変わる世界で配信中   作:ありくい

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希望

一番初めに声をあげるのは、自衛隊だった。

 

「総員、構え!撃て!」

 

銃や魔法の混じった攻撃が、これまでより小規模で放たれる。被害は与えた。でも、全体から見ると、余りにも微弱だった。

 

ゴブリン達は、数の暴力に任せて歩みを進める。でも誰も行動しようとしない。誰か、この流れを変えられるのは…!

 

「お姉ちゃん?」

 

恵が私を見ている。どうしてと言いたげな表情だ。

 

「私には、そんな力は無いよ」

 

自信がない。誰かを率いるなんて私には出来ない。そもそも、まともな連携なんてここまでしてきていないし、こんな大勢を湧かせることなんて出来るわけが…。

 

「…お姉ちゃん。配信でも始めようか」

 

「え?」

 

「配信の中なら、みっともない姿なんて見せられないよね?」

 

さっと、恵は私にカメラを向けた。流石に配信なんてそんなに速く始められるものじゃないけど、

 

「え、あ、えっと…」

 

分からない。配信だとして、導入とかはどうすればいいんだろう。いつもはちゃんと準備をしていたから出来たけど、こんな状況からどうすれば自然に…って、頭の中はそのことでいっぱいになっていた。

 

 

あっ、

 

 

そうだ。キャラを作れば。

 

恥ずかしがるな。自信を失うな。そして、みんなを不安にさせるな。

 

『さぁ皆!戦おう!』

 

元気に、楽しそうに叫ぶ。体は万全。前よりも元気いっぱいだ。

 

『相手はゴブリン!誰でも倒せる化け物だよ!ここにいる皆は、誰だって沢山ゴブリンを倒してきたよね!さぁ、本番だよ!練習の成果を見せるとき!』

 

笑えば、みんなも笑ってくれる。

 

「せやせや!諦めるんとちゃう!ここには陽菜さんがおるんやぞ!」

 

続けて、剣さんも声をあげた。剣さんも人気の配信者だ。圧倒的な無双を見せつける彼は、十分支えとなるはずだ。

 

「逃げたってなんもかわらん!力強い仲間がいるうちにどんどん成果を出したろやないか!ミスっても助けたる!」

 

剣さんの力もあって、みんなの目に光が戻った。見れば、遠く離れた後ろの方でも何かあったみたいだ。元気な声と、威力を増した魔法がゴブリンを薙ぎ払う。

 

もう、微弱だなんて考えられない。立派な、力強い援護射撃だ。

 

『さぁ行くよ!みんなで一緒にゴブリン退治だ!』

 

オオオオオオオ!!!!!

 

士気は最高潮。ゴブリンとの、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁさぁ行くよー!』

 

特に特別な事はしない。私は、いつも通り潰して、切ってを繰り返す。短刀が手に入ったとはいえ、ブラックジャックは大切な相棒だ。たまに魔石を投げ込むのも忘れない。

 

しかしまあ、みんな凄い。特に目立つのは剣さんだ。能力だけでなく、素人目にも確かな技術がうかがえた。背後からの攻撃を避けながら切り刻み、刀の届かない位置のゴブリンは足でいなしている。見ていて気持ちがいい。

 

『あっ』

 

突っ込みすぎている人がいた。多分倒しているうちに前へ行ってしまったのだろう。気付いても、もう既に囲まれているし、近くには千人規模の将ゴブリンがいた。これはあまりよろしくない。

 

場所に気をつけて、将ゴブリンの上にオーガの魔石を落とす。これで、後は雑魚だけだ。ついでに爆音がしたので、あの人も自分の状況に気付いたみたいだ。

 

そして、またゴブリンを倒していく。誰が提案したのかは分からないけど、他の人はローテーションを組んで戦う人もいた。確かに、ゴブリンの数には切りが無いからそれも大切だろう。自衛隊を参考にしたのかもしれない。

 

その中で、私の妹はというと、スマホ片手にゴブリンを倒していた。

 

『あの、め…カメラ、無理しなくていいよ?』

 

というか、あれは方便じゃなかったの?本当に配信しているの?ヤバくない?

 

「…いや、お姉ちゃんのこれからを考えるなら、これは必要だよ」

 

絶対。と恵が言い切った。よくわからないけど、それで危ない目にあったら助けよう。ちゃんと気を配らないと。

 

何度か危ない目に合うことはあっても、遠くからの援護で数は減らされ、助け合うことで被害は出ていない。半ば作業化し始めている。将ゴブリンを逃さないように魔石で押し潰し終わったら、剣さんがこちらによってきた。

 

「陽菜は気づいたか?」

 

何を、とは言わない。というか、気付いていたからこそ魔石を使ってまでわざわざ将ゴブリンを倒したのだ。

 

『将のゴブリン達が逃げているって話ですよね。それはわかっています』

 

基本的にいるのは千人規模の将ゴブリン。百はいない。一万は結構いる。この中で、千人規模はまだしも、一万人規模のゴブリンは、部下に囲まれ、異様に速く逃げている。

 

そして、何をするかといえば、当然の如く味方の召喚だ。王のゴブリンの元で、彼等は唸り、そして扉からゴブリンの軍隊が出てくるのだ。

 

「いくらローテーションしとっても、流石に疲労は蓄積する。どう考えても、長期戦はこっちに不利や」

 

…確かに。それなら、速く手を打たないと。

 

『なるほど。では』

 

「ああ。―――すまんが聞いてくれ!俺らは今から将を中心に倒しに行く!ちょっと抜けるけど大丈夫か?

 

口々に、任せろと声がした。頼もしい味方の言葉だ。信頼しよう。

 

「あの、私もついて行っていいですか?」

 

すると、恵がそんなことを言ってきた。恵は、私の撮影の片手間に倒していたのだが、それでもゴブリンの処理数はかなりのもの。この中でも上位の戦力だ。私達に加え、恵も消えるのはかなり苦しくなるだろう。

 

渋っていると、恵は意を決したように言った。

 

「なら、お姉ちゃんはこれ持って行って」

 

渡されるのはカメラ。でも、こんなものを片手に戦えるかと言われればあまりやりたくない。今回は速度が命なのだ。

 

「そうじゃないよ。お姉ちゃん。もし、遠くの人に指示したくなったらそれで音声を伝えるの。きっと見てくれるよ。後、カメラはポケットに入れちゃえばいいよ」

 

指示…使うかはわからないけど、分かった。

 

そうして、私達はゴブリンの波に深入りしていった。

 

 

 

 

 




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