自衛隊や配信者たちが体調万全の状態で待ち構えた深夜12時。
誰もが、目を疑った。
「なんだ、あれ…」
体を硬直させる一人の配信者の呟きは、無理もないだろう。私も、恵の説得により一度他の配信者から様子を見るべきだと判断していなければ、その光景には圧巻され、体を硬直させるに違いない。
…否。部屋という安全地帯にいても、体は硬直してしまった。
「お姉ちゃん…」
恵のその声の意図は、これから先の行動を躊躇するもの。でも、そういうわけにはいかない。恵だけなら万々歳だけど、まあ、ダメだろう。
「怖いなら家にいてもいいよ?」
「それは嫌」
食い気味な恵の言葉には、苦笑を浮かべることしか出来なかった。
準備を済ませて、玄関の前に立った。耳をすませば、揃った足跡が聞こえてくる。まあ、当然だろう。扉の覗き穴を覗けば、緑一色。であるなら、次の行動も決まっている。
外開きの扉を、勢い良く開いて、扉に引っ掛けるようにブラックジャックを振るった。
「ギャッ!」
ビチャ、と肉体が扉に染み着いた音がした。そして、ポトッと一つの石が落ちる。
「ギャッ!」
「ギャギャッ!」
「ギッ!」
頭数は3。幸いにも初っ端の相手ははぐれものらしい。それか偵察部隊。でもそれなら――
「えいやっ!」
恵の初戦にちょうどいい、
恵が飛び出して、一人のゴブリンを眠らせる。そして、ブラックジャックを振るって眠っていないゴブリンを仕留める。そして、残ったゴブリンから大きく離れた。
残ったゴブリンが右足を前に出し、構えた。突進の合図。横に飛んで、顔の位置にブラックジャックを合わせ、ゴブリンの突進の勢いも合わせて、粉々に叩き潰した。
「おお〜。よくできました!」
「はぁ、はぁ…。お姉ちゃんの動画はよく見たからね」
そう。ゴブリンは一番初めに出てきた敵だ。攻撃方法は棍棒で殴る、蹴る、様々だが、それらが脅威となるのは集団で囲まれたときであり、単体であれば弱い。単体となると、死に繋がるのは突進に限られる。
その突進も、大きく構えてくれるだけでなく、方向転換ができず、壁があれば止まれずに激突する。同じように、武器を構えていようが、突っ込んできてしまうのだ。
少し距離があれば簡単に突進体制に入るため、ちょっと離れて倒すのがメジャーだ。そして、
「じゃあ恵。下がっててね。後、接続しちゃうね」
こう言えば、恵は仕方なく下がってくれる。足音的に、次は、流石にきつすぎる。
ゴブリンの群れを倒せば、一旦は落ち着ける。…それは普段の、これまでの話で、今は違うのだ。
「ギャッ!」
「ギギーーー!!!」
ゴブリンの声が響く。そしてすぐに、視界の一部に緑が埋め尽くされた。…これを見れば、多くの人間の絶句の理由もわかるというもの。
道路の奥の奥までゴブリンに埋め尽くされている。そして、一匹のゴブリンが担ぎ上げられ、一風変わった雰囲気を醸し出していた。
「規模としては、100かな?」
おそらく、弱めであろう集団であるし、ゴブリンなのでこの体でも問題は無いだろう。痛みはあれど、悪化はしないのだから。
「来い」
恵から離れすぎないように位置どって、ブラックジャックを近付いてきたゴブリンへ振り抜く。飛び散った体が何体かを巻き込みながら飛んでいく。
それでも数体。だが、学ばないゴブリン故に、同じようなやり方を繰り返せる。
「ギッ!」
担ぎ上げられたゴブリンが声を上げた。
「ギャッギャッギャッ!」
ゴブリン達が組体操のように積み重なっていく。なるほど。一振りで全員飛ばされないように空からも攻めるつもりなのだろう。そして、積み上がったゴブリンは、
「ギー!!!」
掛け声とともに倒れ込んできた。
「…じゃあ、これで」
魔石を一つ、倒れ込むゴブリンへ投げ込んだ。指先ほどのサイズの魔石は、突如としてスケルトンの骨へと変わり、突き刺さった何体かのゴブリンを魔石に変える。正面は、今まで通りブラックジャックだ。
よし。一応練習しておいて良かった。思った以上の成果だ。そして、今のが上手くいくのなら、これもいけるだろう。
「よっ!」
高く、高く魔石を投げる。狙いは1点。担ぎ上げられたゴブリン――将の真上だ。
さっきと同じスケルトンの骨が、雨となって降り注ぐ。しかし、
「ギギィ!」
「わ。飾りじゃなかった」
左手に掲げられた盾がそれを塞いだ。だが、何体かのゴブリンは殺れたから、全くの無駄ではない。
「お姉ちゃん…!」
微かに恵の心配が届いた。
「大丈夫だよ」
心配なんて要らない。そもそも、魔石の搦手が無くてもゴブリンなら殺れる。飛び出してきたゴブリンを迎え撃ち、数が減ったことを確認して飛び出した。
「ギッ!」
指示に従い、四方八方からゴブリンが飛び込んでくる。二つのゴブリンの魔石で両端を守り、正面だけをぶち抜く。
そして、一つの魔石を放り投げた。
「ギャギャギャ!!!」
唯一学ぶゴブリンは、学びを活かして盾を構える。でも、敵の目の前で敵から目を逸らすとは、愚かにも程がある。もう、私は目の前まで迫っているのだ。
「じゃあね」
一際大きな魔石が、ゴロリと地面を転がった。