「まずいまずいまずいまずい!」
剣さんは叫び、その後ろでは、私達の数十歩をたった一歩で越えてくる王がいた。緩慢とした動きであるが、それが良かったとは言えない。後ろには無数の配下がいた。恐らく、彼等と歩調を合わせているのだろう。
「どうするよこれ!」
「えっと、取り敢えず仲間と合流しましょう!空からの援護は必要です!」
ないよりはマシどころか、このような状況ではあって欲しい。流石にこの状況なら燃料も使ってくれるはずだ。それに、今は空が強い。
「ファンさん!魔石ってどのくらい持ってますか!」
「ゴブリンのなら大量に!」
「なら、自衛隊さんのへリコプター乗せてもらいましょう!上から落とせば強いはずです」
「わかっ、はぁ、りましたぁ!」
きっと時間はないだろうから、走りながら作戦会議。でもこれは、体力を大幅に扱ってしまうようだ。私もキツイが、ファンさんはもっとキツイだろう。お姉ちゃんは軽いけど、人なだけに重さはある。
「…ん!?これは嬉しいわ!」
目を凝らした剣さんの視線の先には、輸送用のトラックがあった。聞こえるように、エンジンを吹かしている。
「乗れ!」
自衛隊のその声には頼りがいがある。私達はありがたくそれに乗った。
「はぁっ」
「ぜー、ゲホッ」
私とファンさんは辛い。正直胸が裂けそうだ。だというのに、剣さんはケロッとしていた。何か、特別な呼吸法でもあるのか。気になってしまう。
「いやーしかし、車はええもんやわ!」
魔石と瓦礫に支配された道路でも、軍用車両であるトラックはどんどんと突き進む。王は余りの巨体にかすみはするが、徐々に小さくなっていった。
「剣さん元気ですね」
「ほんと、ですねぇ…。あ、恵さん。これ、陽菜様を」
ゆっくりと、丁重にファンさんはお姉ちゃんを置いてくれた。静かに、頭を撫でながら、考える。
お姉ちゃんが自然に起きるのを待つ。それは、誰も望まない。たとえ、お姉ちゃんであったとしても。だから、起こさなくてはならない。
しかしその方法は…叩く、揺さぶるは、あまりやりたくない。個人的なエゴだけど、できるだけお姉ちゃんに手をあげたくないのだ。やるなら、確実性があってから。
…そういえば、夢、というものは眠りが浅くないと見られないと聞いたことがある。であるなら、私の能力の眠らせる、そして、夢を見させるというのは、眠りを浅くしてくれるのでは…!
いや、でも、悪夢かぁ…。なんでこれは好きな
…取り敢えず、せめて私が出るということだけ決めて、後は任せよう。頑張ってくれ。夢の私。お姉ちゃんに酷いことをするなよ!
チッと、指先を刀で斬った。ピクリと、お姉ちゃんは一瞬反応し、そこからしばらく、ランダムに唸っている。
後は、時間の問題。間に合うか、否か。チラリと、王の方角を確認して――
「…待って」
見たくないものが、見えてしまった。
いつの間にか、王の手には杖がある。その杖は淡く光り輝き、ゆっくりと、振られようとしている。もしこの場でさっきのアレが起ころうものなら、狭い車内で掻き回されて、めちゃくちゃになってしまう。
「自衛隊さん!!早くとめてください!!!!」
何事かと思っただろう。でも、すぐにブレーキ音が鳴り響いた。
でも、
ありふれた言葉ではあるが、車は、急には止まれない。
地面を滑る間にも、王は魔法を行使しようとしていて、
「っ!!オラァ!」
剣さんは、車の上部を斬り捨て、逃げ道を作り出した。
「これでなんとかっ!」
ファンさんは、魔石を最大限拡大して、即席の壁を作ろうとしている。
そして、衝撃波が私達を襲った。
飛ばされ、空に打ち上げられる。その中には、自衛隊さんはいなかった。運転席で、だらりと意識を失っている。多分、シートベルトで飛ばされなかったのだろう。
そこからは、空中が故に身体の向きは変えられず、見れていない。
でも、耳を劈くような爆音に、肌を熱が撫でて、何があったかは想像についた。
空中とはいえ、それほど離れていない私達はその爆発の余波を受ける―――
暫くして、私は、意識を持ったまま、空を見上げていた。
きしむ身体は動かない。
王が一歩踏み出すたびに、地響きが届き、徐々に近づいているのを感じた。
まだ生きているのは、不幸中の幸いと言ったところか。私を潰す分だけ、ほんのコンマ一秒程度、お姉ちゃんの元へ行ける時間が遅れてはくれないだろうか。
とか、通路上の小石が何いってんだという話だ。
「恵!!!!」
…おねえちゃん?
幻聴の類だろうか。そんな都合よく世界は出来ていないことぐらい知っている。でも、
それが幻聴だとしても、
「生きて…」
と、願っても許されるだろう。
生きて欲しい。遠くで、私がいなくてもいいから、幸せになって欲しい。
そんな思いとは裏腹に、足音は、微かに大きくなっていく。
「そうだね。ゴブリンなんて倒して、ちゃんと二人生き残ろう。仲間も沢山いるんだから」
そうして、私の頭は撫でられた。