ガルパンRTA 大洗の担い手ルート   作:京都府南部民

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抽選会→サンダース戦前

さいたまスーパーアリーナに来るのは、これが初めてという訳ではないが、そう毎日訪れるところではないので、あちこち見渡してしまう。

本音を言うと、今日は西住隊長に代わって、全チームの練習を監督した方が、強化に繋がるのだが、どうしても現場で会いたい友人がいたからだ。

戦車道をやり始めたと聞いたら、彼女も喜ぶだろうし、それ以上に彼女と出会えることに喜びを抱いている自分がいる。

 

「んーーーー! 終わったぁ! ねぇねぇ、会長たちが帰って来るまでどこかでお茶しない?」

 

武部さんの言う通り、会長たちは連盟の方に赴いて1回戦の会場や諸ルールについての説明を受けに行っている。

こういうものは長くかかるだろうから、どこかで暇をつぶす必要はあるだろう。

 

「あぁ、それなら良いところを知ってますよ! ここからちょっと歩くんですけど、戦車喫茶ルクレールてのがありまして」

 

秋山さんは、無類の戦車好きだそうで、戦車道の界隈についても幅広い知識を有している。

戦車喫茶ルクレールとは懐かしい。こういう戦車道の大会や、イベントがあると多くの学生や愛好家が通う喫茶店で、私も中学生の時、全国ジュニア選抜大会の抽選帰りに通ったものである。

 

「では、そこに行ってみましょう。砲門さんもどうですか?」

「あぁ、すんません。実はちょっと友達もここに来てる筈なんで、挨拶がてらちょっと探してきますわ」

「そうですか……」

「お友達も戦車道やってるんですか?」

「はい、小学生ン時に大会で知り合いまして、中2以来音沙汰ないんですけど、折角やし、会いに行こう思いまして」

「幼馴染かぁ……良いなぁそういうの! それじゃ、うーん、終わったら戦車喫茶で落ち合いませんか。何かあれば連絡しますんで」

「そうしてくれると助かります。ほな」

 

アンコウチームの面々に許可を貰うと、早速会場の周辺を見渡す。

黒森峰、プラウダ、サンダース、知波単……と生徒がごった返しているが、それだけにBC

自由学園の制服はよく目立っていた。

青を基調としたベストの集団はどこか剣吞としているが、こうもライバル校が多いのでは無理からぬことであろう。

 

「なぁなぁ、すんません。安藤さんってここにいます?」

「うん? あんたは?」

「大洗女子の砲門ってもんです。安藤さんとは子供ん時結構仲良くさせてもろてたんですけど……」

「砲門……あぁ! 関西ジュニアチャンプの!」

「安藤からはたまに話を聞いてるよ。でもゴメン、今ウチらも自由時間でさ。どこにいるかって言われると」

「左様ですかぁ……ほんならこの辺りぶらぶら探しときますんで。もし見かけたら『砲門が会いに来た』とだけお伝えください」

「うん、分かった」

 

なるほど、自由時間であったか。

しかし、探すといったもののここは広く、生徒も多い。いくら特徴的な制服を着てると言っても無理がある。

こういったものは巡りあわせだから、致し方ないと思ったその時。

目に入ったのは、日焼けした肌に三白眼。巡りあわせである。

私の友人―――安藤レナであった。

 

「安ちゃん!」

「うん? ……砲門! 砲門じゃないか!」

 

お互い成長した姿に一瞬別人かと思ったが、その声は我が友安藤レナではないか。

制服を着崩して、テレビのディレクターのような恰好をしているが、友人を見間違える事は無かった。

 

「ひっさしぶりやなぁ!」

「こうして会うのは2年ぶりか。お互い中学の時は忙しかったからな」

「ウチは戦車道一辺倒やったし、安ちゃんはそれに加えて受験勉強しとったからなぁ」

「何にせよ、元気そうでよかった。 ……ここにいるって事は戦車道やってるのか?」

「おう、成り行きってやつでな」

 

彼女には年賀状で、高校では戦車道ではなく勉学に励む事を伝えていたので、当然の疑問であろう。

 

「大洗女子か……初参加と聞くが、どうだ、大丈夫なのか?」

「まぁ、そこは気張るところでな。今色々ガンバっとるよ。なぁ、折角やしどっかで飯食いながらあれこれ話せぇへんか? さっき、君んとこの生徒に話聞いたら今自由時間なんやろ?」

「知っていたか。よし……それなら行きたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」

「おぉ、ええでええで」

 

一瞬考え込んだ安ちゃんに連れられて、アリーナ近くにあるチェーン系列の鉄板焼き屋へと足を踏み入れた。

戦車喫茶と同じく、ここも恐らく戦車道女子のたまり場になっているが、どちらかというとOBと思しき年齢のお姉さま方も見える。

案内された席はちょうど二人用で、窓際と中々雰囲気がある。夜景も綺麗に見えるかもしれない。

お互いにあくまで自由時間なので、あれこれとメニューは悩まずに津山風ホルモン焼きそばの超特盛を頼んだ。

 

「なぁ、文句いう訳ちゃう……や、文句言うわ。こういう時ってもうちょっとシャレオツなカフェとか、せめてファストフード店ちゃうんけ」

「それはそうだが、久しぶりにドンと腹に来るものが食べたくてな」

「何や、BC自由学園やったらお嬢様学校やろ。食うには困らんのちゃうんけ」

「それがなぁ」

 

話を聞くにBC自由学園の食事環境はあまり良くないらしい。

良くないわけでは無いのだが、あまりにもお嬢様向けの料理しかなく、受験で入った一般人たちからするとあまりに物足りなく、そして受け入れがたいものなのだそうだ。

その代表例がエスカルゴ定食なるものである。

 

「ああいうのをたまに1回食べるのなら良いんだが、毎日食べるとなるとげんなりしているんだよ」

「うどんと牛丼を求めるってのが相当やな。もっと他にも食うもんあるのに」

「鯖の味噌煮ってどんな味だったっけ」

「キてるなぁ」

 

三白眼が白眼になりかけている

どうやら頭にB級グルメが足りていないようなので、焼けた鉄板にソースを数滴垂らした。

ジュウと鼻孔をくすぐる音に、良い匂いが鼓膜をも刺激する。

 

「お~~、こういうのだよ。こういうの」

「大洗女子で良かったなぁと思ってる」

「お待たせしましたー。津山風ホルモン焼きそば超特盛ですー」

「「おお、美味そう!」」

 

目の前にデン!と盛られた焼きそばは、超特盛の名にふさわしいボリュームで、健啖家を自負する私もこれなら満足、満腹になるだろう。

 

「安ちゃんこんな食べる子やったっけ」

「学園艦に戻ったらしばらく食生活をやり繰りしないといけないから、こういう時に飽きる程食べておくんだ」

「元を取る訳や。よし、そんじゃいただきまーす!」

 

ホルモンを麺で絡めてひとまず一口分を小皿に取り寄せる。

この匂いが堪らない。ソースでブラウンに輝く麺は、いっそ黄金と例える事ができる。

だが、麺ではなくまずはホルモンを食べて、私は攻略にかかる。

……んんんん、ホルモン。カリカリに焼いたホルモンが口の中に脂という脂を広げつつ、浸透強襲戦術を胃袋に向けて敢行している。

 

「ん~~~~~、これこれ! こういうのだよ!」

 

安ちゃんも、久しぶりといった様で、目を輝かせている。

 

「大洗は確かサンダースと当たるんだよな」

「おぉ、そやで」

「1回戦から強豪だな。何か策はあるのか?」

「なーんも考えてへん。そこは隊長の、西住さんとお話することやけど……サンダースかぁ」

 

こちらが5両で精一杯だというのに、向こうは制限の10両編成で、全力で戦いに来るだろうと思うと、このホルモン焼きそばの美味さも忘れる程に思いやられる。

 

「西住って、あの黒森峰の……?」

「妹さんの方や。優しい人でさ。おまけに度胸もあるし、アタリやと思ってるで」

「そこまでの人か。会ってみたいな」

「ええ人やで~。安ちゃんもきっと友達なれるわ。そやそや、そっちは確か聖グロとやんな?」

「あぁ、学校としても打倒の機運は盛り上がっているが……おい、後ろを見ろ。何気なくな」

「ん?」

 

食事中の会話にして、今にボリュームが小さい

何を示しているのか言われたとおり、肩のゴミを払いのけたり、屋内の看板や壁掛けのメニューを見るフリをして、後ろを見る。

 

「右の…そう3番目の席」

「知ってる人らか?」

 

3番目の席には、私たちと同じ年頃の女子が、お好み焼きを切り分け合っていた。

どこの制服を着ているわけでもなく、私服なので地元の女子高生であろうか。

 

「カバンをよく見てみな」

「………おぉ、そう言う事か」

 

この距離からうっすらと見えるポッドを描いたエムブレム

聖グロリアーナの校章である。

 

「あれが、噂に聞く」

「あぁ、噂だがな」

 

聖グロリアーナは独自の、それも専門性の高い情報部を有して、他校に諜報をしかけている。というものである。

いささか都市伝説じみているし、何と言ってもそうだと噂されている情報処理学科はオープンキャンパスでプログラミングだのなんだのをしている姿を見た事がある

しかし、姿を見るというのであれば、目の前でああいうのを見せられると、噂は噂であったとしても身構えるべきであろう。

 

「何やったら店変えよか?」

「いや、対処法はある。適当に話合わせてくれ。     そうだ! 聖グロとの試合だが、私達の編成はな……」

「え、あ…………ルクレールを極秘に持ち込むぅ!?」

 

アドリブに弱いとは言わないで欲しい。

露骨に編成の話を持ち出したかと思うと、後ろにいた3名の聖グロ生がまだ食べている途中だというのに、席を起った。

私達の座る席をわざわざ横切ると、そのままレジで会計を済ませて店を出ていってしまった。

 

「どうやら当たりのようやな」

「あぁ、編成の話をしたら目の色変えやがっ、た!」

「情報だけはダメや、で!」

「勝利も貰い、たい!」

「そうは、いかな、い」

 

ホルモン焼きそばをこれ見よがしに独り占めされそうになったので、ヘラで押さえつけたが、安ちゃんはそれを巧みに巻き取り、ほとんどを自らの小皿に盛り付けた。

 

「安ちゃん、あいつら炙るために、ウチをダシにしたな?」

「ややっ、言ってなかったっけか?」

 

ホルモンを見せびらかすように一口頬張る。

良い笑顔をしたので許すとしよう。

 

 

 

 

「そんじゃ、また」

「あぁ。今度ウチに来いよ。というかなんか持ってきてくれ」

「カップ麺でええか。箱で持って行ったるわ」

「期待しておく。じゃあな」

「聖グロ戦応援してるで~」

 

BC自由学園の生徒がアルピーヌで迎えに来たので、そのままお別れとなった。

BC自由学園は古豪と評判。安藤レナの友人として、聖グロ戦を制してくれると期待しよう。

 

戦車喫茶ルクレールへは秋山さんが言っていたように少々歩かなければならない。

まぁ、ある程度の道は覚えているから、そう時間はかからない。

入店すると、戦車道女子たちが席を占拠していたような状態だった。

しかし、大洗の制服はまぁまぁ目立つので、アンコウチームの面々はすぐに分かったが、いかにも雰囲気が悪い。

あぁそういう、と納得したのは黒森峰の生徒、西住まほがいたからである。それとお付きの人間も

 

「無様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね」

「何よ、その言い方!」

「あまりにも失礼じゃ」

「あなた達こそ戦車道に失礼じゃないの。無名校のくせに。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルールよ」

 

お名前が分からないので、お付きの人と内心で呼ぼう。

私も長く戦車道をやっているので、プライドの高い人間の存在はよく知っている。

そういった方々は往々にして実力も努力も折り紙付き。彼女もそうなのだろう。

 

ただ、それでも。この私にも、思うところというものがある。

 

「強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

「書いてもないこと、ルール言われても困るんやけどなぁ」

 

お付きの人に対して、どうしても目がキツくなってしまう。

武部さんも続いて「絶対に負けないからね!」と宣言したが、彼女は「頑張ってね」と西住まほさんと共に場を後にした。

いけ好かないな、と思ったが、少なくとも彼女たちは

 

「あの! 今の黒森峰は去年の準優勝校ですよ。それまでは9連覇してて……」

 

そう『強い』のだ。

良い戦車を揃えているだけでなく、戦略も練りに練って9連覇という偉業をはたしたのだ。

その事実に驚く武部さんで場が更に重くなる。

 

「ケーキ、もう一つ食べましょうか。砲門さんも戻って来たことですし」

「……おぉ、せやな! ちょっとガツンと食うてきて甘いもん欲しかってん!」

 

空元気を醸し出して場を盛り上げようとするが、当の自分もこの重さを共有していた。

折角のみかんのミルフィーユケーキだったが、味覚はどうにも鈍いままであった。

 

学園艦へ向かう連絡船

私は西住さんとサンダース戦について話し合うつもりだったが、お互いに何を切り出すわけでもなく、ただ甲板上で逢魔が時の空を見つめていた。

ふと、秋山さんがやってくる。彼女は私よりも西住さんと親しい。

気を利かせて、少し場を離れると二人は二人で何かを話し合っているようだったが、生徒会がやってきて、こちらは何か釘を刺すようであった。

 

「砲門ちゃんも、次も、そのまた次も絶対に勝つよう、副隊長としてよろしくねー」

 

言われるまでもない。

あの黒森峰にもプライドがあるように、私にも関西ジュニアチャンプとしての矜持があるのだ。

 

 

その日から、秋山さんが姿を消した。

大仰な言い方をしてしまったが、とにかく欠席だそうだ。

ただでさえ、少数でやっているので、一人の欠席でも気がかりだが、とにかく目の前の事をやるしかない。

 

「秋山さんは今日も来ないのか?」

「もしや出奔」

「上杉謙信だ」

「高杉晋作ぜよ」

「石川数正」

「「「「それ、か………?」

 

カバさんチームは歴史の造詣に詳しいと聞くのでノってみたが、どうにも反応が悪い。

選択肢を誤ったようだ。

 

さて、ここ数日来ていなかった秋山さんだが、今日は練習に参加した。何やら遠方に行っていたようで1年生連中からお土産をせがまれていた。

 

今日は、西住さんと本格的にサンダース戦についての作戦会議をする予定。

相手はサンダース。物量というか、質量共に兼ね備えた学校だ。

唯一、我々にアドバンテージがあるとすれば1回戦の車両数制限で向こうは多くの戦車を投入できるわけではないこと。

ハッキリ言って、アドバンテージにもなりゃしない。

 

「今日は、副隊長と共にサンダース戦の作戦を練り合うので、各自自習とします」

「戦車の塗り直しもやっといてや」

 

個人的にはカラフルなやつは好きなのだが……

作戦会議は防諜も兼ねて車庫の中の小さな部屋で行うことにした。ちょっとした休憩所である。

 

「西住さん、一応サンダースの今までの試合を見ましたけど、まず向こうがどんな車両出してくるかが問題ですわ。戦車の数も種類も豊富ですし……」

「それについてはちょっと、良い資料が……」

 

西住さんが持ち出したのは、記録用小型デバイス。

再生用のディスプレイに差し込むと、画面に映ったのは『実録! 突撃!! サンダース付属高校』である

 

「何ですのん、これ」

「ははは……秋山さんがサンダースに潜入して撮ってきたやつみたいで」

「潜入!? はえ~、すっごい。ここしばらく来てなかったのはそれが原因でしたか」

 

秋山さんの行動力に感銘を受けつつ、映像を見入る。

どうにも懐かしい面子が一人映るが、今は作戦について頭を回転させなくては。

要約すると

 

・ファイアフライが1両、シャーマンが9両(A1-76㎜砲搭載1×75㎜砲搭載8両)

・3両で一小隊の、一個中隊で編成

・フラッグ車は単独行動

 

この3点である。

 

「思いのほか攻めた編成ですけど」

「うん、もうファイアフライを投入するだなんて……」

「フラッグ車は、単独行動というか護衛は付けへんあたり、あんまり前には出てこないって事ですかね」

「そうだと思う。どこかに隠すとして……探索に斥候を出したいんですけど、どの車両が良いかな」

「Ⅳ号と三突は主戦力として採用したいですし、Ⅿ3か38tか八九式が、良いと思います」

「……この会場だと坂も多い。38tの足回りで単独行動は危険かも。八九式とM3を斥候に採用したいと思います」

「分かりました」

「それと斥候の出すタイミングは試合が始まって、展開を見極めてからにしたいと思います」

「最初っから出さないんですか?」

「その場合、向こうもその動きに気づいてフラッグ車の防衛に回すと思うんです。シャーマン3両一小隊と、フラッグ車を合わせて4輌からの攻撃を考えると、最初から出すのではなく、接敵して、相手の意思をこちらに集中させてから出した方が良いと思います」

「なるほど……分かりました。タイミングは隊長に一存します」

「うん、任せてください」

「となると、次は本隊がどう動くかですが……」

「こちらは5両、相手は10両です。戦力の分散を目的として、常に動き続け、優位になったところで三突かⅣ号で撃破したいと思います」

「機動戦ですね……良し悪し問わんから戦車が欲しいですねぇ」

「あはは……今あるもので何とかするしかないですよ」

「そうですね。ボヤいてても始まりませんし」

 

作戦内容が決まって、思わず愚痴を吐いてしまう。

西住さんも思うところがあるだろうが、苦笑で前向きに捉えているようだ。ま、眩しい

何はともあれ練習である。桃色から本来の深緑に戻るM3リーと1年生たちを見て「そういやしごき倒すの忘れてた」とあの辱めを思い出すのであった。

 

 

 

戦車道全国高校生大会『1回戦』

そう書かれた横断幕を見て、来てしまったなぁ、と実感する。

観客席には多くのサンダース生が来ており、チアガールもいるようだ。

 

「砲門先輩、どうかしましたか?」

「ん? あぁ、いや、来てもうたなぁ思って。緊張してる?」

「正直、心臓バクバクです」

「澤ちゃんらしいで。ちょっと辺りぶらついてくるわ。整備よろしく」

「あ、はい、任せてください」

 

1年生連中を育てる意味でも、試合以外のあれこれは彼女らに任せようと思う。

 

会場は森林生い茂る丘陵地帯。起伏の激しい地形で戦車の登坂能力も試されるであろう。

サンドイッチでも持ってこれば良かったと思いながら、風を浴びていると、見知った人間が寝ころんでいた。

そろり、そろり、と近づき、指鉄砲を彼女の頭上に

 

「バン」

「後ろから撃つんだ。趣味、悪くなったんじゃない?」

「ええ性格しとるんよ」

 

ナオミ。彼女はナオミである。

短髪のボーイッシュは相変わらずで、思った通りのイケメン女子になったようだ。

 

「隣ええか」

「ん」

 

座り込むが、何で話を切り出そうか悩んでしまった。

お互いにあれこれ言い合いたいのだろうが、彼女とは、こうして雰囲気を楽しんでいた中学時代を思い出す。

思えば、はじめて中学の全国大会で会った時もこんな感じだったか。

 

「戦車道、やってたんだ」

「成り行きでな。まぁ、充実してるで」

「でも大洗女子か。京滋バイパスの女王様が、えらく燻ぶってるんじゃない?」

「どっちかっていうと燃え滾っとる方やな。今日、勝ちに行くで」

「……本気で言ってるの?」

「最低人気の馬にも、勝つチャンスはあるもんよ」

 

ナオミの疑問は至極もっともで、だからこそ正々堂々と受け応える。

 

「愛。サンダースに来る気ない?」

「試合前に勧誘か」

「うん」

 

お互いに物怖じする性分ではないのが、こうしてウマが合った所以である。

 

「ウチの隊長の指揮、私の射撃、情報収集能力に、愛の指導力……合わせれば百人力だよ」

「気持ちは嬉しいけど、サンダースとかプラウダレベルの大所帯が苦手なん知っとるやろ」

「知ってる。だからジュニアの全国リーグで負けたんでしょ」

「言われてもうた。余計に行けへんな」

 

表情に思わず笑みが浮かび上がる。

こうして直裁にモノを言い合うのは、それこそジュニア全国リーグ以来だからだ。

 

「悪い事は言わない。サンダースに来た方が良い。私が手引きしておく」

「大洗にいんのはさ。親が勉強せぇ言うてたからなんは前も言うたけど、こっちの方が伸び伸びやれてるってとこあるんよ。それに………」

 

「せんぱーい! そろそろ整備終わりまーす!」

 

遠くから澤ちゃんがこちらに声をかけてきた。良いタイミングだ。

 

「大洗女子の戦車道で、楽しんでもうとる」

「……そう」

 

ナオミと共に立ち上がると、風が強く吹いた。

激励されているのか、頭を冷やせと言われているのか。どこか思惑を感じてしまう。

空を見上げると、雲が太陽を隠したところだった。

 

「なぁ、それやったら約束せぇへんか?」

「約束?」

「サンダースが勝ったらそっちに転校したるわ」

「………大洗が勝ったら?」

 

ふと、考え込む。

サンダースに勝つ。大洗が勝つ。となると、どうせだから良い物をねだっても良いだろう。

それこそ戦車なんかを融通してもらうのはどうだろうか。悪くない話だ。

それかナオミに短期転校してもらうという手もある。射撃の腕は私が見てきた中でもピカ一の彼女が来てくれたら、三式中戦車と共に乗り込んで撃破王を名乗ることができる。

あれこれと案が瞬時に思いついたが、その中でも最高の選択肢をナオミに提示した。

 

「ガム1枚ちょーだい」

 




次回は明日の8時に投稿します。
投稿させてくれーっ!
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