「ん〜?」
戦闘中、そう呟いた。現在、新しい化け物が現れてから3時間は経過している。本来は、配信の準備に取り掛かるぐらいの時間だ。もちろん、その存在は見つけたし、戦闘して、攻撃の威力、攻撃のパターン、移動速度、癖、特殊能力的なものもすべてチェックし、あとは、安定した倒し方を見つけるのみとなった。
今回の敵は、ゲーム的に言うならダークナイト。中身のない黒い鎧が、音をたてながら世界を闊歩していた。
そんなダークナイト。全く倒せない。マジで、ブラックジャックでぶっ叩いても、短刀を鎧の隙間に差し込んでも、本当に倒せなかった。
それでも時間は無慈悲に進み、ずっと攻撃が来るので配信準備なんて全く出来ていない。
「やってみようかな…」
前回の配信。アーカイブからコメントを軽く見ていると、思ったより要望が多く見られた。曰く、〜が知りたい。〜したらどうなるのかと言うようなもの。これが、結構馬鹿にならないくらい大切だった。
【空飛ぶっくの紙をページを破いたらどうなるの?】
【ページ折ったら?】
こんな質問。楽に試せそうなものだが、私の発想力じゃ考えが及ばずやっていなかったのだ。
実際、気になったので昼に外でやってみると、破いた時、その他のすべてのページが同じ破れ方をして、単純に数が2倍。一つ一つのサイズは小さくなった。これは明らかに手数が増えて不利になる。
しかし、折る方は面白い反応があった。
なんと、ページを折ることによって、破った時と同様、その他のページが全て同じように折れて、いざ射出される時、勢いと精度が大きく落ちた。
空気抵抗や風をもろに受けて、まっすぐ飛ばずにヘロヘロと多くが地面に落ちていったのだ。非常時に役立つ知識であり、すぐさま恵が拡散した。
とまあ、こんな感じで皆の意見はとてつもなく貴重で、私なんかの発想よりも遥かに柔軟で役に立つ。それなら…テスターとしてみてもいいんじゃないだろうか。
あ、そうだそうだ。いつもとおんなじじゃなくて、ちょっと変えないと…
『は〜い皆さんどもども〜。じゃあ早速、今日現れた化け物について、各情報をお届けします!…でも皆ごめんなさい。今日は、タイトルにある通り、皆の力を貸して欲しいんです。あ、これだとわからないよね。先に、今回出てきた化け物、ダークナイトについて話していくね』
画用紙はちょっと書く時間が取れなかったので、仕方なく、その場で拾った木の棒で地面に描いていく。
『まず、ダークナイトは中身のない黒い甲冑です。ガッチャガッチャ煩いから、接近には気づきやすいし、走る速度も遅め。まぁまぁ大きいから、視認もしやすいと思います。だから、逃げるのは難しくないかな』
これのお陰で、倒せなくても検証を複数体で実行できた。
『攻撃方法は剣で切る、突く、タックル、魔法。後で見ようと思うけど、言葉で説明しちゃうと黒色の雷を落としてくるよ。剣で切る、突くは言うまでもないけど、タックルは当たると数メートル吹っ飛ぶし、魔法は死ぬことはないけど、当たると痺れて動けなくなります!』
『で、本題なんですけど…倒し方がわかりません!』
コメントの流れが早くなったけど、ちょっと見るのが怖い。
『このままだと、いつもの時間に間に合わなそうなので、せめて、ということでこういう形をとらせていただきました。なので、コメントとかで色々な意見を教えてほしいです!なんでも試します!ジャンジャンください!』
そう言いながら移動して、いざ、ダークナイトの前に立つ。ひとまずは戦いながら、失敗したやり方を見せていくのでいいだろう。
『はじめに試したのはブラックジャックで叩くことです。でも、』
カァン!!
激しい音とともに、鎧の一部が凹む―――とか、そんなことなく、ツルツルスベスベの鎧がそこにあった。
『はい、カッチカチです。これまでいろんな場所を十回叩いたんですけど、どこも傷付きませんでした。こんな感じで』
言いながら、ブラックジャックでいろんな場所を叩く。正直煩いから、私が言ってること全部聞こえてるかな?
【鎧の音うるさwww】
【ちょっと聞こえないです!】
あ、ダメそう。
一旦距離をとって、木の上に逃げる。
『っあ、言い忘れてたけど、このダークナイトは深追いしてきません!持ち場があるのか、すぐに戻ってくれます!』
そのままさっきの発言を繰り返して、今度は短刀を取り出す。
『えいっ!』
顔全体を覆う兜の穴に、短刀を突き刺す。…効果はなく、むしろ、ダークナイトの突き出した剣がお腹を貫いた。すぐに離れて、
『っ!…とまあ、こんな感じで、わからないんです』
【え!?】
【は?】
『あっあっ、えっ?ど、どうかしましたか?え、私なにかしましたか…?ごっごめんなさい!』
【切られても大丈夫なの?】
っ!あ、あ〜、なるほど。そういうことか。…まあ、もう言ってもいいのかな?
『あ、そのことか〜。えっと、そうですね…感覚的に、スパッといくより、力づくで肉を裂いていく感じだと思います!なので、切れ味は悪いかな?剣さんみたいに武器ごと切られるーということはないと思います!』
【違う】
【それじゃない】
『わ、わかってます!その、詳しくは省くけど、私は、怪我しても怪我してないことになるから、痛みは残るけど怪我しても大丈夫なんです!』
…コメント的に、伝わってそう、かな?あ、でも、今日はそれより…
『皆、なにか案はありませんか?』
しばらく関係ないコメントが流れていって、主に日本語、たまに英語のコメントが流れる。英語読めない…。
『えっと、ごめんなさい。英語読めなくて…えっと、スライム?』
【スライムで鎧を溶かす】
なるほど。物理で壊せない鎧を、酸で攻めていくのか。
『なるほど…?でも、ダークナイトって動かしづらいから、触れないスライムだと難しいかな…』
そうは言いつつ、周囲を探してみる。うん。化け物の種類が増えたせいで、スライムとか、オークとか、前より数が減ってるから見つけにくくなっているのだ。
『ごめんなさい。後で探してみるけど、今は別のやり方やってみますね』
【鎧の兜を回す?】
『兜…やったことないですね。やってみましょう!』
さっきから何度も実験対象となっているダークナイト君。対戦よろしくお願いします。
多分、一番可能性がありそうなのは…魔法のときかな。
『じゃあ、このダークナイトは魔法を撃つときにオーガと同じで癖を見せてくれます。ああ、今ちょうどやっていますね。ああやって、地面に剣を刺した時―――すぐになにか高いものの近くに行きましょう』
ドガン!
『あ、きましたね。こうやって、雷を落としてきます。ちゃんと、高いところに近付けばそこに集中するから、それで避けることができます』
ドカン!ドカン!ドカン!
『そして、5回繰り返して、地面に刺さった剣を抜きます』
ダークナイトはふんぬぅ〜!という効果音がつきそうな様子で剣を引っこ抜こうとしている。
『あれ、抜けるのに時間がかかるので、その間がチャンスなんですけど…』
取り敢えずはまああれだ。兜を回してみよう。
真っ黒な兜を後ろから両手ではさみ、
『ふんっ!』
パァン!!
『わっ!!!』
捻った途端にダークナイトの首あたりで紫色のなにかが弾け、破裂音にびっくりしてしまった。
【大丈夫!?】
【痛みは!?】
『あ、変な声出しちゃってごめんなさい。えっと、ダークナイトは…!?』
見てみると、コロリと魔石が転がっていた。
『やったやった!みんなありがとう!やっとダークナイト倒せました!』
やっぱり、皆の意見って大切だ。あんなにも時間をかけたのが、こんなにも簡単に解決してしまった。
『じゃあ!スライムの近くのダークナイトを見つけるまで、色々な方法を試しましょう!』
【ダークナイトの雷をダークナイト自体に当てる】
『あ、なるほど!』
魔法の予兆が見えた瞬間、ダークナイトのそばでしゃがむ。
『あっ!』
地面を伝って、電流が体を走った。まだ慣れてないから、痛みに声を漏らしてしまう。
でも、そのかいあってか、ダークナイトは黒い雷が当たった瞬間バラバラと崩れていった。
『ちょっっ、とまぁって、くださ、いぃ〜』
痺れて、うまく喋れない。しばらくして、体の電気が完全に抜ける。
『えっと、倒せましたね。これだと、ダークナイトは倒せても、オークとか、新しい敵が現れたら殺されますね。でも、電気が効くというのはかなりいいんじゃないかな?…私は持ってないので、自衛隊さん!スタンガンとか試してみてください!』
こんなわがままな要望、出しちゃって大丈夫かな?
【ダークナイトの剣を奪って刺す!】
『…わ、わかりました』
私の力でそんなのできるかな…?
両手で剣を握り、グッと後ろに引く。突きの前兆なので、横にひらりと体を動かした。
そして、突き出された剣をキャッチ!
『いったぁ!!!!!』
刃に触れてしまい、指がサクッといった。それでついつい手を放してしまって、失敗。
『あ、ああ、ごめんなさい…』
もう一度、今度は魔法を撃つために地面に刺そうとした瞬間。無理でも、近くに電柱があるから躱せるだろう。
『ふぬっ!』
かったい!けど、力の方向に気を遣えば…
『おりゃっ!!抜けました!!ってあれ?』
剣を抜いたからか、魔法がキャンセルされ、そして、ダークナイトはオロオロと可愛らしく両手をガチャガチャさせた。
『ちょっとかわいいな…えいっ』
そのまま、ダークナイトの剣で切ってみるけど、弾かれ、じゃあ隙間に通してみれば、特に何もなく、普通にダークナイトは手元にない剣を探してオロオロしていた。
『魔法の時、剣を抜いたらキャンセルされるみたいですね。でも、やる意味はあんまりないかな。余裕のあるときにしましょう』
そのまま、首をねじ切った。
『あんまりスライムとダークナイトいないですねー』
一応見つからないわけじゃないのだが、その近くにダークナイトがいない。ほんとに運が悪いのかな…。
取り敢えずまたまた高台に登って見下ろす。
「っあ」
化け物が、一部に密集している。
『えっと、今、危なそうな人を見つけたので、そこに行きますね。カメラは一旦ここに置くんですけど、ちょっと時間と体力的にそろそろ限界なので終わらせて貰います…』
多分、配信はじめてもう4時間ぐらい。コメント見ながらは思ったよりきついし、それができるサイコミールさんはほんとにすごいなぁ…。
『時短のために、配信終了の奴は後でやります!無駄に配信が続くけどごめんね!』
普通の人は配信に勝手に映されるのは嬉しくないはずだ。これでいい。急がなきゃ。
ブロック塀に囲まれて、完全に端に追いやられている。最短が家の屋根を通るので、上から声を掛ける。
「大丈夫ですか!?」
これが気にし過ぎならそれでいい。大丈夫と返ってくるなら挟み込むなり何なりで対処するし、大丈夫じゃないならむりやり間に入って助け出す。ネトゲじゃないし、多分そういうことをしても怒られることはないはずだ。
「…」
何も聞こえないし、空飛ぶっくのせいで姿もあんまり見えない。でも確実に、化け物の集まり具合のお陰でいるのはわかっている。
「助けに行きます!!!」
敵は、オーク、スケルトン、空飛ぶっくの集団。取り敢えずブラックジャックで殴れば解決出来る。
上から、空飛ぶっく付きオークを潰す。周囲のオークを短刀で切り、スケルトンは心臓のあたりに手を伸ばす。密集具合的に、そのやり方の方が隙もなく速い。
「…あの、大丈夫ですか?」
全部倒し終わり、腰を抜かしている女性に声を掛けた。生きている。でも、どこかぼーっとしている。
「えっと?」
肩を叩いてみる。びくりと、跳ねるように動き出した。
「あ、ごめん。助けてくれてありがとう」
「えっ」
「?」
目の前の彼女が放った言葉は、
「あの、英語ですよね…?」
「あ、うん!えっと、でも、
そこでピン!とひらめいた。
「ああ、なんだ。そういう能力ですか?」
「あはは、違うよ。これは、皆そうなんだよ?」
「?」
ちょっと意味がわからない。なにを言ってるの…?この現象はこれまで一度もない。ネットでも、別に英語の意味がわかるとかそういうのはない。
「はじめまして!私はカトレア!ファンなの!会えて嬉しいよ!」
「あ、えっと、陽菜です…」
「連絡先教えて!」
「…え?あ、うん」
何このコミュ強?
「って事があったんだー」
「………」
「恵?」
「フェイクニュースとかだよね…?」
こういうほうが配信っぽいよなぁ…