出オチ魔王に徒手がインストールされたら 作:レンガチェッカー
【邪】の魔王モラクス(ラース)は人間に扮して闘技場へ闘い赴く。
入門戦は新参者の闘い、質は玉石混交。
第2闘技場で活躍している闘士よりも平均的に弱いが実力が飛び抜けている人物がいる可能性も決してなくはない。
__________
第2闘技場にて実力上位の闘士、ライドウは入門戦を見に来ていた。
「(…おい見ろ、ライドウさんだぜ。)」
「(相変わらずクールビューティーってやつだな。)」
ヒソヒソと周囲の観客らは彼女の噂をする。
近世の西洋風軍服とライダースーツを足したような衣装でサーベル、別途に仕込み杖を主に用いて闘う闘士の中でも珍しい変わり者だ。
変わり者な要因として現在魔術を主体に闘う闘士がいるため闘技場内の強さの環境は魔法、あるいは耐久に優れた闘士が強い傾向にある。
その中で魔法をあまり用いず防御も優れているとはいえないが活躍している現状から珍しい闘士といえる。
(入門戦の1試合目…試合ルールは勝ち残り戦。戦うのは_)
『お待たせしましたぁー!!只今より入門戦が始まります!!』
司会の声が響く。
そして新人が会場に入場した。
『最初にやり合うのはこいつらだ!!』
会場に入ってきたのは5人。
全員男だ。
「みんな男かよ!」
「頑張れひよっ子どもー!」
「ウホッ…いい男。」
(なんだあの闘士、得物なし?いや素手?)
『早速新人共の紹介だぁー!!右端から、ベンチー!この中で一番デカい、肉付きもいい!重剣の扱いにも期待できる!この試合の一番人気かぁー!』
ベンチー
身長が2メートルクラスで筋肉も実用性が考えられているスキンヘッドの男。
使う重剣は彼の筋力があれば攻撃はもちろん魔法への防御にも使えるだろう。
『次にコーシュー!!杖、ローブから彼は魔法使いみたいだ!魔法使いならどんな魔法を使うのか楽しみだぁー!!』
コーシュー
体躯は平均、筋力はあまり期待できないが魔法主体で戦うなら彼は闘技場では強いだろう。
『中央にはホック!!こちらは体格良し、タッパ良しで盾と剣の重ファイター!!鉄壁と見た!』
ホック
皮と金属を合わせた防具と兜を纏い盾まで付けている。
本人の素質によっては魔法を耐えベンチーの重剣にも対応できるかもしれない。
『その隣にはラース!なんだっ!?彼は武器なし防具着用なし…まさか素手でやるというのか!?やれるのか!!』
ラース
武器なし、防具なし、少し高そうな服を着ているが耐久性に期待はできなさそうに見える。肝心の体格も微妙。
『最後にバキュム!彼も魔法使いか!いや、剣も持っている。これはそういう技があるのかぁー!?』
バキュム
体格は良く魔法もできそう。更に近接に対応できるのか短剣まで使うようだ。ロン毛。
『闘士は揃った!諸君!一儲けしたいなら誰が勝つか当ててくれ!今日は新入りが多いから5人一斉に闘って勝者は一人だけだ!一人を当てろぉー!!』
(生き残り戦なら魔法使いは初手で相手の数を減らすのが効果的なんだけどベンチーが残ったら大変そうだね。)
「ラースはないよな。」
「俺もそう思う。」
「ベンチー…いい。」
謎の寒気がしてライドウは身震いした。
(金は賭けないけど…もし賭けるなら超大穴でラースかな?)
『一儲けしたい者達からの集計結果が来たぞ!最初の一番人気は……ん?ラース!?倍率は2.2倍!次にベンチーの2.8倍でその次バキュムが3.6倍_』
(みんな大穴狙っちゃったかー。珍しいな。)
『コーシューの5.1倍、ホックが14.4 倍だ!!』
観客はもう笑っている。
みんな何やってんだよ、と。
『お待ちかねの試合だ!どんな闘いになるのか目ん玉かっぽじいてよく見ろぉー!!』
パァーン、と笛が大きく鳴った。
鳴った直後、誰も攻めないず一度様子見から始まる。
新人戦ではセオリーというものは期待できない。
そのため勝利の鉄則から外れることも多々ある。
そのため5人は行動を始め_
ラース(モラクス)にベンチーとホックが、コーシューとバキュムが闘いだした。
(最初から魔法使い同士での撃ち合い?…これは二人ともどこかで負けるね。なら格闘戦の3人の方が面白そう。)
ベンチーとホックは敵対せずラース(モラクス)に挑みかかっている。
ベンチーから放たれた重剣縦振りの一撃をラースは横にそれて回避、ホックとはベンチーを挟むことでホックへの盾にした。
(ラースというやつ立ち回りはいいな。)
ホックはベンチーの背が向かないように立ち回ろうとするがラースが誘導するためホックは上手くラースを挟めない。
ベンチーの攻撃に当たるわけにもいかないので上手く動けない。
より前に出ようとした瞬間、ベンチーをすり抜けラースの蹴りがホックの胸部に直撃した。
ラースは背を床につけて倒れる。
(そう来るのか…フットワーク、火力それぞれ凄まじい。本当に過去戦闘職についてないのか怪しいな。)
『ダウン!!なんと、ベンチーとホックの二人を相手にしながらもものともしないラース。それどころかホックを一撃でダウンだ!!』
一人となったベンチーは警戒する。
鎧を着ている男を一発でダウンさせたあの蹴りを学習したからだ。
「ラースガチなやつかよ…」
「ベンチー負けるなぁー!」
「ラース、二人ともやっちまえ!」
急展開に観客の声援も大きくなる。
コーシューとバキュムは未だ膠着状態で張り合っている。
今度はベンチーの腹部にラースの拳が入った。
それは重剣の突きをすり抜けて突き進み更にベンチーのパンチを低く重心を下げて回避、アッパーカットが炸裂。
よろけたベンチーに蹴りで姿勢を屈めさせ、再度腹部を狙って短く拳を撃ち出す。
『なんとベンチーがダウン!!ラースが二人目をダウンさせたぞ!おおっと!?ホックが復活、踏ん張れホック!!』
(体格差をものともしないパワー…これはもうアイツの勝ちで決定かな?)
流石にヤバいと判断したコーシューとバキュムがラースを狙う。
ホックも加わり3対1の戦闘になる。
前衛がホック、後衛にコーシューとバキュム。
冒険者でもよく見る役割分担だ。
ラースの足元から風が巻き上がる。
強風で視界を確保できないラースへの追撃に燃える球状の魔法を発射。
(火力重視、ちょっと焦ったねそれは。)
ラースは前進、炎の球をスライディングでスレスレの回避。
コーシューが速度に期待できる風の刃を複数飛ばす。
本当に空気の刃なら速くかつ無色のため視認できない。
しかし風の魔法は薄く緑に光るため視認できしまう。
そして全て躱され、最初にかち合うだろうホックが盾を構えた。
(あっ…)
観戦しているライドウは気づいた。
これから起こることについて。
ホックはラースから見て倒す優先順位が低いと。
ホックは無視され走り抜けられた。
当然コーシューとバキュムは身構える。
防御の魔法が作動し、光る壁がラースの目前で展開された。
ラースの後ろからはホックが迫る。
ホックの剣が横に一閃、空を切り。
視界に映るのは脚、三角跳びからの蹴りを見て即座に盾を構える。
盾を足場にラースは高く跳ぶ。
壁を越えるほどに。
コーシューに落下のキックが命中、バキュムは追撃の裏拳に反応し、短剣を構えて防御。
『これはすごい!!曲芸だ!光壁を跳び越えて攻撃したぁー!!』
裏拳はバキュムの手に当たり短剣が落ちる。
しかしカウンターの爆破魔法がラースに放たれた。
至近距離からの自爆に等しい爆破、煙が晴れると_
ラースがいない。
ホックが巻き添えで倒れていた。
バキュムもラースの短い突きの打撃を受け倒れる。
立っている闘士はラースただ一人。
『試合終了ォー!!勝者は一番人気のラースだぁ!!!』
(ふふふふ…ヤバ。)
「うおぉぉぉー!!」
「何じゃありゃ!?」
「ベンチーくぅぅん!」
一番人気の勝利、観ていない者からしたら4人を1人で倒したこと以外は「まぁそうだよな」程度にしかきっと思われないだろう結果に終わった。
モラクスは入門戦を突破し闘士として闘技場に出られるようになった。
ファイトマネーも試合内容が面白いと評価されて少し多めに授与された。
「おめでとさん。毎日出ることはねぇが稼ぎたいときは朝イチで出場するって申し込めば多分問題ねぇ。」
デュラはモラクスの試合に特に驚くこともなく肩を叩きながら言う。
「わかりました。」
『…モラクス様、おめでとうございます。』
ナイトの声は不満とまではないが心配そうに聞こえた。
「…その言葉はありがたいが、きっとナイトには自分に思うことがあるだろう?悪かった。」
デュラに聞こえない小さな声で伝える。
『…もう少しご自身を労るべきかと思います。それと今後の活動のため配下を増やすべきと提案します。』
「……善処する。」
魔王として活動することに興味の薄いモラクスだったがナイトからの意見でそちらの活動にも注力することになった。