朝の日差しと美味しそうな匂い、そして、一定間隔で襲いかかる痛みに意識が揺らされて、目が覚めた。
「めぐみ…?」
「っ!?お姉ちゃん!!!」
作業を中断して、物凄い勢いで恵が駆け寄ってきた。
「良かった、良かったよ…」
恵の安心したような表情に、私は自身の体を確認する。ズキズキと痛む腹部は包帯が巻かれ、適切な処置がされているように見える。実際、あの時よりは遥かに楽だ。
他の部位は、ああ、擦り傷があるくらいだろうか。流石に硬いコンクリートの上で意識を失ったのは不味かった。まあ動けないという程ではなく、それであれば今日のアレには間に合いそうである。
「ごめんね、恵。心配かけて」
「うん…。うん。でも、お姉ちゃんならオーガのあれは大丈夫だと思うんだけど、どうして?」
「ああ、あれはね―――」
事の顛末を説明していくうちに、恵の目が鋭いものになっていっている。
「自衛隊…」
「ま、まあまあ、あれは私が悪いから。えっと、それよりもなんで恵が外にいたの?」
「いや、一般市民を助ける為とはいえ銃を撃つのは流石にまずいから悪いのは自衛隊だよ。あと、外にいたのは、嫌な予感がしたから…。ほんと、従ってよかった」
恵が予感などと言うのは珍しい。そう感じながらも、癒しを求めて恵の頭に手を伸ばした。
サラサラと、金色の美しい髪が流れていく。梳く感覚はとても心地良くて、無理な姿勢すらも気にならない程に心が安らいでいく。
幸せな時間は続いていく。
「ありがとうね」
心の底からの感謝の言葉。恵は薄くはにかんで、笑みを浮かべた。そして――
「あっ、お姉ちゃんしばらく外に出たらダメだからね」
「( ゚д゚)エッ」
「当たり前でしょ?むしろその体で何かするつもりだったの?」
えっ?いや、だって
「私の能力の性質上怪我なんて関係ないし…」
「…もう動画サイトの方にお知らせもしといたから、ゆっくり休んでね」
パッと視界が暖かな手に包まれて、意識はストンと落ちていった。
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《恵視点》
眠りについたお姉ちゃんを見届けて、私はパソコンを立ち上げた。動画サイトを漁り、動画をピックアップしていく。
「これと…これもかな?」
探し出すのは、お姉ちゃん以外の化け物を倒す配信者。
木刀による魅せ技を主体とする
化け物の破壊行動によって散乱した瓦礫を操り、質量で押し切るサイコミール。
風の魔法を巧みに操り、使えるものを使って多彩な立ち回りを見せてくれる
3人とも、確かな実力を持ち、なおかつ日本の有名な配信者である。
彼等の配信はいうなれば強力な能力を活かした化け物退治であり、お姉ちゃんの誰でも倒せる方法を紹介、というような物とは違う。でも、彼らを交渉材料として、お姉ちゃんとお話すれば、きっと納得してくれるはずだ。なんせお姉ちゃんの目的は被害の削減。頼れる人が増えれば、休むハードルだって下がるはず。
まあ、彼等を求める視聴層とお姉ちゃんを求める視聴層では結構住み分けがされているから、視聴層が納得するわけでは無いのだけれど。そっちに関してはちゃんとお気持ち表明させて貰った。
お姉ちゃんに変なヘイトが向かないように、完全に私、編集者としての意見として流した。同時に、傷が治るまでお姉ちゃんの活動はしばらくは何が何でもさせない、とも。
もちろんふざけたコメントは沢山来たのだが、陽菜は数日前までただの高校生だった。という部分を強調すれば静かになった。流石に思うところがあったのだろう。視聴層にそこらへんの良識がある人ばかりで助かった。…それでも抗う人は全員ブロックしたけど。
最悪、何が何でも私はお姉ちゃんを止める。あの状態の体で外に出られたら溜まったもんじゃない。ただでさえ不完全な処置しか出来ていないのだ。今回のように下手に攻撃をくらえば死んでしまうかもしれない。
「お姉ちゃんは絶対に守る…!」
そして、そんな静かな決意を切り裂くように、通知音が頭に響いた。