『ジムチャレンジ』。
それは、パルデア地方に点在するポケモンジムに挑むことでバトルの成長を目指し、同時に実力の証明にもなるジムバッジを集めることを目的とした、宝探しの目標として最もメジャーなもの。
ここにも1人、その旅への第1歩とすべくジムチャレンジへと挑む少年がいた。
ーーーそう、ボクである。
「ジムチャレンジ! おっねがいしまーす!」
危険な
「ようこそ、セルクルジムへ! ジムへのチャレンジは初めてですか?」
「うん、そーだよ」
「では幾つか手続きを致しますので、こちらお掛けください」
「はーい」
横のカウンターに腰かけ、簡単な事務処理を行う。
名前の登録と連絡先の確認、そういった諸々を済ませた。
「では改めまして、当ジムリーダー、カエデとバトルをする前に、簡単なジムテストを行って頂きます」
きた! ジムテスト!!
どんなことするのかな〜。
やっぱりむしジムだからそれ関係?
「ここ、セルクルジムのジムテストは……」
ここは定番のむしとりとか? いや、カエデさんはパティシエだから……ミツハニーの蜜集めじゃない!?
これ結構ありそう!!
「『オリーブころがし』です!!」
「……いやくさタイプじゃん!!!!!!」
じゃん……じゃん……じゃん……。
夕陽の差し込んできたセルクルジムに、ボクの叫び声が木霊した。
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大きなオリーブを模した球を転がしてゴールに運ぶというオリーブころがしを難なく突破し、ついに念願のジムバトルだとセンターコートへ向かう。
……もしかして他のジムチャレンジもこんな感じなんだろうか……いや、そんなまさか、ね……。
ちょっぴり不安になってきたところでコートに到着。
コートの中では既にジムリーダーと思しき人が、あらあらうふふと佇んでいた。
コートに入ってくるボクに気がついたのか、たっとこっちに駆け寄ってくる。
っ!? この気配……まさか……!
「あ! あなたがチャレンジャーくんね? 私、カエデっていうの」
間違いない……彼女は……。
「よかったら"お姉ちゃん"って言ってくれると嬉しいわぁ」
「あ、あ……」
「あらあら? 照れちゃったかしら? うふふ」
姉なるもの、それはこの前の
この人種は……ある意味おじさんよりも恐ろしい。
少年たちは、姉なるものに出会ったが最後、いつのまにか取り込まれ、弟にされてしまうのだ……っ!!
「まぁまだ時間はあるんだし、まずはゆっくりお茶でもしましょう?」
まずいな……目にハートが浮かんでる……。
これはロックオンされてしまったか。
「美味しいクッキーもあるのよ? ほら、いらっしゃい?」
そう言いながら自分の膝をポンポンと叩くジムリーダー。
……ふっ、しかしボクは普通のショタとは違う。
ボクの溢れ出る知性があれば、姉になんて負けるわけが無い。
「ふふ、そう簡単に弟堕ちさせられると思ってるの?」
「あら? なんのことかしら? 私はただあなたと仲よくなりたいだけなのに」
ま、そう言ってられるのも今のうちだよ。
むしろボクがキミを堕として、ボクなしじゃ生きられなくしてあげようじゃないか!
ボクにかかればそれくらい楽勝だもんね!
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サクサクサクサクサクサク。
「あらあら、クッキー気に入ってくれたかしら?」
「べ、べつに……まぁ、わるくない、ケド……」
「ふふ、素直に言えてえらいえらい」
なでなで。
「ふへへ……」
カエデさんの膝の上にちょこんと座り、優しく頭を撫でられる。
……なんだろう、こうやって素直に褒めてくれる人って周りにあんまりいなかったから、無性に嬉しい。
「まぁ! レンくんアカデミーの首席なの!?」
「まーね、ボクってば天才だし」
「すごい! すごいわレンくん! きっといーっぱい頑張ったのね」
まるで自分の事のように喜んでくれるカエデさんを見て、なんだか恥ずかしくなってきてしまった。
「やめてよもう……べ、べつに普通だから」
「そんなことないわよ、だって"あの"オレンジアカデミーで1番なのよ? きっと世界中探したってこの年でここまですごい子いないと思うわ!」
「そ、そうかな〜……へへ」
とても優しい手付きで頭を撫でてくれるのが心地よくて、目を細めてされるがままになってしまう。
とっても恥ずかしいが、もしボクがニャオハだったらゴロゴロと喉が鳴ってしまっていただろう。
「あらあら、そんなに気持ちよさそうにしてくれると、私も嬉しいわ」
「……仕方ないじゃないか」
……だって気持ちいいんだから。
「あんまり慣れてないんだ、こういうの」
「あら、そうなの?」
何度でも言うが、ボクは天才だ。それもちょっと普通じゃないくらい。
だから誰もがボクを神童だなんだと持て囃して、それで……。
『流石レン!』
『君は我が校の誇りだ!』
……もちろん最初は、ちやほやされて嬉しかったんだ。
『やっぱレンとは住んでる世界が違うわ』
『君は普通の生徒とは違うんだから』
でも、それも長くは続かなかった。
『お前ならそれくらいできて当たり前じゃね?』
『賞を取った……? まぁ君なら当然だろう。それよりこのコンクールなんだが……』
いつしかボクは、なんでもできて当たり前で、出来ないことなんてなくて、そんな
他者からの視線は鎖に、期待は呪いとなって、ボクに覆い被さっていく。
しかしそうして膨れ上がる悩みだって、誰かに話すことはできない。
だってボクはスーパーマンだよ? 悩みなんてある訳ないじゃないか。
そもそも、そんな風に話せる友達なんて……。
「あれ、なんでだろ……雨かな? 晴れてるはずなのに……」
何故か膝に水滴が当たり、困惑していると、突然カエデさんに後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「よしよし、そんな顔しないでいいのよレンくん」
「わ、ちょ、ちょっと……」
優しく、けれども力強く抱きしめられ、じんわりと体温が伝わってくる。
「どんなにすごくたってあなたはまだ10歳なんだから、お姉ちゃんにいくらでも甘えていいのよ」
「あ……うん…………」
なぜからわからないけど、それが堪らなく嬉しくて……腕を背中にまわし、ぼくもギュッと抱きしめた。
「…………ねぇ、もうちょっとこうしてても……いいかな」
「ええ、もちろん」
「ん、ありがと……」
それからしばらく、お姉ちゃんの体温と頭を撫でる優しい感触のみを感じながら、そのままで過ごした。
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【ハルト視点】
「や、やっと解放された……」
レンにネモさんの相手を押し付けられはや1時間、なんとか彼女を撒くことに成功した僕は、レンを迎えにセンターコートへ向かっていた。
レンのことだからもうバトルは終わってるだろうけど、一応ね?
「んー、やっぱり誰もいないか……」
バトルコートに到着したけど、バトルをしている様子はない。
「まったく、レンったらすぐふらふらとどっかに……ってあれ?」
どこに行ったのかとキョロキョロ辺りを見渡してみると、コートの脇のベンチに人影が見えた。
あれ……カエデさん?
でもなにかを抱えているような……ポケモンかなぁ……いや、人っぽいってんんんん!?
「あーーーー!!」
あの紫の髪と傍に置いてある帽子……あれもしかしなくてもレンじゃない!?
あの全方位煽りマシーンのレンがあんなに大人しくしてるなんて……。
急いで駆け寄り、カエデさんに話しかける。
「か、カエデさん! それ!」
僕が声をかけると、気がついたカエデさんがこちらを向いた。
……レンを優しく撫でながら。
「あら、ハルトくん? なにか忘れものでもしちゃった?」
「あー、まぁ、強いていえばそう……かも?」
ボクの視線がレンに向いているのを見て、カエデさんが優しそうに微笑む。
「もしかしてこの子とお友達? なんだか安心して寝ちゃったみたいで」
とても愛おしいものを見るようにレンへ視線を落とすカエデさんに釣られて、ボクも改めてすやすやと眠るレンを観察する。
「なんだかすっごい、幸せそうですね」
「そう? ふふ、私の腕の中でそうなってくれるなんて、なんだか嬉しいわ」
いつもの人を舐め腐ったような目も、自分以外の全てを小馬鹿にするような口も、今はすっかりなりを潜めて眠っている。
「いつもこんな顔してればいいのに」
そう言ってしまうくらいには、安らかな寝顔だった。
「…………んっ……ふぁ」
すると、レンがもぞもぞっと動いた。
「んん……くぁぁぁ」
「あらあら、お目覚めかしら?」
カエデさんに撫でられながら、おっきなあくびをするレン。
すごい、こんな無防備なレン初めて見た…………いつもとのギャップもあって、すっっっごい可愛いな。
「ん、んん……ごめん、寝ちゃってた?」
「いえいえ、全然いいのよ。気持ちよかった?」
「えへへ、悪くはなかったかも」
「あら、それはよかった」
…………レンって、こんな風にも笑うんだ。
いつもレンは自分に自信満々で、大人相手にも笑いながらバカにして、そんなかっこいいレンばっかり見てたけど……もしかしたら、こっちが本当のレンなのかな。
思い返せば、初めてあった時のレンはなんというか……どこか危うげだった。
今でこそ笑顔が増えたけど、あの頃はどちらかと言うと冷笑って感じで……。
それに他人に対しても、今みたいにバカにするというよりかは、軽蔑しているようだった。
……きっとレンは、僕が思っているよりも深い闇を抱えてる。
どれだけできるかは分からないけれど、少しでもレンの助けになってあげたい。
せめて僕も、今みたいな顔をレンにさせられるようになりたいな。
「……僕も、もっと頑張らないと」
「んふふ、もっと撫でてもいいん、だ……よ……?」
僕の呟きが聞こえてしまったのか、緩みきった頬で甘えていたのがピキっと固まり、ギギギという効果音が聞こえてきそうな様子でこっちを向いた。
笑顔の消えたレンとは正反対に、僕の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「やぁレン、随分気持ちよさそうにしてたね」
「や、あ、あ、あの、え、や……」
みるみるマトマの実のようにまっかっかになっていくレン。
「み、みないでぇ……」
プシューと煙を拭きながら、カエデさんの腕の中に隠れてしまった。
……控えめに言って、物凄くとてもめちゃめちゃ可愛い。
「ねぇどうしたのさレン、隠れてないで出てきてよ〜、もっと撫でてあげよっか?」
隠れたと言ってもただそっぽを向いただけなので、レンの正面に回り込み、滅多に見れないレアなレンを堪能する。
ふふん、さっきの仕返しだ、いっぱい楽しませてもらおう。
「やめて……何も言わずここから立ち去ってぇ……」
「そんな勿体ないことする訳ないじゃん。ねーカエデさん」
「えぇ、さっきまでのレンくん、素直でとっっても可愛かったわよ〜」
またよしよしと頭を撫でるカエデさん。
恥ずかしいのと気持ちいいのが戦ってるのか、レンは必死に下を向いて顔を見られないようにするが、逃げようとはしない。
……やばい、なんだろう、今なにか扉が開きそうになっている気がする。
「も、もう許して……」
頬を紅く染めながら、涙を目尻に浮かべてそういうレンを見た瞬間、プッツンという音がした……気がした。
「……レンが悪いんだからね」
「え、なに……なになになに」
ゆっくりと、1歩ずつレンの所に近寄っていく。
「だって……だって可愛すぎるんだもん」
「は、ハルト……? ちょ、ちょっと落ち着こ? ね?」
カエデさんに目線をやると、僕と同じ気持ちなのか、目が合った後にこくんと頷いてくれた。
「え、何今の……お、お姉ちゃん? い、一旦離して貰えないかなぁ……って」
「あらあら、うふふ」
「そのうふふ何!? こわいんだけどってうわ力強い抜けれない!!」
そしてついに、レンとの距離が0になる。
「あーその、ハルト? 1回話し合わない? ね? 話せばわか」
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「…………うっ、うっ……もうお婿に行けない……」
「「ご馳走様でした」」
レン君が最後に何をされたか、皆様のご想像にお任せします^^