The color is redder than crimson and shining. 作:希衣 三十三
第6話
森を歩く中、赤ずきんの足音が止まり、私たちは赤ずきんの方を見る。
赤ずきんは持っていた赤い斧を掲げる。するとどこからか、大きな狼が現れて赤ずきんに鼻を擦り付ける。
赤ずきん「この子、ポチはね…お腹、怪我してたから…治療してあげたら、懐かれて…それでね…お母さんとおばあさんに見せたいって…思ってたの。」
赤ずきんは狼の頭を撫でながら、悔しそうに俯きながら続ける。
赤ずきん「でも…殺されて…見せれなかった…だから。」
赤ずきん「私は絶対に妖魔を殺す、地獄の底に叩き落して消滅させてやる。」
これまで聞いたことのないような、とても低い声でそう言い放つ。
そんなことを言うもんじゃない。そう言おうと思ったが、赤ずきんの母親と祖母が犠牲になっている。その意思を止めることはできなかった。
赤ずきん「…圧倒的に戦う…には、もう二人…いる。」
そう言って、灰色髪の男の子と白髪の女の子、ヘンゼルとグレーテルの話をする。
おそらく、これまで夢で見てきたあの双子のことだろうか。
赤ずきんの祖母の家の近くに、二人の家があると言うので、先にそちらへ向かうことにした。
目印として置かれたパンくずを辿って進み、この先と言った赤ずきんの指先にはお菓子の家があった。
しかし、そのお菓子の家は夢で見たものとは大きく異なり、崩壊した姿であった。
争った跡があり、真新しい血痕が残されている。
そこに、女の子と思しき悲鳴が背後から響く。私たちは悲鳴の方角に身構える。
目を向けると、肉を押し固めたような巨大な妖魔がいた。夢に現れた双子がその巨大な妖魔にぱっくりと、頭から飲み込まれているところだった。
抵抗するように足を暴れさせるが、ぼきりと鈍い音を最後に、人形のようにその足がぶら下がる。
赤ずきんは顔を真っ白になり、立ち尽くすばかりだ。
妖魔「うっま…やっぱり同族はおいしいなぁ…」
妖魔は飲み込んだ双子を咀嚼するようにしながら喋る。
妖魔「おっ、丁度いいところにシノビが4人と犬っころと…同族だぁ!」
私たちに気付いた妖魔は、同族と言ったところでその大きな手で赤ずきんを指差す。
赤ずきんは同族と言われ、何がなんだか分からない状態で私にしがみついている。
妖魔「冥土の土産にお前達に見せてやるよ、赤ずきんの幻術を解いてね!」
そう言い、指を鳴らす。
赤ずきんの頭巾が一瞬取り払われ、赤ずきんの頭部が明らかになる。
その頭部には、狼の耳がついていた。
赤ずきんはそれを知らなかったのか、ひどく取り乱す。
妖魔「君のお父さんも食ったんだよ、油多くてまずかったけどさ!人間と人狼の子供…これは同族だよねぇ!」
嘲笑いながら、そう話す。
妖魔「同族は人間と愛し合うことは許されない、そこのシノビもお前が妖魔って知って愛せるわけがない。」
そう言われて、びくっと赤ずきんの身体が跳ね、私から離れてうずくまり耳を塞ぐ。
妖魔「お前の愛は決して実らない、そこで動けないまま愛する人が死ぬのを見てろよ。」
言い終わり、私たちシノビの方へ身体を向ける。
妖魔「ごめんね時間かかっちゃって!同族のできそこないが面白くてからかっちゃった、殺し合う前に仲良くしない?」
支離滅裂なことを言いながら、握手を求めるように手を差し出してくる。
空羅「……だれか握手します?」
空羅は身構えたまま問い掛ける。当然答えは決まっている。
彩取「お断りよ。」
伸ばされた妖魔の手から色を奪い、奪われた指先から塵に変える。それを見て妖魔は大きく飛び退く。
妖魔「あ?なんだこれ…くそっ…ただの中忍のクソ共が…聞いてた話と違うぞ…」
妖魔がぶつぶつと呟いている。だが、私も言いたいことはたくさんある。
彩取「色も持たない方が同族だなんて、変なことをおっしゃるのね。その醜い色も消し去ってあげますわ。」
殺意を込めて笑みを返す。まだまだ言い足りないが、これだけで今は十分だ。
妖魔「てっめぇ…絶体に殺す、最初に喰ってやるからなぁ!」
妖魔は叫び、それぞれ戦闘態勢へ移る。
飯綱は分身を作りだし、森に無数に存在する影に溶け込む。
断無は呼吸を整えて、その動きを止め機を伺っているようだ。
私と空羅が妖魔の移動速度と合わせ、攻撃を仕掛ける。
空羅の放つ銃弾が陽炎のようにゆらめき、妖魔に飛んで行く。私はその攻撃に合わせ、妖魔の妨害を行う。妖魔は銃弾を避けきることができず、大きな手で銃弾を防ぐ。
私はその手の死角から接近する。
妖魔「お前なんかの攻撃はあたらねえよ!」
妖魔が私に気付き避けようとするが、私の手はもう色を掴んでいる。そのまま色を奪い去る。
彩取「その大きな口だけは達者ですわね。」
妖魔はよろめき、私を睨みつける。
赤ずきんはまだ震えが収まらないが、それでも力なく声を上げる。それに呼応するように、ポチは幻の剣を作りだし妖魔へぶつける。妖魔は避けきれない。
妖魔は雄叫びを上げ、硬いパンのようなものを投げつける。私は自身の色を消し、断無は刀で切り落として回避する。
断無はそのまま妖魔の元へ瞬時に移動し、袈裟斬りを行うが、妖魔はその怪力で刀を受け止めた。
断無と妖魔は距離を離し、またも断無は呼吸を整え動きを止める。
妖魔はその大きな手を前に出し、何かを唱える。その瞬間、頭上から何かが落ちてくる。気付いた私は赤ずきんに離れるよう指揮を取り、薄紅色も与える。赤ずきんが避けようとした時、誤って速度を失いそうになるが、影から現れた飯綱がフォローに入る。速度を取り戻した赤ずきんが、空羅に遁甲符を投げつけて、空羅もその場を離れる。全員が大きな影から離れたその時、お菓子の家が落ちてきた。そのお菓子の家は、近くで崩壊しているものと似ている。あの双子の忍術をコピーしているのだろうか。
離れた時の速度をそのままに、空羅が銃弾を放つ。妖魔の攻撃後の隙を付いた銃弾は、妖魔の急所を貫き大きくのけ反る。
その隙を逃がさない。
彩取「その汚らしい色、今度こそ綺麗に消し去ってあげる。」
手元にオーラのように漂う色を取り出す。
妖魔「お前にそんなことできるわけねえだろ!」
思わず笑ってしまう。なぜそんな余裕があるのか。手元の色に妖魔の色を紐付け、混ぜ合わせ、両の手で押し潰し、砕く。紐付けられた部分の色が消え、崩れる。
妖魔は呻きながらも、体勢を立て直す。
妖魔「なんだ…おかしいだろ、話じゃ誰も奥義を使えないはずだってのに!」
彩取「これを奥義とするのもおかしいって意味かしら?」
妖魔「ちげえ!ちがう…あの女騙しやがったのか…?」
ぶつぶつ言う妖魔は、視線をどこかへ向けている。戦闘中、そんな暇は当然無い。
断無「杜撰な危機管理だな。」
その通りだ。ポチが赤ずきんの呼び掛けに応え、幻の剣を投げつける。反応が遅れた妖魔に突き刺さり、妖魔は膝をつく。
そこに淡い光を放つ帯のようなものが妖魔の足に巻き付く。妖魔が頭を抱えて唸る。
飯綱「自らの自傷なのだから、痛みではないでしょ?ほら、頑張ってくださいね。」
妖魔「お前もかよ…!」
妖魔は自身の身体を掻きむしり、ぼろぼろと肉がそぎ落とされる。
そうしてようやく、妖魔は飯綱の術から解放されるが、断無は逃がさない。一太刀が妖魔に浴びせられる。
赤ずきんは落ち着きを取り戻したのか、両手で自身の頬を叩き気合いを入れる。そして、憎悪で黒ずんだ血を操り妖魔を狙うが、妖魔は大きく身体をのけ反らせ回避する。
妖魔はお返しとばかりにお菓子の家を降らせるが、一度見た術だ。それぞれ回避を行う。
空羅は回避により攻撃タイミングを逃したが、余裕を持って回避できた私は、妖魔の色を捉える。それに気付いたのか、妖魔は土煙を上げて姿を隠す。
私と飯綱は土煙で妖魔を見失ったが、目を閉じていても相手を捉えられる断無は、土煙の中を進み、またも一太刀浴びせる。断無の一振りで土煙が晴れ、妖魔の呻き声が響く。
闘志を取り戻した赤ずきんが狼のように雄叫びを上げ、ポチと赤ずきんが同時に攻撃を仕掛ける。妖魔はその怪力で払い除け、断無と空羅へ向けて硬いパンを投げつける。飛んでいくパンを、飯綱の分身は器用に叩き落とす。
妖魔「一番苦手なんだよなぁ…その忍術…!」
飯綱「おや、私に撃ってもいいんですよ。」
余裕そうにそう返し、妖魔は怪しく笑みを浮かべる。
妖魔「次撃ってるやるよ…一番やばいやつをな。」
また余所見をしている。空羅はその隙を逃がさない。
空羅は銃を構える。気付いた妖魔はその大きな身体をぶつけて妨害しようとしたが、妖魔に到達する銃弾の方が早い。妖魔が吹き飛ばされ、高速移動を制御できなくなる。
断無「?その奥義に何の意味が…?」
妖魔が神通丸により、速度を取り戻す。
妖魔「あえて?あえてな?」
まだ余裕そうにしている妖魔の色を捉えるのは容易い。色を砕き、妖魔を削る。
妖魔「余裕だったはずなのに…なんだこの…」
彩取「あらあら、半分ほど消えかかってますわよ?」
断無「偏に慢心のし過ぎであろう。」
その慢心を狩るのは私一人ではない。飯綱が印を結び、妖魔の身体を帯が縛り付ける。妖魔は叫び、自分の身体ごと帯を引き剥がす。
ポチが赤ずきんの雄叫びと同時に攻撃を繰り出し、私はポチの指揮を取る。ポチの剣は妖魔の手に弾き飛ばされたが、その手を狙った赤ずきんの操る血が突き刺さる。
攻撃を受けた手を妖魔は重々しく掲げ、少ししてパキリと水晶の割れるような音が響く。これまでより大きな気配を頭上に感じる。私たちは、これを夢で見た。そして今なら夢で視た、その色を鮮明に思い出すことができる。周りの木を蹴り上空へ、作られているお菓子の家の骨組みの色を奪い、空気抵抗に耐え切れないお菓子の家は空中でバラバラと分解していく。
彩取「さっき見た色ですわ。他愛ない。」
こんな小細工ばかりを仕掛ける妖魔に、思わず失笑してしまう。
断無「これは拙の奥義を見せるまでもないな。」
断無の声で慢心を拭い、空羅の銃弾を避けた妖魔の後隙を捉え、色を砕く。
妖魔はよろめき、そこに飯綱の術と断無の一太刀が襲いかかる。
妖魔は大きく息を乱す。余裕はもう絞り出せないようだ。
赤ずきんの雄叫びにポチと空羅が応じる。ポチの剣を避けるのに精一杯だったのか、空羅の銃撃が妖魔に直撃し、その衝撃で吹き飛ばされ、速度を失う。妖魔はとっさにお菓子の家を出そうとするが、飯綱が印を結びその術を止める。
私は速度を失った妖魔の右足の色を捕まえ色を砕く。妖魔の右足は千切れて、前のめりに体勢を崩し片手を付く。
その手を飯綱の術が縛り上げ、そこへ断無が歩いていく。
断無「おや、丁度締めを飾るために尽力してくれたのかな?」
妖魔はただでは終わるまいと叫び声を上げ、縛られた手を食いちぎる。喰らった自らの腕で、未完成の腕を生やし、断無へ体当たりを仕掛けようとする。
それは叶わない。間に空羅が入り、刀で完全に受け止める。
勢いを消しきった空羅は飛び上がる。空羅がいたそこには、断無がいた。
一閃、妖魔を水平に薙ぐ。
静止したかのような時間が過ぎ、断無が刀を鞘に納める音で動き出す。
妖魔が力尽き、地響きが届く。