声をあげた。
「ねぇ、ミコト」
透き通るような、ツキちゃんの声。
満月の空。カーテンの揺れる音。
「お願いがあるの」
テーブルの前、微笑んでいるツキちゃん。
永遠に続く夜が、私の頭の中で再現される。
時が過ぎて──
気が付くと、目の前に現実世界が広がっていた。
どれくらい経ったのか、時間の感覚がない。
「……ヒカル」
先程のヒカルの言葉を、思い出す。
よろよろと、ベッドから降りて立ち上がった。
部屋の中を歩いて──
テーブルの前に、私は座り込んだ。
目の前に置かれた、2つのデッキケース。
赤い色のものと、白い色のもの。
おそるおそる、手を伸ばす。
「……ツキちゃん」
白い色のデッキケースから、
カードを取り出して手の中で広げた。
夢幻蝶姫 セレネシス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。
― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。
ツキちゃんの仲間。遺されたカード。
輝きを失ったそれらは、静かに沈黙している。
あの日の記憶が、白く脳裏に蘇り始めて──
「っ!!」
思わず、カードを素早くケースへとしまった。
乱れる呼吸。胸が苦しくなる。
「ツキちゃん、あたし、あたし……!」
視界に白い線が入り乱れた。
倒れそうになって、私は机を腕で掴む。
机が揺れて、赤いデッキケースが倒れた。
「……あっ!」
声をあげる私。
ばさりと、ケースの中のカードが飛び出た。
1枚のカードが、目の前に落ちて──
「ひっ!!」
私の口から、小さな悲鳴が上がった。
目の前のカードを、怯えながら見る。
剣■■■ グ■ム■■イ■
ノー■■■■ッ■ 〈■〉
(ツ■ン■■■■■■) (■■■ライ■)
ケ■■■■クチ■アリ - コ■■ドラゴン
パ■■■■■■■ / シ■■ド■■ / ■■
【■】【(V)】:■■■のペ■■■■イドは■■の■■ッ■の■■■も増■さ■■。
【起】【(■)】【タ■■■回】:【コ■■】[【カ■■ター■■ス■】(■), 【■■ル■■スト】(■)]■■■とで、■■■き、■■■の■■か■■枚選■、中■■■の(R)■■■ルし、その■■■■■■のユ■■■は■■か■■■ア■■■でき、■■ー+■■■0■。
【■】【(■)】:■■■の中■■■の■■ガー■■■タック■■■■■終了■、■■ユ■■■を■■■に■き、■■■■。
― ■■■り来■■、■■■。■■■■・■■■壊■
「な、なに、これ……!!」
恐怖に慄く。
黒いもやのような物が、憑りつくかのように
カードの表面を覆っていた。
「あ、あたし、あたし……!!」
ガタガタと身体が震え、寒気を感じた。
全てのカードに、黒いもやは憑りついている。
黒いもやが、煙のように吹きあがる。
「あっ、あぁぁあぁ……!!」
恐怖の声が、私の口から漏れる。
黒いもやが手の形になった。
「嫌っ、嫌っ、嫌ぁ!!」
涙を流して、後ずさる私。
黒い手がさらに大きくなって、迫る。
目をつぶって──
「ツキちゃん、助けてッ!!」
思わず、そう叫んだ。
一瞬、柔らかな風が目の前を吹き抜ける。
沈黙が流れ、何も起こらなかった。
「……?」
おそるおそる、目を開ける。
目の前に迫っていた黒い手は、どこにもない。
だが──
「ッ!!」
目の前のカードを見て、私は口元を抑えた。
カードの表面、黒いもやが残ったままでいる。
急いで、カードをデッキケースへと仕舞った。
「うっ、うぅっ……!!」
恐怖でえずいている私。
白いデッキケースのカードを、再び取り出す。
黒いもやは、そこにはない。
「あたし、あたしのカードだけ……!!」
赤い色のデッキケースを見ながら、呟く私。
これもまた、白い空間と同じように、
私の頭が創り出した幻なのか。結論は出ない。
「あたし、どうしたら……!!」
心の底から、助けを求めている私。
だが助けてくれる人は、誰もいない。
赤い色のデッキケースが、黒いもやに包まれる。
「うっ、あぁっ、ああぁあぁ……!!」
再び、恐怖が心の中から湧き上がってくる。
罪悪感。白い空間。黒いもや。
何もかもが、限界だった。
無我夢中に、赤いデッキケースを掴む。
近くにあった上着を手に取って──
気が付くと、私は家を飛び出していた。
黄昏の空。夕暮れと夜の、狭間の時間。
薄暗くなっている街の中を、私は駆けていく。
「うっ……うぅっ……!」
涙をぬぐいながら、ひたすらに走る。
目的地はない。ただ、ふさわしい場所を探す。
夜の街の光景が、視界の端を流れていった。
そして──
「はぁ、はぁ……!!」
膝に手をついて、私はその場で立ち止まった。
苦しい呼吸。よろよろと、身体がふらつく。
そこは、河の間に架けられた橋の上の道だった。
「……ここ、なら」
息を切らしながら、呟く私。
柵から身を乗り出して、下を見る。
暗い川の水が、そこには広がっている。
「…………」
闇を映したような、冷たい色。
まるで大きく口を開けているかのように、
水は静かに佇み、何かを待っている。
「…………」
持っていた赤い色のデッキケースを、開ける。
漏れ出る黒いもや。私の手に、纏わりつく。
ぎゅっと、デッキを掴んだ。
「……ッ!」
黒いもやにつつまれたカード達を見る。
今までの思い出が、頭の中に浮かんでいった。
3人で過ごした時間。笑い声。煌めく光景。
それはかけがえのない、大切なもの。
私と、ヒカルと、ツキちゃんの、皆の記憶。
涙が頬を伝って──
「ごめんなさい……」
小さく、私は呟いた。
顔を伏せて、手を伸ばす。
掴んでいたデッキを、離した。
ふわりとカードが広がって、下に落ちていく。
水の中に、私のカードが飲み込まれていった。
「うっ、うぅっ……!!」
赤いデッキケースが道路に落ちる。
柵に掴まりながら、私は嗚咽を漏らした。
後悔の念に苛まれている私に向かって──
「……ミコトお姉ちゃん?」
後ろから、声がした。
ハッとなって、振り返る私。
ヒカルが、困惑した表情を浮かべていた。
「なん、で……?」
かすれた声で、訊ねる私。
ヒカルの目が潤んだ。
「あ、あたし、やっぱりミコトお姉ちゃんに会いたくて……! それで、お家に戻ったら、ミコトお姉ちゃんが出ていくのが見えて、それで……!」
たどたどしく、説明しているヒカル。
その目が、真っすぐ私に向けられる。
「ミコトお姉ちゃん、どうして……!」
困惑しきった声のヒカル。
やがて、その表情に怒りが浮かんで──
「──どうして、そんな酷いことするのっ!?」
ヒカルが、大きく叫んだ。
涙を浮かべているヒカル。私の方に詰め寄る。
「ヴァンガードは、あたし達の……ツキちゃんとの、大切な思い出なのに!! なのにどうして!! どうして捨てたりなんてするの!?」
今までにない程の剣幕。
私は何とかして、口を開く。
「ヒカル、待って。あ、あたしは……!」
説明しようとする私。
だが私の声は小さく、その言葉は届かない。
ヒカルが近づく。
「あたしとも……あたしとも、約束したのに!! また一緒にやるって、約束したのに!!」
泣きながら、大きく声を荒げているヒカル。
キッと、鋭い目を私に向ける。
「ミコトお姉ちゃん、あたしの事、そんなに嫌いになっちゃったの!? あたしとツキちゃんの事、捨てたくなっちゃったの!?」
「ち、違う。違うよ、ヒカル……!」
自分でも情けないほど、小さな声。
ヒカルには届かず、周りの雑音にかき消される。
ヒカルが、さらに近寄って──
「答えてよッ!! ミコトお姉ちゃんッ!!」
その手が、私の身体を突き飛ばした。
周りの景色がスローモーションのように流れる。
ヒカルに悪意がなかったのは、分かっていた。
ただ怒りにかられて、少し感情的になっただけ。
それほど強い力で押された訳でもなかった。
だけど、私はその時、もはや限界だった。
何日もまともに眠れていなくて、
食事もできてなかった。頭の中はぐちゃぐちゃで
今にも壊れてしまいそうだった。
だからこそ、私はまともに倒れこんで──
鈍くて嫌な音が、私の中で響いた。
「っ!!」
目の中で火花が散って、視界が一瞬暗くなる。
きーんという耳鳴り。意識がわずかに遠のいた。
黄昏の空が目に映って──
気が付くと、私は数人の人に囲まれていた。
「おい! 大丈夫か!?」
「誰か、救急車呼んで!!」
慌ただしい声。騒がしい雰囲気。
右腕から広がる鈍い痛みに、私は顔をしかめた。
「おい、君、なにやってるんだ!」
問い詰めるような声が響く。
途切れそうな意識の中、顔をあげた。
ヒカルが、怯えたような表情を浮かべていた。
「ち、違くて……! あ、あたし、そんな、そんなつもりじゃ、なくて……!」
真っ青になっているヒカル。
涙を流し、絶望したように顔に手を当てている。
私とヒカルの目が合った。
「……ヒカル」
ぼそりと、呟く私。
「大丈夫だよ」と言いたかったが、声が出ない。
ぶるぶると、ヒカルの身体が震えて──
「う、うわあああああああん!!」
ヒカルが、大きく叫んだ。
泣きじゃくりながら、ヒカルが駆けだす。
「お、おい! 待ちなさい!」
「逃げたぞ!」
周りから上がる声。
私もまた、左手を伸ばす。
「ヒカル、待って。ヒカル……!」
ぼそぼそと呟く私。
鈍い痛みが、右腕からじわじわと広がる。
くらくらとする頭。意識が途切れて──
目の前が、真っ暗になった。
気が付くと、私は病院のベッドにいた。
骨折の他に、栄養状態も悪かった。
白衣を着たお医者さんが、そう説明してくれた。
「一人で遊んでいて、転んだの」
骨を折った時の事を聞かれて、私はそう答えた。
病院の人。ママとパパ。そして警察。
誰にも、ヒカルの事は話さなかった。
「……ヒカル」
病室のベッドの上、呟く私。
何度も連絡を取ろうとするが、返信はない。
きっと、ヒカルは私に怒っているんだ。
『どうして、そんな酷い事するのっ!?』
あの時の言葉が思い返される。
涙の浮かんだ目に、怒りの表情。それも当然だ。
だって私は、ヒカルを傷つけたから。
ヒカルも、ツキちゃんも、大切な思い出も。
全て何もかも、私は踏みにじった。私のせいで。
目を閉じると、白い空間が広がった。
「やぁ、カワイイ後輩!」
明るい声で、手を振っているツキちゃん。
後ろからヒカルの姿が現れる。
「あっ、ミコトお姉ちゃん!」
楽しそうな声をあげているヒカル。
にっこりと、2人が微笑みかけてくる。
視界の端から、黒い色が広がって──
「ねぇ、ミコト。お願いがあるの」
あの日の夜の光景が、浮かび上がった。
黒いテーブル。満月の光。白いカーテン。
全てが再現された、永遠の夜。
「……分かってる」
記憶の中で、私は答えた。
いつのまにか、手にはデッキが握られている。
黒いもやがかかった、捨てられたカード達が。
「じゃあ、はじめようか」
ツキちゃんの声。私は頷く。
指を伸ばして、カードに触れた。
これはきっと、罰なんだ。
神様が私に与えた、贖罪の空間。
この中で私は、自分の罪と向き合い続ける。
いつまでも、いつまでも。私が死ぬまで。
「スタンドアップ・ヴァンガード」
私達の声と共に、カードがめくられた。
黒いもやが、2枚のカードの上を漂っている。
サ■■ッ■・エ■■
ノー■■■ニッ■ 〈0〉 (■■■ト)
スト■■■ア - ■ン■■ト
パ■■■00■ / シ■■ド■■00 / ☆■
【■】:■のユ■■■が■■ド■■■時、■■■が■■なら、■■■■。
― 人■■■眠■、■■■遺■子■■■■■。
■■■騎■ ベ■■
■■■ル■■ット 〈■〉 (ブ■■■)
■■■サン■チ■■■ - エ■■ェ■
■■■6■■0 / シ■■■■■00 / ■■
【自】:こ■■■ッ■■■■■■れ■■、あ■■■■■■ら、■■■く。
― ■■■民■■■■選■■■■で■■■■■て■■。
「私のターン」
微笑んでいるツキちゃん。
あの日の戦いが、何度も繰り返されていく。
桜の花びらが散って──
私は1人、中学校への道を歩いていた。
学校指定のブレザー。右腕を吊っている私。
同じ制服の女子が、ひそひそと話し出す。
「見て、やっぱり噂って本当だったんだ」
「あの、歩いてたら、いきなり暴力事件に巻き込まれたってやつ?」
「そうそう。それで入院してて、卒業式にも出られなかったんだよ」
「やだ、カワイソー」
同情の目が、私へと向けられる。
私は何も言わず、彼女たちの横を通り過ぎた。
もう誰とも、関わりたくなかった。
月日が流れていく。
染めていた髪の色は抜けて、黒に戻った。
短くしていた髪は切らなくなり、伸びていった。
「悪いけど、そういうの、好きじゃないから」
遊びに誘われても、全て断った。
最初は優しかった周りも、やがて離れて行った。
私は、一人ぼっちだった。
「なぁ、ヴァンガードやろうぜ!」
教室の中央で、
クラスメイト達が楽しそうに話していた。
騒がしい集団。一人が私に気付いた。
「氷川さんもどう? 一緒にやらない?」
気さくな声。明るい笑顔。
一瞬、ヒカルの顔が頭に浮かんだ。
椅子から立ち上がって──
「私、ヴァンガードはもうやめたの」
そう、冷たく言い放った。
教室から出ていく私。後ろから声が響く。
「なんだよ、お高くとまっちゃって」
「ほっときなよ。あの子、誰にでもああだし」
笑い声があがる。
私は無言で、廊下を歩いていく。
「……ツキちゃん」
階段に座りながら、私は呟く。
白いデッキケース。私にとっての、お守り。
膝に顔をうずめて──
「もう一度、会いたいよ。ヒカル……!」
夕暮れの校舎、
誰もいない空間に、私の声が響いた。
ぽたぽたと、涙がこぼれる。
そして、さらに月日が流れて──
「おはよう、氷川さん!」
私は、高校へと進学していた。
椅子に座りながら、頭を下げる。
「日枝さん、おはようございます」
冷たく挨拶する私。
それ以上は何も言わず、私は窓の外を眺める。
あの日以来、ヒカルとは一度も会えていない。
白い空間に現れるのは、過去のヒカル。
私を慕う、可愛らしい少女の時の姿だけだ。
だけどその姿も、長年の時で薄れてきている。
「……ヒカル」
会いたい気持ちに変わりはない。
だけど、私にはもう、会う資格はない。
だから──
夜の時間。自分の部屋の中。
ベッドの中で、私は静かに目を閉じた。
目の前に、白い空間が広がる。
「おかえり、ミコトお姉ちゃん!」
黒い髪の少女が、笑顔を浮かべた。
口から上、白いもやで隠れた顔。
少女が両手をあげて──
「じゃあ、また遊ぼう! いつもみたいに!」
明るい声で、少女がそう言った。
私は黙ったまま、こくりと頷く。
「やったー! ミコトお姉ちゃん、大好き!」
嬉しそうに喜ぶ少女。
無邪気な笑い声が、白い空間に響く。
終わらない夜に背を向けて──
私は、思い出の中に逃げ続けていた。
「ツキちゃん、ヒカル……」
白い空間の中、声をあげる私。
涙を流しながら──
「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
謝罪の言葉を、呟いた。
両手で顔を覆う。静かに泣き崩れる私。
ただひたすら、贖罪の日々が続く。
高校にあがっても、それは変わらない。
誰とも関わらず、続けるだけ。そう思っていた。
あの日、教室であの言葉を聞くまでは。
「──ルーンシャトー」
お昼休みの教室。
唐突に、その名前が響いた。
私の心臓が、どくんと脈打つ。
「なんだか、怪しい話しぞよ」
話し込んでいる3人の女子生徒。
あれこれと、楽しそうにお喋りしている。
関わる気はない。そう決めていた。だが──
「……ヒカル」
ぼそりと、私は呟く。
ルーンシャトーの事を調べられたら、
再びヒカルが傷つくのではないか。
それだけが、私には心配だった。
「この辺りはカードショップも多いのよね」
きゃぴきゃぴと話している女子生徒。
しばし考えた後、私はため息をつく。
いずれにせよ、下手な事はして欲しくない。
席から立ち上がり、つかつかと歩く。
浮かれた様子の女子生徒に向かって──
「日枝さん」
私は、冷たい声で話しかけた……。
本日の《俺のカードを見ろ!》は、
都合により休止となります。
つづく?