配信が終わり、後片付けも済ませた私は、ヘトヘトの体を引きずりながら帰路を辿っていた。散々配信中に歩いた場所なので、既に化け物は一掃されている。そこには、呑気な鳥の声が鳴り響いていた。
「あ…フード被らなきゃ」
恵に、外では目立つだろうからフードを付けたほうがいいと言われていたのを思い出す。また、それに追加で、配信中にはその服を見せないようにとも言われている。その方が、バレにくいから、と。そもそも、外に人なんてほとんど居ないんだけどね。
と、そんなことを考えた矢先。軽快な足音が近付いてきた。
(うわ、もしかして
こんな時間に外に出てるなんて、それしか考えられない―――いや、流石にそれは過言だ。なんなら可能性はかなり低いだろう。それでも、知っている人かな?と微量の期待を込めて顔を上げた。
「あ」
「へっ?」
ついつい漏らした声に、足音の主は大袈裟に反応する。慣性の法則かかりまくりの体を、強引に引き止めていた。もくもくと砂煙が浮かんでいる。
そんな足音の主…彼女は、昨日と同じような服装で私を見て、なにかに気付くと微笑んだ。
「陽菜ちゃん!昨日ぶりだね!会えて嬉しいよ!」
カトレアちゃんは、笑みを絶やさず、私に歩み寄ってきた。
「ただいま」
「おじゃましま〜す」
「おかえ…り?」
恵は( ゚д゚)ポカーンとていて、動き出しそうにない。どうかしたの?なんて、原因は私の真横にいるのだから聞くまでもない。起動させるためにほっぺたを軽くつまんだ。
モチッ
(о´∀`о)
っといかんいかん。余りにもモチモチで気持ちよくなってた。でも恵はなんとか再起動できたみたいで、わざとらしさのない自然な笑顔で接客を始めた。
その流れの中でスーッとお風呂に行くように促され、ついでにジップロックとスマホを渡された。まあ、そういうことだろう。
【どういうことなの!!!】
そんなメッセージがスマホに届く。
【道中で出会ったからついてきてもらったよ。確か、会いたかったんだよね?】
【そりゃ、連絡先教えてとは言ったけど…!でも、これは流石にびっくりしたよ!!どうするの!!!】
【えっと、すぐに私お風呂あがるから、あがったらカトレアちゃんも含めてお話しよう。大丈夫!お姉ちゃんが守るよ!(`・ω・´)シャキーン】
【わかった。そうするね】
ちょっと、いやかなり強引だけど、答えのない問いに悩むくらいなら、こっちのほうが良いと思う。
「そうと決まれば、長くは入れないな」
私は急いで体を洗い始めた。
「じゃない?」
「あ、わかる〜!」
「「あはははは!!」」
な ん か 仲 良 く な っ て る。
あれ?私のほうがはやく出会ってたよね…?私お風呂そんなに入ってないよね…?
「あ、お姉ちゃん!あがったんだね!待ってたよ!」
「陽菜ちゃん!いや〜良かったよ。このままだと言いたいことが言えなさそうだったからね!」
「え、言いたいこと?何かあったの?」
「うん。それはね〜」
『イベント開催のお知らせ』
まるで、見計らっていたかのように、
「っ!ごめんねカトレアさん!」
恵が、携帯をいじり、そして、一つの動画をタップしたあと、テーブルの上に音量を上げて置いた。
『只今から一週間後、新たに、イベントを開催致します。はじめに、今回のイベントにつきましては、大変多くの準備が必要なため、二日間にわたり一部地域にてメンテナンスを実行します』
メンテナンス…?
『現在、対象となる場所には立ち入ることが出来ません』
肩をとんとん叩かれて、何事かと恵を見る。恵が指を指した先には、地面が黄色く発光している場所があった。窓越しなため、私達の家の中にはないけど、それでも、かなり近い。
『それでは、イベントの説明に移ります。タイトルは、生者と死者の境界線』
ばっと、私はカトレアちゃんの事を見る。彼女は、ニコニコと私達を見つめていた。
『生者と死者には、相容れない何かがある。それにより生まれるドラマをお楽しみください』
「それって…?」
これは、死者が敵にまわるのか。そして、敵になったとして、殺し合いへつながるのか、曖昧な感じだ。
『今回のイベントの開催期間は、
やっぱり、今回の敵は化け物じゃないのか…?
『それでは、本日のお知らせは以上となります。本イベントにおいての詳細な情報は、また、一週間後のイベント開催の前日にお知らせ致します』
「はい!というわけで!」
カトレアちゃんは立ち上がり、どこからともなく、不思議な模様のカードを取り出した。
「もう気付いているだろうから教えるね!私、いや、
特に、何事もないかのように彼女は語り始める。
「イベントも始まっていないのにとか思うだろうけど、そうじゃない。舞台はここなんだから、むしろ、死んでからの変化が分からない私達の方が不利だよね。だから、メンテナンス前の二日間にわたり、こういう期間が設けられたんだ。今の世界を知るための、偵察隊って感じでね?」
そこまで言い切ると、彼女が取り出していたカードの端から少しずつ光の粒子が飛び出していた。
「じゃあ、時間もないから言わせてもらうよ!陽菜ちゃん。私は貴方に憧れていた。尊敬もしていたし、だからこそ、私はあなたの背中を追いかけようと思ったんだ」
「でも、ゴブリン王国のときに気絶しちゃって。そのまま死んじゃった。でも、またチャンスが貰えたんだ。あなたの背中を追いかける、いや、どっちかと言うと、真正面からぶつかり合う、かな?」
「私は、あなたを越えたい。私に夢と希望をくれて、絶望を簡単に捨ててしまったあなたを越えて、私もあなたみたいに、いや、あなた以上の存在になりたいんだ」
カトレアちゃんの頬は赤らみ、言葉の勢いが強くなっていく。そして、持っていたカードは、もう、欠片しか残っていない。
「勝負だよ!陽菜ちゃん。私は、絶対にあなたを越えてみせる!死者の代表として!!!!」
「待っ―――」
光の粒子をまとい、カトレアちゃんは、そのまま消えてしまった。