サンサンと日光が照らす昼下がりのボウルタウンに、鼻歌交じりで街並みを眺める少年が一人。。
芸術の街と謳われるだけある鮮やかな美しい街並みに負けず劣らず、まるで絵画のような輝きを放つ美しい彼はいったい誰か……。
ーーーそう、ボクである。
絵を完成させた後2,3時間仮眠をとり、館長さんにありがとうをしてから宿を出発した。
いや~本っ当に素敵な宿だった!
一人旅を始めて一発目であんなにいい場所に出会えるなんて、やっぱりボクってば日頃の行いがよすぎるな~。
加えて描いた絵も飾ってもらえたし! いいことが続きすぎてもはや怖くなってくるくらいだよ。
「お、ついたついた」
るんるんたったと歩いていると、目的地のボウルジムに辿り着いた。
たしかここはくさジムだったよね?
いや~困った! これじゃあまたヤトウモリの独壇場になっちゃうな~!
立った一匹でジムチャレンジふたつも突破できちゃうなんて、チョロ~♪
ん、でもヤトウモリは最近ずっと頑張ってくれてたし、今日はあの子を使っちゃおっかな~……。
「たのもー!」
ウィーン。
ボクの力強い宣言とともに、自動ドアが気の抜けた音を立てて開く。
そして一斉に集まるたくさんの視線。
……これ、ハルトがいたときは気にならなかったけど、一人だと流石に恥ずかしいな……もうやめよう、うん。
そんなボクの内心は露知らず、受付のお姉さんは面白いやつが来たとでも思ったのか満面の笑みで立ち上がった。
「ようこそ若きチャレンジャー! あなたの挑戦を我がボウルジムは歓迎いたします!」
キャラ濃いな、この人。
……まぁボクが言えたことじゃないか。
でもありがとうお姉さん、おかげでジムの空気もなんかいい感じに盛り上がっている。
そうと決まればやってやろうじゃないか。
恥ずかしい気持ちはえいやっとおいやって、全力でノリにノってやる。
旅の恥はかき捨てっていうしね、うん。
「こ~んな田舎のジムチャレンジとっとと突破して次に行きたいんで~、ちゃちゃっと手続きお願いね~」
その瞬間、受付のお姉さんの額にぴきっと青筋が入るのが見えた。
すごいな、満面の笑みのままぶちぎれてる。
「承知いたしました! 当ジムのジムチャレンジに関する説明はお聞きになりますか?」
「せつめい? そんなの天才のボクに必要だと思う? あっごめ~ん! ふつーの人じゃわかんないもんねっ」
笑顔を絶やさないまま浮かべる青筋の数がどんどん増えていくお姉さん。
お姉さんの怒りのボルテージがみるみる昇っていき、それを見たボクもどんどん調子に乗っていく。
「失礼しました、わざわざ天才のジムチャレンジャー様に気を遣わせしまって申し訳ありません」
「いいっていいて、他に必要な手続きはある?」
「いえ、もう結構です! それでは当ボウルジムのジムチャレンジ、”キマワリあつめ”、
「あはは、また来るねおねーさん」
スマホロトムに簡単なルールと目標が送られてくるのを確認し、事務を後にする、
ジムチャレンジ、ジムチャレンジねぇ……。
ちょっと期待が大きすぎたばっかりに、前回のは少し肩透かし感が強かった。
今回もどうせ絶妙な感じなんだろうなぁ。
□■□■□
「あっ! キマワリみーっけ!」
「きまっ! きま~♪」
「あっはっは! こらー! まてまて~!」
そこまで足の速くないキマワリにすぐおいつきはぐっとキャッチ。
おひさまの匂いと土の匂いが混じったようないい香りを全身で感じながらわしゃわしゃと撫でまわす。
「ふふーん、つかまえたぞ~! このこの~!」
「きま~! きま~!」
じたばたともがいて抜け出そうとするが、その気がないのはわかってるんだからね。
だって声音がちょーたのしそうだし、全然力込めてないのに抜け出す気配がないんだもん。
まったくこいつってやつは~!
「よしっ! 次にいくよみんな!」
「「「きまー!」」」
ぺったぺった、ぺったぺった。
これまでに集めたキマワリたちとぺったぺったと街を練り歩く。
こうしてみると、キマワリってなんだかコオリッポとかポッチャマたちに歩き方とか姿勢が似てる気がする。
足が短くて腕(?)が長いところとか、ぽてっとしたおなかとか、流線型のフォルムとか……植物と動物だし、生態や住む場所の気候まで全部反対だけど、何かしら関係があるのかな……。
健気に後ろをついてくるキマワリのうち一匹の顔をじ~っと観察してみる。
「きま? きまぁ……」
見つめられて恥ずかしくなったのか、もじもじとしながら視線を逸らすキマワリ。
あ、無理、かわいすぎる。
無言のままひしっと抱きしめ、しばらくいい匂いとぽかぽかの体を全身で堪能した。
……え、まってボクめちゃめちゃ楽しんでない????
□■□■□
「ただいまぁ」
はーっ! 楽しかったーー!!
てっぺんにあったお日様が少し赤くなり始めた頃、ジムチャレンジを終えたボクはボウルジムに帰ってきた。
ううむ……思ったより時間かかっちゃったな……。
いや、まぁ理由は明らかなんだけど……寄り道しすぎたし、ていうか寄り道しかしなかったし。
「おかえりなさい、チャレンジャーさん」
お、この声、出発する前と同じおねーさんじゃん。
ふふん、どれ、また熾烈なバトルを繰り広げ……あれ?
「楽しんでいただけたようで何よりです」
……お姉さんは、笑っていた。
あ、いや、たしかにあの時も笑ってたんだけど……あれはほら、キレ笑いというか、パーフェクトハイパー営業スマイルというか、そういうあれじゃん?
「実は私達、ジムチャレンジ中の生徒が事故にあったりしないよう、ジムチャレンジの様子は常にモニターするようになっているんです」
「うぇ、そ、それって……」
「ふふ、とってもかわいかったですよ? 天才チャレンジャー様?」
いつぞやのハルトやお姉ちゃんと同じ……あの目だ……っ!
まずい、このままじゃ……
「そーゆーのは事前に説明する責任があるんじゃない? 知らないかなあ、説明責任ってやつ」
「ジムチャレンジを受けるのは多感な時期の子が多いですから、ほら、みられてるって思うと緊張しちゃうでしょう?」
くぅっ! 間違いない!!
まだ小さい子供が一人でこういったアクティビティを行うときに、何かあったときすぐ駆け付けられるよう監視院さんがいたほうがいいのはいわずもがな、しかし同時に”自分が監視されている”という自覚がパフォーマンスに影響を及ぼすのは疑いようもない……!
緊張して動けなくなるだけならまだマシで、いいところを見せようとカッコつけてわざわざ危険な目に合おうとする子もいるだろう。
だからこそ、黙って見守る……!
「……ぐぅ」
これにはさしものボクもぐぅの音が出るというもの。
おねーさんがボクに明かしたのもボクを
実際セルクルジムの時はモニターされてるなんて全く気が付かなかったし。
うぅ、全部見られてたのか……。
あんな啖呵を切った後にあれは……うあぅ……。
恥ずかしさに顔を逸らす僕を見て、おねーさんは満面の笑みだ。
「そのかわいいものを見る目、やめろよぉ……」
「あら、ごめんなさい、実家で飼ってるにチョロネコを思い出して」
んな! このボクをあんな子猫と重ねたっていうのか!
「あの子、すっごくちょろいのにいつも生意気でかわいいんですよね~」
今のあなたみたいに、と言外に語るおねーさん。
くそ……くそぉ……。
ついに始まった宝探し、ボクから初めての黒星をつけたのはジムリーダーでも、生徒会長でも、ハルトでもなく。
まさかのジムの受付のお姉さんだった。
……絶対いつか泣かせてやる。