黄昏の自動人形   作:れもんぷりん

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 連投連投!



正義のカタチ

 

 場には緊張した空気が張り詰めていた。

 有栖の首元には依然として太刀と化した刃渡の右腕が押し当てられている。

 

「臆病者、とは中々言ってくれるな」

 

 有栖から見て刃渡大吾は遥か上の立場。時代が時代ならそのまま首を刎ねられていた。

 だが刃渡はおもしろい者を見つけたと言わんばかりに目を輝かせている。

 

「何か間違っていますか?」

 

 有栖は挑発的に刃渡を睨め付けた。

 

「貴方が警視総監へと就任してからこの東京で起こされた異能犯罪は四件。その内、解決された物はゼロ件。貴方が出れば解決出来たのでは?」

「いや、それは違うな」

 

 有栖は調べられる犯罪事件を全て調べ尽くしており、その中から彼女が異能犯罪だと断定したものは四件。

 それらは解決したと認定されていない。

 

 だが刃渡はその事実を否定した。

 

「その四件は全て解決済みだ」

「本当ですか?」

「ああ。犯人の死体まで確認している」

「・・・死体?」

 

 不思議そうに首を傾げる有栖。

 実際おかしな事だ。日本の警察は基本的に殺人の許可を与えられていない。

 日本で犯罪者が死体になるのは死刑のみ。

 

「本条有栖、お前は異能者か?」

「いえ、私は違います」

 

 有栖の返事と同時に刃渡の右腕が降ろされた。太刀は人間の手へと姿を変える。

 有栖は初めて視認する異能に興味津々だった。

 

 その様子を見て刃渡も有栖の言葉が嘘では無いと判断する。

 

「なら何処で異能を知った?」

「異能犯罪の被害者ですので」

 

 トントントンと頭を叩く刃渡。そして納得したかのように頷いた。

 

「なるほどな、それなら辻褄が合う」

「異能を知っている事の、ですか?」

「そうだ」

 

 そうして刃渡はどかりと椅子に座り込んだ。

 

「この世界に異能者は何人位いると思う?」

「そうですね・・・大体千人ぐらいですか?」

 

 正直分からない。だから有栖は適当に答えた。

 

「違う、大体百万人に一人異能者がいると言われている」

「ということは・・・世界で合計八千人弱?」

 

 結構な数である。想像していた数の十倍近い。

 

「つまり日本に存在するであろう異能者は大体百三十人といったところだ」

「なんかそう聞くと多いですね」

 

 そうして本題が切り出された。

 

「この中に異能犯罪を起こそうとする奴は何人いると思う?」

「そうですね、1割にも満たないんじゃないですか?」

「いいや違う」

 

 刃渡は深く溜息を吐き、その事実を口にした。

 

「ほとんど全員だ。百三十人中、百二十五人は“悪の性質”を持つと言われている」

「う、嘘ですよね?」

 

 信じ難い事である。

 おかしいとは思わないか?

 それではまるで・・・

 

「まるで悪人にだけ異能が発現するようだ、そう言いたいのだろう」

「はい。明らかに異常な数値です」

 

 だが実際にデータはそう示している。

 何か原因があるとしか思えない。

 

「本当なのかは俺にも分からん。だが、その中からも極稀に正義の心の持ち主に発現することもあるのだ」

「それが貴方だと」

「その通りだ」

 

 しかし、有栖は一つおかしな事に気が付く。

 仮に百二十五人全員が犯罪を犯すとしたら変だ。

 

 明らかに異能犯罪の数が少ない。

 

「気がついたようだな」

「はい。計算が合いません」

 

 日本において、異能犯罪は一年に約五件ほど起きる。

 それでも充分過ぎる程多いが、今の話を聞いてからだと逆に異常だ。

 

「その原因は一人の異能犯罪者にある」

「異能犯罪者、ですか・・・?」

「そうだ」

 

 刃渡は大きな掌を強く握りしめた。

 

「歴史上、最も凶悪な異能犯罪。それは当時まだ幼かった一人の少女が引き起こした。推定では5歳」

「五歳・・・!?」

 

 有栖が驚くのも無理は無い。

 五歳といえばまだ歩くだけでも手一杯。

 

「“逢魔が時の殺戮劇”異能者の間ではそう語り継がれているその事件。内容はたった一言で表せるシンプルなものだ」

「それって一体・・・」

 

 有栖は思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

「世界中の異能犯罪者の同時殺害」

 

 

「・・・は?」

 

 有栖の優秀な頭ですら処理出来ない程有り得ない事実。

 異常より超常。超常より御伽。

 

「それを成した少女は全ての異能者から恐れられ、畏敬の念を籠めてこう呼ばれる──

 

 

 

 

 

────黄昏の自動人形(オートマタ)、と」

 

 

 

 それは有栖が探す恩人の名前で。

 

「彼女がいるから異能犯罪者はほとんど居なくなった。殺されるからだ。今まで異能犯罪を犯し、黄昏の自動人形(オートマタ)に殺されなかった奴は・・・一人として存在しない。先の四件だって彼女の手で粛清済みだ」

 

 日本どころか、世界を相手にする異能犯罪者の名前だった。

 

 

 

 

「こっち」

 

 紬は早朝から路地裏を歩き回っていた。

 お腹はしっかり膨れてぽんぽん。

 昨日は親切なお姉さんにご飯を奢ってもらって満足だった。

 

「ポテトうまうま」

 

 特に紬はステーキプレートの横にちょこんと乗せられているほくほくのポテトがお気に入り。

 お腹が減って倒れそうだった紬からすれば正に有栖は救いの女神だったのだ。

 

 必要な情報は全て手に入れ、一度帰宅した紬は再度海光公園の近くへとやって来ていた。

 勿論学校はしっかりある。つまりサボりだ。

 

 そこに薄らと感じられる異能の残り香。

 

 異能には、異能を使ったと分かる足跡の様なものがある。それは異能者にしか感じ取れない特有の気配。

 紬はその跡の事を残り香と呼んでいた。

 

 残り香は時間が経てば経つほど薄まり、やがて消える。だから事件が起こった後、できる限り早めに調査したかったのだ。

 

 紬はその場に座り込んで残り香に触れ、情報を読み取って行く。

 

 残り香から異能の種類を当てられるのが二流。

 異能の詳細まで分かれば一流。

 どう使われたかまで分かれば異次元だ。もはや他とは桁が違う。

 

「外道が」

 

 そうして立ち上がった紬の眼は刃の様な鋭さを取り戻していた。

 

 悪を狩る悪。

 それは果たして正義と呼べるか。

 

 いや、呼べなくとも良い。

 己が正義と信ずる物だけが正義として認められる。

 

 正義はカタチを持たない。

 ある時は盾、ある時は剣、またある時は一枚の紙かもしれない。

 

 今は一人の少女のカタチ。

 

 

 

 

 桑原赤司(くわばらあかし)は人を甚振るのが大好きだ。

 

 その気持ちは生半可なモノではない。

 ヘビースモーカーが煙草を吸いたくなる。

 アルコール中毒者が酒を呑みたくなる。

 

 それと同じ様に、桑原は弱者を見ると徹底的に痛め付けたくなるのだ。

 

 よくあるサイコパスとか、そういう類ではない。

 彼は人の痛みを、悲しみを、苦しみをよく知っていた。

 

 それらを一方的に他人に押し付ける。

 これ程興奮することがあるか?

 

 別に彼は人を傷つける事に罪悪感を覚えない訳では無い。

 人並みには普通の感性を持ち、誰かを殺す事を躊躇する程度には一般的だ。

 

 桑原のおかしな所は此処からだ。

 

 痛め付けた時に発される悲鳴。それを聴いた時、微かにザワつく罪悪感。

 それが何よりも甘美だ。

 どんな美酒より、女より。

 

 唯それだけに酔い痴れた。

 

 

 ずっと我慢の毎日だ。

 

 小学生の頃、クラスで横行していた虐め。

 桑原は何の関わりも無かったが、それはずっと彼が衝動を抑え込んでいたからだ。

 もし彼が思いのままに動いていれば、虐められていた少年は今頃死体だ。

 

 中学校の頃、虫が大好きになった。

 彼らは甚振っても罪に問われない。悲鳴を上げないのと罪悪感がこれっぽっちも湧かない所は致命的だったが、それでも多少は楽しめた。

 足を一本一本引き抜いた時、必死に暴れる彼らを見て心を躍らせた。

 この子達にも家族が居るのかな、なんて想像してみたりして。痛みはちゃんと届いているのか心配になったこともあったか。

 最終的に歯でゆっくり噛み潰してやる遊びに嵌まった。

 少しずつ命を磨り潰す感覚は今まで感じた中でも特に感動的だったのだ。

 

 高校生の頃、激しい痛みに襲われた。

 正直死を覚悟したが、ある日起きると不思議な力が使える様になっていた。

 

 それは肉体操作の力。

 彼は人間、動物問わず、彼が肉体だと認識出来る物を全て自在に操作する事が出来るようになっていたのだ。

 

 歓喜した。これで幾らでも甚振れる。

 ひたすら殴って蹴りつけて、最後に痣だけ治せば問題無い。

 別に殴られたと報告されても良い。

 証拠など何処にも無いのだから。

 

 そうして過ごす内に桑原の周りに人はいなくなった。

 

 当然だ。

 何人もの生徒が桑原から暴力を振るわれたと叫んだが、その証拠は何処にも無い。

 だがそれは確かな被害者の声であり、彼の周りから人を奪うには充分だった。

 

 大学には行かず、友達もおらず。

 桑原は家に引き籠もるようになった。

 

 社会は彼の想像以上に厳しく、社会の中では彼が一番の弱者だったから。

 

 ああムカつく。

 

 なんで俺が、特別なこの俺が。

 

 段々と溜まっていく鬱憤。

 爆発は目に見えていた。

 

 海光公園の中央でイチャついていたカップルの足を切り落とす。

 悲鳴を上げる彼らの手足を引き抜き、目をくり抜いた。そうして肉を小さく小さく固め、一つの団子を作ったのだ。

 

 通り掛かった目撃者は全員団子の材料にしてやった。

 

 あぁ最高だ!

 

 今までもこうしていれば良かったんだ!

 

 体を小さくして公園から抜け出し、家へと戻る。

 これで証拠は消え失せる。

 

 桑原は高校時代の失敗を見事に活かした。

 甚振った奴を治したのが悪かったのだ。

 二度と口を開けないよう殺してしまえば良かったのに・・・

 

 そうして彼は嘗てない快感と共に眠った。

 

 今度はどうしようか。

 敢えて片方だけ残して甚振った後、怯える顔を見ながら酒に酔うのも良いかもしれない。

 

 

 

 コンコンコン

 

 扉がノックされる音がした。

 

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