叫び声に誘われて、辿り着いた先は一面の緑…いや、それだけなら見慣れたものなのだが、その規模が違った。
「これが…1万?」
確かに、これまでの千人規模のゴブリンでも、役割というものはあった。ただ、これは質が違う。
すべてのゴブリンは武器を持ち、百人ごとに装備を身に付けた指導者がいる。千人じゃこうはいかなかった…いや、その理由も分かる。
「お姉ちゃん、あれ…」
「ほぉ…よく見えんが…あれは…」
二人の視線を集める巨体。オーガ程の身長と、肥大化した脂肪を携えたゴブリンはどっかりと座り込み指を指している。傍らには、一際大きな棍棒が存在している。
なるほど、これなら逆らおうとは思わない。きっと、千人程度のゴブリンだと百人程度のゴブリンを従わせるほどの力が無いのだろう。
そして、叫び声の主はまだ叫んでいる。
「恵。ここで待っていて。一体や二体なら、任せる」
「…うん」
「ふぉっふぉ。若者なら、やりたいようにやって来るといい!儂もそこそこ戦えるからのぉ!百人程度なら任せるんじゃ!ほい!」
その掛け声とともに、お爺さんの手元に杖が現れた。
「えっ」
「儂の専用武器じゃ。まあまあ、気にせず行ってくるといい」
恵が、静かにコクリと頷く。
「お願いします」
私は恵と接続を切ったせいで傷口が開きかけたお腹を抑えながら、ゴブリンの密集する地…叫び声のもとへ向かった。
ジリジリと、その叫び声の主…男性は、囲まれていく。手元には武器が二本。そして、顔の横にはカメラのような物があった。
見覚えがある。たしか、恵にオススメされたカメラ。簡単に顔に固定できる優れもので、激しい動きでもなかなか取れない。
ということは…いや、まだ分からないか。
スケルトンの魔石を上に投げて、骨の雨を降らせる。そして、余り余ったゴブリンの魔石で止めを指していく。これが、一番速い。
「もうちょっと耐えて!」
「!?助けか。頼む!助けてくれぇ!」
まだ、元気そうだ。今は接続出来ていないから、一回の被弾が命取りとなる。適当なゴブリンにでも…あ、あの百人ゴブリンにでもやっておこう。
「よし。ふんばれ、私」
魔石で減らして出来た一つの道を押し入る。ブラックジャックはどうしても隙が増えるから、包丁で出来る限り切り裂いて突き進む。
そして、やっとのことで、
「ふん!」
「あ、やっと…て、アンタは!?」
ゴブリンを押し切り、叫び声の主である男性のもとへ辿り着いた。
その男性を背にして、魔石を三つ、空へ投げる。その魔石はオークのもの。その、オーガには及ばない巨体は、狙い通り壁となる。
「ひいっ!な、なんだこれは!」
「…驚かせてごめんなさい。でも、私は貴方の事をあまり知らないので、質問させてください。逃げるつもりはありますか?」
「そりゃあ……いや、アンタがいるなら百人力だ。アレを倒さないか?」
…私の能力の都合上、仲間は居ないほうがいい。いるとするなら、それは守る対象のみ。少なくとも、一緒に戦おうとする者とは相性が悪い。恵なら別なんだけど…。
「…私は、貴方の命を守れる確証はありません。それに、私の能力の都合上、やるなら貴方から離れます。それでもですか?」
「…チッ。わかったよ」
脅すような形になったのは申し訳ないが、出来ないことは出来ないのだ。それに、わざわざ危険を犯す必要なんてないし、今の私ならなおさらやるべきではない。
「じゃあ、行きましょう」
張り付いたゴブリンを、オークの魔石で潰す。そして、一箇所のオーク二体の壁を、再び魔石へ戻し走る。
「お、おい!!この中を突っ切るのか!?」
「そうじゃなきゃ逃げられませんよ!」
足元にはゴブリンの魔石と死体がゴロゴロとしている。走りにくいが、仕方ない。この数のゴブリンを抜けるには速度が命なのだから。
スケルトンの魔石がかなり減ってきた為、オークで代用しながら進む。オークなら追加で潰す必要がないから楽だが、その代わりスケルトンより殺れない。だから、消費は激しくなる。
「お、おれは何かしたほうが「何もしないでください!」」
もしそれで私の接続先がダメージを受けたら私は終わる。本当にそれだけは辞めてほしい。
手元の魔石が心細くなった頃、ゴブリンの海から遂に抜けることが出来た。近くに恵がいるのも確認した。なら、私がここですることは、一つ。
「じゃあ、私が止めておくので、逃げてください」
「は、はぁ?マジか?」
「はい。マジです」
引っ張ってきた手を勢いのままに前へ振る。その男性は体制を崩しながらも前へ行き、私との位置が入れ替わる。
「貴方が見えなくなるまで逃げたら、私も逃げます。だから、さっさと逃げてください」
「いや、それ――」
男の声を意識から外して、集中。
無理な強行で魔石がかなり減った。そもそも余りストックしやすいものでもないし、今は余裕が生まれたから温存すべきだ。
一体一体、丁寧に捌いていく。メインは右手の包丁で、隙を見せた個体はブラックジャックで止めを指す。
そして、百人規模の装備付きゴブリンが前に出てくるところまで来た。まだまだ先は長いが、流石にここまでくればあの男は逃げ――
「燃えろやぁ!」
赤い球が視界に映った。それは、この中でかなり目立つ装備付きゴブリンへ吸い込まれるように飛んでいく。
まずい。銃弾より遅くとも、ヘリコプターという事前の知らせがあったあれとは違う。間に合わない。
その赤い球は、装備付きゴブリンをぎりぎり避けて、地面に広がる。その広がり方は異常そのもの。瞬く間に広がり、当然、私の接続先にも、そして、私本体の足にも。
「ああああああああ!!」
「お姉ちゃん!?」
接続は切れた。でも、片足は火に包まれる。
「っシャア!ゴブリンのボス討伐!」
男は、私には目もくれず、今更走り去っていく。
「ぬっ!ほいっとな!」
感じたことのない激痛に苦しんでいる間に、私の体がふわりと浮かんだ。
「ありがとうございます!お姉ちゃん、ごめん。頑張って!」
多分恵に背負われている。でも、そんな思考も激痛が掻き消す。
次に、冷静な思考が戻ったのは、お爺さんの家で処置をされた時だった。