The color is redder than crimson and shining. 作:希衣 三十三
第5話
丘を越え、湖とその奥に森が広がる。その森の中に目的地があるようだ。
湖の周りを見渡すと、切り株で作られた椅子がいくつか置いてあり、そのうち一つに誰かが座っている。
歩いていくとその姿ははっきりと見えてくる。猫?のように見えるが一体何者だろうか。
彩取「丘を抜けたのはいいのですが…どなたでしょう?あの方。」
断無「これまた珍妙な生き物が。」
謎の人物を前に、断無が警戒して前に立つ。
???「待ってたぜ、プレイ…初対面なのに酷い言い草だな?」
どう考えても怪しいのはそちらだ。しかし、ここで敵対して消耗するのも悪手だろう。
彩取「これは失礼いたしましたわ。私は彩取と言います。して、あなたはどちら様ですの?」
???「そうだな…、俺の事は行商人とでも呼んでくれ。」
自分のことを行商人と名乗る人物は、そのまま続ける。
行商人「難しい話はつまんないから直入に言おう、お前達とダイスでバトルをして、そちらさんの目が大きければ、好きな忍具を一つプレゼントしてやろうじゃないの。」
そう言っていくつかのサイコロを用意する。
彩取「よくわかりませんが、望むところですわ。」
行商人「ここに来れてない奴だって呼んでもいいぞ、ダイスは二つ使う。簡単に説明するか、俺が出した出目以上を出したらそっちの勝ちだ…2を出したら2以上を出せば勝ちだな。」
そう言ったところで飯綱と空羅が合流する。
空羅「こ…ここは?幻覚…?」
空羅が周りを見渡しながら、そう口に出す。
行商人「俺達を見ている奴の計らいだろうさ、まずは俺が最初に振る。」
出目は2と5、その和は7。それ以上を出せば勝ちらしい。
正直、こういった運任せは得意ではない。だが、行商人からは特に敵対色は視えない。どころか色はほとんど視えてない。本当にダイス勝負がしたいだけのようだ。なら私が負けても問題ないだろう。
彩取「ええ、やってやりますわよ!」
意気込んでサイコロを手の中で振るものの、出たダイス目は振るわない。出目は1と4。
他の方を見ると、どうやら私以外は勝っているようだった。
彩取「あらあら、皆様はお強いのね。」
行商人「やるじゃねえか、さすがはプレイヤー達だ…とそこのお嬢さんは駄目だったみたいだな…」
断無「賽の目の出など、いくら振ろうが時の運。臆せずさっさと振る方が前髪を掴めるというものよ。」
6を二つ出した断無の言うことには、いくらか説得力が感じられる。
行商人「ただ健闘をたたって一つ良い事を教えてやる、俺は妖魔からは見られないようになってるんだ。簡単に言えば、妖魔を判別できるわけだな...今度来た時は手加減してやるよ。」
そう言い残し、姿が消える。
彩取「消えてしまいましたわ。不思議な方ですわね。」
飯綱「……まあ、またここに辿り着くことがあったら再戦できるかもしれませんよ。」
空羅「よくわからないけど……また会えるといいですね。」
まあ、また会ってもあまり勝てる気がしない。私自身の運のなさには、ある程度自信がある。
彩取「まあ、幻みたいな方でしたわね。色も希薄な方でしたし。」
そう言って立ち上がる。
彩取「それにしても、断無さん断然お強いのですわね。」
断無「まぐれにすぎぬさ。あの賽はどう振っても運で決まるような仕組みの様故。」
とはいえ、どうしてもこういった運に頼らざるを得ない状況は来る。
彩取「私、どうも運には恵まれていないようでして…格好を真似したりしてみると良くなったりするのでしょうか。」
そう言って、少しかじった衣装の仕立て上げを即興で行い、断無の和の装いを真似てみる。
断無はその様子を見てか、手で緩んだ口元を隠した。照れているのだろうか、かわいいところもあるものだ。
彩取「…そうそう!こちらを渡そうと思ってたのを忘れてましたわ!」
行商人との遭遇で、すっかり忘れていた。飯綱の秘密を書いたメモを断無に渡す。
彩取「さて、皆々様。そろそろ向かいましょうか。」
そう言って、ぽかんとしている赤ずきんも連れ、湖の奥の森へ進む。
森の中に入るが、これまでと違い適度な日の光が差し込んでいる。私たちの足音以外にも鳥の鳴き声が聞こえる。
そんな中で、ふと空羅と断無の声が聞こえた。
空羅「私たちの記憶はどうやらいじられていたようです。あとはあなただけです……」
断無「構わんよ、別に前も今も探られて痛い腹はないのでね。」
しばらくした後、再び空羅の声が聞こえる。
空羅「どうやらあなたも偽の記憶を植え付けられてたのですね。私たちのおそらく共通の敵……決着の時が来るのですよ。」
共通の敵、おそらくそうだろう。私たちに術をかけ、赤ずきんの母親と祖母の命を奪ったものがいる。
少し歩いたところで、木の密度が上がり、再び暗闇が足元を覆う。
今度は断無から空羅に話しかける。
断無「ここら辺がちょうどいいな。さて空羅殿、後幾ばくかした後に妖魔と対峙することとなるであろう。その前に其方の実力を知っておきたい。簡単な手合わせ、よろしいかな?」
すると数度、刀をぶつける音が聞こえる。流石に気になったのか、赤ずきんの足音が止まる。合わせて、私と飯綱も足を止めて打ち合いの様子を見る。
いくらか刀の打ち合いで満足した様子の断無に対して、空羅は少し不服そうにしている。
終わったことを確認し、歩き始める。
深い森を抜けて、太陽が見え隠れするところへ出た。
赤ずきんは神妙な面持ちで歩いている。目的地は間違いなくこの先だろう。
そんな赤ずきんを心配してか、飯綱が声を掛ける。
飯綱「赤ずきんさん、もうすぐ目的の場所に辿り着き決着にはなりますが。心のゆとりはいつでも必要です。」
そう言って、これまた鮮やかな手付きで紙切りを披露する。
彩取「相変わらずお上手ですわね。」
何度見ても感嘆するほどで、赤ずきんも目を奪われている。
飯綱「よろしければこれを受け取ってください。」
完成したものは、赤ずきんと私だろうか、二人が歩いている姿が写しこまれている。
赤ずきんはそれを受け取ると、大事そうにしながらぴょんぴょんと跳ねて喜びを表す。
赤ずきん「ぁ…ありがとう…」
嬉しそうにそう礼を返す。
飯綱「ふふ、どういたしまして。私はこれしか能がないですからねえ。」
嬉しそうな赤ずきんを見て、飯綱も微笑み返す。多少緊張もほぐれたようだ。