バーベキューが2日後に迫ってきているためもあってか、その日の柱間はやけにワクワクとしていた。
そして、マダラも隠そうとしながらもにやけを隠せていなかった。
「まさか父上たちがどちらも家族行事に誘うとは驚いたぞ!」
「あの様子だとお互いに考えてはいたようだな。柱間。うちはの火入れは日本一だ。明後日のバーベキューは度肝を抜くぜ」
「おお! さすがは火遁のうちはだな! 確か今は鉄鋼業関連の仕事をしておるのだったか?」
「ああ、そうだ。父上が独自に開発した溶接技術が売りの会社だ」
「俺はてっきりうちは煎餅の社長なのかと思っておったぞ」
「あれは祖父さんの会社だ。親父はそこから出て行って好きにやってる」
二人はいつものように水切りをしながら話していた。
「俺の家の流しそうめんも見たらビックリするぞ! 最近の父上は仕事終わりにそうめん台の改良ばかりしておるからの」
「そうめん台の改良? あんなの竹を半分に切るだけだろ」
「そんな生半可なものではないぞ! 今の千手一族は建築の匠だからの。父上の知るすべての技術を込めて作ったジェットコースターそうめんだ!」
「おいおい、マジかよ……ちゃんとそうめん食えるんだろうなぁ」
「美味さは保証する! この俺が!」
「だから心配なんだよ。お前、いかにもバカ舌そうだろ」
「バカ舌……あんまりぞ……ひどいんぞ……」
ズーンと落ち込む柱間にマダラはうげっとなった。
「また落ち込みやがって! 事実を言っただけだろ!」
「俺はバカ舌じゃないぞ! マダラは繊細すぎるから料理にもこだわりがあって面倒そうぞ……」
「んだとゴラァ! 母様の料理はどれも完食してるに決まってんだろ!」
「そうか? お主のことだ。味噌汁は出汁から取ったものじゃないと許さないとか言いそうぞ」
「ああ? 出汁から取らねーと味がしねーだろうが!」
「ほれ、そういうとこぞ。今どきは出汁の粉という便利なものがあるのにマダラは世間知らずよのぉ」
「うるせー! 母様はそんな手抜きしねーんだよ!」
「ククク……出汁を取らないことを手抜きと言っている時点で面倒な奴ぞ。どうせ出汁の粉を使っていても気づいていないだけぞ」
「てめー! 今日という今日は覚悟しやがれ!」
いつものように取っ組み合いを始める二人。
今日はどうやら止めに来る弟たちはいないようだ。
ひとしきり暴れた後、マダラが柱間に言った。
「柱間。お前、こっちの地域は馴染みねーだろ? 案内してやるよ」
「おお! それは楽しそうだ!」
マダラと柱間はそれぞれ川を挟んだ向かいに家が建っていて、学区も違う。
お互いに川の向こうはあまり行かない場所なため、柱間はさらにワクワク。
マダラも自慢げな表情を隠しもしない。
「そこの店は母様がよく使うスーパーだ。その隣の本屋は種類が豊富でおススメだ。んで、向こうの公園には変なジジイがいるから注意しろ。あと、そこの家にはデケー犬がいてな。弟たちは泣いて怖がるから前を通らねーようにしてるんだよ」
「ふむふむ。川を挟むだけで全く違う場所に感じるぞ! ん? なんだか香ばしい匂いがするの……」
ぐー、と鳴る柱間のお腹。
マダラがニヤッとした。
「ちょうど八つ時だ。柱間、今日は俺がご馳走してやるよ」
彼が案内したのは道の角にある小さなお店。
そこにはお婆さんがいた。
「婆さん。せんべい二枚頼む」
「あら、マダラちゃん。今日はお友達と一緒なのね。初めて見る子だわ」
「む! ここはうちは煎餅の支店か! 俺は千手柱間! マダラの親友ぞ!」
「てめっ……よくもんな恥ずかしいことデケー声で言えるな……」
照れと恥ずかしさの混じった表情をしながらも否定はしないマダラに煎餅屋のお婆さんは微笑んだ。
「マダラちゃんの親友! そりゃあ腕によりをかけた出来立て煎餅を作らないとねぇ」
わざわざ煎餅を焼き始めてくれたので柱間たちは眺めて待つことにした。
「なあ、マダラ。そこの婦人もうちはの者か?」
「いや、ただの従業員だ。でも父さまがガキの頃から店をやっているらしい」
「ほぉ……うちは煎餅はうちは一族が独占しておるのかと思ったが……」
「んな沢山いねーよ。どれだけ煎餅屋があると思ってんだ」
「む……そんなに多いのか?」
「俺も数は覚えてねーけどそれなりにあるらしいぜ」
子供らの会話に煎餅を焼いていたお婆さんが加わった。
「マダラちゃんのおじい様は立派な方でねぇ。あなたたちが生まれるすごーくすごく前にあった戦争で夫を亡くした寡婦がたくさんいたのよ。そういった人たちに煎餅屋のノウハウを伝授してくれてお店を持たせてくれたの。私みたいにね」
「ほぉ……この国でも戦争があったことは知っていたがそんな対策を……」
「煙草屋のやり方を真似したんだとよ」
「なるほど。扉間が聞いたら興味を持ちそうな話ぞ」
「お前の弟ならとっくのとうに知ってんだろ」
煎餅が出来上がった。
「さあ、熱いから気を付けてね」
「ありがとう、ご婦人!」
「美味そうだな」
店先で二人そろってかじりつき、二人そろってあちち、と舌を出す子供たち。
お婆さんはニコニコしながらそんな様子を眺めていた。
「美味い! さすがうちは煎餅! 見事な火入れぞ!」
「ふん、当たり前だろ。ここの婆さんは祖父さんも認める火入れの達人だ」
「いっぱい褒めてもらえて嬉しいねえ」
うまいうまい! とあっという間に食べ終わった二人は町の探索に戻った。
「馳走になったの、マダラ。今度俺の町を案内するときは美味い甘味に連れて行くからの!」
「ま、あんま期待しねーで待ってるよ」
「お前も絶対に美味いと唸る店ぞ!」
ぷんすかする柱間にマダラはカラカラと笑い、柱間もつられて笑った。
そんな小学生二人に話しかけた人物が。
「おおっと、そこの坊ちゃんたち。お前ら金持ってそうだなぁ……」
今どき珍しい学ランリーゼントの不良だ。
仲間はいないようだが、高校生だからか十分威圧感がある。
「おい、そこのお前。ちょっとジャンプしてみろ」
「む? ジャンプか? ほれ」
ぴょんっと思いっきり高く飛んだ柱間が着地すると、ボロボロと何かが落ちた。
柱間が顔の高さまで飛んだことに一瞬驚いたものの、不良は何かが落ちた音にニヤニヤした。
「へへっやっぱ小銭を持ってたか……ってこれドングリじゃねーか!」
「おおっと。いかんいかん。これは板間と瓦間にあげるためだからの」
落ちたドングリを全部拾っていく柱間。
呆れた顔で見ているマダラに不良は言った。
「クソッ! おい、そっちのテメー! ジャンプしろ!」
「ふん。いいだろう」
ぴょんっとこれまた高く飛んだマダラはそのまま不良の顔面を思いっきり蹴りつけた。
「ぐえっ!」
「飛んでやったぞ。感謝しろ、砂利」
「おいマダラ! 今は昔と違って暴力沙汰にはうるさい時代ぞ! そうすぐに攻撃するでない!」
「小学生をカツアゲしようとしているのだからこの程度の反撃は構わん。気を失わんように加減はしてある」
「だからと言って、ちとやりすぎぞ! ほれ、泣いておる!」
小学生から反撃されると思わず、しかもめちゃくちゃ痛かったせいで不良は地面に仰向けになったままさめざめと泣いていた。
柱間はしゃがみこんでそんな不良の顔を覗き込んだ。
「マダラが悪かったの、若いの」
「ふん。男が往来で泣くなんぞみっともない」
「マダラ! 今は男だなんだという時代ではあるまい!」
「なら先にコイツの時代遅れな髪型と格好を突っ込めよ」
「う、うう……うえーーーーん! 覚えてろぉ!」
自分の顔の高さまで飛ぶ化け物じみた小学生たちが怖くなった不良は捨て台詞を吐き、ピューンと逃げて行った。
追いかけようとしたマダラを柱間は止めた。
「柱間、なんで止めるんだ!」
「別に俺もお前も迷惑したわけではあるまい。むしろ迷惑かけたのはお前ぞ、マダラ」
「ふん。正当防衛だ」
「過剰防衛ぞ。とにかく、次に行こうではないか」
柱間がそう言った時、帰りの時刻を知らせる音楽があちこちから流れ始めた。
夕方に鳴る『ゆうやけこやけ』の通り、もう空はオレンジ色になっていた。
「そろそろ帰る時間か」
「なら川のところまでは見送ってやる」
元来た道をたどる二人。
ふと柱間が公園に目をやった。
「む? あそこの老人が何やら呼んでいるの!」
「おい柱間! あそこの公園のジジイは気を付けろって言ったばっかりだろうが!」
マダラは柱間を追いかけながら止めようとしたが、結局公園内に入ってしまった。
「どうした? ご老人」
「ヒッヒッヒ……小僧。ワシと勝負せんか? 面白い遊びを教えてやるぞ」
「あいにく、俺らはもう帰る時間……おお! これはもしや丁半か!」
老人が持っていたサイコロ二つとひびの入ったカップを見て柱間が目を輝かせた。
「お! なんだ坊主、お前さんガキの癖によく知ってるなぁ……なら話は早い。これはワシが今日一日で集めた全財産だ」
「それなら俺は今持っている小遣い全部を賭けよう!」
「バカ野郎! お前、小学生がホームレスと賭け事してんじゃねーよ!」
マダラが止めようとするも、柱間はすでに財布の中身を全部出してしまった。
100円玉が5枚。小学生にとっては安くはない値段だ。
「丁、半、どっちだ?」
「丁だ!」
カップの中のサイコロの目の合計が偶数なら丁、奇数なら半。
果たして。
「…………ヒッヒッヒ、ワシの勝ちじゃの」
「ガッハッハッハッハ! 強いのぉ、ご老人!」
「負けてんじゃねーよ!」
全財産搾り取られたくせに元気に笑う柱間にマダラは怒鳴った。
「お前なぁ! 俺がせっかく不良から守ってやったテメーの金をこんなあっさりスッてんじゃねーよ! つーかな! 今の時代、賭け事は厳禁なんだよ!」
「現金だけにか?」
「面白くねーよ! ったく、行くぞ!」
「また小遣いもらったら来いよ、坊主」
「おう! その時はまた勝負ぞ!」
「するんじゃねーよ!」
マダラは言いつつもこの時思った。
「いやぁ、しかし久々にやったがやはり賭け事は楽しいのぉ!」
「お前……そんなんでよく俺に時代がどうのとか言えるよな。お前がやってること、法律違反だぞ」
「うーむ……しかし賭けは楽しいから仕方あるまい」
「仕方あるまいで済む問題じゃねーよ! ったく。お前、少しは世間の目も気にしろよ」
「相変わらず繊細な男よ。この程度、どうってことはあるまい。まあ、すっからかんになったのはちと苦しいがな! ガハハ!」
いつもの川まで来た柱間が思いっきり笑った時。
「兄者! すっからかんになったとはどういうことだ?!」
咎めるような声が。
柱間が振り返ると弟の扉間がいた。
「と、扉間……いや、ちと遊びが過ぎてしまっての。大したことはない」
「大したことはあるだろう! 父上から小遣いをもらったばかりだったのに! 何があった? 変な買い物でもしたか? それかカツアゲにでもあったか? まさかそこのマダラに貢いだわけではあるまい?」
「ふざけんな! 俺は柱間に馳走してやった方だ!」
濡れ衣を着せられそうになったのでマダラが反論すると、扉間が目を瞬いた。
「む……そうであったか……兄者が世話になったようですまん」
「い、いや……分かればいいんだよ……」
こんなあっさりと話を分かってくれる扉間を初めて見たマダラは面食らいながらモゴモゴと言った。
親友と弟が揉めない姿に柱間がニコニコしていたが、弟の鋭い視線が来たことで一転した。
「それで兄者。親友とやらに奢ってもらうほどに困窮しているようだが……何をしてきた?」
「い、いや、だからの。マダラが馳走してくれたのは厚意ぞ。俺も今度はマダラに馳走しようと思っていての」
「すっからかんのくせに出来るわけがなかろう! 言え! 今度は何をやらかした! いや、マダラとやら。兄者は何をしたんだ」
「マダラ! 俺とお前の仲ぞ。頼むから内緒で」
「ホームレスと賭けをして全部ぶんどられやがった」
「マダラぁああああ!」
あっさりと言ったマダラに叫ぶ柱間。
扉間がくわっと目を見開き、兄を思いっきり引きずって歩き始めた。
そのせいで柱間はマダラに恨みごとの一つも言う暇がなかった。
「今日という今日は! 兄者! 父上にもきっちり叱ってもらうからな!」
「待て、扉間。これは深いわけがあるのだ!」
「……一応そのわけを聞いてやろう。なんだ?」
「賭けを挑まれたら逃げるわけにもいかんだろ?」
「黙れ! 聞いて損をした! マダラとやら! 俺らは失礼する!」
「おう。明後日はちゃんと来いよ。父さまがバーベキューの準備をして待っているからな」
「マダラ、助けてくれ、マダラぁあああ!」
こうして柱間は弟に引きずられながら川の向こうへと消えて行った。
ふう、と息を吐いたマダラは振り向いた。
「イズナ、隠れてるんだろ? 出て来い」
「……気づいていたんだね、兄さん」
「そりゃあ兄だからな。隠れる必要はないんだぞ」
「だって兄さん、あの千手たちと仲良く話していたから……あの柱間って人だけじゃなくて弟の扉間ってのとも仲良くなったの?」
「いいや。アイツは柱間の弟だ。それ以上に仲良くなる気はない」
「ほんとだね?」
恨めし気に見上げるイズナの頭をマダラは撫でてやった。
「さ、帰るぞ。イズナ。迎えに来てくれてありがとうな」
「へへ……兄さん、今日の夜は何して遊ぶ?」
「そうだな……とりあえず賭け事以外で」
「賭け事? そんなこと一度もしたことなかったでしょ。変な兄さん」
「そうだな」
こうしてうちは兄弟は和やかに帰って行った。
「父上! 兄者がホームレス相手に賭けを挑んで小遣いを全部スッて来た!」
「ホームレス相手に賭けを挑んだ? 小遣いを全部スッた? …………さ、最近の子供はそういう遊びが流行っているのか……???」
「んなわけなかろう! そんなことする子供、兄者だけだ!」
「は、柱間……そもそもお前、なんで急に賭け事を? あ、まさか……」
「いやぁ、ははは……(前世で俺が賭け事にハマったのは父上が死んでからだったからのぉ……)」
「そうか……(この子にパチンコ、競馬は絶対に教えてはならない)」
固く心に誓った仏間だった。