出オチ魔王に徒手がインストールされたら 作:レンガチェッカー
ダーナル村は20年程前に開拓された村らしい。
そのため年季のあるような建造物はなく、どれも新しめな印象がある。
【岩】の魔王が作ったダンジョンから一番近い村でありダンジョンへの中継地点としての役割もしている。
ダンジョンの中継となる街や村は冒険者と呼ばれる人間が集まるためそれを商機と商人が集まるなどして経済の流れが発生し、その土地はカネが潤う。
ダーナル村も例に漏れず村と名が付くが活気があり先に寄った街と大差ない栄え方だ。
もっとも村の奥は田舎の形式を残し畑が広がっていた。
帰ってきた武闘家は後者の方にいるらしい。
村の住人が驚かないように頭部にある角は魔法で隠し身なりは少々良い程度にしているため浮いてはいない。
ただナイトの姿はフルアーマーのままなのでとても注目されている。
そんな中、武闘家の話やどこにいるかを訊き回った結果一つの民家に到着した。
そこらの家と比べて特段何かがあるわけでもなく至って普通の民家だ。
ドアのベルを鳴らす。
「……いないな。」
『そのようですね。』
家の周りを確認すると裏に畑があった。
最近村に戻ってきたと聞いたがそれにしては作物が実りすぎている。
「おめぇら俺の畑になんの用だ?」
声をかけられて始めて存在に気づく。
(いつから居た?)
気配を感じなかったことに内心で驚く。
「畑には用はないですね。最近この村に来た実力のある武闘家がいるという話をお聞きして自分は、モラクスは来ました。」
喧嘩腰だと思われないよう言葉は丁寧なものを使うことにして会話をするほうがいいだろう。
武闘家は若く見えるが年は中年くらいだろう。格好もそこらの村人に寄せているが筋肉の盛り上がりはただの人間ではないとわかる。
背丈はモラクスより大きくナイトよりは小さい。
190センチ半ばくらいか。
図体は太くはないがかなり鍛えられて無駄がない。
標準の身体に太くなりすぎないくらいに筋肉を足したような絶妙な塩梅。
顔つきは絶妙なその体躯に合うさっぱりとした人物だろうと予想できる端正よりの印象。
「じゃあなんだ?騎士まで連れてきて。」
「彼は私の従者です。この国の騎士ではありません。どんな技術があるのか、どんな鍛え方をしているか、どれほど強いのか。それを見にきました。」
「ほぉ…つまり腕に自信ありな訳だな?」
武闘家の男は少し笑った。
「妙な気配がするがやれるのはそっちの鎧か?」
「自分です。始めて半年の素人ですが。」
「おう、そうか。まぁ悪くねぇな。」
武闘家の男は意外そうな表情をみせる。
「俺はデュラ、そんじゃ…一つ手合わせ願おうか!」
今モクラスは村の空き地にいる。
武闘家…デュラと名乗った男は目前でそれらしいウォームアップをしていた。
「んじゃあいつでもいいぜ俺は。」
デュラの挨拶即手合わせはフットワークが軽すぎないかと心の中で思う。
自分としては先にどのような闘いをするか直接見て学べるためこの上ないがそれはそれとして不安にもなる。
「先に決まりなどは決めときますか?」
「おん?死ななきゃなんでもありでどうだ?お前さんも死にに来たわけじゃねぇだろ。」
「わかりました。ナイト、それらしい合図を頼む。」
『かしこまりました。』
ルールはシンプルなものだった。
だがその方が実戦には近くこれからの成長の機会となるだろう。
『ではこのナイトが勝負の始めを合図します。』
呼吸を正す。
集中力を極限まで上げる。
デュラまでの距離は3メートルある。
『始め。』
先に動いたのはモクラス。
二人の間合いを一気に縮める。
横腹を締め拳を放つ姿勢に入り、それは隙が小さく次の手を打つ布石にもなりうる攻撃。
既にお互いの拳が、蹴りが入る距離まで接近した。
ここまで1秒未満。
デュラはモラクスの距離を詰める速さが並のものではないと理解する。
モラクスの撃つ拳を何もが受け止めなかった。
気づいたのか咄嗟に姿勢を低くしながら180度回る。
風が顔に僅かな時間だけ当たる。
デュラは回避の次に蹴りを放ったのだ。
(この先手の打ち方で相手の動きに対応できた。だが反撃までされている。対人では難しいか。)
デュラは躊躇なく突撃してきた。
(この人は強い。守りは足枷になるな。)
ボクシングのジャブの要領で反撃をされ、それを躱すため動く。
途端、拳の軌道が変わる。
(これは!?)
胸の辺りに衝撃が走り足がよろけてしまう。
一発目は無駄が少なく回避できた。
二発目は胸部とはいえクリーンヒット。
三発目が来る。
これは重い一撃だと確信したモラクスはあえてよろけを利用し倒れ、免れる。
「おおっと。」
デュラは無意識に呟く。
手のひらが地面に付いた瞬間腕の胆力ゴリ押しで跳ね起きの姿勢で両足蹴りを放ったのだ。
モラクスは両足蹴りを躱し足を掴もうとするデュラをこれもまた足で払い彼の腕を足場にして姿勢を整え逆立ちで反撃をした。
距離をとり、逆立ちでの曲芸に似た戦いをやめ短い時間だが身体を休ませる。
(この様子では自分の技には持っていけないかもしれない。しかし何だこの感覚は?)
モラクスは対人戦の経験はないに等しい。
確かにサイクロプスやオーク、スケルトン系の魔物など人型相手はあるがフィジカル以外を積極的に用いる対戦はナイトとの手合わせ以外ほぼなかった。
そのナイトも素手での格闘ではなく本来は槍の使い手のため得意分野でない。
(今必要なのは攻撃と守備を同時にこなすような手段。しかしありえるのか?)
デュラは接近する。
一度モラクスは思考を切り替え構えた。
(まともに相手をすることができるように払いで対処できるか試す…)
しかし目に映るのは、
咄嗟に躱す。
打撃を払うように考えていたが来たのは大振りの重い蹴り。
今理解した。
格闘戦における手の内を読み合いがこの瞬間にも行われていることを。
何より、
(すごい、大振りだが隙がない!)
自身で躱し軽い反撃ができるかどうかを判断している。
モラクスの一撃は軽いとはいえ生まれ持った腕力は魔王の中では優れている部類ではないが人よりも強い力を持つため火力はある。
それでも防戦に思考が絞られていることを認識した。
ならばこちらもそんな思考を止めて対応せねばならない。
「くっ!!」
まだモラクスは回避の一手が続く。
幸い動体視力は魔物の相手をしていたことで磨かれており避ける行為はできている。
(これが対人戦。あぁ…人間とはここまで強いものなのか。)
出会って僅かな相手に感動していた。
この世に生まれ落ちてまだ半年程度のはずの【邪】の魔王モクラスは心躍る感覚に浸る。
人間は弱くて脆くてその身に宿る精神は未熟で利己的。
だから魔王が導く。
今までに得られた情報、魔王のあり方から魔王は人よりも上位の存在のように存在しているはずだ。
本当にそうだろうか?
目の前に立つ人間、デュラはドラゴンすら徒手で倒した自分よりも優れた戦いをする。
モラクスは攻撃の薄くなった瞬間を見切り反撃に移る。
殴りも蹴りも一撃一撃が強力な攻撃。
拳法型の攻撃は素早く反撃されフィジカル主体の攻撃は的確に距離をとられる、あるいはギリギリで避けられる。
デュラの四肢のどこかを掴もうとしても手痛い反撃をもらうだけ。
重い攻撃は空振りか地面に少々穴ができるだけ。
魔王には現実に対し変化を生じる力、魔力がある。
人間にも魔物にも備わっているそれを利用してデュラに挑めば強い勝ち筋を掴むことができるかもしれない。彼のものからは魔力の存在は感知できない。
魔力の少ない人間は街でもよく見かけた。
つまりデュラは魔力を使った何か、魔法らしき手段はない。
だが…
(…それではこの戦いに意味はない。)
自らの格闘の技術を磨くためにここまで来たのだから。
今、拳がデュラに当たった。
次に目にしたのは放たれた拳の衝撃を姿勢の変化で殺しダメージを防いだ姿。
「さっきのはすげーなぁ!フッ飛ばされそうだ!」
「それはどうもありがとう。」
お礼と言わんばかりの蹴り上げを横へのステップ移動で避け、その反撃に回し蹴り連続で繰り出し踵落とし。
「それは見たことねぇな。」
「素人の独学なので。」
飛び交う打撃の応酬の中、二人は対話をする。
「攻撃が速くて重い、お前さん人間か?」
「仮に違うと言ったらどうします?」
対話のため攻撃にはお互い必殺の技は無くただ最低限の配慮で闘う。
「どうもねぇよ。どんな奴でも悪い奴ならシメる。そんだけだ!」
「そうですか。」
数十にも及ぶ交戦の中でモラクスは飛んでくる拳を強く払う。
途端相手が姿勢を崩した。
即座に顔面を狙いストレートの一撃。
デュラは踏ん張る。
足で踏ん張りをつけた以上移動での回避はできない。
拳と拳がすれ違った。
防御されなかった一撃はそれぞれ相手の顔へ突っ込む。
(_これはっ!)
「んぐっ!?」
これからの情報処理ができない。
デュラへの一撃が当たらなかったことだけを理解。
モラクスの意識はそれのみを認識した。
「俺の勝ちってことでいいよな?」
数秒の合間で僅かに回復した意識で声は聴こえる。
「…はい。…動けま…せんね。」
身体は力なく、膝立ちから、正座で座り込んだようになり、止まっていた。
デュラ
原作にはいない。
人間も強いやつは強いという設定がありそれを反映。