生きてます。私も。作品も。ギリギリ
朝日の差し込む森の中、コツンと拳を合わせる2人の少年。
少し寂しそうに微笑む友人を前に、自信満々の笑みを浮かべる美少年は一体誰か……。
ーーーそう、ボクである。
「じゃあお互い頑張ろうね、レン」
「どっちが先にチャンピオンクラスになるか、楽しみだよ」
あのピクニックがそのままキャンプになり、ゆっくりぐっすりと眠った後、ボク達は改めて別れの挨拶をしていた。
「うん……ていうか、チャンピオンクラスになるのはもう確定なんだね」
「? ならないの?」
ジムめぐりをしてるんだから当然なる物じゃない?
「ふふっ……ネモさんがいうにはチャンピオンクラスなんて数年に1人出ればいい方って話だったけど……まぁレンらしいっちゃらしいか」
そこまで言うと、ハルトがこちらに向き直りスっと右手を出してきた。
それを見た僕はクスッと笑い、出された右手に応えるために……。
左手を出した。
「え、ちょ、ちょっとレン!?」
「あはは、ごめんごめん」
あたふたするハルトを愛でながら改めて右手を出し、ガシッと握手をする。
「良い旅を」
「う、うん! レンも元気でね!」
そして手を離し、お互いのライドポケモンを呼び出した。
「おいで! コライドン!」
「いくよ、ドオー」
どおどおあんぎゃと飛び出してくるポケモン達、こころなしかどちらも顔つきがキリリとしててとってもキュート。
「え、レン……ドオーでその、大丈夫?」
「なにが?」
もしかしてこの前のことを心配してるんだろうか。
それなら大丈夫、この前はきっとドオーの調子が悪かっただけだよ。
だってほら見て、ドオーのこの自信満々な顔。
「どお!」
ね?
「まぁレンがいいならいいけど……」
僕の心底不思議そうな顔を見て、渋々といった様子でコライドンに跨るハルト。
ボクも特注品のグローブをつけ、ドオーにライドオーン。
……え、待って今のめっちゃ面白くない?????
ライドオンとドオーを掛けた高度なギャグ、やっぱりボクはてんさ……ごめんなさいなんでもないです。
お互い準備のできたボク達は、こくんと頷き合い出発した。
そして風になるボク達…………訂正、ハルト。
うちの愛しいドオーちゃんはというと……のっそのっそとコータスにも勝るとも劣らない速度で前進していた。
「どお! どおお!」
……まぁ、ドオーが楽しそうならいっか。
こうしてついに、ボクの一人旅は幕を開けたのでした。
□■□■□■□
「ついたーーーー! 」
朝日と共に森を出発したボクとドオーは、夕陽も沈みかける頃にくさジムのあるボウルタウンに到着した。
…………長かった、ほんっっとに長かった……。
おかしいな、あの森からボウルタウンまで、徒歩で遅くとも3,4時間でつくはずだったんだけどな。
「どぉ! どぉ!」
うんうん、ドオーいっぱいがんばったもんね。
大きな身体を右に左にと揺らしながら全力で喜びを表現するドオーに飛びつき、全力で褒めてやる。
「おつかれドオー! 長旅ありがとねー!! よーしよしよしよしよし!!」
「どおー!」
はぁ……愛…………。
「さて」
ドオーと戯れるのもほどほどにして、今夜の宿を探さないと。
ホントは今日のうちにはジムバトルしちゃおうと思ってたけど、まぁ急ぐ旅でもないしね。
「んーー、折角芸術の街に来たんだから、なんかそれっぽいとこ泊まりたいよなぁ……お?」
この街の宿泊施設をスマホロトムでちろちろ見ていると、なかなか面白そうな所を見つけることができた。
へ〜、キャンバスや筆なんかの画材を無料で貸し出してくれる絵の描ける宿屋か……いいじゃんいいじゃん。
しかもいい絵が描けたら飾らせていただくことがありますだって!
ふっふっふ、いやー困ったなー、またボクの天才エピソードが増えちゃうなー!
画材だってタダじゃないし、その分宿泊費は高めだけど……まぁコンクール総ナメにして貰った賞金が山ほどあるからもーまんたい、さっそくいってみよー!
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「わ、いい雰囲気」
お目当ての宿屋に到着して入口をくぐると、まず目に入ったのは壁に飾られた多数の絵画だった。
子供の描いた似顔絵のようなものからプロ顔負けの風景画、印象に残る抽象画などお客さんに描いてもらってるだけあって絵の種類は千差万別だが、配置が上手いのか煩くない。
「センスいいなぁ、ここの人……」
「そう言って貰えると光栄です、先程お電話頂いたレンさんですね」
壁の絵をほえーと眺めているとついつい言葉が漏れてしまったようで、ここの主人と思われる人の良さそうなおじ様がそれを拾い上げた。
肯定の意味を込めてこくりと頷くと、店主さんは言葉を続ける。
「アカデミー生の方ですよね、この度は当館をご利用くださりありがとうございます、画材は既にお部屋に準備してますので、お好きにお使いください」
にっこりと微笑むおじさんにありがとうございますと返し、早速部屋に向かう。
さーて、どんな部屋かなー、わくわく。
るんたったるんたったと鼻歌混じりに歩いていくと、すぐに部屋が見えてきた。
「お? ドアが2つある……?」
どっちに入ろうかとプレートを見てみると、『宿泊部屋』と『アトリエ』と書いてあった。
あぁなるほど、アトリエの方は好きに汚していいけどそこ以外では描かないでねって感じか。
よし! それじゃあ早速描いてきますか!!
チャチャッと荷物を宿泊部屋に置き、アトリエへとお邪魔する。
「おじゃましまーすっと……」
ガチャりと扉を開けた瞬間、『早く絵を描きたい』で一杯だったボクの頭の中が、目の前の景色にすうっと塗りつぶされていくのを感じた。
落ち着きのあるモダンなワンルームの至る所に、これまでの制作でついたであろうインクが付着し部屋をカラフルに彩っている。
正面の大きな窓からはこの街が一望でき、あたたかな夕日が差し込んでいた。
そして中心に置かれた真っ白なキャンパスが、色彩に溢れるこの部屋では一際目立ち、この部屋そのものが1枚の作品のようになっていた。
「……やっぱり、旅っていいな」
だって、こんな素敵な場所に出会えるんだから。
しばらく僕は、独特な画材の香りに包まれながら、時間も忘れて景色をぼうっと眺めていた。
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「……さて、そろそろ描きますか」
いつもより心が穏やかになっているのを感じながら、腰に付けたモンスターボールのひとつを手に取る。
「おいで、タギングル」
「たぎゃ……たぎゃ!!」
出てきたタギングルは辺りを見渡し、目の前のキャンパスを見つけてここが絵を描く場所とわかったのか嬉しそうに飛び跳ねた。
この子はお絵描きがすっごく好きだから、一緒に描きたいと思ってたんだよね。
「さて、まずは……」
汚していいとはいえ、流石にこんなに綺麗な部屋でこれからする塗り方をする訳にもいかないため、ブルーシートに覆われたスペースにキャンバスを移動させる。
そしてインクをいくつか用意してっと……。
よっし準備完了! それじゃあ早速!
「そぉい!」
まずボクは、バケツに入れた黒いインクをバシャっとぶちまけた。
シミ一つない真っ白だったキャンパスは、まっくろくろに生まれ変わる。
次に紫のインクに右手を突っ込み、掬ったインクを真っ黒のキャンバスに投げつける。
そして今度は左手で黄緑色のインクを同じように投げつけた。
「あははっ! いいじゃんいいじゃん!」
やっぱり黒の下地にバチバチ原色は映えるね! めっっちゃカワイイ!
紫と黄緑の組み合わせ、どくタイプ! って感じするし補色にもなってて超カワイイからおきになんだよね。
「ほらタギングルも! 好きに描いていいよ!」
「たぎゃたぎゃ〜!!」
タギングルにはド派手な色のついた毒のヨダレで絵を描くという習性があり、うちの子も例に漏れずお絵描きが大好きだ。
そしてそのヨダレは食べているエサで色が決まり……お、今日は青か。
青色のインクをキャンパスにぶちまけていくタギングル。
「いいねいいね! とってもかわいい!」
「たぎゃー!」
ボクたちはそのまま、時間が経つのも忘れて絵を描き続けた。
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「できたーーーー!!!」
「たぎゃ! たぎゃ!」
空が白み始めた頃、遂にボクたちの絵が完成した。
「え、まって……これはちょっと……」
1歩下がり、改めて作品を見てみると……。
「かわいすぎるのでは〜!?!?!?」
ちょっと可愛すぎてビックリなんだけど!!
え、やばくない? やばくない????
黒背景にカラフルなインクがぶちまけられた背景に、フードつきの黒いパーカーを着てスプレー缶を持ったボクが描かれ、横ではタギングルがポーズを決めている。
そして何より表情が!! 表情がかわいい!!
ジト目でべっと舌を出し、缶を持ってない方の手で中指を立てる。
自分で描いといてなんだけど……ちょっとボクかわいすぎるのでは???
「うん! かわいい! とっても大満足……っとと」
一仕事終えたら急に眠くなってきたな……チェックアウトまでまだちょっと時間あるし、仮眠だけとろっか……。
ボクはそのままアトリエを後にし、寝室でベッドに入った瞬間泥のように眠りについた。
おやすみ……ぐぅ。