変わる世界で配信中   作:ありくい

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《恵視点》


濃密な一日の終わり

――あぁ、気持ちいい。ぼんやりとした意識は、この感覚をこれ以上ないくらいに求めている。

 

体は動かないけど、これなら、全然構わない。けど、これってなんだろう。

 

心底安心する。お姉ちゃんのために頑張ろうと固めた心がふにゃふにゃにさせられている。

 

温かい。いい匂い。時折髪越しにぬくもりを感じる。ふと、その髪が頬を撫で、くすぐったさに目を開ける。

 

「んぅ…?」

 

「あ、起こしちゃった?」

 

Σ(゚Д゚)

 

「お姉ちゃん!?!?」

 

「うわお」

 

陸に打ち上げられた魚のように、私は大きく飛び跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

恵が出て行ってから数時間後。私の部屋を訪ねてきたのは剣さんだった。

 

「お、陽菜。久しぶり」

 

「あ、剣さん。お久しぶりです」

 

「お客様ですね〜。お茶いりますか〜?」

 

「いや、すぐに出るからいらんよ」

 

と、そういう割にはどっしりとお尻を床につけて、あぐらを組んだ。そして、紙を一枚取り出し、中身が見えるように前に出した。

 

「いや、ほんっと恵には悪い事をした。まあ言い訳つーか、一応弁明の手紙だ。ほんま申し訳ない」

 

謝罪っ!のようなスタイルで、剣さんがそう言う。手紙の中をざっくりと見ると、目が覚めたら目の前にゴブリンがいて、敵意が無いとわかっていても、反射的に倒そうとしていたらしい。それを恵が止めた。ふーん。

 

ん?恵は剣さんに勝ったの?へーすごい。

 

とはいえ、謝罪は私じゃなくて恵に言ってほしい。まあ、そのくらいのことはわかっているだろうし、わざわざ手紙という回りくどい手法を使ったのだ。理由もあるに違いない。

 

「もしかして、もうどこかに行かれるのですか?」

 

「ん?…おぉ、そーや。ほんまは残らなあかんのはようようわかっとるけど、サイコミールさんに聞いた感じやと、反射的にゴブリンを倒そうとしてまう今は離れたいとおもてな。それに、そろそろこの刀が限界や。作り直して貰おうかなと」

 

なるほど。明後日にはまた化け物が沸き始めるから、武器の新調は大切なのだろう。そう考えると、専用武器というのは中々に異常だ。

 

一応、専用武器の話題を出しておき、剣さんとは別れた。

 

人が来て改めて目が覚めたので、三春さんと雑談。内容は余りにも遅い恵の事だった。幸いにも、剣さんから恵がサイコミールさんと一緒にいることはわかった。それなら安心は出来る。

 

でも、剣さんが手紙を書いてここに来て、ちょっと話すまでしているのにまだ帰ってくる兆しが見えない。恵への直接的な連絡手段は、私と同じように携帯が壊れているので無い。

 

「あっ、三春さんはサイコミールさんの連絡先とかあるの?」

 

「ないですね〜」

 

ふむ。八方塞がりだ。

 

「…いや〜?サイコミールさん配信してます〜」

 

「ほんと?見せて!」

 

恵がいるかもと思い見てみれば、八百屋っぽい所で椅子に座ってゴブリンとお話していた。

 

「…あれ?これってサイコミールさんの配信だよね?」

 

もしかして、サイコミールさん視点ということだろうか。恵とゴブリンが話しているのを、ずっと無言で見守っている…?

 

「…え」

 

「あれ?」

 

恵が倒れた。

 

「えっえっえっえっ」

 

「わっわっわっわっ」

 

二人揃って、頭が真っ白になり、気が動転する。とにかく画面をよく見ようと体を捻り、なんとか近づこうとするがらちがあかない。

 

「はぁ〜、落ち着け〜私〜。陽菜さん〜。ちょっと落ち着きましょ〜」

 

そんな中、一足先に正気に戻った三春さんが止めてくれた。

 

「あっあ、サイコミールさんが来てくれた!よ、良かったぁ…」

 

ほんっとうに良かった。その後、ゴブリンが何かしらの薬を持ってきたところで配信は強制的に終了。サイコミールさんのコメント欄は物凄い速さで流れていた。

 

数分後、恵ちゃんはなんとかなりましたとサイコミールさんのコメントが固定された。

 

更にそこから数十分くらい後、私達の部屋へサイコミールさんと抱きかかえられた恵がやって来た。

 

「本当にごめんなさい。私が無理矢理連れて行ったせいで…」

 

涙声で、サイコミールさんは謝罪を重ねていく。でも、三春さんにより恵の状態は大丈夫だとわかったので、それ程責めるわけにもいかない。それに、責める権利があるのは恵だけだ。私じゃない。

 

「それで、これが…」

 

渡されたのは、恵に使われたゴブリンの、つまり、異世界産の技術により作られた薬だ。どうやら、これで恵の体調が回復したらしい。

 

「念の為、私も飲んでみたけど、そんなに副作用っぽいのもまだ感じないし、効果も即効性で傷も治ったし、それにゴブリンさんは大丈夫と豪語してたの。それでなんだけどね…飲む?」

 

なるほど、そういう事か。もしかしたら薬の効果が出ないかも、それどころか副作用でもっと酷いことになるかもしれないということだろう。

 

「飲みます」

 

明後日にはもう化け物が街に現れる。それまでに体を治せるのであれば、やらないという選択肢はない。それに、これ以上恵に無理をさせるわけにもいかない。

 

グイッと、一本。飲み干した。

 

「おぉ…おおっ?うっ、」

 

痛みとかはないけど、結構むず痒い。それが収まると、一瞬だけふっと体が熱を持った。両手両足の傷口から、ふわりと赤い光が漏れ出し、熱が冷めると同時に傷口が塞がった。

 

「はーっ、ふー」

 

「大丈夫ですか〜?」

 

「ああぁ、うん。大丈夫だよ」

 

 

そうして傷口が塞がりきると、残された熱がじわじわと全身から出てくる。じっとりと汗をかき、まるでお風呂に長く浸かっているような感覚だ。

 

「あっ」

 

三春さんの驚いたような声と視線で私も気づいた。足が、動いた。はじめはピクリとしただけだったけど、熱が逃げ切る頃には、もう以前と全く変わらずに動かせるようになった。

 

半日とはいえ、動かない事に慣れてしまったので感動する。

 

「あ、ありがとうございますサイコミールさん。これ、貰ってきてくれて!」

 

「うん。正直すごく怖かったけど、何にもなくてよかった。じゃあ、また明日ね」

 

そうして、サイコミールさんも帰っていった。日はもう沈んでいて、ご飯時の今。明日はまだ化け物はいないので、ゆっくりと出来る。

 

「む〜。恵作るって言ってたのに〜」

 

「あはは、私が作るから許してあげて」

 

「あ、手伝います〜」

 

そうして、ご飯を作り終えて食事を済ませたあと、久しぶりのお風呂に入り、ちょっとだけやりたくなったので恵の頭を膝に乗せてみた。

 

「ふふっ、かわいい」

 

少し砂が付いていたから、手櫛でゆっくりと髪を梳いていった。後に、飛び跳ねた恵と頭をぶつけたのは、まあご愛嬌である。

 

 

 

 




余りにも一日が長すぎた(後悔と反省)
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