カードファイト!! ヴァンガード LunaLight 作:バビロン@VG
空は曇り、大粒の雨が降り注いでいた。
天が泣いているかのような、激しい雨。
風に吹かれて、ガタガタと窓枠が揺れる。
ヒカルと再会してから、3日が過ぎた。
薄暗い室内。時計の針の音が響く。
暗く沈んだ空気が、部屋の中を満たしていた。
ベッドの上にうずくまって──
「うっ……うぅっ……!!」
私の口から、嗚咽が漏れた。
ぽたぽたと涙がこぼれて、落ちる。
暗闇の中、公園での記憶が蘇った。
『あんたとはもう会いたくないって思ってた』
金色の髪をなびかせて、喋るヒカル。
青い瞳が私に向けられる。
『あんたさ、なに考えてんの?』
冷たい声。軽蔑したような眼差し。
その顔が怒りの色に染まる。
『なんとか言えよッ!!』
大きく叫んでいるヒカル。
そこから先の言葉は、あまり覚えていない。
「ヒカル……!!」
口元を押さえながら、呟く私。
3年ぶりの再会。待ち望んでいた時間。
だけどそれは、想像していた形とは全く違った。
「あたし、あたしは……!!」
両手を広げている私。
ぶるぶると、震えている指を見る。
私はまた、ヒカルを傷つけた。
3年前の、あの時と同じように。
ヒカルの心を傷つけて、踏みにじった。
「ごめん、ごめんね、ヒカル……!!」
うずくまりながら、謝罪の言葉を口にする。
息が乱れる。目をつぶると、涙がこぼれた。
目の前に、白い空間が広がる。
真っ白な世界。記憶の海。
黒い線で出来たテーブルの向かいに──
「…………」
金色の髪の少女──ヒカルが立っていた。
過去のものとは違う、現代の姿。
冷たい目が向けられて──
『もう、いいよ』
諦めたように、ヒカルがそう口にした。
くるりと、私に背を向ける。
『じゃあね。もう会うことはないけど』
去っていくヒカル。
私はその場で、右手を伸ばす。
「待って!! ヒカル!!」
白い空間に、その声はむなしく響いた。
絶望している私の目の前に──
黒い色が、視界いっぱいに広がった。
空に浮かぶ満月。薄暗い部屋。
月の光が、私達の姿を照らしている。
「……うぅっ」
何百回と見た光景。永遠の夜。
苦しみの声を、私はあげる。
白い指がカードを掴んで──
「ダメージチェック。ノートリガー」
暗闇の中に、ツキちゃんの声が響いた。
夢■■■ セ■■■ス
ノ■■■■■■ト 〈■〉
(■■■ド■イ■■■) (■■ソナ■■ド)
ス■■■イ■ - ■■■クト
■■■■■■00 / ■■■ド■■ / ■■
【■】:■■■ニ■■が(■)に登■■■時、■■■のシ■■ウ■■■■ら【■タ■■■ォシ■】能■■■■カー■■■枚■■選■、■■■る。
【■】【(■)】【タ■■■回】:【■■■】[【ソ■■■ラ■■】(■)]す■■と■、【■■モル■ォ■■】■■を■■■アガ■■を■■選■、■■■ー■■、■■■ニッ■■選■■た■■■が持■能■■■べ■得■■
― 影■■■紡■■き■君。■■■■導■■、二■■■■■■れ替■■■
黒く塗りつぶされたカード。
もやがかかり、その姿は歪んで見える。
「……やっぱり、勝てなかったね」
悲しげな声が響く。
沈んだ表情。諦めたような目。
ツキちゃんが、顔を伏せる。
「……ツキちゃん」
向かい合っている私。
手札を片手に、その姿を見つめる。
ツキちゃんの姿が揺らいで──
「また、勝っちゃったの?」
私の前に、一人の少女の姿が現れた。
背の低い少女。耳にかかる程度の、茶色の髪。
光のない、濁った目が私に向けられて──
「あなたさ、酷いと思わないわけ?」
冷たい声が、その口から発せられた。
ぎろりと、私を睨みつけている茶髪の少女。
──3年前の、私自身の姿。
過去の私が、口を開く。
「ツキちゃんは死にかけてて、もうどうしようもないくらい弱ってたのに。なのにあなたは、容赦なくツキちゃんを叩きのめした」
吐き捨てるような言葉。
苦々しい表情で、私の事を見据える。
「ツキちゃんは、完璧な存在だったのに。あなたがそれを壊した。完璧だったツキちゃんを、傷つけた」
淡々とした口調。
黒い目を向けて──
「全部、お前のせいだ」
過去の私の口から、低い声が漏れた。
殺気に満ちた声。憎悪の眼差し。
頭を抱える。
「……やめて!」
か細い声が響く。
凍えるような寒さで、身体が震えた。
過去の私が、指を伸ばす。
「皆から愛されていたツキちゃんを、お前が壊した。そうやって、ツキちゃんを追い詰めた」
糾弾するような声。
夜の暗闇の中に、言葉が響く。
白いカーテンがばさばさと揺れて──
「お前が自分本位に勝ちを奪ったから!! だからツキちゃんは悲しんで、全部手放したんだ!! ツキちゃんが死んだのは、お前のせいだ!!」
叫ぶような声が、その場の空気を震わせた。
「違う!! お願い、やめて!!」
頭を抱えながら、私は悲鳴のような声をあげた。
ぎゅっとつぶった目から、涙が溢れてこぼれる。
ぐらぐらと、夜の世界が崩れていく。
「そうやって逃げるの!! またこれを繰り返して、ツキちゃんに勝って、皆を傷つけて悲しませるの!!」
崩れていく世界に、過去の私の声が響き渡る。
白い色が徐々に広がっていった。
黒い色が消える直前──
「お前が、死ねばよかったのに」
はっきりと、過去の私が言うのが聞こえた。
どす黒い言葉。心の底からの、想い。
目の前に、白い空間が広がった。
「あぁぁあぁああ……!!」
その場に崩れ落ちる。
両の目から落ちる涙。慟哭の声。
「ごめん、ごめんね、ツキちゃん……!!」
謝罪の言葉が、虚しく響いた。
いくら謝った所で、私が赦される事はない。
だってツキちゃんは、もう死んでるから。
「あたし、あたしは……!!」
その場で泣きじゃくっている私。
白い空間の中、罪悪感に押し潰される。
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
ただひたすらに、謝り続ける私。
もはやそれ以外に、私にできることはない。
一人ぼっちの空間に、私の声だけが響いていた。
教室の中は、騒々しい空気に包まれていた。
大雨の外とは対照的な、活気のある雰囲気。
生徒達はそれぞれ、机の上に昼食を広げている。
箸を片手に──
「……氷川さん」
ぽつりと、マドカが呟いた。
後ろにある、ミコトの席へと視線を向ける。
机の上には、何もない。
「もうこれで4日目かぁ」
頬に手をあてているユウコ。
持っていたサンドイッチを、一口かじる。
「ミコちゃん、そんなに体調悪いのかな……」
目を伏せがちに話すトモエ。
憂うように、ため息をつく。
「それとも、やっぱり月曜日の公園で、何かあったのかな……」
「あー、例の暴力事件起こした不良」
思い出したかのように言うユウコ。
わずかに、その表情が曇る。
「そうだね。やっぱ、あたし達も付いていけば良かったのかな。何か酷い目にあってなきゃいいんだけど……」
心配そうなユウコ。
マドカが一瞬、ぴたりと動きを止める。
「……そうだね」
小さく頷くマドカ。
あの日の出来事を思い返す。
金髪の少女。黒い学ランの集団。
ルーンシャトーの真実に、激しい戦い。
そして泣きじゃくる、ミコトの姿。
『待って! ヒカル!』
悲愴な顔。涙の浮かんだ目。
今までにないほどに、傷ついた姿。
(氷川さん……)
箸を置くマドカ。
スマートフォンを取り出すと、画面を見る。
ピアノ雑誌の記事が、そこには表示されていた。
『武蔵国出身の天才ピアニスト 御導ツキ』
大きなトロフィーを抱いて、
ピースサインをしている黒髪の少女。
輝くような笑顔。白黒の写真。
(この人が、氷川さん達が言ってた、『ツキちゃん』って人なのかな……)
写真を見ながら、考えているマドカ。
記事の最後の文字を見て、マドカの心が沈んだ。
──享年、14歳。
「心配だな、氷川さん……」
小さい声で話すマドカ。
ユウコが手を振った。
「まぁ、でもさ。平気じゃない?」
明るい声を出すユウコ。
「え?」と首をかしげるマドカに向かって話す。
「ほら、氷川さんってなんか、動揺しないっていうか。いつも冷静で超人然としてるじゃん。だからさ、きっと平気だよ!」
元気づけるように言うユウコ。
マドカが悩むように渋い表情を浮かべた。
「ま、まぁ、そうだけど……」
普段のミコトの姿を、マドカが思い出した。
強く、凛として、冷たい雰囲気のミコト。
誰の助けも必要としない、孤高の強さ。
それを体現しているかのような姿が頭に浮かぶ。
だが──
「……本当に、平気かな」
小さな声で、マドカが呟いた。
目線を伏せて、黙り込む。
(確かに、ユウコの言っていることも正しい。だけど、あの公園の様子だと……)
先日のミコトの姿を思い返しているマドカ。
わずかな沈黙が、3人の間に流れる。
トモエが首を振った。
「……2人とも、勘違いしてるよ」
ぽつりと言うトモエ。
2人の視線が向く。
「ていうか、皆勘違いしてる。確かにミコちゃん、凛としてて、美人で勉強も運動もできるから、皆からは凄い人だって思われてる。他の人と関わらないから、冷たい人だとも」
目を閉じているトモエ。
静かな口調で続ける。
「でも、実際はすごく優しくて、温かい人だよ。この前だって、私が頼んだらマドちゃんの事を助けてくれたもん」
「……トモエ」
ぼそりと言うマドカ。
先週の放課後の出来事を、マドカが思い出した。
トモエがわずかに微笑む。
「それに、たまに教科書とか忘れてると、ちょっぴり気まずそうに目を伏せてるし。お弁当食べてる時は、いっつも好きな卵焼きを最後に残して食べてるし」
「……そんなところまで見てるの?」
若干引き気味なユウコ。
トモエが得意そうに胸を張った。
「これは名探偵の性なのだよ、ユウちゃん」
断言するトモエ。
コホンと咳払いし、2人に向き直る。
「つまりね、私が言いたいのは」
言い聞かせるような口調。
トモエが2人を見ながら──
「ミコちゃん、私達と変わらない、普通の女の子だよ。超人とか、そんなのじゃないよ」
そう、結論を出した。
3人の間で、会話が途切れる。
がやがやという、周りの音だけが流れた。
「……言われてみれば、そうかもね」
わずかに息を吐くユウコ。
反省したような表情が浮かぶ。
「あたし、氷川さんの事全然知らないから、勝手なこと言ってた。今度、ちょっと話しかけてみようかな……」
小さい声のユウコ。
トモエがにっこりと笑った。
「そうしなよ。ミコちゃん、あれでけっこう、面白い所もあるから!」
楽しそうに話している2人。
マドカが顔を伏せる。
(普通の女の子、か……)
トモエの言葉をくりかえすマドカ。
公園での出来事を、再び思い返す。
今、私ができることは──
考えを巡らせているマドカ。
やがて、決意に満ちた表情が浮かぶ。
「ねぇ、トモエ!」
声をあげるマドカ。
きょとんとしているトモエに向かって──
「ちょっと、調べて欲しい事があるんだけど!」
マドカが、はっきりとそう言った。
いつのまにか、私は眠っていたようだった。
薄暗い部屋の中で、目を覚ます私。
ぼんやりとしながら、窓の外を見る。
雨はやみ、夕暮れの空が広がっていた。
「……ヒカル」
眠りの直前に見ていた夢を思い出す。
ヒカルの姿。過去の自分自身。ツキとの夜。
自分の手を見ながら──
「……あたし、どうしたらいいのかな」
ぽつりと、私は呟いた。
一人ぼっちの部屋に響く言葉。
もう、なにをすればいいか、分からない。
「ねぇ、教えてよ。ツキちゃん……」
顔を伏せる。
ぽたぽたと、再び涙がこぼれた。
目の前に白い色が広がりかけた瞬間──
コンコンという、扉を叩く音が響いた。
ハッとなって、顔をあげる。扉に駆け寄った。
3年前のあの日を思い出しながら──
「ヒカル!?」
勢いよく、私は扉を開けた。
あの日の過ちを正したい。その一心の想い。
必死になっている私の姿を見て、
「……あっ」
日枝さんが、驚いたように声をあげた。
目を丸くしている日枝さん。私もまた、驚く。
夕焼けが、私達2人の姿を照らした。
「……日枝さん?」
少しの間の後、訊ねる私。
日枝さんが、困ったように頬をかいた。
「あ、あの、氷川さん。なんていうか、急に来ちゃってごめんね……」
どこか気まずそうに話す日枝さん。
その手にはビニール袋が握られている。
「その、もう4日も学校休んでるから、心配で。それでさ、私、お見舞いにきたんだけど……」
「……私の家、どうやって調べたの?」
目を細め、私はそう訊ねる。
日枝さんが頷いた。
「トモエに調べてもらったの」
「……三芳野さんに?」
怪訝そうな表情になる私。
日枝さんが、肩をすくめる。
「どうやったかは、私も分からないんだけどね」
苦笑いを浮かべている日枝さん。
後ろに視線を向けるが、他には誰もいない。
私の視線に気づいた日枝さんが、両手を振った。
「あ、今日はユウコとトモエは来てないよ! 私一人だけ!」
慌てたように答える日枝さん。
どこかぎこちない笑みを浮かべる。
「ほら、急に3人で来ちゃうのもびっくりしちゃうかなって。トモエは、最後まで行きたがってたけどね」
「……そう」
とりあえず、事情を把握する私。
日枝さんが緊張したように、私の言葉を待つ。
少し悩んだ後──
「……いいわ、入って」
大きく、私は扉を開けた。
少しだけ驚いた反応をする日枝さん。
だがすぐに、部屋の中へと入ってくる。
「……お邪魔します」
丁寧に言い、頭を下げる日枝さん。
私は部屋の中を進むと、ベッドに腰掛ける。
きょろきょろと、日枝さんが部屋を見回した。
「……別に、何もないわよ」
日枝さんに向かって言う私。
彼女の口元に、不意に微笑みが浮かんだ。
「……ふふっ」
面白そうに笑う日枝さん。
私が「なに?」と訊ねると、答える。
「あ、ごめん。なんていうか、やっぱり普通の部屋なんだなって思って……」
「……普通じゃない部屋があるの?」
言っている意味が分からず、聞き返す。
日枝さんが明るく手を振った。
「ううん! こっちの話し!」
なにやら、納得した様子の日枝さん。
理解できないが、これ以上詮索する気もない。
日枝さんが持っていたビニール袋を置いた。
「あのさ、その……」
おもむろに口を開く日枝さん。
顔を伏せがちに話す。
「氷川さん、あらためてなんだけど、色々助けてくれてありがとう。私、本当に感謝してるの」
「……別に、気にしなくていいわ」
視線をそらし、ぼそりと答える私。
昔、誰かにも、こんな風に答えた気がする。
日枝さんが微笑んだ。
「あのね、私決めたの!」
唐突に、張り上げた声を出す日枝さん。
明るい雰囲気のまま、ぐっと両拳を握り固める。
私の事を真っすぐ見ながら──
「私、ルーンシャトーの事調べるの、やめる!」
日枝さんが、はっきりとした口調でそう言った。
思わぬ言葉に、私は驚く。
「……え?」
突然の宣言。困惑する私。
日枝さんが、顔を天井の方へと向けた。
「私なりに色々と調べてみて、思ったの。世の中には解明しない方がいい謎もあるって。きっとそれは、誰かにとって大切な思い出だったり、触れられたくない過去だったりするから」
晴れ晴れとした口調の日枝さん。
私は黙って、その言葉を聞いている。
ニッと、日枝さんが笑った。
「だから、ルーンシャトーの事を調べるのはこれでおしまい! ロマンはロマンとして、綺麗に終わらせることにしたの!」
「……あなた、チャンネルはいいの?」
訊ねる私。
日枝さんが一瞬驚いた後、手を振る。
「あはは、平気だよ! それにほら、私ってこれでも天才配信者だから! また次の不思議を見つけるよ!」
得意そうに話している日枝さん。
前を向いている姿が、私には眩しく映る。
「……そう」
何と答えていいか分からず、私は小さく言った。
視線をそらし、床の方を見ている私。
時計の針の音が、響く。
「ねぇねぇ、氷川さん、聞いてよ! あのね、トモエったらね、酷いんだよ!」
笑顔を浮かべながら、日枝さんが話し始めた。
日常の出来事。他愛のない話が続く。
3人で遊んでいた頃の事が、思い起こされた。
「……そうなの」
相槌をうっている私。
昔の事を思い出し、少しだけ心が安らぐ。
きっと日枝さんは、私を励ましているのだろう。
彼女の事だから、ツキちゃんの事も調べたに
違いない。その上で、調査をやめることにした。
──多分、私のために。
「……ありがとう」
ぼそりと、とても小さな声で言う私。
日枝さんが笑顔のまま、首をかしげる。
「え? 何か言った?」
「……別に」
顔をそらす。
日枝さんが不思議そうに私の事を見た。
他愛のない話が続いた。
「……あっ、ごめん! こんな時間だ!」
時計を見て、驚く日枝さん。
慌てたように立ち上がる。
「そろそろ帰らないと、お邪魔だよね」
鞄を持つ日枝さん。
私の事を真っすぐに見つめる。
「それじゃ、私帰るから! 氷川さん、あんまり無理しないでね! 何か困ったことあったら、私とユウコとトモエが力になるから!」
日枝さんがにっこりと、微笑んだ。
「わかったわ」とだけ、私は答える。
明るい表情のまま、日枝さんが手を振った。
「じゃあ、またね! 氷川さん!」
弾むような声で言う日枝さん。
そのまま、部屋から出ようとする。
「日枝さん、忘れ物よ」
日枝さんの背に向けて、声をかける私。
ぴたりと、日枝さんが止まって振り返った。
「えっ?」
「そこのビニール袋」
床の上に置きっぱなしの袋を指差す私。
日枝さんが目を見開いた。
「あっ、ごめん、忘れてた!」
口に手をあて、大きく言う日枝さん。
不思議そうな私の前で、袋を手に取る。
「お見舞いの品、持ってきてたんだった。私ったらすっかり忘れちゃってた」
「……別に、気を遣わなくていいのに」
顔を伏せながら暗い声を出す私。
日枝さんが首を振った。
「そんなことないよ! それにね、たまたま見つけたんだけど、凄い偶然なんだよ! まさに奇跡ってやつだと思う!」
興奮したような口調の日枝さん。
訳が分からず、私は首をかしげる。
袋の中から──
「ほら、見てこれ!」
日枝さんが、一本の瓶を取り出した。
高級な雰囲気を漂わせている瓶入りジュース。
ラベルには『Lune Chateau』と書かれている。
「……これって」
目を大きく見開く私。
自分でも、声がかすかに震えているのが分かる。
日枝さんがはしゃぎながら続けた。
「凄いでしょ! これ、ルーンシャトーっていうんだって! 外国の高級なジュースらしいんだけど、こんなことってあるんだね! まさに世界の不思議!」
目をきらきらとさせている日枝さん。
私はじっと、瓶を見つめている。
『この日の事、忘れたくないから』
あの日のヒカルの言葉が、蘇った。
目を閉じて、私は頷く。
「……そうね」
ぽつりと、答える私。
瓶入りのジュースを受け取る。
「……ありがとう、日枝さん。とても嬉しいわ」
感謝の言葉を述べる。
日枝さんが照れたように頬をかいた。
「えへへ、どういたしまして」
笑顔を浮かべている日枝さん。
私は無表情のまま、その姿を見ている。
日枝さんがドアノブに手をかけた。
「それじゃ、氷川さん! またね!」
明るく言って、手を振る日枝さん。
視線を伏せがちに、私は片手をあげた。
「……えぇ」
小さな声による返答。
日枝さんが満足そうに笑った。
ドアの閉まる音。日枝さんの姿が消える。
「…………」
部屋の中、一人立ち尽くしている私。
その手に持った瓶ジュースを、見つめる。
「……ルーンシャトー」
大切な、思い出の中の言葉。
たくさんの想いが、胸の中に溢れていく。
ふっと、私は目を閉じて──
「……眠らないと」
一人、そう呟いた。
テーブルの上にジュースの瓶を置く。
白いデッキケースとジュースの瓶が、隣り合う。
「……ツキちゃん」
綺麗な思い出を頭に浮かべながら、呟く。
電気を消すと、私はベッドの中で横になった。
「……明日は、学校に行かないと」
暗闇の中、呟く私。
ゆっくりと、その目を閉じる。
白い色が目の前に広がって──
「そんなことで、許されると思ったの?」
冷たい言葉が、投げかけられた。
心臓が跳ね、呼吸が乱れる。
過去の私が、恨みのこもった目を向けていた。
「……っ!!」
声を詰まらせる私。
きーんという耳鳴りが現れた。
「そうやってごまかして、誰かに慰められたとしても、あなたの罪は消えないのよ」
心をえぐるように話し続ける過去の私。
蔑んだ目が向けられる。
「……やめて」
白い空間の中、震えている私。
過去の私が息を吐いた。
「めそめそと泣いてれば、許されるとでも思ったの? これは全部、あなたが悪いのに」
吐き捨てるように言う過去の私。
呆れたように、両手を広げる。
「日枝さんだって、三芳野さんや足立さんだって、あなたがやった事を知ったら、きっと幻滅する。そしたらまた、あなたは一人ぼっちに戻る」
「……やめて!」
その場にしゃがみこみ、声をあげる私。
両手で耳を塞ぐ。それでも声は、響き続けた。
「あなたに、優しくされる資格はない」
どす黒い言葉が吐き出される。
光のない目を向けて──
「お前が、赦されることはないんだから」
過去の私の言葉が、はっきりと響いた。
頭を抱え込む。涙が流れた。
「お願いやめて!! 聞きたくない!!」
大声をあげる私。
過去の私が軽蔑したように、その姿を見ている。
白い色が揺らいで──
目の前に、あの日の夜の光景が広がった。
「ねぇ、ミコト」
穏やかな声が響く。
満月の夜。風に揺れる白いカーテン。
ツキちゃんが、にっこりと微笑んでいる。
「……うぅっ」
いつのまにか、テーブルの前に立っている私。
窓に映った自分の姿を見る。
短い茶色の髪。3年前の姿。過去の自分。
「……ツキちゃん」
震える声で、そう呟く私。
目の前に広げられたカードに視線を向ける。
真っ黒なカードの上に指を乗せて──
「じゃあ、はじめようか」
ツキちゃんの声が、その場に響いた。
永遠の夜。幾度なく繰り返された光景。
「……うん」
涙を流しながら、私は頷く。
同じように、目の前のカードに手を伸ばした。
結局、私は罪から逃げることはできないんだ。
いつまでもいつまでも、この夜は続く。
変えられない過去。私の犯した過ち。
私が死ぬまで、これは続く。
月の光が降り注ぐ中に──
「スタンドアップ・ヴァンガード」
私達の声が、静かに響いた。
表になる2枚のカード。漆黒のもや。
「私のターン」
カードを引くツキちゃん。
何百回と繰り返された、全く同じ戦いが続く。
暗闇の中、私の泣く声だけが響いていた。
夜は更けて、空には金色の満月が浮かんでいた。
静まり返った室内。時計の針の音。
月明かりが、部屋の中へと差し込んでいる。
ベッドの中から──
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
うわごとのように、
ミコトの謝罪の言葉が小さく響いていた。
目を閉じ、眠っているミコト。
「ツキちゃん……ごめんね……!」
白い夢の中、うなされているミコト。
その目から涙がこぼれて落ちる。
暗闇に浮かぶ月。柔らかな光が差し込んで──
白いデッキケースと瓶を、月の光が照らした。
もう、どれだけの時間そこにいたのか。
暗闇の中に立っている私。
風が吹いて、私の黒い髪が揺れた。
金色の満月の光が、私の目の前を照らす。
「……ミコト」
黒いテーブルの向かい側で、
私に背を向けている一人の少女の姿。
黒い髪を揺らして──
「じゃあ、はじめようか」
ツキちゃんが、振り返った。
幾度となく聞いた台詞。輝く笑顔。
力なく、私は頷いた。
「……うん」
暗い声で、私は答える。
何百回と繰り返したやり取り。止まった時間。
贖罪の戦いが、再び始まる。
「…………」
無言で、カードを並べる私達。
まるで鏡に映ったように、
月のスリーブに入ったカードが向かい合う。
指を伸ばして──
「いくよ、カワイイ後輩」
ツキちゃんが、楽しそうにそう言った。
私は顔を伏せたまま、指を伸ばす。
白いカーテンが揺れる音と共に──
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
私達の声が、闇の中に響き渡った。
「《サンセット・エッグ》!」
「……《天弓の騎士 ベイス》」
サ■■ッ■・エ■■
ノー■■■ニッ■ 〈0〉 (■■■ト)
スト■■■ア - ■ン■■ト
パ■■■00■ / シ■■ド■■00 / ☆■
【■】:■のユ■■■が■■ド■■■時、■■■が■■なら、■■■■。
― 人■■■眠■、■■■遺■子■■■■■。
■■■騎■ ベ■■
■■■ル■■ット 〈■〉 (ブ■■■)
■■■サン■チ■■■ - エ■■ェ■
■■■6■■0 / シ■■■■■00 / ■■
【自】:こ■■■ッ■■■■■■れ■■、あ■■■■■■ら、■■■く。
― ■■■民■■■■選■■■■で■■■■■て■■。
黒いもやに憑りつかれたカード達。
私の罪悪感を増幅するように、ゆらゆらと動く。
「私のターン」
微笑んでいるツキちゃん。
黒いもやなどないかのように、動く。
「《緑の魔少女 "ダスク"》にライド」
1枚のカードが、テーブルに置かれた。
緑■■■女 "■■■"
■■■ル■■ッ■ 〈■〉 (■■ス■)
■■■ケ■■ - イ■セ■■
パ■■■0■0 / ■■■ド■■0■ / ■■
【■】:■の■■■トが「■■■ッ■・エ■■」か■■■ド■■登■■■時、■■た■■■か■「■■コ■ン」を■■■で■■、■■■て■■に■■、■■を■■■フ■す■。
― ■■■溢■■■女■、■■■"■"の■■で■■し■。
黒い色に塗りつぶされた1枚。
その姿はもやに隠れて、見ることができない。
「スキルで、ルナコクンを手札に」
淡々とした口調のツキちゃん。
山札を広げて、1枚を表にする。
ル■コ■■
ノ■■ル■■ット 〈■〉 (■■ス■)
ス■■ケ■■ - ■ン■■ト
■■ー■■0■ / ■■ル■5■■■ / ■■
【■】【(■)】:こ■■ニ■■の■■■ド+■■■0。
― ■し■の■■あ■■■は■■見え■■
本来なら、金色の繭の妖精が描かれたカード。
だが今はもやに覆われ、姿が隠れている。
「ターンエンド」
カードを手札に加えるツキちゃん。
じっと、私の方を見つめる。
「……私のターン」
顔を伏せながら、私は宣言した。
カードを引き、闇に染まった1枚を選ぶ。
「《天剣の騎士 フォート》にライド……」
ぱさりと、置かれる1枚。
黒いもやが、ゆらゆらと煙のように動く。
■■の■■ ■■■ト
ノー■■ユ■■ト 〈■〉 (■■ス■)
ケ■■■■ク■■■リ - ■■ー■ン
■ワー■■0■ / シ■■■5■■■ / ■■
【■】:■■ユニ■■が「■■■■士 ル■■」■■イド■■■時、【■■ト】[■■か■■■ード■を■■公■■■]■■■、あな■■山■■■から■■■開し、■■が■■■■カー■■ら(■)に■■ル■、■う■ら、■■ッ■■置■。
【■】【(■)】【■■ン1■】:【■■ト】[【■■ン■ー■ラ■■】(■)]■■こ■■、グレー■■の■■たの■■■ガー■■■■選■、■■タ■■中、■■ー■■0■■。
― 「■■ウド■■ツ」は■■■■と■■を空■■■る。
「ベイスのスキルで1枚ドロー……」
さらにカードを引く私。
そのまま、ヴァンガードの上に指を置いた。
「フォートでアタック……」
カードを横向きに動かす私。
ツキちゃんが目を閉じて、微笑んだ。
「ノーガード」
穏やかな口調。透き通るような声。
デッキの上に手をのせる。
「……ドライブチェック」
沈んだ声が響く。
めくる前から、何が出るかは知っていた。
黒いもやに覆われた1枚を、表にする。
■■ン■■ー・■■■■ル
■■マ■■ニッ■ 〈■〉 (■■ス■)
ケ■■サ■■チ■ア■ - ■■ジェ■
■■ー■■0■ / ■■ル■■■00 / ■■
【自】【(■)】:■■■■ット■■■■ト■■バ■■終■時、【■■ト】[【■■ル■ラ■■】(■), ■■ユ■ッ■■■■させ■]■■で、■■引■。
― ■■■■で■。■■リ■■■ばお■■い■■■ら。
「ダメージチェック」
静かに言うツキちゃん。
カードをめくると、ダメージに置いた。
ス■■イ■・■■■ナ
ノ■マ■■■ッ■ 〈1〉 (■■■ト)
■■■ケ■■ - ■■セ■■
パ■■8■■0 / ■■ル■■0■■ / ■■
【■】:■■ユニ■■が(■)に■■■■時、【■■ト】[【■■ン■ー■■■ト】(■)]■■■とで、■■■の■■か■「■■■クン」を■■ま■■し、■■■て■■に■■、■■をシ■■■ル■■。
― もう■■、■■■■て、■■ゲ■ル。
ツキ ダメージ0→1
「ターンエンド……」
顔を伏せながら、そう宣言する私。
暗闇の中、視界が涙でにじんだ。
「……ねぇ、ツキちゃん」
ぽつりと、呟く私。
私の想像の中のツキちゃんに、話しかける。
「あたし……あたしね、本当は怖いの。あたしがやったことがバレたら、また皆を傷つけるんじゃないかって……!」
震える声で話す私。
ツキちゃんが微笑んだ。
「ミコトの、やったことって?」
優しい声色で訊ねてくるツキちゃん。
私は顔を伏せたまま、口を開く。
「あたし、あたしが、ツキちゃんを傷つけちゃったこと……! 完璧だったツキちゃんを、壊しちゃったこと……!」
ぽたぽたと涙がこぼれる。
耐え切れず、私は声をあげて泣き始めた。
ツキちゃんが目を細め、手を伸ばす。
「私のターン」
穏やかな声色。
手札のカードを捨てる音が響く。
「《秘めたる才気 "ミッドナイト"》にライド」
カードが置かれる音。
涙でゆがむ視界に、黒いもやが映る。
■■■る■■ "■■ド■■■"
ノ■■ル■■ッ■ 〈■〉 (■■■ー■■ト)
■■イ■■■ - ■■■ク■
■■ー■■0■■ / ■■ル■■■00 / ■■
【■】:■■ユ■■■が「■■魔■■ "■■■"」■■■イド■■登■■た■■【■■ト】[【■■■ブ■■ト】(■)]■■こと■、■■たの■■ド■■ー■■■【■■■ル■■シ■】■■を■■カード■■■ま■■び、■■す■■
― ■■なき■■。■■に■■■の■■■れ■■る。
「スキルで、《ミニュアデス》を表に」
白い兎のスリーブに入ったカード。
その中の1枚を、ツキちゃんが表にした。
■■ュ■■ス
ノー■■■■ッ■ 〈■〉 (■■タ■■■ト)
ス■■ケ■■ - イン■■■
■ワー■■0■■ / ■■ル■■■■■ / ■■
【■■■ル■■■ス】-「ル■■ク■」
((■)の■■■■ット■■■ド■■ーン■■■こ■■、■■■の■■ドを■■■■て■■い)
【■】【(V)/(■)】【■■ン■■】:【■■ト】[【■■ン■■■ラ■■】(■)]■■■と■、■■ター■■、■■■の■■■ガー■■、■■の■■■ガー■■持■■力■■■て■■。
【永】【(■)】あな■■ター■■■時、【■■ト】[■■■ニッ■■■■ド■■ー■■■で置■]■■で、■■引■。
― ■■蛍が■■■の■、■■する「■■」の■。
ツキちゃんが、指をカードの上に乗せる。
「ミッドナイトで、アタック」
穏やかな宣言。
白い指が、カードを動かした。
涙を流しながら、私は口を開く。
「ノーガード……!」
「ドライブチェック」
手を伸ばすツキちゃん。
結果は、すでに知っている。
■■を■■■影■■
ノー■■■ー■ー 〈■〉
■トイ■■ア
「■■■シ■」を■■■■たの■■■ガー■■■る■■、■■イ■■る■
■■たの■■ド■■ー■■■「■■■ク■」を■■■び、(■)に■■■する。
― ■■ま■■う。■■■■を、■■に。
トリガーではないカード。
私もまた、ゆっくりと腕を伸ばした。
「ダメージチェック……」
カードをめくる。
黒いもやに包まれた1枚を、横向きに置いた。
ア■■■メ■・■■■ン
ノ■■■ユ■■ト 〈■〉 (■■スト)
■■ル■■ク■■■リ - ■■モ■■■ン
■■■■■00 / ■■ルド■ / ■■
【■】:■■者(守■■を■■■ー■■デ■■■合■■■ま■■れ■れる)
【■】:こ■■ニ■■が(■)に■■れ■■、■■たの■■■トを■■■び、■■■トル■、■■トさ■■い。■■■の手■■2■■上な■、■■か■■枚■■、■■る。
― こ■■み……■が■■引■■■まし■■。
ミコト ダメージ0→1
「ターンエンドだよ」
手札を持ったまま、微笑んでいるツキちゃん。
私はその姿を真っすぐ見れず、目を逸らす。
顔を伏せながら──
「私のターン……」
諦めたように、私はデッキからカードを引いた。
既に決められた運命。それに従って、動く。
「《天槍の騎士 ルクス》にライド……」
黒いもやのカード。
どす黒い色が一瞬、私の指に纏わりついた。
■■の■■ ■■■
ノ■■ル■■■ト 〈■〉 (■■ター■■ト)
■■■サン■■ュ■■ - ■■フ
■■■10■■0 / ■■ル■■0■■ / ■■
【■】:■■ユニ■■が「■■■■ ■■■ィ■■」に■■ド■■■時、【■■ト】[■■から■■■3■■枚■■す■]■■で、■■引■。
【■】【(■)】:■■■のタ■■中、グ■■■3■■な■■■ニッ■■■■以■■ら、■■ユ■■ト■『■■ス■』を■■、パ■■+■■0■。
― ■■に■■■お■■て。■■か■■っ■■る■■よ。
「フォートのスキルで、手札から2枚を公開……」
手札の2枚を表にする私。
ツキちゃんは無言で、それを眺めている。
■禍■■士 ■■■ド
■■マ■■■ッ■ 〈■〉
(■■■ド■■ブ!■) (■■■ナ■■ド)
■■■サン■■ュ■■ - ■■ーマ■
パ■ー■■0■■ / ■■ル■■し / ■■
【永】【(■)】:■■ユニ■■は■■の■■■の■■で■■■い。
【■】【(■)】:こ■■ニ■■の■■■クが■■■し■■、【カウ■■ー■■ー■】(■)/【■■■チ■■ジ】(■)。
― ■■し■■■う。■■の■■■機は■■。
寛■■太■ フ■■■ル
ノー■■ユ■■■ 〈■〉
(■■■ドラ■■■■) (■■ソ■■■ド)
ケ■■■ンク■■ア■ - ■■ジェ■
パ■■■■0■■ / シ■■ド■■ / ■■
【自】【(■)】:■■ユニ■■■アタ■■し■■、グ■■■3の■■■の■■ット■■枚以■■■、【■■ト】[【カウ■■■ブ■■ト】(■)]す■■■で、■■バ■■中、■■■■ッ■■■リティ■■■■。
― ■■患■■■上の■■■、■■■ず■■■■■るわ。
「山札の上から、ラマーナをコール……」
カードをめくる前から、そう話す私。
一番上の1枚を、ヴァンガードの横に置いた。
激■■魔■ ■■ーナ
ノー■■■ニット 〈■〉
(■■■ドラ■■■■) (■■ソ■■■ド)
ケ■■サ■ク■■■リ - ■■フ
■■ー■■0■0 / ■■ル■な■ / ■■
【自】【(■)】:■■ユニ■トが■■ッ■■■時、【■■ト】[【カ■■■ー■■ス■】(■)]■■こと■、その■■■中、■■■ニッ■■■ワー■■00■■
― そ■で跪■■
盤面に増えたカード。
黒いもやが勢いを増し、大きく蠢く。
きーんという耳鳴りが響いた。
「……っ!!」
痛みから顔をしかめる。
それでも、やめる訳にはいかなかった。
この戦いは、私の贖罪の戦いなのだから。
「ルクスで、アタック……!」
頭をおさえながら、そう宣言する私。
ツキちゃんが目を閉じる。
「ノーガード」
迷いのない言葉。いつもの反応。
私はカードを表にして、闇の中にかざした。
■■チ■ム・■■■
ノー■■ユ■■ト 〈■〉 (■■スト)
■■■サンク■■ア■ - ■■■ースト
■ワー■■0■ / ■■ル■■■00 / ■■
【■】【(■)】:【コ■■】[【■■■ブ■■ト】(■)]■■ことで、そ■■■ン中、こ■■■ッ■■■■ー+■■■0。
― ■■の■は■■■民■■■添■。
「ダメージチェック。ノートリガー」
カードをめくるツキちゃん。
流れるように、カードを置く。
■■怪人 ■■■ン■■ス
■■マル■■■ト 〈■〉 (■ー■■)
■■イ■■ア - ■■セ■ト
■ワー■0■■ / シ■■ド■■0■ / ■■
【■】:■■■ニッ■■(■)に登■■■時、■■■の■■リ■■■ドを■■選■、■■■ーン■、■■■+5■■0■
― ■■手■■■す■■、■■まで■■■手■■い■■
ツキ ダメージ1→2
盤面を眺めているツキちゃん。
私はさらに、カードを動かした。
「ラマーナで、アタック……!」
震える声。響く耳鳴り。
暗闇の中に、私の息遣いだけが溶けていく。
「ノーガード」
静かに宣言するツキちゃん。
淡々と、さらなる1枚をダメージへと置いた。
流■怪■ ■■■アス・■■ッ■
ノ■■ル■■ッ■ 〈■〉 (■■ター■■ト)
ス■■■イ■ - ■■セ■■
■■ー■■0■0 / ■■ル■■0■■ / ■■
【■】【(■)】:■■ユニ■■■アタ■■した■、■■の■■■トが■■■【■■■】し■■■な■、その■■■中、こ■■ニ■■■パ■ー■■■00■
【自】【(■)】:■■ユ■■■がア■■ク■■バ■ル■■■、■■■の■■■ガ■ドが「■■■姫 ■■ネシ■」なら、【■■ト】[■■■■ッ■■■ウ■■置■]■■で、【カ■■■ー■■ージ】(■)。
― ■■怪人■■力、■■■あげ■■
ツキ ダメージ2→3
「ターンエンド……!」
頭をおさえながら、宣言する私。
乱れた呼吸。胸の痛みと、息苦しさ。
顔を伏せ、言葉を吐き出す。
「ツキちゃんは誰からも認められてた、完璧な人だったのに……! あたし、あたしがそれを壊した。弱ってたツキちゃんを、傷つけた……!」
ぶるぶると震えている身体。
再び、涙がこぼれて床に落ちた。
「あたしが、勝っちゃったから……!! ツキちゃんを、追い詰めたから……!! だから、だからこの戦いの後に、ツキちゃんは……!!」
言葉が詰まる。
それ以上話すことができず、嗚咽を漏らした。
ツキちゃんが、手を伸ばす。
「私のターン」
穏やかな声。微笑みを浮かべた顔。
1枚を捨てて、カードを掴んだ。
月のスリーブに入ったカードを構えて──
「《夢幻蝶姫 セレネシス》にライド」
静かに、ツキちゃんがそう宣言した。
黒いもや。漆黒に塗りつぶされたカード。
闇の中で、静かに佇む。
夢■■■ セ■■■ス
ノ■■■■■■ト 〈■〉
(■■■ド■イ■■■) (■■ソナ■■ド)
ス■■■イ■ - ■■■クト
■■■■■■00 / ■■■ド■■ / ■■
【■】:■■■ニ■■が(■)に登■■■時、■■■のシ■■ウ■■■■ら【■タ■■■ォシ■】能■■■■カー■■■枚■■選■、■■■る。
【■】【(■)】【タ■■■回】:【■■■】[【ソ■■■ラ■■】(■)]す■■と■、【■■モル■ォ■■】■■を■■■アガ■■を■■選■、■■■ー■■、■■■ニッ■■選■■た■■■が持■能■■■べ■得■■
― 影■■■紡■■き■君。■■■■導■■、二■■■■■■れ替■■■
「スキルで、メレアグリデスを表に」
手を伸ばすツキちゃん。
白い兎のスリーブのカードが表になる。
手札のカードを、ツキちゃんが選んだ。
「ルナコクンをコール」
現れる1枚。闇に覆われた姿。
ル■コ■■
ノ■■ル■■ット 〈■〉 (■■ス■)
ス■■ケ■■ - ■ン■■ト
■■ー■■0■ / ■■ル■5■■■ / ■■
【■】【(■)】:こ■■ニ■■の■■■ド+■■■0。
― ■し■の■■あ■■■は■■見え■■
闇がさらに深まり、その勢いを増していく。
カードを手に取って──
「メレアグリデスに、メタモルフォシス」
ツキちゃんが、カードを入れ替えた。
闇の中に降臨する1枚。だがその姿もまた、
黒いもやによって隠され、何も見えないでいる。
メ■■グ■■■
ノ■■ル■■■ト 〈■〉
(ツ■■■ラ■ブ■■) (■■ソ■■■ド)
■■■ケ■■ - ■■セ■ト
パ■■1■■0■ / ■■ル■■し / ■■
【■■■ルフ■■ス】-「■■コ■ン」((■)の■■■ニッ■■シ■■■ゾー■■■く■■で、■■こ■■ードを■■■せ■■よい)
【■】【(■)/(■)】【タ■■■回】:【■■ト】[【■■ン■ー■■ス■】(■),■■たのド■■■か■【■】ト■■ー以■■■リガー■■ッ■■1■■■ドウ■■■に置■]■■で、■■のヴ■■■ー■■グレ■■3■■なら、■■トリガ■■■を■■発■■■。
― 影■■が■■■のは、■■く「■■」の■。
「…………」
何も言わず、盤面を見ている私。
結末を知っている以上、驚くこともなかった。
ツキちゃんがにっこりと微笑む。
「スキル発動。ドロップのトリガーを1枚、シャドウゾーンへ」
黒いもやに覆われたカード。
その中の1枚を、ツキちゃんが裏返した。
カードが影の世界へと消える。
■■の■■ ■■ナ
■■■ーユ■■ト 【■】■■■00■
(ド■■■リ■■) 〈■〉 (■■ス■)
ス■■ケ■■ - ■■オ■■ド
パ■■40■■ / ■■ル■■■0■ / ■■
【■】【(■)】:■■のヴ■■■ー■■■■ード■■■な■、こ■■■ット■■■ル■+■■00
― ■■な■■■お■■な■■す■■■散■■ま■ょ■■
私のヴァンガードはまだグレード2。
条件を満たしていないため、効果は出ない。
「セレネシスのスキル。メレアグリデスの能力をコピー。スキルを発動して、ドロップのトリガーをシャドウゾーンに」
ソウルのカードを取り出すツキちゃん。
楽しそうに、カードを動かす。
夢■■■ セ■■■ス
ノ■■■■■■ト 〈■〉
(■■■ド■イ■■■) (■■ソナ■■ド)
ス■■■イ■ - ■■■クト
■■■■■■00 / ■■■ド■■ / ■■
【■】:■■■ニ■■が(■)に登■■■時、■■■のシ■■ウ■■■■ら【■タ■■■ォシ■】能■■■■カー■■■枚■■選■、■■■る。
【■】【(■)】【タ■■■回】:【■■■】[【ソ■■■ラ■■】(■)]す■■と■、【■■モル■ォ■■】■■を■■■アガ■■を■■選■、■■■ー■■、■■■ニッ■■選■■た■■■が持■能■■■べ■得■■
― 影■■■紡■■き■君。■■■■導■■、二■■■■■■れ替■■■
影の中に、カードが消えていった。
ド■■ミ■■・■■■ラ■
ト■■ーユ■■ト【■】 ■■■0■0
(■■■ト■■ー) 〈■〉 (ブ■■ト)
■■イ■■ア - ■■セ■ト
■■ー■■0■ / シ■■■15■■0 / ■■
(【■】■■■■に■■まで■■■れ■■る。)
― ■■世■■と■う、■■く鱗■■
やはりトリガー効果は発揮されない。
ただ、2枚のカードが影の領域に置かれただけ。
ツキちゃんが微笑んだ。
「じゃあ、いくよ」
変わらぬ声色。
指を動かして、カードを横に向ける。
「セレネシスで、ヴァンガードにアタック」
黒いもやの憑りついたカード。
もやが大きく動いて、盤面に流れ出た。
夢■■■ セ■■■ス ■■■■■■00
闇に蝕まれた1枚。
顔を伏せながら、私は口を開く。
「ノーガード……」
何の感情もわいていない声。
テレビの画面を眺めているかのような戦い。
ツキちゃんが手を伸ばした。
「ツインドライブ」
2枚のカードをめくるツキちゃん。
カードを片手に、宣言する。
「ファーストチェック、ノートリガー。セカンドチェック、クリティカルトリガー」
もやに憑りつかれたカードが表になる。
■■を■■■影■■
ノー■■■ー■ー 〈■〉
■トイ■■ア
「■■■シ■」を■■■■たの■■■ガー■■■る■■、■■イ■■る■
■■たの■■ド■■ー■■■「■■■ク■」を■■■び、(■)に■■■する。
― ■■ま■■う。■■■■を、■■に。
シ■■ウ・■■ィバ■
ト■■ー■■ッ■ 【■】+■■0■■
(クリ■■■■ト■■■) 〈■〉 (■■スト)
ス■■■イア - イ■■■ト
パ■■5■■0 / ■■ル■■■0■■ / ■■
― ■■■界■■、■■て失■■■遺■■が隠■■■い■。
黒色によって姿の隠れたカード達。
ツキちゃんが笑った。
「クリティカルはセレネシス、パワーはメレアグリデスへ!」
楽しそうな声を出しているツキちゃん。
私はただ淡々と、カードをダメージへと置いた。
■■ン■■ー・■■■■ル
■■マ■■ニッ■ 〈■〉 (■■ス■)
ケ■■サ■■チ■ア■ - ■■ジェ■
■■ー■■0■ / ■■ル■■■00 / ■■
【自】【(■)】:■■■■ット■■■■ト■■バ■■終■時、【■■ト】[【■■ル■ラ■■】(■), ■■ユ■ッ■■■■させ■]■■で、■■引■。
― ■■■■で■。■■リ■■■ばお■■い■■■ら。
■■の■■ ■■■
ノ■■ル■■■ト 〈■〉 (■■ター■■ト)
■■■サン■■ュ■■ - ■■フ
■■■10■■0 / ■■ル■■0■■ / ■■
【■】:■■ユニ■■が「■■■■ ■■■ィ■■」に■■ド■■■時、【■■ト】[■■から■■■3■■枚■■す■]■■で、■■引■。
【■】【(■)】:■■■のタ■■中、グ■■■3■■な■■■ニッ■■■■以■■ら、■■ユ■■ト■『■■ス■』を■■、パ■■+■■0■。
― ■■に■■■お■■て。■■か■■っ■■る■■よ。
ミコト ダメージ1→3
もう少し、もう少しで戦いは終わってしまう。
震える指で、カードを握りしめている私。
ツキちゃんが、カードの上に指を乗せた。
「メレアグリデスで、アタック!」
白くて細い、ピアノを弾いていた指。
それがカードの上で、踊るように動いた。
ピアノを弾くツキちゃんの姿が、思い浮かぶ。
『ねぇ、これ聴いてよ、ミコト!』
出会ったばかりの頃のツキちゃん。
怪訝そうな私の前で披露した、あの音色。
美しい調べが、空気を震わせる。
『……すごい』
ピアノの音に聞き惚れながら、呟いていた私。
夢のような時間。心に響く音。
楽譜を弾き終えて──
『どうどう? 凄いでしょ!』
得意そうに、ツキちゃんが訊ねた。
私は素直に頷く。
『う、うん。本当に、すごかった……!』
ツキちゃんの演奏に、感動さえ覚えていた私。
デレデレと、ツキちゃんが表情を崩した。
『月の光! 私が一番好きな曲なんだ! 気に入ってくれたなら、いつでも弾いてあげるよ!』
『ほ、本当!?』
嬉しそうに会話していた私とツキちゃん。
顔を見合わせると、笑い合った。
でも、あの夏の大会で倒れて以降──
ツキちゃんは、一度もピアノを弾いていない。
「ノーガード……!」
震える声での宣言。
私のダメージのカードが増える。
■禍■■士 ■■■ド
■■マ■■■ッ■ 〈■〉
(■■■ド■■ブ!■) (■■■ナ■■ド)
■■■サン■■ュ■■ - ■■ーマ■
パ■ー■■0■■ / ■■ル■■し / ■■
【永】【(■)】:■■ユニ■■は■■の■■■の■■で■■■い。
【■】【(■)】:こ■■ニ■■の■■■クが■■■し■■、【カウ■■ー■■ー■】(■)/【■■■チ■■ジ】(■)。
― ■■し■■■う。■■の■■■機は■■。
ミコト ダメージ3→4
ツキちゃんの盤面に、他のカードはない。
カードを片手に──
「ターンエンドだよ」
ツキちゃんが、静かに宣言した。
最後の攻撃。それが終わる。
終焉の時が近づいた。
「私のターン……!」
震える指でカードを引く。
手札の一枚を捨てた。
闇の中へと、手を伸ばす。
「《剣聖騎竜 グラムグレイス》にライド……!」
ぐらぐらと、夜の世界が揺れる。
黒いもやに包まれた一枚。蝕まれたカード。
音を立てて、カードが盤面に置かれた。
剣■■■ グ■ム■■イ■
ノー■■■■ッ■ 〈■〉
(ツ■ン■■■■■■) (■■■ライ■)
ケ■■■■クチ■アリ - コ■■ドラゴン
パ■■■■■■■ / シ■■ド■■ / ■■
【■】【(V)】:■■■のペ■■■■イドは■■の■■ッ■の■■■も増■さ■■。
【起】【(■)】【タ■■■回】:【コ■■】[【カ■■ター■■ス■】(■), 【■■ル■■スト】(■)]■■■とで、■■■き、■■■の■■か■■枚選■、中■■■の(R)■■■ルし、その■■■■■■のユ■■■は■■か■■■ア■■■でき、■■ー+■■■0■。
【■】【(■)】:■■■の中■■■の■■ガー■■■タック■■■■■終了■、■■ユ■■■を■■■に■き、■■■■。
― ■■■り来■■、■■■。■■■■・■■■壊■
「スキル発動……!」
カードを裏返す私。
そのまま手札のカードを場へと出す。
「ファヌエルをコール。このターン中、後列からアタック可能に……!」
ヴァンガードの裏、カードが置かれる。
黒いもやがうねるように動いた。
寛■■太■ フ■■■ル
ノー■■ユ■■■ 〈■〉
(■■■ドラ■■■■) (■■ソ■■■ド)
ケ■■■ンク■■ア■ - ■■ジェ■
パ■■■■0■■ / シ■■ド■■ / ■■
【自】【(■)】:■■ユニ■■■アタ■■し■■、グ■■■3の■■■の■■ット■■枚以■■■、【■■ト】[【カウ■■■ブ■■ト】(■)]す■■■で、■■バ■■中、■■■■ッ■■■リティ■■■■。
― ■■患■■■上の■■■、■■■ず■■■■■るわ。
手札のカードを、掴む。
「フォサド、ペインキラー、ヴェーチェルをコール……!」
選ばれた3枚のカード。
盤面が埋まり、黒いもやが辺りを覆い尽くした。
■禍■■士 ■■■ド
■■マ■■■ッ■ 〈■〉
(■■■ド■■ブ!■) (■■■ナ■■ド)
■■■サン■■ュ■■ - ■■ーマ■
パ■ー■■0■■ / ■■ル■■し / ■■
【永】【(■)】:■■ユニ■■は■■の■■■の■■で■■■い。
【■】【(■)】:こ■■ニ■■の■■■クが■■■し■■、【カウ■■ー■■ー■】(■)/【■■■チ■■ジ】(■)。
― ■■し■■■う。■■の■■■機は■■。
■■ン■■ー・■■■■ル
■■マ■■ニッ■ 〈■〉 (■■ス■)
ケ■■サ■■チ■ア■ - ■■ジェ■
■■ー■■0■ / ■■ル■■■00 / ■■
【自】【(■)】:■■■■ット■■■■ト■■バ■■終■時、【■■ト】[【■■ル■ラ■■】(■), ■■ユ■ッ■■■■させ■]■■で、■■引■。
― ■■■■で■。■■リ■■■ばお■■い■■■ら。
■■の■■ ■■ーチェ■
■■マ■■ニッ■ 〈■〉 (■■■■)
■■ル■■■チュ■■ - ヒ■■■ン
■■ー■■■0 / ■■ルド■■■0 / ■■
【■】【(■)】:■■ユ■■■がブー■■した■、■■■ーン■、■■ユ■■トの■■■■■0■■。
― この■■、■■勝■を■■込■■っ!
闇の中に蠢く黒いもや。
それらが集まり、人の手の形を作る。
「……あぁぁ」
私の口から、恐怖の声が漏れ出た。
がたがたと震えている身体。涙が浮かぶ。
ぎゅっと、私は目を閉じた。
「ごめん……ごめんね、ツキちゃん……!!」
泣きながら、呟く私。
手を伸ばすと、暗闇の中でカードを動かす。
「ノーガード」
ツキちゃんの声が響いた。
カードを置く音がする。
ノ■■■・■■ット
ノ■■ル■■ッ■ 〈■〉 (■■ス■)
■■■ケイ■ - ■■セ■ト
■ワー■■0■ / ■■ルド■■0■ / ■■
【■】【(■)】:あ■■■ター■■、■■のヴ■■ガ■■■グ■■■3以■■ら、■■■■ッ■■パワ■■■■0■。
― ■■だ■■■光■■り■■■クの■■。
ツキ ダメージ3→4
「あたしが……あたしが悪いの!! あたしがツキちゃんを傷つけたから、あたしがツキちゃんを、死なせちゃったから……!!」
振り絞るように話す私。
涙が流れて頬から床へと落ちていく。
カードを動かした。
「ノーガード」
透き通るような、穏やかな声。
カードが置かれる音が、さらに響く。
流■怪■ ■■■アス・■■ッ■
ノ■■ル■■ッ■ 〈■〉 (■■ター■■ト)
ス■■■イ■ - ■■セ■■
■■ー■■0■0 / ■■ル■■0■■ / ■■
【■】【(■)】:■■ユニ■■■アタ■■した■、■■の■■■トが■■■【■■■】し■■■な■、その■■■中、こ■■ニ■■■パ■ー■■■00■
【自】【(■)】:■■ユ■■■がア■■ク■■バ■ル■■■、■■■の■■■ガ■ドが「■■■姫 ■■ネシ■」なら、【■■ト】[■■■■ッ■■■ウ■■置■]■■で、【カ■■■ー■■ージ】(■)。
― ■■怪人■■力、■■■あげ■■
ツキ ダメージ4→5
5点目のダメージ。追い詰められるツキちゃん。
ぶるぶると震える指を伸ばす。
カードを、動かした。
「あたしが弱いから……!! だからツキちゃんを、ヒカルを!! いっぱい傷つけて!! 2人をたくさん、悲しませて!!」
心の底からの想い。
叫ぶように、私は言葉を吐き出した。
暗闇の中、涙が落ちる感覚だけが伝わる。
「……ガード」
ツキちゃんの声。
ぱさりと、カードを出す音が聞こえた。
■■の■■ ■■ナ
■■■ーユ■■ト 【■】■■■00■
(ド■■■リ■■) 〈■〉 (■■ス■)
ス■■ケ■■ - ■■オ■■ド
パ■■40■■ / ■■ル■■■0■ / ■■
【■】【(■)】:■■のヴ■■■ー■■■■ード■■■な■、こ■■■ット■■■ル■+■■00
― ■■な■■■お■■な■■す■■■散■■ま■ょ■■
シ■■ウ・■■ィバ■
ト■■ー■■ッ■ 【■】+■■0■■
(クリ■■■■ト■■■) 〈■〉 (■■スト)
ス■■■イア - イ■■■ト
パ■■5■■0 / ■■ル■■■0■■ / ■■
― ■■■界■■、■■て失■■■遺■■が隠■■■い■。
「チェック・ザ・ドライブ!!」
悲鳴のような声。泣きじゃくっている私。
よろよろと、デッキに手を伸ばす。
「あたしのせいで、皆が不幸になった!! もうあたしには、誰かと関わる資格なんてない!!」
カードをめくる。
暗闇の中で、表になる1枚。
■槌■■■ ■■カ■ト
ト■■■ユ■■ト 【■】■■■0■■
(■■■ィ■■ト■■■) 〈■〉 (■■ス■)
■■■サ■■チ■■リ - ■■ー■ン
パ■■■■0■ / ■■ル■■■0■■ / ■■
― ■■を■■■た罪■■い■■度な■■は■■だ■
クリティカルトリガー。
残された1枚に、力が注がれる。
涙を流して──
「あたし、あたしが……あたしが代わりに、死んじゃえば良かったんだ!!」
私の叫び声が、その場に響き渡った。
カードをめくる。トリガーカード。
■■の■■ ■■■マ
■■ガ■■ニッ■ 【■】+■■■00
(ク■■■カル■■■ー) 〈■〉 (ブー■■)
■■■サ■■■ュ■■ - ■■ー■ン
■■ー■■0■ / シ■■ド■■■0■ / ■■
― ■■て、■■子■■■■■よう■■■■
効果の全てが、ファヌエルに集中する。
終わりの時。どこまでも続く、永遠の夜。
白いカーテンが、ばさばさと音を立てて揺れる。
「あたしは、ファヌエルで……!!」
指を伸ばす。
もう何百回と告げた言葉。呪いの宣告。
ゆっくりと、カードを動かして──
「ヴァンガードに、アタック……!!」
私の宣言が、空気を震わせた。
目を閉じ続けている私。瞼の中、暗闇の視界。
寛■■太■ フ■■■ル パ■■■■0■■
私の手から、カードが落ちた。
「ごめん……ごめんね、ツキちゃん……!!」
両手で顔を覆う私。
涙が止まらず、溢れてこぼれていく。
「あたし、あたしは……!!」
どこまでも続く後悔の念。
闇が蠢き、私の全身に纏わりついた。
沈黙が、私達の間に流れている。
静寂の時間。記憶の終わり。
ただ最後の宣言を、待つだけの空間。
ツキちゃんが、息を吐く音がした。
まるで闇を切り裂くような、鋭い音。
手を動かすような音がそれに続く。
そして──
「──完全ガード!!」
唐突に、その言葉がその場に響いた。
驚愕して、私は目を開ける。
「……えっ?」
ツキちゃんの手の中で──
プラナプリベント・ドラゴン
ノーマルユニット 〈1〉 (ブースト)
ストイケイア - ネイチャードラゴン
パワー6000 / シールド0 / ☆1
【永】:守護者(守護者を持つカードはデッキに合計4枚まで入れられる)
【自】:このユニットが(G)に置かれた時、あなたのユニットを1枚選び、そのバトル中、ヒットされない。あなたの手札が2枚以上なら、手札から1枚選び、捨てる。
― 護って見せるよ。やっと芽生えた命なんだから。
緑色の竜のカードが、表になっていた。
暗闇の中、光輝いている1枚。
盤面の黒いもやが、吹き飛ぶように消えていく。
「どう、して……!?」
目の前の光景が信じられず、声を出す私。
ツキちゃんが、穏やかに微笑んだ。
「ねぇ、ミコト」
呼びかけてくるツキちゃん。
優しい声色で、続ける。
「私、ミコトが思うような、完璧な人なんかじゃなかったよ」
語り掛けるような口調。
小さく、その首をかしげて──
「忘れちゃったの?」
ツキちゃんが、にっこりと笑った。
何も答えられずにいる私。驚愕の表情。
ツキちゃんが口を開く。
「ミコトには怒られてばっかりだったし。ヒカルの誕生日でも失敗しちゃったしさ。最後の大会では無理したせいで倒れちゃったし」
目をつぶり、淡々と話しているツキちゃん。
苦笑しながら、頬をかく。
「その度に、ミコトやヒカルに心配されて」
感慨深い声で話すツキちゃん。
息を吐くと、真っすぐに私を見る。
「だからさ」
透き通るような、優しい声。
「ミコトがそんなに自分を責める事なんて、何もないんだよ」
慈しむような目を、ツキちゃんが私に向けた。
輝くような笑顔。煌めいている姿。
それはまさしく──
「……ツキ、ちゃん?」
震える声で、私はそう訊ねた。
目を見開いて、その姿を見つめている私。
ツキちゃんがニッと笑った。
「──私のターン!!」
高らかに、そう宣言するツキちゃん。
デッキに手を伸ばすと、カードを引く。
引いた1枚を横目で見て──
「ペルソナライド!!」
そのまま、カードを場へと置いた。
影の領域を統べる、虫の姫君の姿。
ツキちゃんの分身が、戦場に降臨する。
夢幻蝶姫 セレネシス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ストイケイア - インセクト
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【自】:このユニットが(V)に登場した時、あなたのシャドウゾーンから【メタモルフォシス】能力を持つカードを1枚まで選び、表にする。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【ソウルブラスト】(1)]することで、【メタモルフォシス】能力を持つリアガードを1枚選び、そのターン中、このユニットは選ばれたカードが持つ能力をすべて得る。
― 影と夢を紡ぐ白き姫君。月の光に導かれ、二つの世界は入れ替わる。
風が吹き出し、その場に渦巻いた。
永遠の夜の世界。その空間にヒビが入っていく。
「スキルでシャドウゾーンの1枚を表に!!」
手を伸ばすツキちゃん。
1枚のカードを、その手で掲げて見せた。
影の鱗を持つ、巨大な竜が描かれたカードを。
「ルナコクンをコール!!」
自信に満ちた声。迷いのない判断。
金色の繭の妖精が、虫の姫君の隣りに現れる。
ルナコクン
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。
― あたしの姿、あなたにはどう見える?
不敵な笑みを浮かべているツキちゃん。
虫の姫君と繭の妖精が、その後ろに並び立つ。
手を伸ばして──
「ルナコクンを、メタモルフォシス!!」
ツキちゃんが、カードを入れ替えた。
夢と影。2つの世界が入れ替わる。
渦巻く風がその勢いを増して──
巨大な竜が、咆哮と共にその姿を現した。
舞い落ちる黒い影。世界が崩れていく。
「……これって!」
竜を見上げながら、呟く。
あの時、廻間ミチルさんとのファイトで、
最後にツキちゃんが使おうとしていた1枚。
ツキちゃんの、切り札。
「いくよ!! ミコト!!」
嬉しそうに、そう言うツキちゃん。
流れるように、その手を伸ばす。
呆然と、目を見開いている私に──
「セレネシスで、ヴァンガードにアタック!!」
ツキちゃんが、大きく宣言した。
虫の姫君が微笑む。その瞳が緑色の光を放った。
影の魔法陣が浮かびあがる。
嵐の中のような、凄まじい風。
世界が端から崩れて、徐々に壊れていく。
「……ツキちゃん!!」
暴風に負けないよう、叫ぶ私。
闇も、後悔も、そして罪悪感さえも。
影が世界の全てを呑み込んで、消していく。
頬をつたう涙。
ぎゅっと、私は手を握った。
顔を伏せて──
「……ノーガード」
私の声が、小さく響いた。
崩壊していく永遠の夜の世界。
影が夢と入れ替わるように広がって──
6枚目のカードが、ダメージゾーンに置かれた。
剣聖騎竜 グラムグレイス
ノーマルユニット 〈3〉
(ツインドライブ!!) (ペルソナライド)
ケテルサンクチュアリ - コスモドラゴン
パワー13000 / シールドなし / ☆1
【永】【(V)】:あなたのペルソナライドは後列のユニットのパワーも増加させる。
【起】【(V)】【ターン1回】:【コスト】[【カウンターブラスト】(1), 【ソウルブラスト】(1)]することで、1枚引き、あなたの手札から1枚選び、中央後列の(R)にコールし、そのターン中、そのユニットは後列からでもアタックでき、パワー+10000。
【自】【(V)】:あなたの中央後列のリアガードがアタックしたバトル終了時、そのユニットをソウルに置き、1枚引く。
― 蒼空より来たれ、我が刃。龍血伝承・閃耀不壊!
ミコト ダメージ4→6
ガラスが砕けるような音がした。
夜の世界が根本から壊れて、消えていく。
残された白い空間に──
「イェーイ! 私の勝ちー!」
ツキちゃんの、嬉しそうな声が響いた。
ピースサインをしているツキちゃん。
得意そうな笑みが、その顔に浮かぶ。
「まだまだ甘いよ、カワイイ後輩!!」
最期に聞いたのと、全く変わらない声。
いつも見ていた元気な姿が、そこにはある。
「ツキちゃん……!!」
顔をあげる私。涙声で、何とか喋る。
ツキちゃんがにっこりと微笑んだ。
「ミコト、綺麗になったね!」
私の姿を見ながら、声をあげるツキちゃん。
「背も伸びたし、なんだか印象もちょっと変わった? 私なんかよりよっぽど大人な感じになっちゃってさ、私も嬉しいよ!」
愛おしそうな目を、私に向けるツキちゃん。
白い空間の中を歩いて、私に近づく。
「それに、一つ言っておくけど!」
優しい声のツキちゃん。
腕を伸ばして──
「例え何があっても、私はずーっと、いつまでも! ミコトの味方だよ!」
ツキちゃんが、私の事を抱きしめた。
今まで何度もされていたハグ。穏やかな温もり。
花の香りが、伝わってくる。
「うわあぁぁあぁ……!!」
声をあげて、泣き出す私。
ツキちゃんは優しく、私を抱きしめている。
ぐらぐらと、白い空間が揺れはじめた。
「うんうん、大丈夫だよ」
微笑みながら、ツキちゃんが言う。
透き通るような声。穏やかな雰囲気。
「あの時は一回しか言えなかったけど、何度だって、何回だって言ってあげる」
ささやくように、話しているツキちゃん。
そっと、私の耳元に口を近づける。
崩れていく白い世界に──
「愛してる。大好きだよ、ミコト」
その言葉が、はっきりと響いた。
私の心の中の罪悪感が、消えていく。
「あたし、あたしも……!!」
泣きながら、なんとか答える私。
ツキちゃんがそれを聞いて、嬉しそうに笑った。
ゆっくりと、その手をほどいて──
「……そろそろかな」
ツキちゃんが、名残惜しそうに
私の身体を離した。立ち上がり、辺りを見回す。
白い世界は音をたてて、崩れていく。
「ツキちゃん!! あたし、あたし……!!」
ツキちゃんに向かって、私は手を伸ばす。
話したい事はたくさんあるが、言葉にならない。
ツキちゃんがにっこりと笑った。
「ミコト! 前も言ったけど、ミコトなら、私よりも強くなれる!」
力強く断言するツキちゃん。
私の事を見据えて──
「だからさ、私からのお願い! もっと自信を持って! それで、自分の事もさ、赦してあげなよ! 約束だよ!」
ツキちゃんが、そう話した。
なくなっていく白い空間。涙が落ちる。
「ツキちゃん……!!」
その場に座り込んでいる私。
白い空間はもはや、ほとんど残っていない。
ツキちゃんがニッと笑った。
「それとヒカルとも、仲良くしなくちゃね!」
悪戯っ子のような笑顔。
全部知っているかのように、私に向かって言う。
白い空間が大きく震える。
「それじゃあね!! カワイイ後輩!!」
ツキちゃんが、微笑みながら手を振った。
私に背を向けて、ツキちゃんが歩き出す。
「ツキちゃん!!」
呼びかける私。ツキちゃんの姿がぼやけた。
白い空間がひと際大きく揺れ動いて──
世界が壊れて、暗闇が目の前に広がった。
「!!」
がばっと、飛び起きる私。
辺りを見回す。現実世界での、自分の部屋。
窓の外、空には金色の満月が浮かんでいる。
「……ツキちゃん」
ぼそりと、ベッドの上で呟く私。
時計を見る。真夜中の時間。
月の光が、テーブルの上を照らしている。
白いデッキケースと、ジュースの瓶。
光を反射して、それらはきらきらと輝いていた。
「……あたしは」
先程の夢を、思い返す。
今までとは違う内容。落ち着いた感覚。
暗闇の中、私は自分の手を見つめる。
「…………」
震えの止まった手。静かな心。
勇気を出して、おそるおそる目をつぶった。
安らかな暗闇が、そこには広がっている。
白い空間も、永遠の夜も、そこにはない。
ただ穏やかな闇と静寂だけが、存在している。
救われた気持ちが、心の中に広がった。
「ツキちゃん……」
ぽつりと、私は呟く。
最後に残っていた涙が、頬をつたってこぼれる。
月の光が優しく、部屋の中に降り注いでいた。
俺のカードを見ろ!
〔ホラ貝を吹く音〕
アロハー! 全国のカワイイ後輩達ー!
久しぶりに登場! ツキちゃんでーす!!
今日は私のカワイイ、マスコット的存在!
ルナコクンを紹介しちゃいまーす! ピース!
〔ドドン!〕
ルナコクン
ノーマルユニット 〈0〉 (ブースト)
ストイケイア - インセクト
パワー5000 / シールド5000 / ☆1
【永】【(G)】:このユニットのシールド+5000。
― あたしの姿、あなたにはどう見える?
ルナコクンはルタモルフォシスのキーカード!
普段はただの固ゆで卵君だけど、ピキーン!
ひとたび変身すれば色々な力を使いこなす、
超頼りになるとっても凄い子なんだよ!
色々な力で何度も呼び出してあげないとね!
ちなみにメタモルフォシスってのは、
そもそも変身を意味する言葉なんだよ!
変身物語集っていうのもあって、
そこには色々な変身のエピソードが乗ってるの!
えっ!? このメモ!? ……なんのことかな。
全ては、ツキちゃんの知識の賜物だよ。
どう、私の完璧な解説はー? 感動的でしょ?
……ところで唐突なんだけど、
私の出番って、これが最後なんだってー。
まぁ、出会いがあれば別れもあるよね。
それが人生! 素晴らしき青春の一ページ!
現実を受け止めないとね、カワイイ後輩達!
それじゃあ皆、またねー!! イェーイ!
〔ふすまの閉じる音〕
つづく?