「「時代と言うものは刻一刻と変わっているの」」
目の前の少女のそんな声が、目の前と手元のスマホから同時に聞こえてきた。
長い金色の髪と青色の目、そしてあまり日常では見かけないゴスロリの服装。それはまるで人形のような見た目で──というか元人形なのだが。
「「昔、私達の存在は人間にとっての未知の恐怖に存在と原因を押し付ける為にあった。例えば、雷獣。この妖怪は雷なんてものがまだ解明されていなかった頃にその落雷と共に地上に落ちてくる存在として作られたものよ」」
そこで一旦息を置いて、
そう、メリーさん。一昔前にネット上で有名になった都市伝説の一つの御話に出てくる怪異である。御話のオチでもある『私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの』なんて台詞は何処かで聞いたことがあったりするのではないだろうか。ちなみに俺はめちゃくちゃ聞きなれてる。
「「未知の恐怖というものは分からないから怖いの。何故起こるのか。いったい何者なのか。そういう未知は人の想像を掻き立ててしまう……逆に言えば、
「……何も解決してないのに?」
「「何も解決してなくともよ。よく分からない大きな音がずっと響くのは怖いけど、それが工事の音だって分かったら安心しちゃうでしょ?音が消えた訳でもないのに」」
「あー、なるほど……」
「「昔はそういう未知の恐怖が沢山あった。だから、神様も妖怪も沢山作られて、沢山後世に伝えられたのよ……まっ、忘れられたのもあるでしょうけど」」
いい加減煩くなってきたのでスマホの方は切って、俺は立ち上った。残念なことに、未だに目線はメリーさんの方が少し上である。
なんで元人形なのに背が高いんだと勝手に怒りつつ、少し歩いてサクッとお茶を用意した。こういう動作が短く済むのが、六畳ワンルームの魅力な気がする。
「でも、科学の発展と共に未知の恐怖の正体が人間達に解明されていく度に私達の存在は必要なくなった。それと同時に、存在と原因を司っていた我々は原因を奪われ存在も希薄なものになった……けれど、そのまま消えた訳でもないの」
「お茶飲まないのか?」
「薄いから飲まない……話を続けるわ。長く話続けられたが故に私達の性質は徐々に変わっていたのよ。伝言ゲームで、人を介していく度に言葉が徐々に変わっていくようにね。だから、気づけば私達は原因ではない別の物を司る様になっていた──そう、恐怖よ」
洗い物増えただけじゃんと悪態をついて、メリーさんに用意した筈のお茶を飲んだ。計十五回使われたお茶パックが作り出した薄いお茶。飲んでみた所、味も相当薄いのでそろそろ替え時かもしれない。
「怪談、七不思議、都市伝説。それらで登場する私達は単なる聞いた人に恐怖を与えるだけの存在よ。話の中に回避方法があるのは良い方で、どうしようもない存在なのが殆ど。登場人物が死ぬのも珍しくないわ」
「ちなみにこの話、いつまで続くんだ?」
「もう少しで終わるから我慢して……全く。でも、それも一昔前の話。今はまた私達の存在は少し変わっている。いや、変わろうとしていると言った方が正しいかしら」
そう言って、メリーさんはスマホの画面をこちらに見せてきた。それはとあるSNSの画面で、八尺様という言葉で人の呟きを検索されたものが写っている。
「えーっと、何々?【ショタコン八尺様】【トロピカル八尺様】【八兆尺様】……なんだこれ?」
「全部SNSのおふざけよ。情報の発信と伝達が速いSNSでは、小さなコミュニティでの内輪話も場合によってはすぐに広がってしまう……悲しいことに既に私はショタコンになっていた八尺様も南国姿の八尺様も見たことがあるわ」
「八兆尺様はいなかったのか?」
「存在が曖昧な私達にとって、こうも簡単に自身を成立される話がふざけ半分で改変されて自身も歪んでしまうのは大きな問題よ。だから、私達は自ら率先して
「おい、八兆尺様はいなかったのか?」
「だから、私達はそれぞれ人間と協力して自らの存在を確立するために──」
「だから、八兆尺様はいなかったのか?」
「──煩いわね!!いるわけないでしょうがそんな化け物!!」
他の概念が足された八尺様とは違い、残念ながら八兆尺様はいないようだった。いたら絶対面白いのにな、と思いいつつ話が終わったらしいメリーさんに一つ質問をする。
「で、ちなみに何が言いたかったんだ?前者は初耳だけど後者は聞いたことあるぞ」
「貴方が真面目に取り合ってくれてるとは思えないから、もう一度説明してあげてるの。こんな美少女が頼み込んでやってきたというのに、薄いお茶と豆苗料理しか出さないし、バイトの時間で会議もできない時もあるし……貧乏を言い訳にサボってるんじゃないでしょうね?」
「これが頼み込んでる側の態度か……?」
そんな此方の都合など知ったこっちゃないというジト目でこちらを見てくるメリーさん。思わず、目を逸らしてしまったが俺は別に悪くない筈なのだ。そもそも、協力する義理なんてのものは無いわけだし。
けれど、曲がりなりにもこのメリーさんのお願いを聞いてしまったのは俺なのだ。それなのに途中で見捨てるのはなんか駄目な気がする。
「……勘違いしないで欲しいんだが、俺は食事にお金を使ってないだけで貧乏ではないからな?家賃とか光熱費だって余裕を持って支払ってる」
「知らないけど……重要なのは作戦の方よ?」
「分かった分かった。今すぐは無理だけど、一週間で考えてくるからさ。それでいいだろ?」
「……まっ、本当に考えてくるならいいわよ。その代わりダメダメだったらボコボコに扱き下ろしてあげるから」
「……加減はしてくれたりは?」
俺のその頼みに返事が帰ってくることはなく、メリーさんは何処か恐ろしい笑みを浮かべるだけだった。