The color is redder than crimson and shining.   作:希衣 三十三

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クライマックス後半
第7話


完全に沈黙したことを確認し、少し肩の力を抜く。

はっと赤ずきんの方を向く。赤ずきんは真顔のまま、俯いている。

赤ずきん「ごめんなさい。」

そう言った途端、赤ずきんの持つ赤い斧を投げつけてきた。斧は私のすぐ横を飛んでいき、どこかの木に刺さる。

赤ずきんさん!そう呼び掛けようとした時、一瞬視界が暗転する。あの時の夢とは違う、映像が割り込んでくる感覚だ。暗転し見せられたものは、赤い頭巾をかぶった少女が、沢山の狼を従えて、古い町を滅ぼしている場面。そして、赤い頭巾をかぶった少女が、複数人の上忍と戦い、最終的に押さえつけられ首を刀で切断された場面。赤ずきんがするはずのない、されるはずのない行為が映し出される。刀を構えた上忍が話した言葉が、脳に響くように残っている。

『狼の女王・紅ずきん』

視界が戻る私は、彼女が赤ずきんではないことが直感的に理解できる。目の前にいる赤ずきんは何かに乗っ取られている。

紅ずきん「あのうるさい肉達磨を排除してくれて助かった、おかげで復活がスムーズに行きそうだよ。」

紅ずきんは手を伸ばし、投げた斧がその手に飛んで戻る。

紅ずきん「特に彩取といったか、お前とのアレが実らないって知った時の感情の味は美味だったよ。」

彩取「…?さっきもそうだったのですが、確かあの大きな方は、赤ずきんさんとの愛は実らない、と言ってましたわね。」

妖魔に言われた一言。それは言い返したかったことの内の一つだった。

彩取「私にはその意味が分からないのですが…」

もう妖魔は答えなさそうだったので、紅ずきんに問い掛ける。

紅ずきん「お前はこの体の元の持ち主である赤ずきんが好きだ、でも赤ずきんは妖魔だぞ?愛し合ってはいけない存在だ。」

それが私には分からない。

彩取「妖魔の血を引いてる方など、五万といらっしゃいますわ。現に、私の良きご友人には元凶尾の方もいらっしゃいますし。」

確かに妖魔の血に対して嫌悪感を抱くシノビは多いだろう。しかし、私はその内の一人ではない。私の大切な友人の一人には、毛先の青く美しい、凶尾から抜け出して影絵座へと身を移した女性がいる。

彩取「妖魔に対して、少なくとも私は拒絶するものではないと考えてますわ。」

紅ずきん「そうかお前は拒絶しないか…じゃぁ一つ良い事を教えてやろう。」

そう言って紅ずきんは昔話を始める。

紅ずきん「赤ずきんとお前がトランプで熱くなった時があっただろ?その時の赤ずきんが我慢した欲を二つ教えてやる…これじゃぁ良い事は二つだな。」

にやつきながら続ける。

紅ずきん「一つ目は愛、そして二つ目は…食欲だ。具体的に言おう、赤ずきんは妖魔の力の影響によって、お前達人間が極上の食事に見えている。」

他のシノビは呆気にとられている。

紅ずきん「赤ずきんは菓子に目を輝かせていたが、実際に食べて飲み込んだことはない。お前たちが知らない所で全て吐いている、飲み物はかろうじて大丈夫だがな。」

笑いを堪えながら、紅ずきんはさらに続ける。

紅ずきん「人間しか食べれなくなってしまった体はつらいものだなぁ…だからつまり…、愛が実る頃には彩取…お前は食い散らかされているだろう。」

一通り言い終わったのだろう。私は口を出す。

彩取「知っていますわ、そんなこと。だから私も好きになったのですし。」

紅ずきんは予想外の言葉に、目を丸くする。

彩取「私が初めて見たあの色、決して忘れることはありませんわ!好きだって色に、食欲に、それを抑えるのにどうしようもないって色!あんな色を見せられて、平気でいられませんでしたもの!」

互いに幼いあの日。私が赤ずきんに視惚れたあの日!その日見た出来事を忘れることはできない!

あの事を思い出すだけで抑えきれなくなる。

トランプを使った勝負。弱かった赤ずきんが初めて勝った時、はしゃいだ赤ずきんは散らばったトランプで足を滑らせ、こちらに倒れこんできた。文字通り目と鼻の先、お互いの顔が迫り、息が当たる距離。赤ずきんは次第に顔を赤くする。その時視えた赤ずきんの彩りに、私は心を奪われたのだ。

予想できない返しに、身を引く紅ずきん。

紅ずきん「なんだと…ばかな、人間は食べられると思うと恐怖を抱くはずじゃ…」

少し落ち着いて、私は呟く。

彩取「まあ、もっと違うものも視せて頂いたのですが。」

紅ずきん「……なに?」

彩取「それは、色ではありませんでしたわ。それまで色だけだと思ってましたが、今では何かが分かる。」

色を視るだけだった幼い頃とは違う。色を操れることで気付いたこと。

彩取「輝き、ですわ。」

私は赤ずきんの『色』に惚れたのではない。その『輝き』に惚れたのだ。

紅ずきん「か…かがやき…未来はこうもおかしい奴らばかりなのか…?」

彩取「あれ、変でしたか?確かに私は人に見えない色が見えますが。」

何か変なことを言っただろうか?色が視られないとこういうことは起こらないのだろうか。

紅ずきん「……!!そういうことか…いやはや失礼した、彩取…いやお前達全員、混ざっているな。」

何か気付いたように、紅ずきんが私たちへ向けて言い放つ。

紅ずきん「マザリモノのお前達とかけ事をしてやろうではないか、私を再起不能にしたら…赤ずきんを返してやろう、その代わり私が勝ったらお前達全員を喰わせてもらう。」

そう言い、私たちへ斧を向けてくる。

断無「真、失礼に尽きる。拙は孤児の出とは言え人。流れる血潮がどうであろうと、そうあるように育ってきた。それを侮辱するというのであれば貴様の魂のみ切って捨ててみせよう。」

飯綱「……シノビの連絡係としては妖魔と二連続で相対するとは荷が重い話ですが、折角赤ずきんさんと彩取さんの姿を紙切りに描いたのですから、また二人が仲良く歩める姿を見たいものではないですか……さて、もう一踏ん張り、頑張りましょうか!」

空羅「赤ずきんさんは守って見せます!!妖魔は滅ぼします!矛盾はありません!」

私以外のシノビも、共に戦ってくれるようだ。

彩取「ええ、赤ずきんさん。取り戻して差し上げますわ。」

紅ずきん「ふん…お前達もいずれこうなるのに健気だな」

ポチは渋々といった様子で紅ずきんの方へ付く。

彩取「あら、ポチはこっちの味方をしてはくれないのね?邪魔をすると痛い目に合いますわよ。」

ポチ「クゥ∼ン…」

紅ずきん「…本来ならあと5匹ぐらいいるはずだが、お前たち相手なら十分だろう。全員我が糧にしてくれようぞ!」

その場の全員、移動速度を上げ、戦闘を再開する。

 

 

胡粉色を身にまとい、誰よりも速く動く。

彩取「では、容赦いたしませんわ。」

色を用意する。散々見せてきたその術を止める為、紅ずきんは斧を投げてくる。術を中断せざるを得ない。

紅ずきんは斧を投げた手をすぐさま腰に付けた刀に戻し、抜き放ち、居合切りを繰り出す。驚くべき速度で、戦闘速度の違う私、空羅、断無を一太刀で斬り払う。空羅と断無は手に持っている刀で受け流すが、私の手には先ほど取り出した色しかない。何とか色を使って衝撃をいなし、最小限の被害で抑える。

空羅はその移動を逃がすまいと、銃弾の雨を降らせる。紅ずきんには居合切りの衝撃波で届かない。ポチはその銃弾の雨の中、被弾しながらも空羅に幻の剣を突きつける。

飯綱は印を結ぶが、紅ずきんが手を上げる。飯綱は先に投げた斧が後ろから戻ってきたのに気付き、印を結ぶことを止め、回避する。

斧を手に戻した紅ずきんはそのまま斧で断無に斬りかかるが、断無の得意とする移動速度、シノビから見るとまるで静止してるかのような速度では、上手く距離感をつかめないのか、大きく攻撃を外す。断無は距離を離し隙を伺う。

紅ずきん「…は、はは…ずれてしまったなぁ。」

紅ずきんは笑いながら重々しく斧を構え直す。

断無「勇んでくるのはいいが、この領域で戦うのは非常につらいと思うのだが?」

紅ずきん「…ここでも戦ってやるのが原種妖魔のすばらしさだ!」

 

紅ずきんは抜いた刀を鞘に納め、再び居合の体勢に入る。

ポチはそんな紅ずきんの前に出て、剣を投げつける。避けきれない、そう感じた私は急所に当たらないよう敢えて攻撃を受け、色を構える。あまりに見せすぎたか、その動作を見てポチは捕捉されないように動き回る。飯綱もこの動きを捉えきれないようだ。

 

紅ずきんが刀を抜き、居合切りを放つ。私と飯綱はその範囲外へ回避し、空羅と断無は斬撃を受け流す。

ポチの放つ幻の剣を、空羅は同じく幻の自分を用意し攻撃を躱す。

そして、空羅は陽炎の如くゆらめく銃弾の雨を降らす。ポチと紅ずきんは、避けきれず銃撃に曝される。

そんな中でも、紅ずきんは私と飯綱の術を打ち破ってくる。

雨の止んだ時を見計らい、紅ずきんは断無に斧で切りかかる。それを断無は難無く刀で受け止める。

断無「鞍馬に刀剣で挑むなど正気か?」

紅ずきん「正気だが?我は原種妖魔ぞ?相手に余裕を持たせる事が威厳を保つとな。」

そう自慢げに話す。

 

紅ずきんは刀を鞘に納め、こちらに狙いを定める。

庇うように前に出るポチが、近くに居た飯綱に目掛けて剣を投げようとしたその直前、飯綱は何枚もの紙をポチに投げつける。ポチの視界は紙に遮られ、その剣をあらぬ方向へと飛ばす。紙には手裏剣が混ざっており、その中で動いたポチに突き刺さっている。

前に出て、ポチと紅ずきんの色を捉える。当然紅ずきんはそれを咎めるために、斧で牽制をする。分かっている、飛び上がり斧を回避する。但し、私は陽動だ。紅ずきんを挟み、私の反対側に位置する飯綱の印を結ぶ時間を稼ぐ。気付いた紅ずきんだが、間に合わない。光の帯が紅ずきんの足を、ポチの身体を縛り付ける。ポチは耐え切れず、幻のように消える。手元に戻ってくるはずの斧が紅ずきんにぶつかり、術が解ける。

飯綱「ポチさん……安らかに……」

断無「自傷させていなければ良い人だったのにな。」

十字をきる飯綱に断無はそう呟く。

呟き終えた途端に断無の姿が消え、紅ずきんの前に現れ斬撃を放つ。紅ずきんは落ちた斧を拾い、その斬撃を防ぐ。

紅ずきん「……これがシノビか。」

紅ずきんはそう小さく口に出す。

 

空羅が紅ずきんの居合よりも速く動く。その殺気に気圧された紅ずきんは少し身を引き、自身の身を削りながら放つ銃撃を、大きく距離を離し回避する。

紅ずきんが回避したときの勢いを殺し、地を蹴り瞬く間に薙ぐ。空羅は攻撃をその身で受ける。その瞬間、空羅の未だ使っていなかった刀が光を放った。

私はあの時のことを思い出す。赤ずきんから依頼を受けたあの時、言った言葉、赤ずきんの色を今なら鮮明に思い出せる。紅ずきんの居合切りを懐に入りすれ違うように避け、「大丈夫、何とかしてあげますわ。」もう一度、同じ言葉を紅ずきんの耳元で囁く。一瞬、はっとした顔になった紅ずきんに、赤ずきんの色が少し強まって視える。

紅ずきんの居合切りの一振り、末端にいた断無は避けきれないことを理解し、

断無「これはいかんな。然らば、我が術理の一つを持ってお相手致そう。」

そう言って、刀を振るう。紅ずきんの刀の到達よりも早く振るわれた一太刀は目の前の空間を断ち、紅ずきんの行き先を阻み、剣先が断無に届くことはない。

明らかに余裕を失った紅ずきんの色を捉える。紅ずきんは同じように斧を投げてくる。もうそれで止まりはしない。投げた後隙を狙って色を砕き、紅ずきんの体勢を崩させる。

そのよろけたところへ、飯綱が印を結ぶ。

紅ずきん「お前らそれでもシノビか?そんな奥義なんて…」

無い余裕を振り絞る紅ずきんだが、術を破ろうとしたその時には、既に飯綱の術が発動していた。

紅ずきん「がっ…!」

紅ずきんの身体が縛り、戻ってくる斧が縛る帯を紅ずきんの身体ごと引き裂く。

斬りかかる断無の一振りを、紅ずきんは刀で弾く。

猛攻に息を上げた紅ずきんは、深呼吸をするように息を吸込み、大きく雄叫びを上げる。その妖魔の力を身体に満たし、傷を治していく。

紅ずきん「は…ははっ!やっぱり私は女王だ!お前らなんかにまけないぞ!」

 

紅ずきんのその速度を読み取った断無、空羅は、紅ずきんの行動速度に合わせた間合を取る。

紅ずきん「なんだお前ら!急によってきて…」

断無「流石に同じ間合を取り続ければ猿でも気づくぞ。」

予想外の状態に、明らかな動揺が見て取れる。見逃さない。胡粉色が私を更なる速度へ、音速のさらに先へと加速させる。

紅ずきんは私の術を耐えるため、もう一度雄叫びを上げようとする。させない、左手で振り払うようにその声色を奪い去り、右手に紅ずきんの色を捕まえる。

紅ずきん「まて…話せば…」

今更何を言われても止める気はない。

彩取「その紅色は赤ずきんさんには相応しくない。」

振り払った左手を戻す勢いをそのまま、右手の紅ずきんの色、紅色を体の中心に捉え、砕く。

紅ずきんは速度を制御できず、木に叩きつけられる。よろよろと立ち上がろうとするが、力尽きそのまま座り込む。

空羅「コヒュー……最後の一撃の用意は不要だったようですね……」

空羅は輝きを放っていた刀を納める。

私は戦闘不能の紅ずきんに近づいていく。

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