タイトルそのままの短編です。

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短編:少年兵戦記ものの冒頭

 “彼”が静かに瞼を開けた時、そこは微かな光しかない暗闇に包まれた広い部屋だった。天井からは小さな電球が赤やオレンジ色の光を放ち、壁には無機質な鉄の塊……いわゆるロボットが多数並んでいる。頭に巨大なモノアイを載せた人型のそれらは、“何か”を待っているように動かない。

 視点が“少年”の近くに戻った時、彼は腰のホルダーから一挺の拳銃を取り出した。背にする壁の外からは轟々と重苦しい音が響き、筒状の部屋全体を小刻みに揺らしている。

『《All aircraft(予定機体全ての) passed the target area(目標地点通過を確認).》』

 天井に備え付けられたスピーカーから男の声が響くのを合図に、それまで岩のように静寂を纏っていたロボットたちが一斉に起動する。見ればその手には一挺のライフルが抱えられ、モノアイにも赤い光が灯っている。だが少年はふうと息を吐き、拳銃を左手に持ち変えて胸のポシェットから覚醒剤(クリスタル)の塊を取り出した。

『《All hands(全乗員各自) prepare for descent(降下攻撃作戦に備えよ).》』

 スピーカーからは間を置かずに音声が発せられるが、少年は興味も示さず親指ほどもある特大の覚醒剤を口に含んで奥歯にあてがう。そして拳銃の弾装を外して残弾数を確かめると、もう一度弾装を込めて撃鉄を起こす。拳銃を腰に戻した瞬間、スピーカーから三度(みたび)音声が発せられる。

『《Only the captain Hikaru(本作戦の成功は),knows where this operation will lead(隊長である光にかかっている).Good Luck(君の無事を祈る). and Glory to the Atatnai(不死隊に栄光在れ)!!》』

 少年兵【(ひかる)】はその名を呼ばれた瞬間、口の中のクリスタルを噛み砕き、そして目を見開いて立ち上がった。周囲のロボットも同時に立ち上がり、手に持つライフルの安全装置に手をかけている。

 ──(ひかる)はその刹那の間に広い通路を走り出していた。雲が風に流れるかの如く静かに、されど稲妻のような速さで、()()へ向け疾駆する。

 視線はただ出口と思われる方向に向けられ、そこにある横一文字の隙間から光が見えている。

『作戦開始時刻です。総員、出撃準備を整えてください』

 スピーカーから女の声が発せられるが、(ひかる)は脇目も振らずに少しずつ広がる光へ向けて走って行く。

 そして、子供が通り抜けられる程度に広がった隙間……つまり縦開閉式の扉の前で、彼は一度足を止めた。

 亜音速で風を切る輸送機のエンジン音は扉が開いたことでより大きく聞こえる。虚空の直ぐ目の前に立つ(ひかる)は青く広がる空に顔を向けたまま、(まぶた)を閉じて思考を巡らせ、作戦の内容から実行予定地の地形まで、あらゆる情報を静かに整理し始めた。“敵”の潜伏位置、攻撃目標への到達時間、失敗時の予備作戦などは事前に頭に叩き込んである。それらを活かすべき瞬間も理解している。後は現場での機転のみ。

 思案が纏まるまでのその間は(わず)か一分。ロボットたちが列を整えたのも同時。再び目を開き、呼吸を整える。

「総員降下」

 ただ一言呟き、既に開放された扉から飛び降りる。ロボットたちも彼に続いて次々と機外へと飛び出して行く。ロボットの骨格を被う流線型の装甲は、空気抵抗を減らすのに適した構造だ。それらロボットのモノアイに埋め込まれている小型カメラから、リアルタイムで風防のガラスに写される異様とも言える光景を見守りながら、輸送機の操縦桿を握る操縦士の片割れが言う。

「いつ会ってもとんでもないガキだ」

 彼らは何十という人型の機械を従えて宙へと飛び出した(ひかる)のその姿に、言い表し様のない不安感と違和感に身を震わせていた。

 しかしこれも無理もない。致死量を遥かに上回る量の覚醒剤を取り込んだ彼の身体には、既に異変が始まっていた。細くしなやかな腕から肩を通り、華奢な胸から喉に、そして目元の周辺には太い血管が浮かび、(わず)かに見える程度ながら鍛えられた筋肉も隆起しているのが分かる。あどけない目蓋(まぶた)は“かっ”という音が聞こそうなほどに大きく開き、瞳孔も限界まで広がり、吸い込まれそうなほどに黒い丸が居座っている。

 決して強靭ではない心臓の拍動も分間200回を越える数値であり、まさしく寿命を削る危険な状態である。

 もう一人の操縦士も、声を震えさせながら一言。

「あんな小さな子供が……まるで……………………」

 ────そうだ。この(ひかる)という男児は、まるで()()()()()()()()

 ────否、彼は()()()姿()()()()()()()()()()と呼ぶべき人物。

 その黒い瞳が見据える先にあるものとは、果たして………

 


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