ポケモンリーグ前……そこには、とぼとぼという擬音が聞こえてきそうな程の哀愁を身にまとう、薄幸そうな美少年が歩いていました。
誰も予想だにしなかった悲劇……身を裂く程の悲しみに襲われている彼は一体何者か。
ーーーそう、ボクである。
「はぁぁぁぁぁ……なんでダメだったんだろ」
思い返しても特に悪いところは見当たらないのに……。
まぁたしかに? ちょっと言葉遣いが面接には適当じゃなかったり? ちょっと生意気だったりしたかもしれないけど? そんなもんでしょ。
……やはりバッジか? バッジなのか?
受付の人もバッジが8個揃ってないとマトモに取り合ってくれないかもとか言ってたし……。
まぁ言われてみれば来てくれた人全員とバトルして実力見てたら時間がいくらあっても足りないし、いくらボクが一番乗りだったとしてもボクだけを特別扱いする訳にもいかないか。
ちっ、こうなったらちゃっちゃとバッジ集めてきますか!
と決意を新たにしていると、草むらからやせいのおじさんがとびだしてきた。
「やぁ君、ポケモンリーグに挑戦してきたのかい?」
「そ、まぁダメだったんだけどね」
やれやれと首を振る。
まったく面接官さんも見る目がないよ……。
「そうかそうか、じゃあここらで一発おじさんと修行していかないかい?」
そう言いながら懐からボールを取り出すおじさん。
ポケモンバトル!
ふっふっふ、丁度欲求不満で困ってたんだよね。
「別にいいけど、子供のボクに負けてもピーピー泣かないでねっ!」
行ってこいヤトウモリ! 宝探しデビュー戦だよ!
ま、ほんとはもっと強いポケモンもいるんだけど、こんな序盤に出てくる人だし、こっちの方がいいでしょ。
「はっはっは、私は未来ある若者の経験になれるならそれでいいよ」
それじゃあ精々経験になってもらおっかな!
「そんな簡単に終わらせないでよね? ざこおじさん?」
ここら辺に出てくるポケモン的にもどうせパピモッチとかワッカネズミとかでしょ?
そんな雑魚ポケモンでボクに立ち向かおうとか笑。
「いってこい、ワルビアル」
「ワッ!?!?!?!?」
は? え、ちょ……は????????
「ワルビアル、じしん」
「ヒュ……」
いちげきで戦闘不能になるボクのヤトウモリ。
やば、変な息出た……。
「はぁぁ!?!? そのセリフから本気の初心者狩りしてくるやついる!?!?」
「おや、ピーピー泣かせてくれるんじゃなかったのかな?」
そう言いながら一見優しそうに微笑むおじさん……しかしその目は愉悦に歪んでいた。
やばい、この人……
「や、あの、そのぉ……」
「もう終わりかい? そんな簡単に終わらせないでもらえるかな」
こ、コイツ……。
でも今はまだ使わないと思っていつものポケモンたちはボックスの中だし……。
あれ、これ……詰んだ?
「ご、ごめんなさい……2分だけ待ってください……さっきボックスに預けた子を連れてくるので……」
「バトル中に手持ちを入れ替えるのはダメなんじゃなかったかな?」
「ほ、ほら! おじさんもこんなザコ相手にしても楽しくないでしょ? ボクホントは結構強いんだよ! だから、ね? おじさんのこと楽しませれるからさ!!」
必死に言葉を紡ぎ、窮地を逃れようと試みる。
こんなヤツに負けたら何されるかわからない……なんとしてでも勝ってはやく逃げないと……。
……クソっ、なんでボクがこんなおじさんにビビらなきゃいけないんだ。
「ふむ……仕方ないなぁ。でも二体だけだよ」
「あ、ありがと!! すぐ変えるから待ってて!」
ワルビアルはじめん、あくタイプ……どくタイプのうちの子達には厳しい相手だし、おじさんのポケモンも流石に一体だけってことは無いだろう。
考えろ、考えろ……誰を使う……。
………………よし。
「行っておいで、タギングル!!」
「どくタイプのポケモンはじめんタイプのワルビアルに不利だけど、大丈夫かい?」
「はっ、言ってなよおじさん!」
悪いけどボックスを使わせてもらった時点でボクの勝ちは決まったようなものなんだ。
うちのどくタイプちゃん達がいっちばんかわいくて強いってこと、逆にわからせてあげるよ!
「ワルビアル、じしんだ」
「タギングル! テラスタルだよ!」
テラスタル、それはオーラム博士とフトゥー博士の夫婦が発見した、エリアゼロから湧き出る結晶エネルギーを流用した新技術。
これを用いることでポケモンに任意のタイプエネルギーを流し込み、タイプを変えることができるのだ。
「ほう、ひこうテラスタルですか」
これでタギングルはひこうタイプになり、じしんは無効化される。
そして……。
「すりかえ!」
タギングルがこっそり隠し持っていた超イカすグラサンをワルビアルにプレゼント。
「ひゅう、似合ってんじゃん」
あれは『こだわりメガネ』、特殊攻撃の威力が上がる代わりに同じ技しか出せなくなるという玄人向けなアイテムだ。
そしてそれを付けてしまったワルビアルはもう、効果のないじしんを打ち続けるだけの置物になった。
「おやおや、困ったな」
「タギングル、くさわけ!」
おじさんはもうワルビアルは捨てるつもりなのか、交代せずにじしんを打ち続けている。
流石に変えてくると思ったんだけど、まぁそれなら好都合!
「そのままくさわけし続けて!」
どんどん素早くなっていくタギングルについていけず、そのまま力尽きるワルビアル。
「よっし! 流石タギングル!」
これで第1関門は突破、さぁ次は何が来る……。
「ドータクン、お願いしますよ」
はがねタイプ! なんだお前どくタイプ嫌いなの!?
まぁじめんタイプよりは全然マシだ。
それにはがねならむしろ好都合、問題は特性だけど……。
ドータクンを観察すると、僅かに地面に体を引きずっている。
よし! これなら!
「よくやってくれたね、バトンタッチ!」
「サイコキネシス、おや?」
ボクの元へ帰ってくるタギングルをボールの上からひとなでし、代わりのポケモンを出す。
いってこいボクの相棒!
「いけ! ドオー!」
どお、どお、と鳴くドオー。
じゃくてんのサイコキネシスを喰らうが、まったく効いている様子は無い。
どうやら気合い充分のようで、こころなしか顔つきもいつもよりキリッとしている気がする。
……はぁ、かわいい。
「じゃ、やっちゃって! じしん!」
「特殊技は効きませんか……ならばジャイロボール!」
1発では削りきれなかったようで反撃が飛んでくるが、それをドオーは華麗にかわす。
ふっ、あたらなければドオーということはないのだよ!
あ、いまのはどうということもないとドオーをかけた……ごめんなんでもない。
ほら見てあのドオーの華麗なステップ。
タギングルがいっぱいすばやさをあげてバトンタッチしてくれたおかげで、超鈍足なドオーが俊敏に駆け回っている。
……あ、スピード出すぎてこけた。
あらら、体が丸いから止まれなくてめちゃめちゃ転がってる。
うんうん、いつもより早く動けて楽しくなっちゃったんだよね、わかるわかる。
ってそのままドータクンにぶつかったんだけど!
うわ、倒しちゃってるよ……。
「かわいすぎる……」
あまりのかわいさに悶え苦しむボクとは打って変わって目を点にして惚けているおじさん。
ふっ、うちのドオーの魅力にたじたじみたいだね!!
「た、頼む、ソウブレイズ」
「ほらドオー起きて、アクアブレイク」
まだ目をくるくるさせているドオーを起こし、指示を出す。
ちょっと恥ずかしそうにどお、と一鳴きした後目にも止まらぬ速度で肉薄、一瞬で戦闘不能に追い込んだ。
あのサイズのポケモンが超高速で迫ってきたら絶対怖いだろうな……どんまいソウブレイズくん。
ふぅ……さて。
「あれれ、おじさん、もうおしまい?」
「えぇ、残念ながらね……」
よっし!! 1時はどうなるかと思ったけどなんとかボクの勝ち!!
あそこから勝つなんてやっぱりボクってば天才すぎる!
「あれれ〜? ボクの経験になるんじゃなかったの? ボク全然物足りないんだけどー?」
「申し訳ないね、力不足で」
表向きには柔和な笑みを浮かべるおじさんだけど……ふふ、ボクには見えてるよ? その悔しさに歪む目が。
「ほらほら、バトルに負けたらどうするんだっけ〜? よわよわおじさん?」
「ではこれを、対戦ありがとう」
そう言いながらボクに1万円を渡すおじさん。
「ね〜え〜おじさん? きっと最初のボクみたいにここに来た人達をボコボコにして巻き上げたお金、いっぱい持ってるんでしょ?」
だからほら、もっと出して?
「……くっ」
「はい毎度〜。ま、ボクも途中でボックス使わせてもらったし、これくらいにしといてあげるよ」
渋々といった様子で出てきた2万円をパシッと奪い取り、おじさんに、背を向ける。
「じゃ、ばいば〜い、ざこおじさん♡」
いや〜最初はどうなることかと思ったけど、ボクがちょっと本気出したらこうなっちゃうんだから、やっぱオトナってチョロいな〜。
ルンルン気分でポケモンリーグを後にし、ボクはテーブルシティへと向かうのでした。
感想と高評価よろしくお願いします!!