『ああああ!!!!もう!ほんとにふざけないでください!!』
「すっすま『喋るな!!』
足場は不安定。どうせこの人は山に慣れていないのだから、下手に喋れば舌を噛む。そうなれば私もそれに苦しむ。…なら接続切ってしまえばいいのか?いや、どっちにしろそれで足を止められたら迷惑だ。
ブウウウウウンンンン!!!
そんな私達の後ろを、純白のカブトムシが白い羽を広げ迫ってくる。その大きな図体ゆえに、山の木々に阻まれるはずが、それらすべてをなぎ倒していく。精々、速度がすこ〜し落ちるぐらいだ。
山の足場でこけたらダメだ。そうなると、追い付かれて終わる。だからといって道路に出てもダメだ。速度を落としてくれている木々達がいなくなり、結局追いつかれる。
そしてもちろん、このまま逃げる続けることもできない。今はまだ山から抜けられるだろうけど、真夜中の山に深入りすれば、遭難して死ぬ。そしてその深入りは、夜の、この視界が最悪な環境に後押しされていて気付かぬうちにやってしまう可能性もある。
早く、なんとかしなければ…いや、少し無理をすれば行けるかも。
『…貴方飛び降りれますか!』
「な、なにを…」
『オーガ倒せる能力なんだからこのくらいいけますよね!じゃあ行きますよ!続いてください!』
変な人を引っ張っていた手を離し、右側の崖に飛び込んだ。
「はっ、はあ!?」
角度はだいたい70度。とはいえ、結構すぐに浅くなるから、植物に接続して落下ダメージを掻き消し、無理矢理足で滑る体を止めた。
すぐに辺りを見回して、陰となる場所を見つける。
「うおおおおお!!!」
何故叫ぶのか。だが、指示通りに私の近くに降ってくる。
「ふっ!」
ダン!と着地。変な人が痛みに堪えているうちに、すぐさま口を塞いで、抱き寄せるように見つけておいた木の陰に連れて行く。
「む!むーむー!!」
騒ぐ口を、力いっぱい手で押さえつける。暴れる手足も、上から乗って押さえつける。鼻は開けているから息は出来るはずだ。だから喋るな。
「む」ブウウウウウンンンン!!!
羽音でやっと状況に気付いたのか、動きが固まる。
ブ
ウ
ゥ
ウ
ウ
ウ
ウ
ゥ
ウ
ゥ
カブトムシは、足音がないことに疑問を抱かず、まっすぐに飛んでいった。
ゆっくりと、口を塞いでいた手をどける。お面越しだから、手は汚れていないが、ちょっと痛い。
「お、おい、体を退けろ」
『は?』
「っ…」
ポケットに入れていたカメラを取り出して、確認する。ランプは…点いてるから、まだ配信は続いている?まあ何にせよ、一応締めはしようかな。意味なくてもいいし。
『はい!ちょっとハプニングに合っちゃったけど、これにて一度終わります!最後にもう一回!カブトムシは、準備を整えて、やっと倒せる化け物だよ!見つけたらすぐ逃げよう!それじゃ、ご視聴ありがとうございました!』
プチッと、ランプの光が消える。これで、もう配信のことは考えなくていい。
「…」
「じゃあ、貴方。ついてきてもらえる?まあ、ついてこないんだったら多分遭難すると思うけど」
「お、おう…」
そのまま、変な人と一緒に下山する。なんとなく見たことがある場所で、本当によかった。すぐに登山道に入れて、安全に道路に出た。
「…じゃあ、一瞬痛いだろうけど」
「!?ぐあっ!」
オークの魔石を上から落とす。これで身動きは取れないはずだ。それに、接続はしているから、首をやることもないだろう。
「もしもし〜、自衛隊さんですか」
「なっ、やめっ!」
10分後、自衛隊がやってきていた。
「あ、この人です〜」
「ご協力感謝します!」
自衛隊さんのうちの一人がオークの下敷きとなっている変な人にさっと触れる。
一瞬で、その姿が消えた。わお。
「えっと、陽菜さんでよろしいですか?」
そんなびっくり現象を尻目に、自衛隊さんのうちの中で一番偉そうな人が話し掛けてきた。
「あ、はい。もしかして、経緯の説明とかそんな感じですか?」
「あー、それもそうなのですが…、お疲れでしょうから、また今度とさせて頂きます」
「へ?今度?」
「はい。実を言うと、今日の昼間ぐらいに、私達の上司がそちらに伺うと思います。少し協力してほしいことがあり、その提案を…。その時に、経緯も軽く聞きたいと思います」
「あ、そうなんですね。わかりました」
「ご理解頂きありがとうございます。それでは、失礼しま…いや、家まで送りましょうか?」
「あ、もしかしてさっきのワープ?」
それなら、ちょっと興味がある。疲れてるのもあるし。
「あ、いえ、それは難しく…、ただ単に、守りが必要かどうかで…、一応女性の自衛官も連れてきております」
そう言って手で指し示された先には、ビシッと敬礼する二人の女性の自衛官がいた。
「あー、じゃあ、せっかくなのでお願いします」
「承知しました。じゃあふたりとも、頼んだぞ!」
「「はっ!」」
何事もなく、家まで到着。自衛官さん達とは、家の前で別れた。
「ただいま〜」
「おかえり。お姉ちゃん」
今日も、天使が迎えに来てくれた。いやしかし、今日はなんというか、いつもよりどっと疲れた。
ヽ(=´▽`=)ノメグミ~
ガシッと抱き着き、癒やされる。
「お疲れ様。お姉ちゃん」
「ホントだよ〜!!!」
「あ〜、おかえりなさい〜」
「あれ?三春さん。珍しいですね」
いつもならこの時間は爆睡しているはず…。
「いやいや〜、お姉ちゃんが万が一のときのために!!って〜、恵ちゃんが言うので〜、起きてあげたんですよ〜」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
「どういたしまして〜」
「お姉ちゃん。ご飯にする?お風呂にする?」
と、恵が新婚さんみたいな事を言ってきた。この感じだと、どちらも用意されているのだろう。
「う〜ん…、お風呂はいる」
「うん。着替えは置いといたから、ゆっくりね!」
「ありがと〜」
なんという先を見たお世話。恵しかかたん!!
ちなみに、配信は陽菜ちゃんが閉めるまで続いていました。カメラ凄いね!てか配信機材凄すぎるね!