キャラ:倉田ましろ
上の条件から書き綴ったものになります。
「——今 月が満ちる夜を生み出すのさ」
チカチカと点滅する画面と睨めっこしながら、歌い切った自分はマイクをテーブルに放るとシートに深く身を沈める。歌うのってめっちゃ疲れるよな……そうやって考えると、ボーカルってすごいと思う。
「大丈夫?」
暫し天井を仰いでいると、傍らに座した艶やかな白髪が特徴的な少女、倉田ましろが問い掛けてくる。
「うん。久々歌ってちょっと疲れたなって思っただけ」
「瑞樹君普段はギター弾きながら歌ってるのに?」
不思議そうに首を傾げるましろの問いかけに、俺は痛いところを突かれていた。ギター弾きながら歌ってる話を出されると、単純に俺の体力が無いってことになってしまうのですよ。全くもってその通りなんですけども。
「カラオケで歌うのと、バンドで歌ってる時とで俺は、大分感覚が違うと思ってるからさ……」
「それ、答えになってないような?」
「気のせい気のせい。ほれ、ましろの番だぞ」
使っていない方のマイクを彼女へと差し出し、強引に話を切る。こう言う時はね、話をぶった斬るに限るんですよ。
「なんかちょっと緊張するな……」
マイクを受け取ったましろは、困ったような表情を見せる。普段はこの何十何百倍とかの人数を前にして歌ってるってのに、何処か自信がないように見える。
「そんなに緊張することでも無いだろ。ほら、リラックスリラックス」
薄い笑みを浮かべ彼女の気持ちを解きほぐしにかかる。するとてき面だったのか、ましろは普段のステージ上で見せる落ち着いた様子へと変化していく。
「——憧れを今掴んだ 大歓声の鉛に心地よく撃たれたなら さあ飛び込もう」
曲が始まった途端、俺の目の前の光景はカラオケボックスの中から華やかなステージへと姿を変える。
少なくとも、彼女の歌を聴いた俺の目にはその光景が映っていた。
「不思議と扉の向こうには V.I.P名乗る奴はなく 誰もが苦悩の果てさ 俺も」
時折笑顔を交えながら、聴衆を煽るような振り付けをこちらへと飛ばしてくるましろ。無意識から繰り出されたであろうそれは、曲の歌詞と、彼女の歌声と混じり合い俺の心に深く響いていく。
「憧れを今掴んだ 身を委ねればいい 舵はこの手に 3つ数えて The show time」
今まで舞台袖や客席と言った、彼女からは少し遠い場所で、彼女の歌声を浴びてきた。だからこそ知らなかった。至近距離で降り注ぐ、彼女の歌声の強さを。
「大歓声の鉛に 心地良く撃たれたなら さあ飛び込もう」
ラスサビのロングトーンを一息で歌い切った彼女は間髪入れずにウィンクを飛ばしてくる。そして、畏まった後に一礼する。
そんな彼女の一連の所作を受けた俺は、無意識に拍手を飛ばしていた。まだ知らない感動を貰えたことへの感謝を込めて。
「あ、えーっと、ありがとう?」
「めっちゃ凄かった。拍手じゃ足りないくらい」
戸惑う彼女に称賛した俺は、テーブルに置いてあったグラスを掴むと、その中身を勢いよく流し込む。冷たくて甘いそれは、熱によって乾いていた俺の喉を潤していく。
「そんなに、凄かった?」
「ああ。ステージに立ってる時のましろそのままって感じで、良かった」
率直な感想を伝えると、恥ずかしそうに頬を紅潮させながらも笑みをむけてくれる。
「ねえ、瑞樹君」
「何?」
「今度は、一緒に歌わない?」
思いもよらなかった彼女からのお誘いに、僅かに硬直してしまう俺であったが即座に首を縦に振る。
「オッケー。何歌おうか」
「それじゃあね——」
短いやりとりと共に、2人揃って曲の一覧を漁っていく。その後利用時間いっぱいまで、彼女と共に歌ったり、点数で競ったりをしていた——