「さぁ初陣だ! 盛り上げていくよ、ゲンガー!」
「おいでませ! ハラバリー!」
お互い一匹目のポケモンを出し、目線を交差させる。
……まだゴスロリなのは恥ずかしいけど、一旦気にしないことに!
「レン氏、実は君のことは元からよ~く知ってたんだよ」
ま、そりゃそうだよね。
前2人からのレポートもあるだろうし、こういっちゃなんだがこのパルデアに生きていてボクを知らない人はあんまりいない。
勿論顔を知らない人は流石に多いだろうが、
でもたぶん、この人の言ってるのはそういうことじゃない。
「配信もたま~に見てたんですぞ? 特にバトルの動画は全部オーバーヒートに熱くって、こっちまでふるいたてるを使ってる気分になるくらいだった!」
「世界一のストリーマーにそこまで言ってもらえるなんて、光栄だね」
世界一なんてそんなことないって~なんて謙遜するナンジャモだが、彼女はこの世界に”ライブストリーミング”という概念を樹立させた張本人なんだ。
彼女がいなければ、きっと配信という文化はここまで世界に浸透していなかった。
だからボクは、彼女に尊敬の念すら持っている。
だからこそボクは、そんな彼女をけちょんけちょんにできれば、さいっこうに楽しいんじゃないかと夢見ている。
「コルサさんからのレポート、とんでもなかったんだからね~! 個人情報だから見せられないけど、たぶん4ケタ文字はあったね」
コルサさん……。
ま、あぁ筆が乗ったなら何よりだけどさ。
「ま、つまり何が言いたいかっていうとさ……」
そこでナンジャモは一度言葉を切ると、すぅっと大きく息を吸い、ばしっとこちらを指差し言葉を放った。
「レン氏に対するボクの期待はキョダイマックスなのである! 精々ボクを楽しませるがよい!」
……ははっ。
口調では”ナンジャモ”としてのおちゃらけたキャラクターを演じながらも、その目はどこまでも真剣だ。
これは、こっちもちょっと頑張らなくっちゃね!
「それじゃあ胸を借りるつもりで、行かせてもらうかな! ゲンガー!」
ハラバリーの特性である”でんきにかえる”。
ダメージを受けることでそのエネルギーを文字通り電気に変え、攻撃へと転用する特性は厄介極まりない。
だからまずは!
「のろい!」
「ふいうち! ……あり?」
「!?」
あ、あっぶなーーー!!
ハラバリーがふいうちを覚えることは知っていたが、採用してる人を見るのは初めてだな。
文字通りのふいうちだった、あ、あぶない……。
「この技、見せるのは初めてなんだけど、まるでみらいよちですなぁレン氏」
「ふ、ふん、まぁね」
うん、わかってたってことにしよう。
バレなきゃセーフだよね、そうに違いない。
「ゲーンゲンゲン!」
のろいがうまく決まってゲンガーも楽しそうだ。
対するハラバリーはその身を蝕む見えざる病に顔を顰めている。
うんうん、いいダメージじゃないか。
「回復&攻撃だー! ハラバリー、パラボラチャージ!」
「ゲンガー! 短距離のゴーストダイブでよけろ!」
流石はジムリーダーのポケモン。電撃なんていう不確かなものにも拘らずしかっりと狙いが研ぎ澄まされ、まっすぐこちらに飛ばしてくる。
けど、だからこそよけやすい。
「ゲッゲッゲ!」
「むきー! あのゲンガー現れる度にボクのこと煽ってくるんですけど!」
うんうん、素晴らしいぞゲンガー。
ゴーストダイブにより現れては消え、現れては消え、と短距離転移に近いものを繰り返すゲンガーは、現世に姿を現すたびにあっかんべやお尻ぺんぺんにより対戦相手の平静さを欠かせることも忘れない。
きっとナンジャモも今の攻撃方法じゃ埒が明かないことに気が付いているだろう。
だから……もうちょい待って……よし今ここでしょ!
「ゲンガー! 地面に潜って!」
「ハラバリー! 狙いすぎず周り全部しびれさせちゃう感じで!」
あははっ! 完璧じゃないか!
ゲンガーが地面の下へととぷん、と沈んでいった直後、地上を見境なく放たれる電気が襲う。
しかしそれも、大地という実質無限の体積を持つ導体に拡散されゲンガーには届かない。
さらに自身の放った電撃で視界が遮られ、ハラバリーからはゲンガーがどこにいるかわからない!
「残念後ろでした♪」
「そこで来るのはおみとおしなのだ! ふいうち!」
「重ねて残念! くろいまなざし!」
「なんとぉ!?」
当然、わかっているとも。
ジムリーダーなんだから、先の先程度読んで当然。だからこそボクはそのさらに裏をかくのさ。
『レン氏、ずっと戦いがやらしい』
『ずっと読みも指示も的確過ぎて怖いわもう』
『まだ一回も攻撃ワザだしてないのにハラバリーボロボロじゃんか!』
「あはは、照れるなぁもう」
『褒めてな……いや褒めてるか』
『ポケモン勝負で”性格悪い”は誉め言葉だからな』
『ましてやレンきゅんどくポケ使いだし』
そのとーり!
いやらしく、狡猾に、じわじわと体を蝕む毒のようにがモットーなのである。
まったくうちの子たちったらワルかわいい!
「実際に味わうとこんなに強いんだ、レン氏……」
「ん、あまりの実力差にイヤになっちゃった?」
両手で顔を覆い、俯くナンジャモ。
口では煽ったけど、まったく……これっぽっちも隠せてないぞ。
「ふひひっ! 楽しぃねぇハラバリー!」
「はら! ばり!」
「あはは! そう来なくっちゃ!」
指の隙間から覗く瞳は愉悦に歪み、口元は緩く開かれ上弦の弧を描く。
わかるよ! うまくいかないって楽しいよねぇ!
「ハラバリー! なみのり!」
「まもるだ! ゲンガー!」
『まったいやらしい技を!』
『鬼! 悪魔! メスガキ!』
ふふん、
『いや、でもナンジャモ笑って』
「そっちじゃあないぜレン氏! シビルドン昇りじゃ~!」
「んなっ!」
水を纏いながらこちらに向かってきていたハラバリーだが、ゲンガーの張った障壁とぶつかる直前に軌道を大きく上に変え、空へと昇って行った。
「にししっ! たまには涼しい花火も悪くないだろー!」
そして、ハラバリーを運んだ大きな波は空中で役目を終え、残ったエネルギーを水飛沫として周囲にまき散らす。
なんだ……? ただの演出? いや、そんな訳……でもこれじゃあたしかにまもるの障壁は躱せても精々濡らすくらいで……そんな風に頬についたしょっぱい水を舐め取りながら思考を回し……しょっぱい!? まずいっ!
空中にふよふよと浮いているゲンガーへ急いで声を飛ばす。
「ゲンガーっ! 急いでゴーストダイ」
「もう遅ーい! ハラバリー、かみなり!」
かみなり、それは天から落ちる雷であるが故に高火力ではあるが何処に落ちるかわからず、命中しないことも多い技。
そもそも雷というのは本来絶縁体である空気中を超高電圧の電気が無理やり突き進んでくる現象だ。つまり電気のとおりやすい物体が近くに在れば、雷はそこに向かって落ちていく。
そう、例えば……塩水で濡れた生き物、とか。
「ゲンガー!」
ゲンガーが生き物かどうか、というのは長年議論の対象にもなる興味深い話ではあるが一度おいておいて……塩水によって一瞬で抜けていくはずの電気が少し滞留し、より高ダメージのかみなりを喰らったゲンガーはあえなく白目をむいて倒れてしまった。
『うおおおおお!! ナンジャモ先制!』
『最後の何!? めっちゃすごい!』
『コンボえっぐぅ、あんなの初見で避けれる訳ないじゃん』
『とてもじゃないがチャレンジを受ける側がやっていい戦法じゃない』
「みなのものもうちの地方のジムチャレンジでこっちのゼンリョク度がチャレンジャーの強さで変わるのは知ってるよね?」
『うんうん』
『えっそうだったの』
『だから日によってコイルの日があったりジバコイルの日があったりしたのか』
やっぱり画期的だよね、このシステム。
ジムチャレンジを行う順番が明確に定まっていないパルデア地方ならではだし、ジムリーダー側もチャレンジャー側も歯ごたえのあるバトルができていいことづくめ。
強いて言えばチャレンジャー全員の情報をレポートに纏める手間とそれを確認する手間がやばいくらいか。
「にししっ、何も上がるのは単純なレベルだけじゃないってことなのだ!」
……なるほど、戦術や対応、技の選択なんてところまでチャレンジャーのレベルに合わせてかえてるのか……え、そんなことできるの?
だってチャレンジャー君がまだひよっこだったら、折角思いついた戦法も試せないってことでしょ? ポケモンバトルなんて今のなみのりかみなりの共鳴りみたいにアドリブによる戦況の組み立てがいっちばん楽しいのに、それができなくなるなんて絶対しんどい。
ていうかそのレベルで自分の強さを調整できるってのがめちゃくちゃすごいな。
なんせとてつもない速さで変動する戦況の中で生まれた思い付いきに対して”これは強い”、”これは弱い”っていうのを瞬時に判断し、適さなければ代案までだしてるってことでしょ? ……ボクでもできるか怪しいぞそんなの。
いや、まぁできるけど? 当然? へのルンパッパだけど?
「だから! こんっな風に全身全霊でバトルができるの実はめっちゃ久しぶりなんだ! 折角の機会だし、ボクもとっておきいっぱい出しちゃうぞー!」
『まじか、これがガチナンジャモ……?』
『こんな強かったのか』
『まぁそりゃ配信の企画とか毎日考えてるんだし、言われてみれば発想力はピカイチに決まってるよな』
「あーいや、まだホンキのホンキってわけじゃないよ? 戦い方はZ技も出ちゃうくらいゼンリョクだけど、使うポケモン達はもーちょっと上のレベルまでいるのじゃ!」
え、ボクでもまだレベルはマックスじゃないの? ボクってば天才だし、ポケモンも強いし、かわいいしかっこいいしあと天才だし、超が付くほど上澄みのトレーナーの筈なんだけど……これより上なんてそれこそ現役のチャンピオンくらいでしょ? 1回全クリした後でまた1から挑戦なんてするモノ好きいるわけ……あ~いや、いたねそういえば……。
てことはなんだ、ボクより彼女の方が上だってリーグ部は判断したってこと?
「ふ~ん……」
あんだけ啖呵切ってもまだ足りないなんて、舐められたもんじゃないか。
「どっちも全力で来なかったこと、後悔させてあげるよ」
「にししっ、いい目だねぇレン氏! それでこそだよ!」
「あ、ところでさぁ……」
ず~~っと気になってたんだけど。
「随分とおしゃべりに夢中だけど、バトル中なの忘れてない?」
「はら……ばりり……」
「へ? あっ! ぎゃあああああ! はらばりぃぃぃぃぃ!!」
丁度そのとき、ず~~~っとのろいに苦しめられたまま放置されていたハラバリーがちいさなおめめをぐるぐるに回して仰向けに倒れた。
『こwwれwwはwwひwwどwwいww』
『ハラバリーかわいそうすぎる』
『こんなん一生呪われてもおかしくないだろ……』
「うぅぅぅ……ごめんよハラバリー……今度好きなもの好きなだけ食べさせてあげるから呪わないでぇ……」
べちょべちょに泣きながらひんしになったハラバリーの入ったボールにほおずりするナンジャモは、なんかこう、とってもかわいそうだった。
『さっきまでのカッコよかったナンジャモどこ?』
『そこになければないですね』
『泡沫の夢だったな……』
つづく!