ちびちび執筆してます……
目の前に広がる雪原に飲み込まれそうになる。
近江八幡、京丹後、但馬での経験があるとはいえ、こういった環境に慣れているといわれれば否である。
試合が始まって十数分経つというのに、この疲労感は何であろうか
「砲門さん、どう?」
「さっきから同じ風景ですわ。こりゃ、長丁場になるかもしれまへんで。レオポンさん! お車の調子はどうでっか?」
「今のところ問題ありませーん」
「こんなに雪深いところで走るのは初めてだな……」
「履帯にチェーンってつけなくて良いのかな?」
「この積雪量ならチェーン規制の対象だろうね〜」
ポルシェティーガーを運転しろと言われて、乗りたがる人間がそういないように、乗りこなす人間はもっと少ない
私が得た常識からするとレオポンチームに対して尊敬の念を抱いてしまう。
しばらくして、遠くから砲声が鳴り響いた
始まったか!
『こちら本隊! プラウダと交戦!』
「了解しました。ウチらも注意して進みます!」
本体からの報告に、ねこにゃーさんたちも顔が強張ったように感じる。
アンツィオ戦以後、短い時間ではあるがやれるだけの練習は積めたはずだ。本試合で必ず活かしてくれるであろう。
「こちら本隊! 相手の車両3両撃破したよ!」
「おぉ、流石!」
武部さんからの報告には続きがあり、林に隠れていた3輌のT34を撃破したという。すごい!
アンコウチーム、カバさんチームが長砲身を生かして2輌を撃破して、逃げ出そうとした1輌をウサギさんチームが主砲副砲の連携で仕留めたようである。
しかし、3輌だけというのは気がかりだ。作戦会議で述べたところの誘因を担当しているのであろうか。
「私たちはどうする?」
「このままの速度を維持します。ですが、そろそろプラウダとの接触もある思いますんで、警戒心強めでお願いします」
「ウチらも撃破したいなぁ」
「まぁ、出番は待っとりゃ来ますんで、おっと…噂をすれば……」
プラウダ側の魂胆を読めていると思いたい。
林に3輌潜ませていたとすれば、この別ルートにも戦車を回しているであろう。
その目的は、林にいた3輌の撃破を以って包囲に決定したと考えてよいだろう
でもなければ、眼前に迫る2輌のT34をいかに説明すべきか
「大洗だー!?」
「こごさいだのがーーーー!!」
「砲門さん!」
「レオポンさんチームは一時停止して確実に仕留めてください! ウチらは突っ込むでーーー!」
車内、三者三様のおー!との掛け声に功名心が昂るが、ポルシェティーガーの活躍にも期待しよう。
先に撃ってきたのはT34の方だったが、指示を出したももがーさんの反応速度は見事でこれを避けきることに成功した。
その隙を狙って、88ミリの砲撃が目の前の1輌を撃破した。初砲撃で初撃破てマジですか
負けてられへん!と意気込み、すれ違いざまに1発!
「初撃破ぞなもし!」
「しゃあ! レオポンさんナイス連携!」
「どうも~」
『アリクイさん、レオポンさんが2輌やっつけたって!』
『おぉ! これは我々に風が来ているぞ!』
『流石は副隊長殿だ!』
本隊からお褒めの言葉を預かる(めちゃ嬉しい)が、西住さんからはノーコメントであった。
無視をしているというわけではないだろう。何か思案を巡らせているのだろうか。
副隊長として状況をまとめよう。
・プラウダの戦車を5輌も撃破することができた。
・本隊と別動隊は合流していない。そもそも、別動隊は集落に到着していない
・撃破されたことに対してプラウダ側から目立った動きはない。
パッと思いつくだけでもこの3点だが、一つにまとめると、大洗プラウダ共に作戦進行の途上であり、『問題』は起きていない……?
『フラッグ車だ!』
アヒルさんチーム、キャプテンの一言に思考が止まった。
西住さんと話し合っていた通りだ。囮、誘因、包囲
プラウダの作戦に引っかかっている――――!
『逃げ出したぞ!』
『追え! 追えー!』
『あぁ、皆さん! 待ってください!』
『落ち着きぃや!』
制止の甲斐なく、フラッグ車に釣られてしまったようだ。
千載一遇のチャンスなのは間違いないんだけどなぁ。
「西住隊長、今から大急ぎで向かいますんで!」
『お願いします!』
「レオポンさん、聞きました? エンジンの調子もある思いますけど、なるはやで行きまっせ!」
「了解!」
自動車部さんのノリで言うなら、ピットに戻らず挑戦しちゃうドライバーとでも形容できるのが今の我々だ。
間に合えば良いのだが……と穏やかならざる心中が、寒さとは別の震えをにわかに走らせる。
いよいよ、集落に迫った時、重なる砲声におおよその事態を把握した。
「今から集落に突っ込みます! もう攻撃は始まってますんで遠慮はせんとバンバン撃ってきましょう!」
寒気に包まれているというのに、手汗を感じる。焦っているな私。
しかし、焦りとともに功名心が浮ついているのも事実だ。
包囲された本隊を救う別動隊!
良い絵になるなぁ、早く本隊と合流しないと、かっこええなぁ、フラッグ車はどこだ、これ切り抜けたら絶対掲示板見たろ、と思考があちらへ行ったり来たりだ。
何はともあれ、いざ!と意気込んだところで通信が入った。
気づけば砲撃も止まったようで、うるさいのはチヌとポルシェTのエンジン音だけだ。
『別動隊、停止してください』
武部さんのお声は凛としていながらも、どこか不安に満ちていた。
『今から2時間、停戦です』
話を伺うに、本隊は集落群の大きな建物(教会かな?)に立て籠もっており、カチューシャさんから降伏の提案と思案のために2時間の猶予を貰ったそうな
通信をスピーカーにして周囲の声を拾うと、もちろん戦い抜こう!徹底抗戦だ!と意気軒昂である
私もその一人で、同意を求めるように車内に目を向けると、ねこにゃーさん達も首肯してくれた。
レオポンさんチームからも『まだ最初のコーナーで諦めたくないよね!』とやる気満点だ。
「でも、こんなに囲まれていたら……」
しかし、西住さんはそもそも優しい性分である。
内心のほどは本人にしか分からないものであろうが、とにかく戦車で嫌な思いをして欲しくないとお考えなのだろう。
曰く、怪我人が出るかもしれないということで、試合の続行をためらっているようだ。
アンコウチームはそんな西住さんの優しさを受け止めてか、指示に従うと申し出た。
副隊長として、ここは抗戦を願い出るべきだが、悔しさと諦め。挫折に屈するのもまた戦車道であろう。
敗けて納得する気概などこれっぽっちも持ち合わせてはいないが、この局面を打破するに何も案が出てこないのが余計に腹立たしい。
思うところ巡るモノが心中を荒らす中、冷泉さんの「初出場で準決勝に来ただけでも充分」という言葉がそれらを無理矢理流してくれたような気がした。
「勝つんだ! 勝つ以外に何がある!」
私以上に抗戦の気概を示したのは河嶋広報であった。
少なくともそれは立派な心意気だと思うし、本来私が強く言うべき言葉である。
ただ、それは試合に勝ちたいという競技人としての心構えよりも、より悲愴な心情が伝わってくるものであった。
「我が校は廃校になってしまうんだぞ」
より、悲愴であった。
話をそのまま聞くと、生徒数の減少と維持費から学園艦を減らそうという話になって、特に実績がない大洗を廃校にするというお達しがあったそうな。
マジ? アンコウはじめその他水産物の養殖技術と、あの西部開拓時代な農業科を目の当たりにして? 無策な教育政策の反動野郎がよぅ……。
疑問はさておき、唐突な事実に私は茫然とした。他の面々は「もうみんなでゲームできなくなるの」「学園艦グランプリが……」と焦燥と失意を無念、口に出している。
「泣いて過ごすより、希望を持ちたかったんだよ」
角谷会長が漏らした言葉は、正しく我が琴線に全音階和音を響かせた。浪花節も程々にしておかなければ。
日頃、飄々としている人の真剣な様に惹かれちゃうところってあるよね。
各チームから無念の言葉がでてくる。通信越しだというのに、ウサギさんチームのすすり泣く声などがいやにはっきりと聞こえてきた。
引くに引けない状況と分かれば、前へ行くのが私の性分である。
「まだ試合は終わっていません」
「同じく!」
西住隊長の激励に対して即座に同心した。
『来年もまたみんなと戦車道がしたい』
複雑な論を述べるでもなく、情に熱く訴えかけるでもなく、誰もが持つ素朴で簡素な意欲は、恐らく名調子の演説より強い言葉であった。
各チームに落ち着いて修理をするよう指示が入ったので、私は別動隊の面々に補修と整備をお願いした。
さぁ、作戦会議だ。
「西住隊長! 聞こえてますか!?」
「愛さん、はい」
「とりあえずこっちの位置を改めてお伝えしておきます。今ウチらは、そっちから見て11時の方向。ちょうど集落に入るか入らないかぐらいの道で待機してます」
要するに包囲網をどう突破するか
別動隊が横槍を入れられる形だとはいえ、プラウダの現行戦力からしてこちらにいくつか割いてなお、本隊を包囲することは可能なのだ。
いや、それに別に本隊が出てくるまでもなく、あの大きな建物を榴弾で、それこそKV2だかでズドンと一発ぶち込めば建物ごと崩されてしまう。
即ち、なんにせよ、あそこから出る必要があるのだ。
「ありがとうございます。私たちは今、中心―――の大きな――建物の中で籠っていますが、周り―包囲されています」
「何に―せよ、突破―――しないと―――いけないという――ことでええでしょうか」
通信にノイズが混じり始めたが、思えば雪の勢いがどんどん強まってきた
にわかに風も吹き始めており、吹雪の到来が予想される。
「はい……。通信越しで作戦会議はちょっと難しいかな。愛さん、直にあって話し合いたいんですけど」
雪も降り始め、視界の悪い中を突っ切って、それもプラウダの目を潜り抜けて、というのはなかなかに難がある
西住隊長に来てもらうというのもあるが、隊長を動かすというのはどうにも副隊長として甲斐性がない
かと言って、会いもせずにぶっつけ本番で試合を再開するのも馬鹿げてる
となると、案の定であるが、私が行くべきであろう
通話しながら唐揚げ弁当を2膳平らげ、寒さに対抗できるカロリーはばっちりだ
「わかりました。ウチから向かいます。少々、お待ちください」
「雪も降り始めました。周囲にはプラウダ高校もいます。気を付けてください」
通信が終わり、車外へ
寒暖差で思わずぶるりと体を震わせる
「砲門さん、大丈夫ナリ?」
「この寒さに視界の悪さ……とんでもないデバフだニャ」
「どうやって行くピヨ?」
面々からの心配は尤もで、後先考えずに引き受けちゃったなと思うが、むしろそれが心を奮わせる
「砲門さん、これ持って行って」
「え、うお」
話を聞いていたのか、スズキさんから投げられたのは……なんだこれ、形容するならどこかオリジナリティのある懐中電灯であった。
「何ですのん、これ」
「車のハイビーム改造したやつ」
「おぉ、すげー、めっちゃ光る」
雪の夜に光る一閃は、どこか寂しいが、どこまでも続いていた
道標はこの光一本で、歩みを進めなければならない
「でも、砲門さん。その靴で大丈夫?」
ナカジマさんのご指摘はご尤もで。こんな事になるとは思っていなかっただけに靴は冬仕様というわけではなく、いつものタンクジャケットの一式のものである。
雪は深く、これからしんしんと深くなる。プラウダ生と鬼ごっこの可能性も高い中で、どうにも頼りない
「大丈夫大丈夫、イケますイケます」
「何か秘策があるピヨ?」
「滋賀の湖北で試合した時に現地の子らに教えてもらったんすよ」
しかし、私には自信があった
「片足が沈む前に、もう片脚を出す」
みんなズッコケた。ええノリしてるなぁ
むぎゅ、むぎゅ、と雪を踏む音が嫌につんざく。これ以上、積もらないで欲しい
プラウダ高校の戦車を一つ一つマークしていく。向こうも休憩中のようで何か良い匂いがするし、コサックダンスを踊っている者も確認できた。
その陣形を見てみると、お手本のような包囲陣で、薄いところ、逃げ道を敢えて設けているのもカチューシャ隊長か、あるいは作戦指揮者が妙たるところであろう。
ある程度、戦力を削れているとはいえ、やはり安心できないことに変わりはない。
思考、冷めやらぬまま大きな建物を目指すと、美味しい匂いが鼻孔をくすぐった。
「隊長! 砲門先輩来ました!」
「愛さん、ありがとうございます」
「ええって事よ」
中に入ると面々、それぞれ暖をとっていた
簡易ストーブの前で談笑、スープやカップ麺を頬張っていたり
試合前の進言が無駄ではなかったとホッとしたところで、先ほどの地図を机に広げた
「この包囲されている状況で私たちがやるべきは決まっています。何にせよ、突破しかありません」
「うん」
「敵中突破」
「関ヶ原の島津勢だ」
「「「それだ!」」」
「一つ、ご意見を。ここにいる戦力でも突破は不可能ではありませんが、フラッグ車が撃破される危険性を考えさせてください。つまり、ウチら別動隊が先に動いてこの建物の隣にいるプラウダ車を撃破、しかる後に合流して突破を図りたく思うのですが」
「………」
西住さんの表情が思案に満ちている
プラウダの戦車を数えているうちに、浮かび上がった案よって、密に詰めたものではないが、少なくとも無難な提案である事に変わりはないだろう
「別動隊が先に動くとして、むしろプラウダ側に本隊が建物から出るタイミングを教えてしまうことになると思います」
「なるほど」
「それから突破したとして、相手のフラッグ車を撃破する機会がまた遠のいてしまうと思うんです。でも、プラウダ側の作戦が思った通りなら……」
何か思いつかれた西住さん。瞳が煌々としておられる。
西住さんから提案された作戦に首肯する
周りの皆も決意に満ちた表情をしていて、とても包囲されているとは思えない
よぅし、まだ戦える
「分かりました。では、手筈通りに」
「うん、愛さんも帰り気を付けてください」
西住さんと後ろに控えていた澤ちゃんの心配そうな表情を後に建物を出る
どこか視線を感じるが、プラウダ生からのものであろう
もうコソコソする必要もない
さっさと試合を動かすためにも私は雪上を一路走りだした
「待で!」
「おい、食べ場合じゃね」
「大洗白軍反動保守勢力の空想主義的日和見ルンペン修正冒険主義者だ! 今すぐ捕まえろ!」
雪道は彼女らの十八番であろうが、私には雪が中々降らない地域民としての高揚感があった。要するに後の体力とか考えないでフルパワーで雪かきする親戚の子みたいなノリ
京都府伏見の河川敷で日曜日、なんかものっそ長いコースをぐるぐる回ってる4足歩行の生物に憧れたピッチ走法に追いついてみるがよい
全速力で駆け抜けて見えるのは三式中戦車
ねこにゃーさんが双眼鏡でこちらを見かけて手を振るところに思いっきりダイブする
引き離されたプラウダ生たちは不服と疲労の表情を浮かべて踵を返した。
「砲門さん、お疲れピヨ」
「ナイスチェイス!」
激励の言葉に親指を立てて返答する
作戦を伝えて同意を得ると、私は残りの弁当とカップラーメンを食べ始めた
恐らくだが、ここから試合終了までノンストップであろう。お残しは許しまへんで
食後、ドカ食い特有の睡魔に襲われると踏んでいたがこの寒さがそれをゆるさなかった
試合再開時間まで待つところ時計と地図とをにらめっこ
ふと視界に揺らぎが見え、その揺らぎが白旗に変わった。
旗手はプラウダ高校の生徒である
「失礼。プラウダ高校です。こちらの隊長にお話があります」
「ウチや」
「返答のお時間です。降伏されますか?」
本隊に向かった後か先かは知らないが、何はともあれこの別動隊にも使者を立ててくれたようである
降伏という言葉に、特別の感情を抱かないが、私は戦車に翻る大洗の旗を仰ぎ見た
「ご使者殿、当別動隊は西住隊長の号令を以ってその旗を収める所存であります」
「降伏はしない、という事でよろしいでしょうか?」
「如何にも。お申し出はカチューシャ隊長の赤心と心受けますが」
「いえ、分かりました。では、そのようにお伝えいたします」
「ご足労の程、痛み入ります」
一礼の後に去る使者の姿を眺めて、そろそろかと緊張の糸を引っ張る
車内を見渡すと覚悟の首肯、振り返るとナカジマさんに笑顔。ドキっとしちゃった。
さぁ、始めよか
「戦車、発進! レオポンさん!」
「よぅし、撃て!」
西住さんの作戦はこうだ
恐らく、プラウダはフラッグ車をこの市街地に設定
まず別動隊が市街地から離れる。その時にポルシェティーガーの砲声で本隊に合図
本隊が中央突破して、そのまま逃避行
プラウダ側の部隊の戦力を確認したところで、別動隊が反転。市街地のフラッグ車を狙う
という寸法である
うまく運ばせたいところなので、疑念を持つ余裕はない
市街地が遠くなる頃に複数の砲声が鳴り響いた
一拍空けて、こちらのフラッグ車がやられたというアナウンスはない。切り抜けたか!
「本隊、敵中突破に成功したニャ!」
「うん。このまま前進。作戦通り、追撃中のプラウダ側の戦力が分かるまで速度を維持!」
しばらくすると、曳光弾が夜空へと広がった
本隊の場所を把握するつもりなのだろうが、別動隊からすればプラウダ側の戦力を把握できる
「一、二、三……よし、ご丁寧に2輌ない。西住隊長に連絡!」
「ラジャー! こちら別動隊。追跡中の戦力を確認。フラッグ車は見当たらず、次のミッションが欲しいニャ!」
『分かりました! 回頭して、市街地に戻ってください!』
―別動隊が見当たりませんが……―
―あぁ、もうたった2輌に構ってられないから! それより前方のフラッグ車!―
おっしゃあ!と意気込んで進路を市街地へ
レオポンさんドリフトしてますやん、かっこいい……
進撃中、プラウダ側の攻撃も想定していたが、どうやら本隊を追うのに全力を挙げているようで市街地まで一気に駆け抜けることができた。
前半に5輌撃破したのが効いているのであろう
「レオポンさん、今から市街地に再進出します! 情報が正しかったらKV-2とフラッグ車だけですけど、特にKV-2の砲撃は脅威ですんで絶対に当たらんよう注意してください! ウチらもやで!」
了解の声を鬨の声の代わりとして、いざ市街地へ
フラッグ車を見つけるのにそう時間はかからなかった
「撃ってまえ!」
レオポンさんと同じタイミングで撃ったが、見事に避けられた。フラッグ車を任されるだけはある! クソっ!
「アリクイさーん、本隊がいた大きな建物にKV-2!」
「おぉ! 停止停止!」
「も、も!」
KV-2の、もう、なんか、すっごい砲撃を食らっては一たまりもない
急停止で間一髪、目前をかすめた砲弾が空き家を文字通り吹っ飛ばした。怖
「あぁ、もう! レオポンさん! 先にKV-2から仕留めるで! 援護よろしく!』
「らじゃー!」
装填に時間がかかる事を知っていれば、砲身がこちらを捉えていても恐れることはない
レオポンさんとの連携は練習ナシのぶっつけ本番だが、大事なのはインスピレーションだ
先に撃ったのはポルシェティーガーだが、決定打にはならず白旗も上がっていない
「ぴよたん! QTE発生! レオポンさんが当てたとこと同じとこ狙って!」
「了解だピヨ!」
ぴよたんさんの目には恐らくKV-2を捉えたカーソルに〇ボタンとかR2ボタンとかの表示が出ているであろう
少しでも威力を出すため、できるだけ近づいて……発射!
「よぅし!」
「当てたピヨ!」
「中ボス撃破もも!」
喜ぶのはまだ早いが、私自身内心たぎるモノがあった
次の狙いは相手のフラッグ車
陰からこちらをコソコソ見ていたようで、向こうも向こうでKV-2と連携するつもりだったのだろう
「レオポンさん! ここで仕舞いにするで! とにかく狙って撃ってください!」
「OK!」
1発牽制代わりに撃ち込まれるが、さらりと避ければ相手は逃げだすより他にない
―カチューシャ隊長~! 別動隊こっち戻ってきました~!―
―嘘!?―
プラウダのフラッグ車であるが、てっきり集落から出るかと思ったが、あちこちの民家を盾にぐるぐると周回しながら逃げ始めた
死守命令でも出ているのであろうか、考えている暇はない、これはチャンスだ!
本隊も本隊で鬼ごっこをしているように、こちらもフラッグ車を狙っていたちごっこの追撃戦だ
先ほども述べたが、フラッグ車を任されるだけあって回避が本当にうまい。
ドッジボールで最後に残ってる奴並みにしぶとい
「フラッグ車囲い込むで! レオポンさんはどこか建物の角ふさいでください!」
「角だって」
「コーナーを攻めるぞ!」
指示を出した直後ポルシェティーガーが華麗なドラテクを見せて、私たちどころかフラッグ車よりも前に出てそのまま縦列駐車の要領で角を塞いだ。
「ト・ド・メ!」
聴覚が停止したような気分になった
エンジン音も、砲弾を撃った後の放熱に伴う音も、メンバーの荒い呼吸も、聞こえているはずなのに、全くといって良いほど脳の処理が追い付いていなかった
聞こえた音はただ一つ
シュポ!
フラッグ車から白旗が上がった!
「っしゃああああああああああ!」
「やったニャ!」
「ぴよたん、凄いなり!」
「………私がやったピヨ!?」
車内で三者三様、喜びを爆発させる中
自分がトドメを刺した事に全く実感がわいておらず、放心しているぴよたんさんの目に光が戻るのに一拍空いた
レオポンさんの面々とも、ガッツポーズにハンズアップ
通信機からは本隊より激励の声が届いた
『愛さん、ありがとう!』
『砲門先輩、流石です!』
『ナイスアタック!』
『アリクイちゃん、お疲れ~』
『副隊長殿、お見事!』
『やるじゃない!』
いっぱい褒められた。こういうのに弱いので、顔めっちゃにやけちゃう
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
場所が場所なので観客はまばらだが、それでも賛辞の声が両チームに響いた
試合が終わると、カチューシャ隊長が西住さんと何やら硬い握手を交わした。良いなぁ、こういうの
試合後のルーティン、内心の熱を冷ますためにも、先ほどまで走り回っていた雪原を眺めて黄昏る
いよいよ、次は決勝戦
先ほどトーナメント表を改めて見たが、まぁ、どちらにしても強豪だ
だが、どちらであっても真心を込めて全力で戦わなければならない
まして、学校の命運がかかっているのだから
「すみません」
「うん?」
声をかけられて、振り返ると西住さんだった
一人で来られたのであろうか、と思ったところでその表情はどうにも固かった
「先ほどの試合、お疲れさまでした」
「えぇ、いやいや、頑張りましたよ」
「決勝進出ですね」
「何とか、ね」
何度も見た顔だと言うのに、いざこうして目の前に立たれるとどうにも口下手になってしまう
これは決勝戦に向かう緊張ゆえであろうか?
「ふぅ…決勝戦、みほをよろしく頼む」
「お任せください、西住さん」
決勝の相手は、やっぱり黒森峰かな
誤字脱字・おかしな表現がございましたらご報告ください。
ご拝読のほど、誠にありがとうございました。