「柱間兄者! 朝だよ! 起きて!」
「うう……板間、あと10分でいいから寝かせてくれんか?」
「ダメだよ! ラジオ体操に遅れちゃうよ! 瓦間兄者も早く起きて! 扉間兄者はもう起きてるよ!」
千手家の目覚まし担当は末っ子の板間だ。
こっそりゲームで夜更かしをしていた柱間は寝ぼけまなこを擦りながら布団から起き上がった。
本当はこのまま布団に逆戻りしたいが、隣で仁王立ちしている扉間に睨まれてはそれもできない。
「毎日毎日、板間はよく起きられるの……ふわぁ」
「子供と老人は早寝早起きだからな。兄者、さっさと布団を畳め」
「扉間もやけに目が冴えているみたいじゃないか」
「俺は30分早く起きて宿題をしていた。夏は朝が一番活動しやすい」
すでに扉間と板間は着替えまで済ませ、板間にいたっては首からラジオ体操のスタンプカードを下げて準備万端だ。
「早く行こう!」
「分かった。分かったから板間、引っ張らないでくれ」
のろのろと布団を畳む柱間と瓦間の周りでちょこまかと動く板間。
末っ子の手伝いもあり、柱間たちも準備万端。
「父上、ラジオ体操に行って来る」
「気を付けて行ってきなさい」
食卓で新聞を読んでいた父親に一声かけ、出発だ。
が、そう進まないうちに柱間が「あ!」と声を出した。
「そうだ! 今日はマダラたちのいる学区に行ってみようぞ!」
「兄者、ラジオ体操は学区ごとに分かれているものだ。いきなりよそのフィールドに入るのはよくない」
「俺は別にいいよ。面白そうだから」
「僕もエチゴ君に会いたい!」
エチゴ君とはうちは兄弟の末っ子だ。
1つ年下の彼を板間はお兄さん気分で可愛がっていた。
「よし! 板間もこう言っていることだし行くぞ!」
こうなっては扉間も止めることはできない。
柱間を先頭に千手四兄弟は川を越え、大きな公園に到着した。
「お! やはりここにいたか! おおーい、マダラ!」
「あ? げっ! 柱間じゃねーか。なんでここにいるんだよ。学区がちげーだろうが」
「たまにはこういうのも面白いだろう」
呆れるマダラではあったが、どうやらうちは家の末っ子は違うらしい。
「板間くーん!」
大喜びで千手家の末っ子に駆け寄りはしゃいでいる。
その姿を見るとマダラも(まあ、いいか)と思いなおした。
さらに瓦間の方もうちは家の三男たちに話しかけている。
「なあ、トガク、クロキ。こっちの公園ってカブトムシ捕れるか?」
「ここの公園よりも向こうの空き地の方が穴場だ」
「瓦間君もカブトムシが好きなんですか? トガク兄さんと一緒ですね!」
「トガクも?」
「トガク兄さんは学校の宿題でカブトムシを育てているんです! ね、兄さん!」
「ああ。自由研究は観察日記にしている」
「マジ? 俺も同じ。なあ、お前のカブトムシ見せてくれよ。俺も今度持ってくるからさ」
盛り上がる三男、四男たちの傍らでイズナの方も扉間に話しかけた。
「お前、自由研究何にした?」
「複数の野菜からDNAを取り出し比較しているところだ。去年は葉物野菜のみだったから今年は根菜類も抽出している」
「そんなこと家で出来るのかよ」
「父上が誕生日祝いに顕微鏡をくれたからな。そっちは何にした?」
「僕は弟たちと一緒に万華鏡を作った。前にやったゴミ拾いボランティアの時に持ち帰ったガラスを加工して中に入れたんだ」
「ゴミを加工して入れるとはなるほど、SDGsも意識した自由研究ということか」
「そういうこと。そっちのがウケはいいだろ」
そんな話をしているうちにラジオ体操の音楽が流れ始めた。
地域は違えど体操でやることに違いはない。
だが、その動きにはそれぞれ個性が出ていた。
弟たちの手本となるように手指の先まで意識するマダラ、全身を大きく動かして楽しげな柱間、弟たちがちゃんとついていけているか気にするイズナ、最小限の動きながらも必要な筋肉をしっかり使う扉間、などなど。
「おや、坊主ども見ねー顔だな。第二小の子か!」
「そうだぞ! 今日は友に会いに来たんだ!」
「ああ、うちはの子たちの友達か。ほれ、お疲れさん」
マダラたちの学区のPTA会長がポンポンポン、とスタンプを押していく。
ラジオ体操が終わったらあとはそれぞれの家に帰宅、なのだが。
「瓦間、そっちはマダラたちの家ぞ。俺らはあっちだ」
「俺はトガクたちに着いてく! カブトムシ見せてもらうんだ!」
「瓦間兄者が行くなら僕も行く! エチゴ君と遊びたい!」
下の子たちの反乱に柱間がポン、と手を打った。
「おお! なら俺も」
「俺もじゃないだろう兄者! 瓦間! 板間! 母上が家で朝餉を用意して待っている! まさか母上を待ちぼうけさせるつもりじゃないだろうな?」
「うっ…………板間、今日は帰ろうか」
「母上泣いちゃう?」
「うむ……」
「母上が泣いて俺らが父上に殺されることは確実だな。トガク! クロキ! 飯食った後でいいか?」
瓦間の問いに三男のトガクは頷き、その下のクロキも「もちろんです!」と答えた。
弟たちが勝手に遊びの約束を取り付けている様子にマダラは焦った。
(おい、千手の砂利がうちに来るのかよ。トガクたち、いつの間にんな仲良くなってんだ?)
兄たちが遊びの約束を取り付けたとなったら末っ子たちだって黙ってはいない。
「僕も瓦間兄者と一緒に行くね!」
「待ってるよ!」
こちらも勝手に約束してしまうので、扉間がいさめた。
「瓦間、板間。そんな急に約束したら向こうの親が大変だろう。いきなり見知らぬ他人の子が家に来るなんて親からしたらストレスだ」
板間が首を傾げた。
「でも扉間兄者。僕、エチゴ君のお母さんにいつでも遊びにおいでって言われたよ」
「それは社交辞令というものだ」
「しゃこーじれー? 何それ?」
「『いつでも来て良い』とは言ったけど、本当に行っていいというわけではない」
「扉間! よさんか!」
「兄者は黙っていろ! 俺は社会のマナーというものを教えてるにすぎん」
「しかし板間はまだ4歳の子供ぞ。マダラの母君は本心で言ったかもしれないのに」
「どうせ来んから耳障りの良い言葉を言っただけにすぎないだろう」
社交辞令の意味がよく分からない板間は理解できないながらも涙目になった。
「嘘を吐いたってこと? エチゴ君のお母さん、嘘つきなの?」
この言葉にマダラがブチギレた。
「おい扉間! 俺らの母様が嘘つきなわけねーだろうが! 上等だ! てめーら全員俺の家に来い! うちは流のもてなしをしてやる!」
「兄さん?!」
千手家の子供らが家に来ることに戸惑いを感じていたイズナが驚くも、他の子は大喜び。
勢いで言ってしまったマダラは気まずさを感じつつ、帰ってから母親に切り出した。
「あの……母様。この後、柱間たちが家に来るんだ」
「あら、遊びに来るの? 仲良くなれて良かったわね」
「いきなり見知らぬ他人の子が家に来るなんて親からしたらストレスじゃないのか?」
「ふふ……バーベキューもした仲なんだから見知らぬ子じゃないわ。エチゴは板間君に会いたいって何度も言っていたから喜んでいるんじゃない?」
「母様~! 板間くんが遊びに来るよー!!」
タイミングよく台所に飛び込む末っ子に母親は微笑みかけた。
「マダラから聞いたわよ。良かったわね、エチゴ」
「うん!」
「あら、電話。マダラ、悪いけど味噌汁が吹きこぼれないように見ててくれる?」
「ああ」
パタパタと走って家の電話に向かう母親。
廊下からその声がうっすらと聞こえた。
「もしもし……あら、千手さん。ええ聞きましたよ。いいんです、いいんです。どうぞお気になさらず……そうなのよ、やっぱり子供って仲良くなるのが早いわよねぇ。……あら、いいんですか? ええ、ええ……」
その声でマダラは気づいた。
「どうやら柱間たちの親が電話してきているようだな」
「板間君のお母様?」
「そうだ」
末っ子と話しながら鍋を見張っているマダラ。
さらに会話が聞こえて来た。
「私たちもまた会いましょうね。前のランチ会のお店、美味しかったからまた行きましょうよ」
この言葉にマダラは目を丸くした。
(ランチ会? 母様、もしや柱間の母親と仲良くなってんのか? いつの間に? そういや最近、長電話しているところを見たことあったがもしや……)
早めに電話を切り上げた母親に尋ねはしなかったものの、マダラは自分の知らない間に出来上がっているネットワークに恐ろしさすら感じた。
用意してもらった朝ごはんを弟たちと食べ、散らかっている子供部屋を掃除しているうちに元気な声が玄関に響いた。
「お邪魔するぞ!」
わいわいガヤガヤ。
千手家の四兄弟の到来にはしゃぐうちはのちびっ子たち。
「これは母上からマダラの母君へと預かって来たスイカだ。美味しいぞ!」
「あら、ありがとうね。あとでみんなで食べましょう。それとお弁当も持たせているって聞いたわ。今日は暑くなるから一緒に冷蔵庫に入れておきましょう」
「それはありがたい!」
柱間が差し出したのは巨大なタッパーに詰め込まれた大量のおむすび。
さらにもう一つの巨大なタッパーには人数分のきゅうりと味噌、魚肉ソーセージが。
――大食らい兄弟の弁当ってのはかなりの量だな。
柱間が持って来た弁当は、5人兄弟の弁当を見慣れているマダラでも驚くほど。
「母様、スイカは俺が持つよ。イズナ、柱間たちを俺らの部屋に案内しておいてくれ」
「分かったよ、兄さん」
イズナが案内するまでもなく、下の子たちが待ちきれずに部屋へと向かい出した。
末っ子たちは子供部屋へと、瓦間とトガク・クロキのカブトムシ組は庭に面する部屋へとあちこちへ散らばる子供たち。
「この弁当はかなり重いから俺が自分で持っていくぞ! マダラ、台所まで案内を頼む!」
「普通は客人を連れて行くような場所じゃねーぞ。別にいいけど」
さらに柱間はマダラについていってしまったため、残されたのはイズナと扉間。
「せっかくだ。貴様が作った万華鏡とやらを見せてもらおう」
「別にいいけどなんでお前そんなに偉そうなんだよ」
「客人だからな」
「社交辞令だなんだ言っていたくせに……」
そう言いつつ、イズナも扉間をもてなしてあげるため子供部屋へと向かった。
先にいた末っ子たちはすでにおもちゃを広げている。
この短時間でどうやったのか、うちは5人兄弟で使えるほど広い部屋がおもちゃでいっぱいに。
「エチゴ、あんまり散らかしちゃダメだぞ」
「板間! ここはよその家だ! 節度を持って遊べ!」
イズナは早くも片付けながら、扉間は腰に手を当て注意する。
どうやら末っ子たちは初めての家遊びに興奮しているようで、注意も聞かずにキャーキャー騒ぎっぱなし。
後から来たマダラも柱間も部屋の惨状に目を丸くした。
「なんぞ? 台風でも来たのか?」
「いや、まさか泥棒が入ったんじゃねーか?!」
「何を二人してバカなことを言っている。板間たちが散らかしているんだ。兄者からも注意してくれ」
「兄さん。エチゴが注意しても聞いてくれないんだ。いつもはこうじゃないのに」
4歳児と3歳児に手を焼く次男たちに言われ、柱間もマダラもそれぞれ末っ子を注意した。
「板間! やめんか!」
「エチゴ、ここは皆で使う部屋だ。好きに散らかして良いと俺が言ったことはあったか?」
柱間はシンプルに怒鳴り、マダラはネチネチと諭した。
さすがの長男たちの圧に、はしゃいでいた末っ子たちもビクッとなって手を止めた。
「ごめんなさい、柱間兄者」
「散らかしちゃダメってマダラ兄さんは言ってた」
しょんぼりする末っ子たち。
彼らが泣き出す前にイズナと扉間が間に入った。
「さあ、エチゴ。遊びたいおもちゃを選ぼう。ほら、これなんかお気に入りだろ」
「板間。これはお前が気になっていたものじゃないか。使わせてもらえるか聞いてみろ」
次男たちのとりなしもあり、末っ子たちはすぐに機嫌を戻し、今度は決められたスペースで遊び始めた。
扉間たちもそのそばに座ってイズナの万華鏡を覗き合っている。
「よし、マダラ。俺らは何をする? サイコロはあるか?」
「流れるように賭けをしようとするんじゃねーよ。丁半は子供の遊びに入らねーからな」
「良いではないか。俺らの中身は大人なのだから。ガッハッハ!」
「テメーはすっかり賭け狂いになっちまったな。そんなのじゃ将来ロクな大人になれねーぞ。……俺が言うことでもねーが」
忍界を壊しかけた記憶のあるマダラの自虐ジョークを柱間はサラッと流し、おもちゃ箱を漁った。
「おお! 花札があるではないか! よし、やるぞ!」
「お前、どうせ弱いんだろ。勝つと分かっている勝負程つまらねーもんはねーよ」
言いつつ、箱から花札を取り出すマダラ。
「任せておけ! 俺は賭けが絡まなければ普通に強いぞ!」
「だとしても俺が勝つ」
札を並べてキャッキャする兄たちに扉間は小さくため息を吐いた。
イズナも心配そうだ。
「なあ、扉間。お前の兄さんって賭けが好きなんだろ? 花札なんてやらせていいのか?」
「隙を見つけては賭けをしたがるがマダラ相手であればその心配もない」
「おい、さんを付けろよ。兄さんはお前よりも年上だぞ」
「子供同士の付き合いにそんな他人行儀はいらんだろう」
「散々、社交辞令がどうだとか言ってたくせに」
イズナがチクリと言うが扉間はどこ吹く風。
万華鏡を覗きこんでは傾け、その形の変化を観察している。
自分が丹精込めて作った万華鏡にそこまで興味を持ってもらえるとなれば、作ったイズナとしても悪い気はしない。
「いくつか図案を作って出来がいいのにしたんだ」
「ほぉ、他にも図案が? 見せてみろ」
「なんで上から目線なんだよお前」
言いつつもイズナは図案を取ってくるためその場を離れる。
イズナと扉間もはじめほどのギスギスした空気感は薄れているようで、二人きりでもそう気まずくないようだ。
その後、賭けていないおかげか柱間はマダラと引き分けとなり、末っ子たちはキャーキャー楽しみ、三男たちはカブトムシ捕りの約束を取り付け、とうちはと千手の子供たちはそれぞれに楽しい1日を過ごしたのだった。
「柱間兄者! 朝だよ! 起きて!」
「うう……いつもより1時間も早いではないか……俺はまだ寝るぞ」
「ダメだよ! 今日はみんなでカブトムシを捕りに行くんだよ! 瓦間兄者も今日は自分で起きたんだよ!」
「そりゃあ瓦間が約束したことだからの……」
「扉間兄者だってもう準備万端だよ!」
「扉間、お前はそこまでカブトムシに興味がなかったはずだが……」
「大きなカブトムシなら高値で売れる。さあ、行くぞ兄者」