ガルパンRTA 大洗の担い手ルート   作:京都府南部民

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サンダース戦!

 

「ムシムシする~」

「暑い~」

「血糖値スパイク~」

 

夏を目前に控えた季節

1年生たちの愚痴はおおむね賛同するところであり、とりわけ私などはナオミが奢ってくれるというのでサンダースのキッチンカーでドカ喰いをしてしまったのだ。策士め

 

「砲門先輩いくら食べたんでしたっけ?」

「ケバブ6個、ポテトいっぱい、ハンバーガー2つ、カツサンド5個、ちゃんぽん2人前……」

「聞いてるだけで太りそう」

「どうやってお腹周り押さえてるんですか~?」

「静かに!」

 

澤ちゃんの一声で停車する。

今日の試合から…というよりは、こちらが本来あるべき姿だが、基本的には澤ちゃんに名実ともに車長をやってもらい、私がたまに指示を出すという形である。

蝶野教官よろしく、こういったものは経験を積ませる内に積ませておいた方が良いのだ。

 

「シャーマン3両発見! これからおびき出します」

 

前進しようとしたその時

左方向からの砲撃が周囲に着弾した!

 

「っ! シャーマン6両に包囲されちゃいました!」

「桂利奈ちゃん! 来た道戻って! アンコウチームと合流!」

 

森林の中をとにかく駆ける

6両もこちらに向けるとは、ナオミが言うところの隊長の指揮は看板に偽りなしである。

ただ、こちらもやられてばかりという訳にもいかず、私が何を言うまでもなく大野ちゃんが砲塔を旋回していた。

 

「ちょっとついて来ないでよ~!」

「エッチ!」

「ストーカー!」

「マルチ商法! 大野ちゃん、よう狙い定めてから撃ちや! 向こうの足を一つでも削るんや!」

「了解! これでも……」

 

森林という環境はお互いに擬態という作用をもたらしている。

深緑の色みはⅯ3にしてもそうだが、シャーマンにしても同様である。

それ故、狙撃というのは難しく、まして行進間射撃となれば格別であろう。

身を晒している隊長車にでもかすれば、御の字であるが……

 

「喰らえ!」

 

見事! 

この数日間ビシバシと射撃訓練を行った成果が出た。

大野ちゃんが難なく…いや、この冷や汗を見るに難あって命中したシャーマンから上がった白旗が、この深緑の中でよく輝いている。

 

「あや、すっごい!」

「ふぅ~~~~」

 

「ワーォ! よく当てたわね! なら、こっちも反撃よ!」

 

向こうの隊長、ケイといったか。

剛毅な人とは噂に聞くが、どうやらその通りで、ひるむ事も動じる事もなく、反撃を指示してきた。

折角、盛り上がっていた車内も周囲の着弾に再び恐慌状態に陥ってしまう。

しかし、だからといって萎縮するような子達ではない。

桂利奈ちゃんの運転をとくと見るが良いわ

 

『ウサギさん! このまま停止できますか!?』

 

通信の様子からすると、アンコウチームの方にも3両現れたようである。

サンダースめ、手際が良い!

5両に追われているこちらとしても停止はできないので、このままの勢いで合流して、南南西方面へ逃げる事が告げられる

 

「回り込んできた!」

 

またしても、先手を打たれた。

こっちが必死こいて逃げるので精一杯なのに……やはり戦力があると手足も伸びやすいものか。

西住隊長からは、このまま突っ切るよう指示が入った。

桂利奈ちゃんなどは特に驚く事もなく、それはそれとして焦りながら運転に集中しているが、確かにそれしか手はない。後は度胸だ。

ただ何度も言うように、ウサギさんチームは、思いのほか優秀なのである。

 

「あゆみ、あや。右のシャーマン狙える?」

「梓?」

「撃破できないかな」

「本当に言ってるの!?」

 

澤ちゃんの指示に私も目を丸くした。

「この子、何言ってんの?」かではない。「その手があったか」と感心しているのである。

 

「先輩、どうですか」

「ええと思う! やってみ!」

「はい! あゆみ、右のシャーマンの履帯を狙って! あやはすれ違いざまにトドメ!」

「……よーし!」

「連続撃破だー!」

 

山郷ちゃんにしても、射撃訓練は相当積みに積ませた。

練習の行進間射撃では大野ちゃんに負けるとはいえ、何度か的を当てているのは何度も目にしてきた。

うまく行くだろうか、とは思わない。当ててくれ、とだけ祈れば良いのだ。

 

「ここだっ!」

 

後方からの砲撃を躱すために、じぐざぐに動いているおかげか、前方のシャーマンが射線上に来ることは何度かある。

それにしても、そのタイミングを狙って計って、履帯を狙うと言うのは並ではない精神力と動体視力を伴う。

当ててくれ、当ててくれ、当ててくれ、当ててくれ、当ててくれ、と5回ほど念じたところで

 

「当たった!」

「よし、あや!」

「連続撃破ぁぁぁああーーー!」

 

安堵すべきなのに、思わずゾクゾクとした感情が体中を走った。

履帯を見事狙い撃った、山郷ちゃん

そして今度は大野ちゃんがすれ違いざまにエンジン部分に命中させたのだ。

白旗も確認。サンダース側もそうだが、私としても唖然とする他なかった。

 

「いや、みんな凄いなほんまに」

「先輩の指導のおかげですよ~」

「このままハットトリック目指しまーす!」

「良いなぁ、回転砲塔は」

 

感動そのままに、大洗女子としてはここから仕切り直しである。

向こうの神がかった予測能力に対応も考えなければならない。

何であれ、隊長の指示を待つしかないのだが

 

「あれ?」

 

宇津木ちゃんが何やら携帯を持ち出した。てか、持ち込んでたんか……

中学の時は、先輩方がそういうのに厳しかったから、自然と持ち込む事を思考の外に置いてしまっていた。

 

「これって……みんな聞いて聞いて!」

 

宇津木ちゃんから発せられた諸情報に車内は驚きと、にわかに怒りが満ち溢れた

武部さんからメールで伝えられたというのは『サンダースが通信傍受をしているので、メールをでやり取りしたい。また、傍受を逆手にとって相手をおびき出す』との事であった。

顔を上空に覗かせると、いかにもな気球が見下すように飛んでいる。

 

「あんまりじゃないですか、こういうの」

「いくら何でもズルくない?」

「ルールで禁止されていない以上は、しゃーない。一応は、な。でも」

 

(腹の虫がおさまらん)

 

ガラの悪さが思わず飛び出そうになるが、心中に留めておくのは西住隊長に策があるからなのと、ウサギさんチームを前にそういったものは出したくないからだ。

 

「まぁ、こういうのは出し抜いた時が気持ち良いもんやで。さ、言われたとこに行こか」

 

1回戦からこれというのは、どうにも気が悪いが、とにかく抑えて抑えて

ジャンクションへの誘引が成功し、更にそこへフラッグ車の偽情報を流すと、狙ったかのように2両のシャーマンがやってきた。

こちらに気づいたかどうかは分からないが、時すでに遅し。

三突・Ⅳ号の集中砲火を受けるシャーマン、M3の全砲塔からの集中砲火を受けるシャーマンと、2両から白旗が上がる。

 

「やったーーーーー!」

「ハットトリック成功!」

 

何度も書くが、本当に初心者だろうかと考えさせられる。

呑み込みが早いのは何につけても良い事だが、末恐ろしい限りだ。

 

次の欺瞞作戦は、こちらがファイアフライ狙いで高地に陣取るというものだ。

西住隊長はどうやら相手のフラッグ車の位置に目星が付いているようで、これでサンダースのフラッグ車を除く全車を一か所に、それもこちらが把握している場所に移動する算段だ。

恐らくだが、まだこちらが通信傍受に気づいたとはバレていないはず。

先ほどの撃破も、あくまでフラッグ車を囮に誘いだされたとしか向こうは認識できていないと思う。

 

「連絡! 敵フラッグ車発見、0615地点に集結!」

 

宇津木ちゃんの一言で、M3と言わず全車のスピードが上がる。

フラッグ車をこちらが先に見つけたのだ。

さっさと仕留めれば、大洗女子学園1回戦突破、それだけでなくサンダースに倍の戦力差で勝てたと大きく弾みになる……!

 

「カメさんはウサギさんとカバさんで守ってください!」

 

指定の地点につくと、八九式が姿を現した。ご丁寧に機銃で攻撃を受けているようだ。

 

「あくまでⅣ号が仕留める手筈やから、撃つにしても牽制やで!」

「「はい!」」

 

上手くはいかないもので、煙幕が晴れたシャーマンの意識をこちらに向けて、その横からⅣ号が撃つ作戦だったのだが、フラッグ車を任されるだけあってこの辺の勘は働いたのだろう。すんでのところで避けられてしまった。

長い追撃戦が始まる。

 

「当たんない!」

「避けんのうまいなぁ」

 

数発撃ったところで、隊長から制止が入った。確実に追い詰めてから撃つというのである。

見るに距離も着々と詰めつつある。となると後は時間の問題で……

 

っドォン!

 

「先輩! 今のは!?」

「……17ポンド砲。ファイアフライ」

 

戦車から身を出すと、未だに遠いがサンダースの全戦力がこちらに向かっていた。

お互いに追撃戦をしようというのである。砲撃が周囲に着弾し、土煙が立ち込めた。

 

「フラッグ車防衛のため後方に移ってください~!」

 

盾の役を仰せつかる。

しかし、一拍空いてアヒルさんチームがやられてしまった。

この距離間で流れ弾というのであれば、それはファイアフライ以外にあり得なく

そして流れ弾というのもあり得ない。明らかに狙ったものであった。

 

確信に変わった。ファイアフライにはナオミが乗っている。

 

となると、次に狙われるのはこのM3だ。

ナオミの射撃の腕を信じていればこそ、全力を以って、真心を込めて、相手をしなければならない。

 

「大野ちゃん、ちょっと変わってくれる?」

「え、あ、はい」

「澤ちゃん、ハッチ開けたままにしといて」

「わ、分かりました」

 

昨日見たアニメ映画のインスピレーションから、この作戦を内心で「墓標作戦」と呼ぶことにした。

それにしても、砲手なんて何時ぶりであろうか。

思い出した。中学時代の交流会、自由時間で戯れに行った狙撃勝負で、ナオミに負けた時だ。

ただ、もし車長でなければ、私は砲手か操縦手だったと自負する分には自信がある。

それに加えて、私はこの1年間勉強していたのだ。

数学の授業で培った、距離の計算式と、三角関数がどうのというやつを、脳内で総動員してファイアフライの砲口を見据える。

 

……

………ドォ

 

「今や!」

 

17ポンド砲の発砲音が聞こえたと同時に、M3の副砲が火を噴いた。

 

砲弾と砲弾がぶつかる。37㎜砲と17ポンド砲。砲として威力の差は歴然! しかし!

 

弾 道 は 外 れ た !

 

「ウソ」

「先輩、すっごい!」

「砲弾に当てるなんて……」

「ぶはははは! 墓標作戦大成功!」

 

うまくいった!

喜びが何度も反芻し、わずか雄叫びをあげる。

まぁ、昨日見たアニメ映画のストーリーだと、こっちの弾が押し負けちゃうんだけど。明日からブランド物の白スーツでも着よっかな。

何はともあれ、これで撃破は免れたのだから良しとしよう。

知恵熱を白熱する試合へ変換する。

 

「ウサギさんチームお見事!」

「砲門ちゃんやるね~」

「17ポンド砲を弾いたんですか!?」

 

心なしか、他のチームにも良い影響が出たようで、追撃に沈んでいた雰囲気がにわかに回復する。

 

「こちらアンコウチーム、丘の上から敵フラッグ車を狙撃します! 他のチームはカメさんチームを守ってください!」

「よっしゃあ!」

 

西住隊長が勝負に出た!

確かに、このまま追いかけっこをしていても埒が明かない。

ここで動くしかないだろう。

ただ、それはサンダースとて同じ。

アンコウチームを追いかけたのは……ファイアフライ!

 

「大丈夫かなぁ……」

「あゆみ、外して良いからとにかく撃って! アンコウチームの狙撃を気づかれないように! あやも牽制でとにかく撃って!」

 

依然として、砲声が鳴りやむ事はなかった。

しかし、ここで終わらせなければ、ずるずると向こうのペースに引き込まれてしまう。

それだけは避けなければならない。

気がかりなのはファイアフライ。ナオミがアンコウチームを狙っていると言うのが、この不安を拭うに拭えない。

先ほどと同じく、私はとにかく「当たれ」と念じるしかなかった。

 

「花を活ける時の様に集中して……発射!」

 

奇跡、という言葉がある。

そう簡単にお目にかかれないが、誰もがそれを奇跡と呼んでしまう程に、認識することができるのだ。

丘を回ってカーブに差し掛かったところ

目の前のシャーマンに黒い影が撃ち込まれた!

その瞬間、ここにいる誰もが、時を止められたかのように錯覚した。

 

「………」

 

長い間の末に

 

シュポ!

 

白旗が上がった! 

 

『大洗女子学園の、勝利!』

 

「……よっしゃああああああああああああ!」

「勝ったんだ……私たちが勝ったんだ!」

「西住隊長すっごい!」

「桂利奈ちゃん、お疲れ様―」

「もう手汗だらけ~~」

「あとでハンドクリーム貸してあげるね」

「…………」

 

私はもちろんのこと、1年生たちも大いに喜んでいた。

練習試合の時とは違う、本当の公式試合での勝利の味は格別であろう。

丘の上の西住隊長に向けて、全員が手を振るなり、拳を突き上げるなりをしてその喜びを爆発的に表現している。

 

「礼!」

―ありがとうございました!―

 

大洗・サンダースの両チームが最後に礼をとったことで、観客のボルテージはいよいよピークに達した。

私たちへの惜しみない賛辞をこれでもかと讃え、充実感に身を包まれる。

なつかしい。思えばジュニアの大会もこんな感じだったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車の簡易的な整備を済ませ、後は帰るだけであったが、まだまだ時間はあるようだ。

ウサギさんチームに先に行くよう伝え、私は試合前にナオミと会った野原に寝ころんだ。

試合後、こうして黄昏ることで、余韻を最後まで味わいたいのである。

空は橙と間に深紫を挟んで黒い夜が迫っていた。

 

「バン」

「後ろから撃つんか。趣味の悪さが移ってもうたな」

「良い性格してるんだよ」

 

ナオミ。

私の友人も思うところがあったようで、ここに来ていた。

遠くから「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と聞こえるがカラスであろうか

 

「おめでと」

「ありがと」

「隣、いい?」

「ん」

 

試合前より雰囲気が良く感じる。勝ったから、というのもあるが

 

「M3に乗ってたんでしょ」

「あぁ。そっちはファイアフライやろ?」

「うん」

 

ポツポツと会話が進む。独り言のようだ。

 

「一つ聞いても良い?」

「ええで」

「どうやって、私の射撃を狙えたの?」

 

これはナオミなりの賛辞であろう。

砲手と言わず、スナイパーと称される彼女からこの言葉を引き出せて、ようやく私は勝利を実感した。

彼女の疑問に対して、私の答えは極めて簡潔であった。

 

「ナオミが外すわけないからさ」

「何それ」

 

お互いに笑みが零れる。

そう、ナオミの射撃の腕をそもそも信じる事が、あの墓標作戦の基盤だったのだ。

真心を込めるとは、単なる意気込みではなく文字通りの意味である。

ささやかに風が私たちをすり抜けた。

 

「ほい」

「あぁ? 何やそれ」

「忘れたの? 試合前に」

「……そやったな」

 

こちらから持ち掛けたというのに、試合が白熱したあまり、忘れてしまったようだ。

彼女から1枚ガムを頂戴する。

口の中に広がったのは、キシリトール特有の酸味というか透き通るようなさわやかさが、頭部を駆け抜ける。

眠気など一つもないというのに、目が覚めるような気分であった。

ナオミもガムを噛み始める

 

「約束の味だよ」

「沁みるねぇ」

 

夕陽が私たちをつんざく――――――。

 




誤字脱字あればご報告ください。

次話投稿ですが2月は厳しいと思いますぅぅぅぅぅぅぅ……(2月16日追記)
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