理由を尋ねる時間はない。
鍔迫り合いには負けるので、狙うは刀の横腹一択。
「…っ」
寸前で、刀の向きが変わった。体を捻り、私の愛刀を水を切るかの如くすり抜け、私を狙う刀を避けた。
「ギィッ(な、なんだ…?)」
「無駄口をっ!たたくなぁ!」
さっさと逃げろと言いたいが、追撃を避けるのに精一杯だ。力が入っていなくても、刃が体を撫でたのなら、私は死ぬ。
私の専用武器、悪夢は刀身を半分失っている。故に距離を詰めたいけど、それをさせてはくれないのが、能力に頼り切りではない者である証明だ。
しかしそれでも、意表を突けばその限りではない。
専用武器は、少なくとも、私の専用武器、悪夢は…
出し直せば、
構え直した瞬間に、刀の横っ腹に伸びた悪夢を叩き付ける。
「叩き付けるだけじゃ、俺の刀が軽くても斬れんぞ?」
まあ、
そうして、伸ばした手で体に触れた。
「なっ…」
ガクリと、崩れ落ちた剣さんの最後の足掻きを躱して、戦いは終わった。余りにもサクッとした終わり方。でも、そうでないとならなかった。そして、悪夢を消し、まだ逃げようともしてくれなかったゴブリン達へ目を向ける。
「あの、ゴブリンさん。怪我人がいるのはわかっています。この人に恨みがあるのも重々承知です。そのうえでお願いします。今すぐ、この場からあっちに離れてくれませんか?」
「ギ、ギイッ!ギィギィギィギイッ!(そ、そんな馬鹿な話があるか!!!俺達は降伏して、制約までつけているんだぞ!)
「そうでもしないと、貴方達の安全性が否定されてしまいます」
どうか伝われと、深く頭を下げた。しかしそれでも、彼等の文句は止まらず、退いてくれない。もう、サイコミールさんがかなり近くまで来ている。
「ギィ…。ギィギィギ、ギギイッ(おい。俺はもういいから、さっさとこの方の通りにしろ)」
しかしそれも、被害者であるゴブリンの鶴の一声で収まった。
「あ、ありがとうございます!」
「ギィギィ(いや、礼を言うのはこちらの方だ。感謝する)」
そうして、ゴブリン達は去っていった。
…本当に良かった。もし、倒れる剣さんとゴブリン達を見れば、まず間違いなく戦闘中と思われる。そして、人気のある剣さんの行動は少なからず影響力があり、【ゴブリンは敵である】という認識が広まるのは火を見るよりも明らか。
それは、劣悪な関係と深く関わりがあるに違いない。
「あ、いたいた!!恵ちゃん!ほんとに突然どうしたのよ!…ってあら?」
そしてついに、サイコミールさんが私を見つけた。彼女の目に映るのは、地面に倒れる剣さんと、その近くで頭を下げるために膝を付いていた私。幸運な事に、容態を見ているように映ることだろう。
「あ、サイコミールさん。ごめんなさい。勝手に離れてしまって…」
『あ…えぇ!そうね。びっくりしたんだから、次からは気をつけてほしいわ。それと…』
一瞬考え込んで、サイコミールさんは声を明るくした。
『皆さん!実はあそこで倒れている剣鋼さんは行方不明だったのよ。えっとそうねぇ…。多分誰かの配信のアーカイブには残ってると思うんだけど、ゴブリンの王から前線の組が逃げるときに、一回トラックが爆発したことがあって…その時、行方がわからなくなったのだけれど…ここにいたのね!!』
サイコミールさんはまだまだ喋る。
『これ、皆にはヒ・ミ・ツだったのだけれど、はぐれないように
圧倒的に嘘である。私は、このゴブリンの村にもあったガラスから逃げるゴブリンを見つけ、同時に薄く響いたゴブリンの悲鳴をなんとか拾ったから剣さんに限らずゴブリンを害する者がいるとして走ったのだ。そんな都合よくない。
けど、誤魔化そうとしてくれていたのは助かった。
『あはは…。ごめんなさい』
『んもう。あ、そういえば剣さんは無事なのよね?』
無事…だと少し不味いかもしれない。剣さんに起きられれば、面倒なことこの上ない。
『そうですね…。多分、やっぱり爆発に巻き込まれていたので、所々怪我している感じですかね…』
『んーじゃあ、視聴者に質問!私、サイコミールが剣さんを連れて行く間に恵ちゃんがこの街を見るか恵ちゃんが剣さんを連れて行く間にサイコミールがこの街を見るか。どっちがいい?』
『えっ』
なんかアンケート取り出したんだけど…。というかいる?それ…。
『ふんふん。前者が63%ねぇ…。ん?あれ、待って』
中間報告はサイコミールさんが有利なのだが、なんか焦っている。
『ちょちょちょ、待ちなさいよ!私のファンよね?皆?ね?』
…ん?
『…恵ちゃん!後は任せたわ!』
『え!?』
サイコミールさんは恐ろしく速い速度で剣さんを担いで、外へ走っていった。
あまりにも突然すぎる。渡されたカメラを見てみると、なんか、コメントも見れるようになっていた。携帯しやすい髪飾り型とか、コメント見れるカメラとか、わたしたちには無いものばかりだ。自衛隊さんには、そういうのをお願いしようかな。
そして、そのコメントにはアンケートがまだ固定で張ってあった。
結果は、49:51。なんかギリギリ私が勝っていた。
『あの、これ、お姉ちゃんのチャンネルの人が悪さしてませんか?』
なんというか、それしか思い浮かばない。もしそうなら、本当に申し訳ない。
『え、あの、そんなに不満はないんですか…?』
しかし、流れるコメントには、文句という文句はない。どちらかというと、だからやめとけと…というような物が多かった。
『ま、まあ、じゃあ、やりましょうか。初めてなので、お手柔らかにお願いします』
できれば、さっき助けたゴブリン達に余計なことを言われなければいいなと、私は街に向かって歩き出した。
恵(炎上しないかな…)ビクビク