キャラ:戸山香澄
上記のお題をもとに書き記したものです。
その日、都電の中には茶髪を猫の耳のように結い、ギターケースを携えた少女の姿があった。
そんな彼女の表情は、何故か沈んでいるように見える。
「有咲ちゃん……急な呼び出しってなんだろう」
1人呟いた彼女は、大塚駅前の景色を漠然と眺めながら電車に揺られて行く。そうしているうちに、いつの間にか電車は終点である早稲田へと到着していた。
「着いちゃった……」
困ったように肩を落とした彼女は、ギターを背負い直すと駅を出て川沿いの道をテクテクと歩き始める。
3月と言うこともあり、まだまだ寒い時期ではあるものの、川辺に植えられた桜の木には無数の蕾の姿が見られる。
「……有咲ちゃんに出会ったのは、桜の後だったな」
何かを懐かしむように薄く笑った彼女は、新江戸川公園の前を通り、胸突坂へと向かう。そうして急勾配を、愛器を背負ったまま登り切った彼女は、本日の目当てである『蔵』へと辿り着くのであった。
「有咲ちゃーん?」
蔵の戸をノックし呼びかけるが、一向に反応はない。その状況を不思議に思い首を傾げていると、彼女の背後に近寄る者の姿があった。
「漸く来たわね、かすみん」
「……わっ、有咲ちゃん」
小さく驚いた彼女、『かすみん』こと香澄の視線の先に居たのは、薄めの金髪を柔らかなツインテールに結った少女。先に呼ばれた通り、彼女こそが有咲その人だ。
「どうしたの急に?」
「う、ううん。なんでもないよ。ただちょっと驚いただけだから」
「そう。なら良いんだけど」
短く返答した後、有咲は蔵の戸を開け中へと入る。香澄もそれに続き「おじゃまします」と告げ中へ入っていく。
「それで、今日はどんな用件なの?」
蔵へ入るなり、香澄が有咲へと問う。なにせ香澄は、今日ここに至るまでに呼び出された理由を聞かされていないのだ。
「えっと、その」
「……有咲ちゃん?」
急に吃り始めてしまった有咲の姿を不思議そうに見据える香澄。すると有咲は、頬を赤らめつつ口を開く。
「偶には、かすみんと2人っきりで話したいな、と思っただけよ」
嘘偽りのないであろう彼女の言葉に、香澄は目を大きく見開いたかと思うと、僅かに伏し目がちになる。
「そっか……そうだよね。最近、バンドのみんなで集まることが多かったから、有咲ちゃんと2人っきりになること、少なかったもんね」
そう言い切ったとこで、彼女は伏せていた目元を上げ、屈託のない笑みを有咲へと向ける。
「わたしも、有咲ちゃんと2人っきりでお話ししたいと思ってたよ」
「かすみん……」
香澄の思いを聞いた有咲は、驚愕の色を見せるが間髪入れずに笑みを溢す。
「お互い、一緒だったのかしらね」
「そう、かもね」
小さく笑い合った両者は、腰を下ろすとこれまでのこと、そしてこれからのことを2人で語りあう。
そんな2人に引き寄せられるように現れたザンジとバルは、2人の膝下に収まるとその会話に混ざるように「なー」と鳴く。
「有咲ちゃん」
「何?」
ザンジを撫でている最中、不意に香澄から飛んできた言葉に顔をあげる有咲。対する香澄はバルの方へと視線を留めたまま続ける。
「わたしね、有咲ちゃんに出会えたこと、すごく感謝してる」
「かすみん……」
「だから、これからもよろしくね!」
謝意と共に満面の笑みを向ける香澄。それを受けた有咲は、大きく首を縦に振る。
「勿論よ!」
——だってアンタは、アタシに夢をくれたから。
その言葉を胸の奥にしまった有咲は、香澄へと笑みを返し、また談笑を始める。結局その日は夜遅くまで語り合っていくのであった。
その後、香澄がお泊まりする運びとなったのだが、それはまた別のお話——