私は、お姉ちゃんのために、そして、見やすい編集の勉強のために結構な動画を見てきた。同時に、様々な能力を知り、ある程度、どうするかというシュミレーションは繰り返してきた。
今回の男は覚えているかと言われれば微妙であった。多分顔は出していない。でも、能力には見覚えがあった。というか、一番初めに見た能力がこれだった気がする。
確か、魔法が使えるようになったとかそんな動画だった。SNSでめちゃくちゃバズったそれは、チャンネルを探し出すのも容易だった。
見れば、ストーリーがあがっている。予想通り、さっきの出来事でだ。なぜもっと時間を空けないのだろう。バズるかは兎も角、時間を空けなければいつのことかバレてしまうんじゃ無いだろうか。
「ってあ〜あ」
やっぱり危機管理能力は低いようで、住所を明確に示してはいないが、窓や壁が映っている。というかこれは…?うん。あれだ。
目立つシンポルが窓から見えるので、もう分かってしまった。流石に拍子抜けだ。じゃあ、早速―――いや、まだだ。流石にこれだけじゃダメ。最悪兄弟とかの関係ない人を巻き込む。配信者なら配信もするだろうし、狙い目はその時だろうか。
「じゃ、迎えに行こう」
一応写真を撮ってから、友達の元へ向かう。あの男にノータッチはあり得ないけど、お姉ちゃんを治して貰うためにそっちを優先しよう。…ちゃんと歩けるようになればいいなぁ。
「多い」
友達の家まであと少しというところ。これまでは隠れてやり過ごしてきたけど、流石に厳しそう。
「あ〜、ん〜」
空は赤く染まり始め、時間がないことを如実に表している。まあ、練習と考えれば良さそうかな。
私の専用武器を取り出す。漆黒の刀身を持つこの刀は、今はただの刃物だ。本物よりかなり軽いから、扱いはしやすそう。
「倒す数は最低限」
タイミングを見計らって、ゴブリンの列に強引に割り込む。不意をつかれて硬直している間に、指揮を取るゴブリンに刃を入れる。スルッと刃は通り、いとも容易くゴブリンは2つに別れた。
指揮官を失えば、部隊の混乱は避けられない。これなら、追われても数は最小限で済む。
道中のゴブリンを切り落とし、拾える魔石は拾う。そうやって突き進み細い道へ入った。
魔石を、死体へと変え壁とする。こうすれば時間は稼げるし、時間が稼げればもう終わりだ。
「入るよ〜」
鍵を開けて貰っていたその友達の家に、滑り込んだ。
「わぁ〜。びっくりした〜」
「あぁ、ごめんね三春」
「大丈夫〜。でも〜、陽菜さんはどうしたの〜?」
あ、そういえば二人で行くと言っていたっけか。
「それなんだけど、お姉ちゃんが怪我しちゃって。三春。お願い出来る?」
「まあ〜!?それはびっくり〜。私に出来ることならなんでもするよ〜。助けてもらったしね〜」
そう。三春の家族はお姉ちゃんの動画に助けられている。というのも、三春のお父さんは警察だ。出勤命令が出て、嫌嫌外へ出ると、案の定ゴブリンやオークに襲われる。そこでお姉ちゃんの動画が非常に役に立ったらしい。
「ありがとう。じゃあ早速だけど、今日からよろしくね」
「よろしく〜。陽菜さんに会うのが楽しみ〜」
そうして、玄関から出ようとすると、
「あぁ、待ってくれ」
男の人の声に呼び止められた。言うまでもなく、三春のお父さんだ。警察の制服に身を包んでいる。
「恵さん。三春をよろしくお願いします」
意外にも、お父さんはこれに肯定的だった。というのも、暫く家に帰れないから、陽菜さんのもとの方が安全だということらしい。今は抜け出して来たようだ。私としては願ったりかなったりだけど、やっぱりお姉ちゃんへの信頼が厚いんだなと感じた。
「じゃあ行ってくるね〜」
「陽菜さんの所までは危険なんだからな!気をつけるんだぞ!」
お父さんの忠告を、私の友人はゆるゆると頷いていた。
そして、
「いや〜、怖かった〜」
「なんで?」
空が黒に染まるまでに、お爺さんのところへ帰ってこれた。
三春のマイペースさは当然のように裏目に出ていて、何度も隠れきれずに、「あわわわわ〜」と体をゴブリンの前に晒していた。なのに、たまたま偶然別のところを見ていたりして、何故か一回もバレなかった。えっ?どうして?
「ね、ねえ三春。三春って実は隠密系の能力だったりしないよね?」
「しないよ〜。ちゃんと回復だって〜!」
じゃあ何…?運ってコト…?
ま、まあ、今はそんなことよりお姉ちゃんだ。
「じゃあ三春。入ろ――」
ピロンと、携帯が鳴る。特に通知はつけていないけど、あるとするならそれは…。
「…!ごめんね三春。中のお姉ちゃんをお願い!」
三春をロッド工具店に押し入れて、私は走り出した。
「ええ〜〜?」
取り残された少女は、一人眉を顰めていた。
「Foooooooo!!!!!俺さいきょー!!!」
闇に閉ざされた世界には、一際目立つ場所があった。
緑色の海の端っこに、オレンジ色の光が揺らめいている。
ゴブリンの怨嗟を心地良く感じているのか、男のテンションはハイになっていて、さらに襲い掛かってくるゴブリンを燃料に炎を立ち昇らせていた。
このとき、男のテンションはいつものようにハイになっていたが、流石に学ぶようで、群れに一歩踏み出すことはなく、来るものだけを燃やしていた。
その顔の横に取りつけられているカメラはその様子を全世界に―――届けることはなかった。
「ねえ」
パキリとカメラが地面に落ちる。
「ああ!?俺のカメラが!弁償しろよ弁償!!!!」
いい気分に水をさされ、がなり立てる男には、声の主が見えていない。
「陽菜は、見逃すみたいだけど」
「あ?あぁーそういえば助けてもらったか。はぁ〜、倒すとか言ってくれればもっといい絵取れただろうになぁ」
ズケズケと、男は建前もたてずに喋り続ける。思ったことをありのまま。目の前の相手を気にする様子を見せずに。
「そっか」
男の視界が反転する。
気が付けば、目下には火の海。崖際に男は居て、背中を押された。
ゴブリンに囲われている。四方八方からの攻撃になすすべなく貫かれる。
俺が向こうにいる。振られた手から飛び出した炎は、視線の低いオレの体を下から燃やしていく。
男は、死を繰り返す。
『専用武器 妖刀
眠る相手に、好きな悪夢を見せる』