FGOでも結構好きなキャラであります。なんか大尉なので。
対する大尉は戦神館最推し。次点で狩摩さんが好きなのでいつか書きたい所存。
大海原の中心にぽっかりと浮かぶ空母。それが今回の戦場である。
巨大な甲板に立つ長い金髪の女は天を仰いだ。
その視点の先に、相手はいる。
甲板を
この場に第三者がいた場合、まず正気は保てないだろう。甲板にいる方も、艦橋にいる方も、親愛の笑顔を向けながらド級の殺意を渦巻かせている。
その場にいるだけで膝を折り、平伏したくなる様な重圧が常に発せられている。戦場全体が緊張していた。
「おぬしがわえの相手じゃな? サーヴァントとも違うようじゃが……何者じゃ?」
「お初にお目にかかる。俺は甘粕正彦。 そちらの世界のことは知らんが、まあ、喚ばれる側ではなく喚ぶ側の人間と思ってくれれば結構だよ。
かくいうお前も人ではあるまい? さぞ高名な竜と見受けるが、如何に?」
「その認識で間違いない。わえはヴリトラ。竜ともいうし蛇ともいうが、魔であることに違いないからの」
男──甘粕はその名を聞いて頷く。
「どうしてそのような姿なのかは知らんが、納得だよ。
自慢ではなく俺が気圧された事などそうそうにないからな。……ふ、ふふふふ。これは良い機会を得た」
ヴリトラ。
インド神話における永久不滅の魔であり、雷神インドラに滅ぼされた存在である。水をせき止め干ばつを起こすなど、自然災害そのものといっていい程の驚異であり、巨大な蛇、蜘蛛などの姿を持つという。
神話に出てくる魔物といえば可愛げもあるが、その実、神が討ち滅ぼした存在なだけあり、本来人の子がどうこう出来る存在などでは決してない。
それを知って笑う甘粕は、普通では無い。
だが断じて頭がおかしくなった訳では無いと注釈を入れておく。何故なら彼は、人類の歴史に敬意を評し、その上で人の普遍的無意識──
端的に言って人類の
つまり、ヴリトラと同じように、人類の脅威として試練を与え、成長を促す魔王。それが甘粕正彦という男だった。
甘粕が天へと左手を伸ばす。
ヴリトラは戦装束へと
刹那、人類の脅威同士による激突が始まる。
「リトルボォォォイ!!」
初撃から待ったなし。相手の目の前に現れたのは巨大な鉄塊。それが即座に爆発して、人体ならば内側までしっかり焼けるほどの熱量と閃光、そして致死量の放射線がぶちまけられた。
リトルボーイ、即ち原子爆弾である。
甘粕正彦が生きた時代は大正時代であり、かの爆弾が日本国民を襲うのははるか未来の話なのだが、関係ない。
盧生とは人類の普遍的な無意識と繋がっている存在なれば。未来も過去も承知しているのだ。
核兵器が落とされ、敗戦国となった祖国も。
大戦そのものが回避された未来も。
見て、知って、その上で人は斯くあれかしと人間讃歌を謳いあげてこその盧生。
であるならば。ヴリトラとは天然の脅威。
人を見て知って、その上で試練を与えるのではなく。試練を与える存在として生まれ、そのように生きる過程で人の強さを知る者。
言ってしまえば何も無くとも強い怪物なれば。人にとっては一撃
お返しといわんばかりに高く跳躍すると、
本人は咄嗟に後ろに跳んで回避したものの、尾はそのまま艦橋に縦の亀裂を生み出し、砕いてしまった。
盧生のように、未来の超兵器を使った訳では無い。ただ体の一部で叩いただけだというのに異常な威力。
そして空中に投げ出された甘粕へめがけてヴリトラが息を吹けば、蒼い劫火となって襲いかかる。
ヴリトラは蛇であるが、邪竜とも類される。
だが予測できるかどうかと、対応出来るかどうかは別問題だ。本来ならばここで、甘粕は燃え尽きる運命だろう。
だが──その程度の人間に人類の代表者などという肩書きは付かない。
「面白い。人と竜の戦いは、やはりこういう展開になるのが道理であろうよ」
軍刀一閃。横に振られた刃が、蒼い炎を綺麗に切り裂いた。
「ほう、わえの攻撃を解体してみせたか。しかも魔術などとは別のようじゃな」
興味深げに、蛇の目が細められた。
全く初見の攻撃など、不滅の魔性たるヴリトラにはそうそう無いだろう。ゆえ、甘粕の術は新鮮なものだった。魔術などとはまた系統が異なる異能、かつ今のところ創造も破壊も可能としている汎用性の高さ。
正体不明のものであり、果たしてどんなものか、どう使って己を超えるのかと笑っている。
対する甘粕の方は、歓喜に包まれていた。
一瞬でも判断を見謝れば即死するだろうが、それでも。神話的世界観を夢見る男にとって、神話の生物そのものと戦えるほどの喜びはない。
戦うのが好きなわけでは決してないが、それはそうとして強いもの、勇者、覚悟ある相手と殴り合うような戦闘はしたいのだ。
甘粕が破壊の念を込めた刃を振り下ろし、斬撃を飛ばすのと、ヴリトラが己の周囲に浮く鉾を回転させ斬撃を繰り出すのは全く同時だった。
その衝撃で船の両端に吹き飛ばされたものの、全く恐れも悔しさもない。
歓喜。ただただ喜んでいる。
「ふはッ、ははははは。ふはははははははははははは!
普段は挑まれるのが好みなのだが、挑むというのもなかなか悪くない。
いいぞ、流石だヴリトラよ。おまえは想像以上に素晴らしいッ」
「おめでたいやつじゃな。
良いぞ、全力で遊んでやろう。わえを楽しませよ」
次の瞬間、甘粕の脳天めがけて、連続して鉾が降り注ぐ。かすかに電気を帯びたそれは砲撃のような威力を誇り、直撃すれば即死しかねない。しかし、甘粕正彦に後退という二文字は存在しなかった。
「おおおおおォォォッ!」
真正面から鉾を弾き進軍すれば、素早く印を結んで術式を組み上げた。
「ツァァァリ・ボンバァーー!」
瞬時に作られたのは、世界最大級の爆弾。一度起爆すれば、その衝撃波は地球を三周半もするという。
たった一発で、どんな大都市も真っ平に出来るほどの威力は、やはりヴリトラを討ち滅ぼすには至らない。
多少煤が付いた程度で、本人は欠片も気に留めない。
「なんじゃ、またそれか。つまらんつまらん、つまらん! どうせなら、これくらいしてみてはどうじゃ」
けらけらと笑いながら、甘粕の正面に三本の鉾が落ちてくる。咄嗟に弾こうと軍刀を振るうが、否、その選択は彼女の罠にハマるだけである。
鉾から一斉に雷光が放たれ、足跡の閃光玉と化す。もちろん、甘粕は目潰しされた程度で怯みはしない。だが、一瞬動きが止まった。
その隙を突いて、これまで甘粕が払った鉾が背後から襲い掛かる。
「ふはッ、だがこの程度俺が対処できないはずがないだろう」
しかし甘粕は動じない。その搦め手を歓喜と共に受け入れ、数発は受け止めながらも見事軍刀で受け流し、弾いてみせた。人知を超えた体の硬度を実現した肉体は、数発の例外も致命傷には至らせない。更には、受けた傷もすぐさま回復してしまった。
だが、まだだ。
甘粕を囲むように次々と円形に鉾が突き立てられると、逃げ場を失った甘粕の頭上からヴリトラの尾撃が降ってきた。
「ほぉ……。だが届きはせぬよ」
次の瞬間、甘粕は鉾をすり抜けて後方へと跳躍。甲板の貫通して穴を空けたヴリトラの攻撃は空振りに終わる。
お返しといわんばかりに甘粕は何もなかった甲板に戦艦に搭載されるような砲台を出現させると、間髪入れずに砲弾を放った。
「ぬるいぬるい」
そんな攻撃当らぬと跳躍して回避しようとしたヴリトラだったが。
「なッ!?」
「なに、そう難しい話ではない。無限の射程を砲弾に付与したうえで、泡をまとわせてみたのだよ。
おまえの持つ逸話に、乾いたものでも湿ったものでも傷つかないというのがあっただろう? 別に知らんわけでも、忘れていたわけでもないが、まずは素面でどれほど通るのか見させてもらった。
いやはや、まったく効かんとはね。神威を込め、人類史でも桁違いの兵器を使ってみたのだが、さすがはインドラすら手を焼いた永劫不滅の魔だよ。まったく、敵わんな。
……だが」
問題はない、と斬撃を二、三度飛ばしながら甘粕は笑った。
この男にしてみれば先ほどの攻防も実験でしかなく、邪竜に殺されかけたことすら恐れるには足らず。
勝利を疑っていないというより、自分の敗北すら視野に入れたうえで楽しんでいる。全力で挑み、神話の領域の戦闘が出来ているという事実をかみしめているから恐怖する時間すら惜しい。
「東洋の龍ではない。おまえはやがて滅ぼされる悪性だろう?
ならば、なあ。武力で倒せぬ道理などありはしないッ」
素早く組み上げられる術式。甘粕の背後に巨大な曼荼羅が出現した。
これよりは盧生の本領発揮。自らの人間賛歌に賛同する人の数だけ強化され、自らの戦う姿でもって人々に訴えかける。
「――
甘粕の人間賛歌とは、すなわち愛と勇気。
「そうじゃ、見せるがいい! わえに、人間のあがく様を、輝きを!
さもなくば天を覆いつくす魔たるこのわえが、滅びをくれてやろうぞッ!」
それをこそ渇望する邪竜は笑い、笑い、己の周囲に炎で創り上げた巨大な蛇を出現させる。
それは甲板を燃やすことなく顕在し、人など丸のみに出来そうな大口を開ける。その数は二桁、三桁にも上り、液体のように流動しながら、個体のように
それに相対する甘粕正彦は相変わらずの笑顔。勝利を欠片も疑わず、刃先を相手へと向けた構えのまま奥義を練り始める。
光り輝く曼荼羅には、甘粕の思想に感化された人々の想いが集約され、そのすべてが甘粕の力となっていた。今の甘粕ならば、相手が惑星すら滅ぼせるような敵であろうとも対等に渡り合うことができるだろう。
あまりの重圧に空間が軋む。
最終決戦が、始まろうとしていた。
馬鹿(褒め言葉)同士の対決は書いてて楽しい。
というわけでまた2部構成です。
なんでしょうね、この終わりが見えない感じ。