キルヒアイゼンは、一番最初に詠唱を覚えたくらいには好きです。
円形闘技場。二人の武人が対峙していた。
「
「ベアトリス・ヴァルトート・フォン・キルヒアイゼンです」
名乗りは終えた。
江戸時代最強の呪術師は如意棒の穂を相手へと向けて重心低く構え。第三帝国の軍人、黒軍服の剣士は切っ先を相手へと向けて半身に構えた。
雷速演武と雷速剣舞が激突する。ベアトリスの音速を超えた踏み込みと捻りを加えた刺突を、鹿紫雲は如意棒を絡めていなす。体を回転させて背面を相手へと向ければ、刹那、ノールックで繰り出される石突きからの打突。刺突を受け流されたベアトリスに回避の術はなく。腹部への一打、しかし音速にて繰り出される攻撃の威力は計り知れるものではない。轟音と共に、華奢なベアトリスの体は壁際まで吹き飛んだ。
「愚直、素直、まあいい事だけどよ。そんな分かり易くて読みやすい動き、同格以上には通じないんじゃないか? 速いだけだな、生ぬるい」
肩に得物を載せ、鹿紫雲は嘆息する。あの剣から、目の前の少女から確かに感じた鬼気は、果たしてこの程度のものだったろうか。
「言いますね。まだ決着が着く前でしょうに」
一撃の威力は高い──だがそれがなんだ、と。ベアトリスは剣を構え直す。まだ一撃食らっただけだ。戦闘は依然続いている。
「はっ」
その姿を見て、鹿紫雲は小さく笑った。
「そうだな、なら黙らせてみろよ」
鹿紫雲が駆け出す。彼の呪力は特性として電気のような性質を持ち、その特性を鹿紫雲は最大限に活かしながら戦闘する。電流で筋肉を適度にほぐし、脳から流される電気信号を操作することで敏捷性を上昇させれば、単純な呪力操作ではありえないほどの高い身体能力を発揮する。
鹿紫雲の突撃に対応すべく、ベアトリスは剣を下段に構えて待機。防御に特化した構えで加速する鹿紫雲に備える。
「ナメんな」
鹿紫雲は、ベアトリスの間合いに入る直前に如意棒を地面へと突き立てた。武器攻撃を警戒していたベアトリスは当然、困惑する。そして生じた一瞬の困惑が、戦場においては致命的な隙となる。
如意棒を支えとして鹿紫雲は跳躍。ベアトリスの顔面へと蹴りを叩き込む。まるで先ほどと同じ光景──ではない。
「……その言葉。そのまま返します」
「……へえ」
鹿紫雲が蹴りを入れたのと同時、ベアトリスは素早く剣を振るうことで彼の右足を切り飛ばしていた。
──鹿紫雲一は、知覚出来なかった。片足を失いバランスを崩した鹿紫雲に対し、ベアトリスは追撃を仕掛けるべく再度駆け出す。
まさに電光石火。無数の剣閃が鹿紫雲を襲う。
聖遺物、『
ただし鹿紫雲一の呪力は電気のような性質を帯びており、雷撃はその一切が意味をなさない。純粋な刃が鹿紫雲にとっての脅威となる。つまり、刃に当たりさえしなければ問題は無いわけだが。── 現在の鹿紫雲は片足を欠損している。
ベアトリスが攻撃の速度を上げて追い打ちをかけようとしたとき、鹿紫雲は間髪入れずに己の術式へ呪力を流し込んだ。
──術式解放。
「あ!!!!」
口から放たれた超音波がベアトリスを吹き飛ばす。少し押されたその瞬間に、鹿紫雲はすかさず拳の連打を繰り出した。
鹿紫雲一の術式──『幻獣琥珀』は己の呪力で可能なあらゆることを可能にする。人の域を超えた呪力操作を可能とするその代償として、鹿紫雲は術式効果の終了時、肉体が崩壊し死亡する。口からは衝撃波、手からは電磁波、しかも鹿紫雲の呪力は電気のような性質を帯びているがゆえ、電気信号のように扱うことも可能。肉体の各部位へ伝達される電気信号を操作し敏捷性を著しく上昇される。
今度はベアトリスが防戦に回るターンだった。急上昇した相手の速度に困惑し、崩れゆく肉体に心を痛めるが、それで戦局が変わる訳では無い。
「仕方が、無いですね」
ベアトリス・キルヒアイゼンは軍人である。己の身が危機に瀕しているときにまで慈悲深くやってやるつもりは無い。
「
詠唱が開始される。反撃の狼煙が上がる。
「
聖遺物と契約し、人を魔人へと変貌させるエイヴィヒカイト。その第三段階へと、ベアトリスは移行しようとしていた。
「
その解号は──。
「
戦乙女は、死の舞を踊る。戦友たちの道を照らすために。江戸時代の亡者に負ける訳にはいかないと。
「
全身を雷へと作り替える、求道の理が自らに適合される。
鹿紫雲の術式と一見、同じ効果にみえる。しかし可能なことが増えただけの鹿紫雲に対し、雷そのものと化すベアトリスの方が敏捷性、一撃の火力ともに凄まじく高かった。加えて、エイヴィヒカイトという術そのものの効果により、ベアトリスの刃は魂を捉え、切り刻む。
肉体の崩壊が加速し、輪郭が朧けになる鹿紫雲だが、ベアトリスは一向に止まらない。
「この……ッ」
「速いだけ、でしたっけ」
超高速で振るわれる刃に四肢が刻まれる。止まらない。止まるはずがない。剣舞は加速し、反撃の隙すら与えない。制圧──まさにそうとしか言いようがないほどの徹底ぶり。
ひゅん、という音ともに、鹿紫雲の首が飛んだ。
戦雷の女剣士は、亡霊の亡骸に静かに礼をして、闘技場を去った。
ひとまずこんな感じでどうでしょうかね。
戦華双乱ではやくかしーも使いたいなあ。