「じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん。頑張るね!」
「うう〜。眠いです〜」
お姉ちゃんにそれぞれ返事をしながら、包丁とブラックジャックを装備した私達は家の外に出た。外は思ったよりも静かで、化け物だらけというわけではなかった。
「ねえお姉ちゃん。いつもこんな感じ?」
フードを被ったお姉ちゃんに尋ねる。ちなみに私もフードを被っている。二人共髪色が目立つのだ。そんな私達を見て、三春もフードを被ったりしている。
「う〜ん。そうだなぁ。深夜12時頃ぐらいになるともっと沢山いるけど、自衛隊さんとか強い人が沢山倒すからね。このぐらいの時間ならこの程度かも」
「へー。そうなんだ」
もしかして、深夜12時頃に一気に湧いて、他の時間は湧かなかったりするのだろうか。湧かない代わりに、普段人がいないところに湧いた化け物が移動してくるとかでいなくなることはないにしても。
「あの〜、ちなみに〜、この地域で化け物を倒すのって〜、どういう人達なんですか〜?」
「そうだね。自衛隊さんもいるんだけど、でも、おまわりさんもよく見るね。たまに、三春さんのお父さんも見たりするよ」
「お〜、業務に励んでいて偉い〜」
「三春はどういう立場なの?」
しかし、警察か。確か、三春のお父さんは警察で殆ど家に帰れないから私達と一緒にいるという側面があったりする。もしかすると、戦闘訓練とかで皆の力が強くなったら、三春が帰っちゃうかもなのか。警察の負担が真っ先に減らされそうだし。
「お、いたいた」
お姉ちゃんが立ち止まると、お姉ちゃんの目の前にいる人が軽く手を上げた。ラフな格好で、なにかの組織に所属しているようには見えない。後、足元が湿っている。
「知り合いですか〜?」
「ううん。恵。やってみる?」
「うん」
お姉ちゃんに促されて、私は、手を上げる人に近付いていく。そして、間合いに入ったら、容赦なく刀で切り捨てた。
「ええ〜!?」
三春の驚く声を背に、その人は倒れ込み、カエルになった。いや、戻ったと言うべきかもしれない。
「ねえお姉ちゃん。トドメってどうする?」
「どうするって?」
「いやほら、まだ確実ではないけど、レベル的な概念あるじゃん」
なんだかんだ少し前からずっと議論されている、レベルについて。世界の変化がどこかゲームっぽいので、あるんじゃないかと言われている代物だ。
また、能力だけで説明し辛いパフォーマンスを可能としているような人がいるのも、その説を信憑性が高いものとしている。
一例として上がりやすいのがお姉ちゃん。正直おかしい。お姉ちゃんがいくら凄くとも一般的な女子高生なわけで、化け物をばったばったと倒す姿は、あこがれと希望を与える反面、違和感を押し付ける。
明らかに、経験で済まされる動きでは無いのだ。いや、だとしても、人外じみていたり、プロのアスリートと並ぶというのはないのだが。
「あー。なるほどね。まあ、気にしてもしなくてもいいと思うよ」
「わかった。三春。やる?」
「え〜、まあいいですけど〜」
そうして、全力でブラックジャックを叩きつけた。潰れて、一つの石が落ちる。
「気持ち悪いです〜」
いつも穏やかな三春がうえぇ〜と涙目になりながら抱き着いてきた。ちなみに、恐らくこれはじゃれ合いである。あんなスムーズに、しかも包丁ではなくブラックジャックを選ぶ奴が、怖がるわけがない。
「大丈夫?三春さん。家で休んでも―――」
「お姉ちゃん。これ嘘泣き」
「バレてました〜」
なんというか、のほほんとしすぎている気がする。これでいいのかと言われるとダメだろうけど、まあ三春の性質上仕方なかったりするのかもしれない。
ドスンと、振動が響いた。
「…え」
お姉ちゃんは、珍しく驚いた様子だ。
「どうしたの?」
「いや、オーガだと思うんだけど、珍しいなって」
「珍しい?」
「うん。オーガって家を壊しかねないから、自衛隊さんと警察で真っ先に駆除するんだよ。特に住宅地では」
「てことは」
「ピンチだったりするんですかね〜」
お姉ちゃんはちらりとこちらを見て、考え始める。
「お姉ちゃん、大丈夫だから行こ?ね?三春」
「治療班の出番です〜」
「ありがとう。二人共」
お姉ちゃんは少し苦笑して、私達は音のする方へ走っていった。
ブロック塀から、覗き込むように外を見る。
「…誰もいないね」
お姉ちゃんが呟くように、オーガと相対している人はいない。自衛隊も警察も、このオーガに気づかなかったのだろうか。
「…ん?あれは〜」
三春が指した方向を見る。見えづらいが、道路が若干赤い気がする。
「自衛隊か警察がやられてるんですかね〜?」
「いや、どっちの人達も、オーガの倒し方を確立してるから、多分あれは普通の人かな。勇気を振り絞ってくれたんだと思う」
「お姉ちゃん。冷静だね」
「いや、二人が言ってもね」
まあ、これでもゴブリンイベントのときにある程度は経験済みだ。三春は家が警察なのもあって、耐性が高いのかもしれない。
「じゃあ、助けに行こうか」
「え?もう手遅れなんじゃないの?」
「まだ確認してないでしょ?幸い、応急処置が出来る三春さんがいるんだから、やってみるべきだよ」
オーガが反応してないから、生きてないと思うんだけど…。でも、ちょうどいいかも。
「ねえお姉ちゃん。私に任せて?」
「えっ、危ないよ」
「それなら、接続したら良いじゃん。すぐに助けに来てくれてもいいから」
お姉ちゃんの接続は他者を守るのにも効果的だ。自分の身を完全に守れれば、強い能力を持つ人をほぼ無敵に出来る。
「痛くても、絶対に気絶だけはしないでね」
「うん。その前に全力で避けるよ」
「生きることが大事だからね」
ぎゅっと手を握られ、真っすぐ目を見つめられる。軽い気持ちで言わないでと、そういう意思も見える。
それでも、私に任せてくれたのはちょっとうれしい。たとえ、魔石の袋から魔石を鷲掴みして構えていても。そして、なにげに魔石からカブトムシの死体を出して、他の道を封鎖していても。
オーガの攻撃は一つ一つが強大で、家に当たれば壁が壊れかねない。だから、攻撃を避ける位置も考えないといけない。
走り出して、刀を取り出す。こちらに気づいたオーガは、威嚇するように叫んだ。
「グオオオオ!!」
ピリピリと体に恐怖が刻まれる。でもそれは、ゴブリンの王とは比較できないほどに弱い。故に、足を止めることなし。
オーガは左足を下げ、その手にもつ金棒を横に振り抜こうとしている。しかしその前に、私の間合いはオーガの体の一部、足に届く。
オーガは油断ならない相手なのだろう。お姉ちゃんの話を聞いて、様々な動画を見て、その恐ろしさはよく知っている。でも、オーガが単体であるのならば、正直な話。
私の能力の性質上、手が当たれば関係ない。
手が指先に軽く触れ、オーガの金棒が手から落ちた。そのままゆっくりと体が倒れ、眠り始めた。
「恵!大丈夫!?」
お姉ちゃんが駆け寄って来て、私の体を案じる。
「き」
「き?」
「きいてよかった〜」
本当によかった。どこか自身がなかったのだ。なんせ私の能力はいかんせん強すぎる。だって、殺し合いで容赦なく眠らせるとか、それはもう即死とあんまり変わらない。
だからこそ、効かない相手がいるのではと思う。でもそれが、オーガでなくてよかった。本当によかった。博打じみていても、確認したかったのだ。
「ねえお姉ちゃん。やっぱり私の能力、相手が遠距離攻撃してこない限り凄く強いよね」
「そうだけど、本当に気を付けて。慣性とかよく考えて、眠らせた後に油断もしちゃダメだよ」
「う、そうだね」
正直、今の私は眠らせた後油断しきっていた。反省して、次は気をつけないと。
そうして、私達はそれ以降も私と三春をメインに化け物を倒していき、11時が近付いてきたので切り上げた。
やっぱり、撮影のお手伝いはできなかったけど、今回は自衛隊がいるから、ちょっとは安心だ。
お姉ちゃんは昔、自衛隊によって結構大きめな怪我をさせられている。でもそれは、能力のことを知らせていなかったというのもある。今ならあんな間違いはおかさないだろう。
「じゃあお姉ちゃん。頑張ってね!いってらっしゃい」
「いってらっしゃい〜」
「行ってきます」