待っていたのか柱間ァ!(現代で)   作:駅員A

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前世が忍者?

 うちはマダラの最期の記憶は、己を「戦友」と呼ぶ友の声だった。

 間違いだらけの人生だった。

 いつから間違えたのか自問自答を繰り返し、過ちを繰り返し、そして結局は無様に利用されて終わった。

 

 だから目を覚ました時、彼は信じられなかった。

 己が失い続けた4人の弟が生きていて、笑っている今生に。

 無限月読は失敗したのにこんな幸せな夢を見ていいのだろうか。

 

 幻術・解の印を組む兄を弟たちは首を傾げて見、真似してまた笑った。

 まだ皆、幼いから笑い声は高かった。

 すぐ下の弟のイズナ以外は記憶通りの笑い声だった。

 

 恐る恐る手を伸ばし、イズナの頬に触れた。

 柔らかい、子供の頬だ。

 

「どうしたの? 兄さん」

 

 数十年に聞く弟の声。

 彼が死んだ時よりも幼く、それでいて懐かしい優しい声。

 

「イズナ……」

 

 頭を撫でると、嫌がることも無く照れた顔で笑うイズナ。

 さらに下の弟たちが僕も、僕も、僕もとマダラに殺到した。

 襖が開いた。

 

「っ……! 父さま……」

「…………そうか。思い出したか。マダラ、私の部屋に来なさい」

「はい」

 

 弟たちが「えー」と口をとがらせると、タジマは優しい声音で弟たちに「すぐ終わる」と言った。

 マダラにとっては青天霹靂の出来事だ。

 あの父さまが優しい声を出す? しかも微笑んでいなかったか? あの父さまが?

 混乱するマダラは父の部屋に入り、正座して向かい合った。

 

「マダラ、うちは一族の宿敵を答えろ」

「……千手一族です」

「そうか……やはり思い出したのだな。いいか。心して聞きなさい」

 

 そうして始めたタジマは話し始めた。

 

「マダラ。私もお前と同じように忍者だった前世の記憶がある。だが、この世界が未来の世界なのかは分からない。忍者なんて空想のものとして扱われる世界だからな」

「確かになんの術も使えない……」

「ああ。どうやらこの世界は科学というのが発達した世界のようだ」

「科学か……。けど、どうして俺と父さまだけにこんな記憶が……?」

「記憶があるのは私らだけではない。他にも似たような者はいる。どんなきっかけで思い出すのかは分からないが、とても突然のことだ」

「俺は一体……なんなんだ?」

 

 困惑しつづけるマダラにタジマは優しく言った。

 

「お前はうちはマダラ。私の息子だ。マダラ、今の世界で生まれ育った時の記憶もまだ残っているはずだ」

「生まれ育った時の記憶……」

「服装も家も前とは違うが、お前は気にせず受け入れられているだろう?」

「そう言われてみれば……」

「今は記憶が混濁しているがじきに落ち着くはずだろう」

 

 タジマにそう言われ、マダラは深呼吸をした。

 

「確かに少しずつ思い出してきました。今は夏休みですね?」

「ああ。…………マダラ。家の近くに水切りができる川がある。好きに行きなさい。なに、イズナたちはいなくなったりしないさ。私が守っているからな」

 

 父の言葉にマダラは家を飛び出した。

 景色は前の世界と全く違うのに、迷いはなかった。

 なぜだか、ここだ、と思える場所があった。

 その川は小さな森に囲まれ、前の世界のあの場所によく似ていた。

 

「ハア、ハア……誰もいねーか」

 

 もしかしたらアイツがいるかもしれない。

 期待していたマダラはガッカリしつつも、足元の石を持って川に向かって投げた。

 あの石が向こう岸に届けばもう一度会える。

 もう弟たちを死なせなくて良い世界でもう一度会える。 

 

 逸る心が手をブレさせ、願掛けは何度やっても成功しなかった。

 けれど、急に後ろから投げ込まれた石がマダラの石を超え、向こう岸へ渡った。

 

「気持ち少し上に投げる感じ。コツとしては……」

「そんなこと分かってる」

 

 振り向くと戦友がいた。

 

 

 

 

 

 目が合った柱間が急に泣き出した。

 

「や、やっぱりマダラも記憶が戻ったんだな……マダラ、マダラぁ……!」

「おまっいきなり泣くんじゃねーよ! 男だろ!」

「今の時代、男も女もそう意識せずともよいのだぞ、マダラ。時代遅れぞ!」

「うっせーな! 俺ぁ、ついさっき記憶が戻ったばっかりなんだ! つーか、お前、来るのがおせーんだよ!」

 

 急に柱間が落ち込みだした。

 

「あんまりぞ。それを言うなら俺はお前よりも3日も早く記憶が戻っていたぞ。遅いのはお前ぞ」

「だーっ! お前、この世界でもその落ち込み癖、直ってねーのかよ!」

「マダラも相変わらず水切りが下手くそぞ」

「この……っ! 時代が変わろうが関係ねー! 今からてめーで水切りしてやる!」

「……次こそ届くと良いな。まあ、出来るなら」

 

 体育座りで落ち込みながら卑屈に笑う柱間に怒るマダラ。

 まるで子供のころに戻ったようだった。

 それを自覚した途端、マダラの勢いは減り、そして気まずそうな顔になった。

 

「ん? どうした、マダラ?」

「お前、記憶が戻ったなら覚えているんだろ? 俺らの最期を……俺がしたことも」

 

 顔を背けるマダラを見た柱間は急に大人びた顔つきになった。

 

「マダラ、記憶はあくまで記憶だ。俺もお前も覚えている。けれど、今の世界の記憶だってある。大切なのは今ここにいる俺たちだ」

「…………今度はただの戦友として酒を酌み交わすこともできるか?」

「ああ! もちろんだ、マダラ! と言っても、今はまだ子供だから酌み交わすのはジュースだな」

「ははっそりゃあ格好がつかねーな」

 

 マダラは柔らかく笑い、柱間の隣に腰をかけた。

 そよそよと川が流れていく。

 死体一つ流れない、綺麗な川だ。

 

 それから二人はたくさん話した。

 今生のことを、主に弟たちの話を。

 

「俺は五人兄弟、お前は四人兄弟。どちらも欠けてねーのか」

「ああ。お前のところの親父さんも記憶があるのだろう? 俺のところもだ」

「そういや、この川のことを教えてくれたのも父上なんだよな」

「なんだマダラ。聞いていなかったのか? 俺らの父上たちは面識があるし、示し合わせて

この川の近くの家を買ったんだぞ」

「はあ?」

「年に一回、酒を飲みに行く仲らしいぞ」

「年に一回ってところが生々しい距離感だな……」

 

 マダラはなんとも言えない顔になった。

 

「まあ、俺が言いたいのは父上たちもやり直しているということだ。今の時代、子供が四、五人いるのは多い方だ。けれど、欠けることなく俺らの弟たちを守ってくれたのだから」

「そうだな。そういやぁ、こっちの父さまは前の世界じゃありえねーほど生ぬるくなってたぜ」

「ガッハッハッハッハ! そりゃあ俺のところも同じぞ! 俺はしばらく父上の顔をまともに見られなかったぞ!」

「俺もそうなりそうだ」

 

 大笑いする柱間にため息を吐くマダラ。

 ふと、マダラの顔が真剣なものになった。

 

「記憶を取り戻したのはお前だけか? 弟たちは?」

「誰も思い出しておらん。俺もお前も同じころに思い出したということは、扉間たちもそろそろ思い出すのかの……皆目見当もつかん」

「こっちもイズナたちは思い出していない。俺としては思い出してほしくねーな」

「それはなんでだ?」

「お前はともかく、俺は弟たちを誰も守れなかった不甲斐ない兄だ。情けねー話だけどよ、そんな兄として見られたくねーんだよ」

「お前は相変わらず繊細な男だのぉ。そんなこと言ったら俺とて、下の弟二人は守れなかった。だからこそ、次は守ると安心させてやらなければいかんだろ?」

「ふん。お前も相変わらずだな。……ああ、思い出したついでに詫びておく」

「なんだ?」

 

 マダラは柱間に向かい合って頭を下げた。

 

「扉間のことだが……穢土転生で蘇ったアイツと戦っていた時、六道の棒をかなり刺して痛めつけた。死体とは言え、悪かった」

「…………顔を上げろ、マダラ」

 

 柱間はマダラの顔に一発、拳を入れた。

 マダラも文句は言わなかった。

 

「この一発でその話は終わりだ。扉間はお前の弟を殺したからお前も胸に溜まるものはあったのだろう」

「ああ。けど、俺は兄として最低の行いをしたからな。イズナのことは本人同士で解決させる」

「そうだな」

 

 夕日の赤が川を染め始めた。

 もう子供は帰る時間だ。

 どちらともなく二人は立ち上がり、別れのあいさつを交わした。

 

「またな」

「ああ。明日も待ってるぞ」

「明日は弟たちと遊ぶから明後日にしろ」

「む……そういえばお主、さっき記憶を取り戻したばかりだったか。仕方あるまい。存分に楽しめ」

「おう。じゃあな」

 

 瞬身の術を使えない二人は走って別れ、マダラはそのまま家まで止まることはなかった。

 

「あ! 帰って来た! 兄さん! どこ行ってたの? 僕たち兄さんと遊ぶの待ってたのに!」

「悪い、悪い。今から遊ぼうぜ」

 

 腰に手を当て、頬を膨らましたイズナを筆頭に、弟たちが「兄さん」「兄さん」「兄さん」とまとわりついた。

 マダラと楽しくじゃれていたイズナが急に悲鳴を上げた。

 

「待って兄さん! その頬っぺたどうしたの? 赤いよ!」

「ん? ああ。どうってことねーよ。こんぐらい」

「誰かと喧嘩? 兄さんを殴ったのは誰っ?! 僕が仕返しに行く!」

「俺が報復された方なんだよ。気にするな、イズナ。それよりもそろそろ飯の時間だ。手を洗って母上の手伝いに行くぞ。飯の後は好きなだけ遊んでやる」

 

 イズナ以外の弟たちは「遊ぶ」という言葉に反応して大喜びしているが、イズナだけはジトーっと兄を見つめていた。

 そんな次男の視線を笑顔で受け止め、マダラはイズナの頭をぐりぐりと撫でた。

 

「もー兄さん! 髪がぐしゃぐしゃになる!」

 

 口を尖らせながらも満更ではないご様子のイズナ。

 そんなイズナを羨ましがって僕も、僕も、僕も、とまた群がる弟たち。

 マダラは小さな弟たちが存在する幸せを噛み締めながら彼らと家で遊ぶのだった。

 




「父さま……それは?」
「人生ゲームだ」
「え?」
「わぁい! 人生ゲーム大好き! ほら、兄さん! みんなでやろう!」
「お、おう……(あの父さまが人生ゲーム?!)」
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