言いたいことはふたつ。
楽しんでお読みください。
あと今回のあとがきは少し長いぞ。
「さあ、描けよ。おまえの理想郷を。それをもって最終決戦を開始しようじゃないか」
「そう急かすものじゃないよ、ベルンちゃん。今やっているだろ」
覇道の安心院さん、覇道院さんの完成は間近だ。ベルンはその時を待ちわび、待ちわびながら秒ごとに覚醒を果たしていく。青銅の蛇の神在月とはそういうものだ。全住民が──ベルン本人含めた全員が望む限り進化し続ける。
そしてそれに感化されたなじみもまた、ひとつ限界を超えようとしていた。
複数のスキルを組み合わせ、繋ぎ合わせ、擬似的な流出を引き起こす。
安心院なじみ──彼女がまず初めに感じたのは『飽和』。求めしものは不可能の実現。
天地創生以来、私はあらゆることを実現した。無数の特技を手に入れ、無数の欠点を手に入れ、無数の技能と技術を手に入れた。宇宙が生まれ地球が生まれ生命が生まれ三兆四千二十一億九千三百八十二万二千三百十二年。待てど暮らせど私に出来ないことは現れずいかなる困難も私を止められない。
果たしてこの世界は現実なのだろうか。証明したい、確信したい、私は今、生きていると。
何回でも試みよう。何回でも挑もう。達成不可能の困難と挫折を味わい尽くすその日まで──餓鬼道天下無双。
擬似流出、開始───。
「呪即説呪曰 羯帝羯帝 波羅羯帝 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」
祝詞は一瞬に終わる。だが詠唱の長さと強さは比例しないし、望んだ事象が引き起こせるならば問題ないだろう。そもそもなじみは能力の使用に詠唱は必要なく、今回のこれは異例中の異例なのだ。
「
安心院なじみの箱庭が溢れ出てて流出する。
「……む、これは………」
それは安心院なじみらしい、そして神座らしからぬ祈りだった。
不可能の実現。あらゆることを『達成困難』に変えてしまうという法則。重力はより重く、抵抗はより大きく、言葉は乱れ、成長曲線は驚きの緩やかさをみせる。可能に近い物事こそ重く強い抵抗を受ける、あべこべの世界。間違いなく邪神の法で、そのまま全宇宙へと流れ出せば史上最悪の法則となるに違いない。なじみにとって世界を塗り替える程度のことは造作もなく、ならばこそ達成困難であるという矛盾を抱えることで完璧なあべこべ──全生命にとって基本であり最も無意識レベルで行われる生命維持の困難化など──は起きずにいるだけで、座を握る本人にとっても理の影響を受ける相手にとっても邪法と呼ぶほかない。
ここに揃ったふたつの理。よく考えれば不思議な組み合わせである。ふたりとも、願いは障害や限界の超越を目指すものであるにも関わらず、ベルンは可能なことを増やすことを目指し、なじみは不可能なことを生み出すことを目指している。ベクトルが真逆に向いている渇望であり、ゆえに鬩ぎ合いは加速する。
「やはり私たちは気が合うよ、安心院さん。こんな見事に正反対の理を流出させるなんて、奇妙な縁を感じてしまうじゃないか」
「それはありえないよ、ベルンちゃん。そもそも僕みたいな願い、人間は抱かないのが普通だろ? 僕は僕だからこういう願いになるのは必然で、僕は僕なんだから他の奴らとは正反対の方向の願いを抱くのは当たり前なんだ。君が言ってるのは、同じ地球の生命だから運命の赤い糸で結ばれてると信じてるようなものだぜ」
なじみのいう言葉もまた、真実。安心院なじみはどこまでも人外であり、人間とは視点が、基準が、価値観が異なるのだ。人が飽和した失敗の中を生きるのに対し、なじみは成功体験が飽和している以上、ここにいるのがベルンでなくてもなじみの願いと相手の願いは対立する。ならば、この二人に奇縁などありえない。
「そんなことは今はいいだろ? さあ始めようか。人生初の神座闘争だ」
なじみが両手を広げるのと同時に、ベルンは右手の掌中に刀を作り出し、柄を握りながらに刀印を結んだ。
「そうだな。確かにそちらの方が遥かに良い。
では──ロッッズ・フロォォム・ゴォォォォッッッドォォ!!」
ベルン・カレイヒに順番の大切さや盛り上がりの大切さを説くことほど無駄なことは無い。彼女は初手からクライマックスだった。
天から降り注ぐ数百万基の鉄柱。神の杖と呼ばれる、大気圏から放たれたし破壊兵器である。一発でも核兵器に匹敵するかそれ以上の威力があるとされており、それが数百万とつるべ撃ちされた日には、相手は肉片一つとて残らないだろう。
「なるほど。一見するとこれまでと同じように見えるけど、神座での戦いはこういうことが起こるんだね」
神の杖は迎撃されるまでもなく、なじみに近付くにつれて徐々に像が崩れ始めた。
いうまでもなくこの神の杖はベルンが生み出したもの。『不可能を可能に変える』理によって物理法則を超越して生み出されたこの破壊兵器は、なじみに近付くことによりなじみの版図に接触することで、『可能を不可能に変える』なじみによって
神の杖が一瞬で消滅しなかった理由がそれだ。なじみの法則でベルンの法則が乱されたように、ベルンの法則によってなじみの法則もまた乱されている。神座の鬩ぎ合いは常に相殺のし合いで、法則の及ぶ版図の奪い合いだ。
「ふんッ!」
なじみが感心している間にベルンは彼女に急接近し、刀を突き出した。狙うは心臓ど真ん中、腰の捻りと腕の捻り、重心移動などを存分に活かした力任せの刺突は、恰好こそ不格好で、おそらく剣道や剣術の有識者が見れば呆れるほかないような代物だったが、その威力だけは座に至った者として保証されている。
「不思議だよ。見た目は本当に大したことのない、それこそ僕の端末の方がもっとマシな突きが出来るかもしれないようなものなのに、さっきまでの僕では死んでいたんだろうと確信できる。多元宇宙規模なんていうからどんな恐ろしい攻撃なのかと思えば、なるほど」
しかし今のなじみはベルンと同格。ベルンの攻撃はなじみには届かず、人差し指と中指で刀身を挟まれ止められた。しかし直接攻撃であるがゆえか、あるいは先の神の杖でそれなりの版図を削られたか、神の杖のように像が解かれることは無かった。
「なあ、気付かんか?」
「? なんでもそれで察しろという方が無理があると思うよ」
「ああ、そうだよな。会社が違うものな」
腕を引き絞り、剣を突き出す刺突のモーション。もちろん、普通に力んだだけの刺突ではあるのだが、それにあえて、意味があったと仮定するならば。この動きを知っている人間は多いはずだ。ベルンのそれはあきらかに大げさではあるものの、しかし
「ヴォーパルストライク」
ソードスキル、ヴォーパルストライク。とある電脳世界において片手直剣の熟練度を高め、レベルを最前線クラスまで上げることで獲得できるスキルである。赤いエフェクトと共に繰り出される刺突の威力は高く、のみならず攻撃時、当たり判定が刀身以上に伸びるという特性を持つ。ゆえにこの一撃は、安心院なじみの胸を貫く。
「がッ……!」
心臓が剣で貫かれる。普通ならばこれで決着は着いただろう。少なくとも片方は勝利を確信していなくてはおかしい。ああ、しかし何度でもいうが、この勝負は決して普通ではないゆえに。
「追撃だ」
「お返しだ」
なじみがベルンへ向けた人差し指から衝撃波が放たれるのと同時に、ベルンはなじみへ左手を向けて無数の斬撃を飛ばした。結果──相殺。両者ともに無傷のままそれぞれ正反対の方角へ吹き飛ばされる。ただ、距離が離れた程度で二人の勝負は中断などしない。
なじみはすぐさまその手に刀を作り出すと、剣を縦に振り下ろして絶対斬の斬撃を飛ばした。ベルンはその攻撃を真正面から受けて肉体を二分されながらオレンジ色の光弾を数千と生み出し、なじみへと放った。なじみはそれらの光弾を刀で弾きながらすぐさまベルンへ接近。修復しつつある彼女の肉体へ──その首へと刃を落とす。しかしベルンは首元の空間をまるごと掴んで移動させることで刃の軌道を逸らし、代わりに自らの剣をなじみの喉へと叩き込む。
「起動──
その言葉の直後、なじみの喉に突き刺さっていた剣が燃え盛る。
「……へえ。これも神座の」
「黄金の劣化版のようなものだがね。今、即興で思いついた。
私に比較的協力的だった、仲間のような関係だった者らに私の
のどを焼かれながら、なじみは笑っていた。彼女が今味わっているのは文字通り焼かれるような痛みであり、そもそも喉を焼かれながらしゃべり、笑うというのはどういう神経なのか。──いや、その問いは不要だろう。ベルンはそういう人間を知っている。長く生き過ぎた存在とはそういうものと弁えているゆえに、それを不思議とも感じない。ただ、相手の練る作戦はどんなものだろうかという期待だけがある。果たして、なじみの切った手札は。
「
ベルンの全身から、一斉に血飛沫が舞った。まるで爆ぜたように、一瞬にしてベルンの全身が赤に染まる。
「が、く……。ぁいッッッたぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああァァァッッ!!!!???」
もはや傷のない所の方が少ない──というより傷のない場所などないだろうという勢いで傷は開き続ける。
なじみが行ったのは、身近にいる、多くの
安心院なじみが失うことで手に入れた欠点の名は
デッド。古傷を、心的外傷をこじ開ける
「ァァァァ
激痛に悶えながらもベルンが呼び出したのは、とある男の自滅因子。本人の魂はどうしようもなく宿主と結びついているものの、しかしその宿主との関係も良好ゆえ、能力を劣化させてコピーできる。
なじみに突き刺さっていた剣がすっと抜ける。刀身は縮み、次第に形を変えていくだろう。血で汚れたベルンの手が握るのは、一丁の
引き金が引かれる瞬間、なじみは咄嗟にこれは避けなければならないと悟った。道理を超えた直感の域で、目の前の単なる拳銃の脅威を察したのだ。だが同時に、彼女は得たばかりの神座というものの限界を知りたがっていた。否。知ろうとしてしまったのだ。
なじみの握る刀。これは本来スキルで作られたという点を除きごくごく普通の刀だった。しかし神座であるなじみが握ることによって、今やあらゆる可能性を排除し排斥する処刑刀に変化している。この刀で切り裂かれた者は何人たりとも、その者の法則を維持できない。可能性を潰され、只人へ、それもあらゆることが達成困難になる枷を嵌められた存在へと変えられてしまう。
一閃。刀が銃弾を切り裂いた。なじみの理が勝てば、ベルンの握る銃は本当にただの銃器となり、この戦いにおいては何の価値もない鉄屑と化すだろうが、果たして──
「……ちぇ。この弾丸は斬っちゃダメな奴だったか」
刀が砕ける。銃弾が触れた瞬間に刀は崩れ、弾丸はなじみに直撃する。それと同時になじみの中で何かが崩れる感覚が走った。己の選択ミスに舌打ちしながらなじみは十メートルほど吹き飛ばされてしまう。
「……自滅因子。人間が持ち合わせる破滅願望を、神座が抱いてしまったときに生まれる、宿主を絶対に殺すために生まれ、宿主が死ぬまでは不死身の存在。
彼の弾丸は自滅因子としての特性を活かしたものでね、この弾丸が当たった神格は内側から崩壊してしまう。もっとも、私が使っただけでは死滅まではもっていけないんだがね」
劣化コピー。だが効果は十分。距離が開いたのもあってベルンを苦しめていた
「それじゃ、君も一緒にご唱和ください」
安心院なじみの顔から笑みは消えない。それは勝利を諦めない笑みであり、限りなくマイナスに近い覇道院さんゆえの、不敵で無敵の、這い寄るような笑顔。すなわち、これから行われるのは究極の
「It's all fiction!」
球磨川禊の
「
生命は巡るというように、僕という宇宙が生まれているのだから、僕も
さて、これから君は君の魂ひとつで僕に挑まなくちゃいけないわけだけど、ベルンちゃん、一体どうやって僕に勝つつもりかな?」
安心院なじみの言うことに間違いはない。初めての神座闘争でありながら、すでに彼女は勝ち方を理解していた。総軍を失ったベルンの版図は限りなく縮小しており、無理に戦闘をしようとすれば自壊してしまいかねないほどに今の彼女は脆い。この状態で覇道神としての強さを保てる者など一人しかいないだろう。そしてその例外のようにベルンは唯我を求めているわけでもなく、そして多くの魂を抱えていることを活かした戦法を好んでいるがゆえに今出来ることなど皆無に等しい。なじみの法則がなくとも、今のベルンに『可能性』などあるはずもなかった。なじみのいうように、神座の燃料とは魂ゆえに。燃料を失えば、どんな高性能の車も、ロケットも、宇宙船も、等しく鉄屑に違いない。
ゆえに、舞台は整った。
圧倒的有利から転がり落ちたベルン・カレイヒは、望まず自らが最も輝ける条件をそろえたのだ。
圧倒的不利で、敗北の直前で、もうなんの手も打てない状況。この状況でこそ、彼女は勝ちを掴み得る。
なぜなら彼女は敗北者。足るを知らず、満ちることを知らず、愚かにも天地創造まで成し遂げてしまった、特級の社会不適合者。与えられていた役割が不満だから、世界という舞台をひっくり返し、主役を強奪し、共演者たちを装飾品のように己の覇道に巻き込んだ、本来生まれるはずのなかった神座。そうまでしてなお、己の生に満足できない、強欲な神。このような者が最後に目指す場所は『勝利』なんて素敵な名前のはずがない。
天より、地より遥かに下。冥府から這い上り、汚れた手で勝者の足を引っ張り、血の底の底の底まで引きずり降ろして一人満悦する、下劣極まる屑の所業。愛と呼ぶ醜い執着で刹那の愛を、黄金の輝きを、水銀の放浪を、黄昏の逢瀬を素晴らしいと感じながらに歌劇を乱し座を掴んだ彼女の行いを、人々はきっとこう呼ぶのだ。
弱者が強者を下す理不尽。すなわち──逆襲と。
「Ab ovo usque ad mala──.」
水銀の残滓が、無限の可能性を実現する理が、あるいは最強の凶を下した明けの明星という神座の歴史が、ベルンの道を拓いた。
「Omnia fert aetas.」
素粒子間時間跳躍・因果律崩壊。
明星のタイムマシンを基に水銀が繰り出した占星術であり、過去にさかのぼり相手の存在を抹消するという大技である。しかしこれをそのまま使うのでは意味がない。ベルンは喪失ではなく獲得を尊ぶゆえに、時間跳躍後に施すのは強化だった。
「………これは!! 時間操作能力者だってもっとシンプルな戦い方するだろ……!」
なじみが呆れるのも仕方がない。だってこんな時間の使い方、普通はありえないだろうから。
「にわかだね、安心院さん。球磨川君の最新は
「……
なじみの指摘にベルンはむすっとした顔をするが、すぐに笑顔に戻り解説を始めた。
「まあ。格好つけたかといわれればつけたとも。そもそも安心院さんが死んで以降の球磨川君のことはよく知らないんだ。虚数大嘘憑きは生成方法も分からん。だが、安心大嘘憑きまでなら知ってるんでね。
というわけで、
だがこれでは元に戻しただけだ。ベルンが有利になったわけでも、なじみが不利になったわけでもない。
「ついでにお前の技も追加しておいたぞ。どうせなんだ。おまえらしさを演出してみようと思ってな。メイン能力が能力無効では味気ないだろう?」
いや、むしろベルンの理によってなじみが強化された分、なじみが有利なのか。
「完成などせず派生していけば、さらに手数は増える。まったく、せっかくスキルが多彩でもそのスキルを改良しようという発想が欠如している。いや、そういう扱い方は球磨川君の方が上手かったからかな。それとも、不知火という黒子がいたから、スキルを自らどうこうするという発想がなかったのか……。いや不知火まで持ち出すと鶏が先か卵が先か分からなくなるか」
……なじみは違和感に気が付いた。
そう、何かがおかしい。
「
「いや、私は卒業どころか……いや。あれ……?」
なじみの記憶に齟齬がある。自分の最期が思い出せない。いや、何か違う記憶が差し込まれている。
「
自分の知っている過去と食い違う記憶がある。自分の知らない光景を覚えている。自分の知らないスキルがある。未知の自分が、未来があふれて止まらない。存在しない記憶が次々と生まれてくる。お前に不可能はないというように、文字通り無限の可能性がそこには詰まっていた。
そうだ。安心院なじみは神座にたどり着き、ゆえに獅子目言彦に負けず、球磨川禊と甘いような苦いようなベタなラブコメをしながら生徒会を見守り、そして学園を卒業した。そしてその後、こうして
「……本気の本気で、僕に何をした?」
「可能性の拡大だよ、安心院さん。私は過去に遡って、私の理で君をまるごと進化させた。そのために一度、私の神座に君たちの物語を挿入して捻じ曲げ、今の君ならば出来るだろうことをさせたまでだよ。君の中に存在しない記憶が発生したのなら、それは安心院さん、今の君があの時あの場所にいたのなら起きていただろう未来だよ」
なぜ、そんなことをするのか。困惑よりも恐怖が勝っていた。なぜなら、今の彼女は本気で理解が出来ない。この局面で、この戦いで、そのことに一体何の意味があるというのか──。
「決まっているだろう。私が君の世界を私の神座に組み込めたように。私がこうして神座闘争を続行できているように。私が箱庭学園に入学できるように、君が神座に到達できたように、君が私を追い詰められたように、君が獅子目言彦に勝てるかもしれないように、君が球磨川禊と良い感じなるかもしれないように、逆に永遠に弟扱いのまま生きていられたかもしれないように、お互いに存在しない記憶を生じさせられたように、私たちがここで当たり前に戦えているように────。
見せつけたのだ、不可能などないと。不可能を可能に変える理で、しかも理解を拒めないほど確かな感触をもって。それは不可能を探す安心院なじみにとって、特大の恐怖でしかないと知りながら。
渇望を持つには、矛盾した感情が求められる。願いは叶う、叶えという気持ちと、この願いは叶わないという怒りだ。強い気持ちと、叶わない世界への怒りこそ、覇道神が生まれる土壌に他ならない。だが逆に、願いは叶うと確かに信じていなければ、世界を変えるほどの力は発揮できないわけで。
「……ッ!」
とっさになじみは右手を振るった。
安心院なじみはシュミレーテッドリアリティという病を抱えている。現実が現実だと思えない、すべてフィクションなのではないかと思い込んでしまう病気である。ゆえに神の思うまま、現実は虚構となる。
ベルンの下半身が消滅する。それはまるで、絵に消しゴムがかけられていたように。先ほどまでなじみが使っていなかった新技。防御などできはしない。否、ひとつ訂正しよう。なじみは使わなかったのではない。
強力だがしかし、今のなじみが最も使いたくないスキルだろう。なぜならこの技を使えば現実が虚構になってしまうのだから。否定したい現実が目の前に広がってしまうのだから。
「……はじめから狙っていたのかい? こうすれば、私は私がいる世界を現実と捉えられなくなるから」
下半身が消えようともベルンは健在だ。
「いいや。安心院さんが覇道神になったら面白そうだなとは思ったけれど、特に深い意図はないよ。ああ、しかし私の総軍を消されたときに、君の願いを徹底的に否定してやろうとは思ったがね」
これで安心院なじみが勝てば、なじみはまた一つ、成功体験を重ねてしまう。ベルンに攻撃をしようとすればするほどに、自分に出来たことが増えてしまうのだ。神座流出までは勢いでやったがしかし、こうしてベルンが冷水をぶっかけたおかげで、『お前に不可能はない』と宣言してしまったがゆえに、どうしても意識してしまう。一度意識してしまえばあとは泥沼だ。考えれば考えるほどに、安心院なじみは自分の可能性を感じてしまう。出来ないことなんてないのではないかと思ってしまう。不可能を欲する彼女は、自分の手で自分の首を絞めていくのだ。
これが人外、安心院なじみならば楽しめたのかもしれない。せっかく流出までしたのに、まったく人生はままならねーな、なんてセリフを吐きながら肩をすくめ、ベルンに勝ちにいったかもしれない。だが覇道神になるために渇望を露出し、自らの願いを原動力とする今のなじみに、覇道院さんにそんな柔軟性はない。極まった存在というものは柔軟性を失い、”そういうもの”になってしまうのだから。不可能とそれの探求の具現と化した安心院なじみにはもう、どんな可能性を否定しても、どんなことを達成困難な事象に変えても、それがゆえに自分の万能を実感せずにはいられない。
ゆえに、安心院なじみが切れる手札はなく。
「
その手に剣を取り戻したベルンが放った剣閃──あるいは破壊光線により、安心院なじみはその総軍ごと消滅した。
まず一言
すいませんでしたァァ!!!
書きたいものだけ書こうって決めて書き始めて、よっしゃ書くぞと思ったらこうなりました。私も予想外の大長編になりまして。なんなら安心院さん勝利ルートのつもりで書いてたら、ベルンが勝手に冥王と月天女かけながら逆襲しはじめまして。いやほんとなんです、信じてください。ベルンに最後に暴れさせて、それでも安心院さんが勝っちゃって、ままならねーぜ! で〆ようとしてたんですけど、なんか冥王聞きたくなっちゃって、そして気が付いたらベルンが安心院さんに恐怖体験させたいな! って言い始めて、なんかそれでこう……。
こうなっちゃった。
暴走って怖いね……。
でも悔いはありません。
安心院なじみという魅力あふれるキャラクター、そして西尾維新先生のワードセンスのすばらしさを感じると共に、いわゆるチート能力、神座というものについて考える事が出来ました。なにより、最後までちゃんと『能力バトル』出来たのが嬉しいです。
ベルンについては、Xで活動していたときからずっと悩んでいたことがあります。それは、彼女、チートなんじゃないかということ。自分でいうのは恥ずかしいですが、こんなん強すぎないか、と。実際、チートといわれたこともありますし、世間一般にはチートキャラなんだろうなあ、と。ですが私、チートキャラという言葉が苦手なのです。なんだか、努力もなく高みに上がっただけで他のキャラクターを見下しているように感じてしまって。ベルンというキャラは好き、だけどこいつの性能は好きになれない、そんな時期が続きました。でも今回、「おもいっきりインフレバトル書くぞー!」と意気込んで安心院なじみvsベルンを書いてみて、自分のキャラを客観的に書いて見て、悩みは無事解決しましたとも。
何故かはもう、前述の通り。
ちゃんと能力バトルできたから。対策を考えて、相手を攻略していく。そういう工夫を、駆け引きをして勝とうと奮起しているのであれば、それは間違いなくチートキャラでは無いでしょう(多分)。
色々な意味で、今回のこの話をかけてよかったと思います。では、また別の戦場で。