夕暮れ時の街道で、見つめ合う2人の少年。
どこか悲痛さを感じさせる空気のなか、1人が口を開く。
「ハルト、ボクたちさ……もう別れよう」
「え……?」
唖然とする少年……ハルトの様子を見て、罪悪感に胸がチクリと痛む。
しかし、もう決めたことだ……今更変えることは出来ない。
「ごめんね……」
これ以上ハルトを見ていると、決意が鈍りそうだと彼に背を向け、歩き出す少年は誰か……。
ーーーそう、ボクである。
「ちょ、ちょっとまってよ! 別れるってなに? ていうかそもそも僕達、つ、つつ……付き合ってたの!?」
しかしコライドンに跨るハルトを振り切れるはずも無く、すぐに追いつかれ肩を掴まれた。
肩で息をしながら、少し泣きそうな顔でそう言ってくるハルトを前にして、ボクは……。
「いやーそろそろ一人旅してみたいなーっていうか? まぁたしかにハルトとの旅もすっごく楽しいけど、1回くらいしてみたいじゃないか! 一人旅! ていうか付き合ってるって? たしかに旅には付き合ってもらってたけど……」
「……え?」
ニコっと笑顔で言い放った。
唖然とする少年……ハルトの様子を見て、罪悪感に胸がチクリと痛む。
「え、つまり……え?」
「まぁその……折角ならちょっとドラマチックにしたいなぁって思ったら……なんか収集つかなくなったっていうか、楽しくなっちゃったっていうか……」
話を飲み込めていないのかしばらくポカンとしていたハルトだったが、やっと理解出来たのか急にまっかっかになった。
「な! な!! な!!!」
「えっとぉ……ごめんち?」
「レンのバカ! もうしらない!!」
「あ、ちょっとハルト!」
そしてぷりぷりと怒りながら、どこかに歩いていってしまった。
そしてその場にぽつんと残される、ボクとコライドン。
「あー……さすがに悪ノリしすぎちゃったかな?」
「アギャ」
「だよねぇ……」
コライドンも目を細めて首を振り、やれやれと言ってるようだ。
「ギャアンス」
「え、乗って謝りに行けって?」
「アギャ、アギャ」
そしてアゴをくいっとすると、ボクに背中を向ける。
夕陽をバックに雄大に立つその姿は、あまりにもカッコよかった。
「こ、コライドンのアニキ……!!」
「アンギャ」
一鳴きしてハルトの消えた方を見るコライドン。いいってことよとでも言っているのだろう。
いくらボクが望んだ一人旅とは言え、流石にこのままじゃ寝覚めが悪い。
「じゃ、行くよコライドン!」
「ギャアンス!」
夕暮れ時の街道を、2つの影が駆け抜けた。
……やばい、今のボク過去一カッコイイかも。
え? その前の行動のせいで台無し……?
そんなぁ。
□■□■□■□
しばらく走ると、ハルトはすぐに見つかった。
こちらにまだ気がついていない様なので、ちょっぴり脅かしてやろうとこっそり近づく。
「……ふふっ」
どうやらハルトは相棒のホゲータと遊んでるようだが……ちらりと見えた笑顔はどこか寂しそうだった。
「アギャ」
「コライドン……ちょっとまって」
「ギャ?」
その笑顔がなんとなく気なったので、コライドンがハルトに駆け寄ろうとするのを手で制し、木の影から少し様子を見守ることにした。
「ほげ? ほげー!」
「ちゃんと持ってこれたね、えらいえらい」
「ほげ!」
ハルトの投げたボールを笑顔で拾い、褒めて褒めてと持ってくるホゲータとよしよしと頭を撫でるハルト。
やっていることはとても微笑ましいことなのに、やはりハルトからは寂しさのようなものを感じた。
「……ほんっとホゲータってバカっぽいというかなんというか……悩みとかなんにもなさそうだよね」
「ほげぇ?」
零れたハルトの呟きに、意味を理解しているのかしてないのか、気の抜けた声で返事をするホゲータ。
「大切な友達だって思ってたの……僕だけだったのかなぁ……」
………………やっば、思ったより悪ノリすぎてたかも……。
嗚咽の混じるその声を無視できるほど冷酷非道ではない僕は、たまらず木の影から飛び出し声をかけた。
……え? そもそもハルトをこんなにした血も涙もないヤツは誰かって?
…………ちょっとわからないですね。
「そんなわけないじゃん、ハルト」
「……え? え!?!? れ、れれれレン!? い、いいつからそこに!?」
ちょっと想像の8倍くらいビックリされてこっちまでビックリしちゃった。
「ん〜、ふふっ、ちゃんと持ってこれたね、えらいえらい……あたりから?」
「え、僕の真似うま……って全部じゃん! いたなら最初から言ってよもう!」
そう言ってぷりぷりと怒るハルト。
それにごめんごめんと謝りながら、最初の言葉の続きを話す。
「ハルト、ボクが君を大切に思ってないわけがないじゃないか。、だって……ハルトはボクの唯一の友達なんだから」
「ゆ、唯一なんてそんなわけ」
ありえないと、そういうハルトに微笑みを返す。
それを見てなにかを察した様子のハルトだったが、何とか否定したいのかそれでもとと続ける。
「でもレン、色んな人といつも仲良さそうに話してるし、誰に聞いても凄いやつだって褒めて」
「みんなが見てるのはさ、ボクであってボクじゃないんだ」
「っ!」
他の人が見ているのは『史上最年少でアカデミー首席になった神童』であるボクであり、『レン』という少年ではない。
「あー、この機会だから言うけどさ」
「な、なに?」
「初めて会った時にハルトが言ってくれた一言、覚えてる?」
あの時のあの一言、あれにボクがどれだけ救われたことか。
「え、なんて言ったっけ……もしかしてなにか気に触ること言っちゃってた!?」
「ふふっ」
ま、当の本人は覚えてないみたいだけど。
「『どれだけ頑張れば君みたいにすごい人になれるかな』って……実はあの時、ちょっと泣きそうだったんだ」
「……そんな言葉で?」
イマイチピンと来てない様子のハルト。
だけど、普通の人にはなんでもないことでも……ボクにはこれ以上ないくらい嬉しい言葉だったんだ。
誰もがボクの肩書きと結果しか見ない中、君だけはボクを、ボクの努力を見てくれた。
「だから、まぁその、あれだよ……」
雲の上の存在として敬遠せずに、同じ人間としてボクのことを見て……なんなら追いつこうとしてくれた……だからこそ。
「ボクは結構、君のことを唯一無二の友達くらいには思ってるんだ」
「っ!」
いろんな感情がぐちゃぐちゃになっているのか、よく分からない表情で固まってしまうハルト。
…………流石にここまで自分の心情を吐露するのは大分恥ずかしいな……。
「まぁボクをただのいち生徒として見てくれる先生ならここには何人かいるけど……」
お互いのロマンを定期的にぶつけ合う
「友達って意味なら……うん、やっぱりハルトだけだね」
「そっか……そっかぁ……」
浮かび掛けた涙を拭い、拗ねたようにむっとした表情をつくるハルト。
「だったらなおさら、あんな事言わないでよね」
「あはは、ごめんってば」
涙を拭う瞬間、嬉しそうに口元を綻ばせたのを見なかったことにして謝罪を述べる。
いやー1時はどうなることかと思ったけど、なんとか仲直り出来てよかったよかった。
「アンギャア!」
場が纏まった雰囲気を察したのか、ソワソワとしながら成り行きを見守っていたコライドンが嬉しくなってしまったのか突然ハルトに突進した。
コライドン の とっしん!
「こふっ」
「ハルトぉ!?」
こうかは ばくつぐんだ!
「……ギャ」
古代の王の突進をただの子供が受け止められる訳もなく、1m近く吹き飛ばされるハルト。
思ってたより吹っ飛んでしまったのか、コライドンがめちゃめちゃ『……やべ』みたいな顔をしていた。
そして吹っ飛ばされたままピクリともしないハルト。
「え、ちょ……ハルト大丈夫!?」
あわててコライドンとふたりで駆け寄るとそこには……。
「ぷっ、ふふふ……あははははは!!」
憑き物が落ちたような顔で笑い転げるハルトの姿があった。
「やったなこいつー!」
「アギャ! アンギャ!」
「ほげ? ほげー! ほげー!」
そして仕返しとばかりにコライドンにじゃれつくハルトと嬉しそうに応えるコライドン。そしてずっと横で無邪気にボール遊びをしていたホゲータが楽しそうな雰囲気を感じて歌い出した。
あーもうめちゃくちゃだよ!
「……ま、いっか! みんなも出ておいで!」
ボクもモンスターボールから手持ちのポケモンを出してあげて、この日は一日中みんなで楽しくピクニックをした。
何はともあれ、こうしてボクたちは破局の危機
を無事に乗り切ったのでした。
……ちなみに余談だけど、ボクが作った世界一美味しいチーズチーズonチーズwithチーズサンドイッチ〜クリームチーズを添えて〜はめちゃくちゃ酷評された。なんでだ。