「はぁ…。間に合いそうで良かった…」
まだ時間に余裕があったから良いものの、久しぶりに、あの焦りを感じた。あの絶望感。ほんと怖かった。
今は、明日も現れる化け物退治のために、撮影をする山へ向かっているところだ。一つため息をつき、夜道を照らす街頭が減り始めているのに気づいた。
「まあ、いらないもんね」
最近は、というか、化け物が現れるようになってからは殆ど自衛隊か警察がパトロールしている。外に出ても止められるし、そもそも夜に外に出るなんて自殺行為だ。街頭と経験があったとしても、暗闇が危ないだなんて言うまでもない。
…そう考えたら、自衛隊や警察のために街頭は残すべきな気がしてきた。もしかして整備士が来れないのかな?
「こんばんわ」
「あ、こんばんわ。お疲れ様です」
街頭を見て物思いにふけっていたら、通りすがりの自衛隊さんに話しかけられた。最近は自衛隊さんの担当部署が一箇所に定まったからか、同じ人を見かけるようになり挨拶を交わす仲である。
「あ、陽菜さん。少々お話が…」
思い出したかのように手を叩き、声をすぼめて近寄ってくる。なんだろう?
「…実はね、最近ヤバい人が出たみたいでね」
「ヤバい人ですか?」
ヤバい人…露出狂?
「えっとですね、最近、パトロールしていると大怪我している人とよく出会うんです。総じて我々に助けを求めに来るんですが、言い分が襲われたっていうんですよ。人に」
「へ?人に?」
「はい。なんというか、勝負しろ!っていって突然襲いかかってくるらしく、現状は注意を促している感じですね。
もし見かけたら、誰かが襲われていてもすぐに近寄らずに、どうか通報してもらえると…」
「わかりました。気をつけておきますね」
まあ、そうそう出会うことなんてないだろう。そもそも、今のこの現状でそんな馬鹿なことをするなんて、信じられない。
…小説とかなら、この後の展開にそのヤバい人との遭遇とかもあるのだろうが、これは現実だ。うん。無いに決まっている。
はい。何事もありませんでしたよ、と。
いつもの山に辿り着き、準備を整え、12時を待つ。なんだかんだ、この瞬間が一番怖い。広範囲を一気に殲滅するタイプなら接続先ごとやられる。自傷するタイプなら、かなりの重症を負う可能性もある。
とはいえ、そんなもしもを考えたって仕方ない。接続は新しい化け物にして、もし自傷してくるタイプなら逃げよう。お腹を銃で撃たれても走れたんだし多分いけるいける。
「…3,2,1,0」
化け物を倒した後の静かな森の中に、ガサガサとした雑音が増えはじめる。ドシンとした重厚感あふれる音は、ダークナイトかオーガだろうか。
「…いない、かな?」
雑音の増加が収まったが、周囲には何も出てこなかった。そうなれば、探しに行くしかない。そんなときはこの森が役に立つ。まあまあ山奥だから、この辺に沸いた化け物を全員倒す必要がないのだ。だって被害出さないからね。
周辺を練り歩いて、時間のかかるオーガやダークナイトをガン無視して探していく。人が見えた。石を投げて、ぐにゃりと変化したところをぶっ叩く。うん。やっぱりすぐに倒せるね。
「っと、いた。うぇ」
今回の化け物は、めっちゃわかりやすい。
全長三メートルもの大きなカブトムシが、木をなぎ倒していた。
『はい!皆さんどもども〜。ちょっと先行きが不安な日々ですが、今日も化け物を倒していきます!
えっと、一応、昨日、だね。情報があったけど、あれを信じるなら、今で、ゴブリン、オーク、スケルトン、スライム、オーガ、空飛ぶっく、ダークナイト、化けガエル、そして今日ので9種類だね!
今日のを入れて残り7体!気を抜かずに頑張りましょう!』
【多い…】
『あはは…。まあそうだけど、終わりが見えただけ嬉しいよね!』
いつも通り、紙を取り出した。
『今回の化け物はこちら!大きなカブトムシです!形状はまさにカブトムシ!今のところは、角や背中には個体による変化はなかったし、オーソドックスなオスのカブトムシだったね。めっちゃ大きいけど』
図を使いながら説明する。
【デカイ虫は嫌すぎる】
【かっこいい!】
『あー、まあ好き嫌いは別れるよね。裏返してみたけど、ちゃんとカブトムシだったし。私は苦手寄りかな〜。で、言うまでもなく、このカブトムシ。これまで通り、ちゃんと人の敵です』
『まず何よりも角。というか、このカブトムシは本当に角に気をつけないといけません。攻撃は殆ど角を使います。
まず王道の突き。普通に死にます。この角は、結構鋭利で、木ですら余裕で貫通します。
次に、薙ぎ払い。角の先端以外鋭利じゃないから、真っ二つ!とはならないけど、力が強いから普通に吹き飛ばされます。木は薙ぎ倒されます。
そして、オーガ、ダークナイトに続いて、魔法が使えます。身体能力強化魔法って感じだね。角から光りはじめて、純白の鎧を纏うよ。すごく強くなるね。突きで木が木っ端微塵になるし、薙ぎ払いも薙ぎ倒すどころかそのまま飛んでいって、他の木まで巻き込むから』
【めっちゃ正義感ある】
【取り敢えず何本もの木が犠牲になったことはわかった】
『そして次。この外骨格。刃物は防ぐし、私が見た感じだと、倒れてくる木で傷一つつかなかったね。
次に足。かなり細いから、割と狙いどころかな。動けなくなるよ。
そしてお腹。多分トドメを指すには、このお腹から殺るしかないと思う』
『で、最後に一番大事なこと。このカブトムシは、飛びます。さっき言った強化魔法。攻撃力だけじゃなくて足も早くなるし防御力も上がる。そして、飛行速度も上がります』
【厄介そう】
【逃げる?】
『そう!このカブトムシ、逃げます!ヤバくなったら逃げるんです!…ま、こんなもんだね。じゃあ、倒し方をみんなに見せていくよ!』
『いたね!カブトムシ!』
住宅地から少し離れた、元畑のところにカブトムシが佇んでいる。デカイ。
『じゃあやっていこう。まずは遠目から見ててね!』
カメラを固定して近寄っていく。出来るだけ近くで、でも、カメラには被害がいかないように。ちゃんと髪飾り型のカメラは安全な場所に避難済みだ。
『まず、人を見たら、駆け寄ってくるよ!でも、このカブトムシの角の間合いに入ったら止まるから、このままタックルはしてこないよ!』
声を張り上げて、解説しながら戦う。
『頭を下げる!突き!横に避けて!後ろに逃げても踏み込みからやられるよ!』
飛び出してきた角には何もしない。私の場合、とっても硬いから、やるだけ無駄だ。
そして、ブワッと羽を広げる。
『ブワッと羽を広げたら、軽く空中に浮かんでから、大きく薙ぎ払うよ!後ろに逃げるしか無いから、急ぐ!』
ぶうん!と空気を切る音、それに加えて、押し出された空気が背中を撫でた。
『じゃあ、倒していくよ!まず狙うは足!薙ぎ払いの後は隙だらけだからね!刃物よりも、鈍器をおすすめするよ!』
駆け寄って、足をブラックジャックでぶっ叩く。カブトムシの左脚が二本もげ、大袈裟に姿勢を崩した。
『今がチャンス!嫌な人は多いだろうけど、カブトムシの横に回って、お腹の下にオーク以上のサイズの魔石を差し込んでください!』
魔石が肥大化して現れた死体はカブトムシを押し上げた。
『こうなったら!このまま押してひっくり返して、お腹を上にします!最後はお腹を刃物で刺すか鈍器で叩くとー?』
ゴロリと魔石が落ちた。
『これで終わりです!もし魔石が無い時は、力任せでひっくり返すか、足を潰したら逃げてください!正直、このカブトムシは倒すために準備が必須です!事前に準備する。して無ければ逃げてください!じゃあ次は、一人称視点で!カメラ切り替えるよ!』
『よしできた!それじゃあ―――』
「勝負しろーーーー!!!!!」
『うわぁ!』
【!?】
【なに!?】
轟音とともに突然巻き上がった土煙。それが晴れると、声の主の姿があらわになった。仮面を被り、普通のTシャツと短パンというシンプルなスタイルだ。
「私はさすらいの旅人!その銀髪!その碧眼!やっと見つけた!いざ勝負!」
声的に男だろうか?多分、自衛隊さんが言ってた人で間違いないだろう。なら、通報をしたい。
『嫌なんだけど…』
「問答無用!」
『…えっと、取り敢えず配信終わらせたいから、後ででいいかな?』
「無論!断る!」
『えっと、カメラ、しまっても良い?』
「断る!」
『家族に、家帰るの遅れるよって連絡して良い?』
「断る!」
『じゃあ―――』
「いざ!参る!」
爆音とともに足が爆ぜ、襲いかかってきた。