騎馬兵は、前線の私達を横から分断している。そこを暴走した馬と共に、奥に抜けている。故に、このまま逃げれば敵地に深入りするだけである。だけど、立ち止まることは出来ない。
剣さん達は、あそこで騎馬兵を食い止めていて、それは今の前線維持に必須だ。助けも、あの人達なら…いや、ファンさんは別か。
「陽菜様!」
素晴らしいコントロールで、私達とゴブリンの騎馬兵の間に、大きな岩が突き刺さる。私達を追う数匹のゴブリンはそれに押し潰され、後続は回り道をしなければならない。素晴らしい援護だ。それが邪魔で、次の援護はし辛いだろうけど。
建物は近い。でも、そこに辿り着くまでには余裕でゴブリンに追い付かれる。
「…ごめんなさい」
逃げ切るのは無理と判断して、お姉ちゃんを一度地面に置く。刀を取り出して、その前に立った。
私達へ向かってくるゴブリンは、ファンさんのお陰でたったの二体。剣さんよりも遥かに少ない。なら、希望はある。
武器は槍。突き出されたそれは、地面には届かないから横に避ける。横の棒をへし折ろうと刀を振る、が、二人目に邪魔される。
ならばと、槍を刺すために止まった馬に触る。流石に、槍を持っているからすぐにはたたき起こせない。崩れ落ちた馬を尻目に、もう一体の槍を止めて、弾くついでに落ちたゴブリンを斬った。
数は減った。あと一体なら絶対に負けな…
「グオオオオオオオオ!!!!!」
余りにも莫大な風圧に、お姉ちゃんも、ゴブリンも、皆一緒に吹き飛ばされた。
受け身を取り、風圧が来た方向を見る。それを起こした存在は、杖を振り抜いた姿勢で止まっている。
今のは魔法らしい。殺傷能力が低くて本当に良かった。完全に意識から抜けていた。
そして、幸運なことに、私も、お姉ちゃんも剣さんのもとに戻ることが出来た。…大量の、馬から落とされたゴブリンと共に。
「…スマン、それは任せるわ」
剣さんは、すでに体制を整えていたが、近くのゴブリンには目もくれず走り出した。その先では、ゴブリンの騎馬兵のリーダーが逃げている。
その巨体ゆえに、吹き飛ばされ無かった騎馬兵の将ゴブリンは、仲間が近くを離れたことを感じ、逃げ始めたのだ。これを逃がせば、さっきまで倒したすべてのゴブリンが蘇る。
「…なるほど」
ファンさんは、それを理解して、将ゴブリンの馬の足元の石を拡大した。体制を崩したので、後は、剣さんがなんとかしてくれる。
後は雑魚戦だ。たった二人で、一人昏睡状態のお姉ちゃんを守る必要があっても、馬から落ちれば負けはない。奥では、剣さんが切り捨てるのを確認した。
なんとかなった。これで、剣さんが戻れば一段落だ。多くの人が死に、重症を負ったであろう騎馬兵による不意打ちはこれにて一段落だろう。
後は拠点に戻って、お姉ちゃんが起きてから、ゴブリンの王との最終決戦となるだろうか。ゴブリンの王との戦いは、お姉ちゃんに任せられた役割は比較的軽いし、想定してた傷を負うことは役割的にはなくなった。
安心だ。もうお姉ちゃんが危機に陥ることはないだろう。ゴブリンを倒し切り、ファンさんに運んでもらう。私が運びたいけれど、非効率だからお願いした。恐縮そうにしているから、大丈夫だろう。
瞬間、地響き。
「…え?」
「なんや?」
「は?」
ゴブリンの王は、玉座から降りて一歩踏み出した。
そして、すぐ横にある異世界への扉へ杖を一振り。バキ、と音がして、扉が空間から剥がされた。
盾のように扉を持ち、その扉に手を突っ込むと、豪華な宝飾がなされた剣。宝剣と言うのに相応しい剣が扉から引き抜かれた。
私が近付きすぎたからか、それとも、ゴブリンの騎馬兵が倒されたからか。
残りすべての戦力が、王の歩みに合わせて進み始めた。
「走れ!」
戦力の集結のために、私達は走った。