陰の実力者ってこれでいいのか? 作:ソフトクリーム
「…」
「ゼータ。貴方は私達と来なさい」
「…シャドウを誘拐したわけだけどいいの? えっと…アルファだっけ」
「お前! アルファ様を呼び捨てするなんて失礼だ!」
「だって私アルファ達の仲間じゃないし」
「腐敗者。あなたもそうだったんでしょう? 私達6人もそうだった」
「…」
「もうダメだ、死ぬんだと思ったらシャドウに出会った」
「…」
「私達は彼に助けられた恩を返したい。彼の願いを叶えたい。彼を支えたい。あなたはどうなの? 今あなたは、ゼータはシャドウのことをどう思っているの?」
「ゼータ…か」
「あれ? 本名じゃないです?」
「シャドウに名づけられたんだよ馬鹿犬」
「なんだとぉ! やっぱりお前潰されたいです!?」
「デルタ」
「…はい」
「私は…シャドウの隣にいたい。死ぬまで一緒にいたい。ああして巻き込んだけど、一緒にいるうちに本当に好きになった部分もあるから」
「その好きな部分ってどんなところですか?」
「?」
「あるんですよね? ほら早く」
「べ、ベータ? 何か怖いのです…」
今まで黙っていたベータがゼータに話しかける
瞳に光がない
さきほどまで気持ち悪そうにしていたのが嘘のようだ
ゼータはふっと笑うと
「沢山あるけど、一番好きなのはシャドウの剣だね。あの綺麗で美しい剣捌き。まるで剣で舞をしているようだった。無駄のない最小限の動き、必要最低限の攻撃、回避するときも品がある。あとシャドウの匂いが好き。匂いを嗅ぐと身体がとても熱くなるんだ。全身が燃えあがるくらいにさ、頭がどうにかなっちゃいそうだったよ。シャドウと交わるときさ、思わず声が沢山出たんだよね。はしたないと思われないように口を塞いでいたんだけど、尻尾の付け根をゆっくりねっとり撫でられてとても気持ちよかったんだよね。それから耳の触り方も好き。優しく撫でてくれて、時々息を吹きかけてくるんだけど、その時の悪戯が成功したシャドウの顔がとてもカッコよくてさ。もうなんでも許せちゃうみたいな? 私がシャドウの身体に匂いをつけるときも、なんやかんや受け入れてくれて…本当に素敵だったな。それからうわっ!? 何するんだ!?」
恍惚な顔をするゼータだったが、突然アルファに攻撃されたのを間一髪で避ける
何故かアルファ以外の連中もそれぞれ武器を構えている
全員の瞳は静かに暗く燃えている
無表情で、それぞれの武器をゼータに向けていた
間違いなく彼女達はゼータにキレていた
ちなみに肝心のシャドウはこの場にいない。いつも通りの陰の実力者ムーブをかまして満足したので、どこか遠くへ去って行った。だからこの場にいるのは、主を強く思う娘たちだけだ。もしシャドウがこの場にいたら、綺麗と可愛い女の子のガチギレの殺意に恐怖し、理想郷を作って逃げていたかもしれない。
「随分とお楽しみだったそうね?」
アルファが皆の代表でそう言うと、ゼータは顔を真っ赤にして頬に手を当てながら
「シャドウすごかったな…本当に…ふふ」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
ベータは構えていた武器を落とし、膝を地面につけ、頭を掻きむしりながら、泣き崩れる。大好きな主との秘め事を想像したベータには刺激が強すぎた
「お前みたいな雌猫にボスが満足するはずないです!」
「馬鹿犬じゃ相手にされないだろうからね。馬鹿犬には分からないでしょ」
「きぃぃ! なんですこの雌猫! 勝負するです!」
「良いよ。来なよ」
デルタは地を蹴ってゼータに突っ込むと
「あ、シャドウだ」
「ボス!?」
デルタは明後日の方向を見てしまい
「隙あり」
「げふっ!」
かなり良い角度に蹴りを決めた。いくら戦闘能力が高くても、致命傷な部分に攻撃を受けてしまえば
ドサっ
デルタが気絶した
「さてと」
「ねぇ…マスターと…したんだよね…どんな…感触…だった?」
「感触? くすぐったかったかな」
「痛いとか…裂けそうとか」
「ん? 無かったよ?」
「…にゃんにゃん?」
「そうにゃんにゃん。こう、片手を少し上に上げて、円を回すように動かしながらシャドウに撫でてもらうの」
「…なんだ…違った…なら…いい」
イータは静かに武器を下ろした。彼女から発せられる先程の圧も全くなくなっている
「?」
「…私…別に…ゼータ…興味…ない。データ…増えない…やる理由…ない…」
「奇遇だね。私も君に興味ないかな」
「そう」
「興味がないことは気が合いそうだけどね」
「ん…。ゼータ…私より…弱い…というか…ほんと…使えない…」
「?」
「アーティファクトの使い方…全然…ダメ。あれは…確認されたアーティファクトの中で…数少ない人を閉じ込める類のもの。それも…マスターほどの人…捕まえることができる…希少なアーティファクト。唯一無二の…アーティファクト。それ…無駄使いした…ほんと…使えない。まだデルタの方が…使える…かも。馬鹿だけど…時々思いもしない使い方する…デルタの方が…まだマシ。マスター…捕まえるなら…もっと…工夫しないと…頭…残念? デルタより…馬鹿?」
ゼータはイータに刃物を投げるが、イータは動じずにそれを弾いた
「スライムか」
イータはスライムスーツの上に更にスライムを重ねていた。その追加されたスライムは攻撃される箇所に当たる瞬間、一瞬で一点に凝縮され、とてつもない装甲を持っている。
スライムスーツはどんな過酷な環境でも異常なしで行動できる性能がある。また伸縮性に優れており、締め付けられる感じが全くない。更に、鎧のように身を守る装甲も兼ね備えてある。
イータは自身のスライムスーツを改造しているため、アルファ達6人の中ならダントツの装甲を持っていた。その代わり、重量が増えるため、機動力では最下位になる。それでも、6人の中で最下位なだけで、この世界では十分に速い。
「そう…スライム。汎用性…高い。あのアーティファクト…かなり強い…普通…脱出出来ない。マスター…絡繰りそのものを…壊した…。やっぱり…マスター…すごい。私が…マスター…閉じ込めたかった…」
「…」
「ゼータ…マスターより弱い…興味…ない。ん」
ゼータはイータを睨むが、イータはもうゼータに興味が無くなったようで、欠伸をしている。こいつと話しても意味がないと思ったゼータはアルファに話しかける
「アルファだっけ? 君は私に何か言いたいことあるの?」
「そうね」
アルファが手をあげると、ガンマとイプシロンは武器を下ろした。不服そうではあるが、最悪のことにはなっていないため、今は話を進めることに同意した。
「結局はシャドウの支えになりたいということでいいのよね?」
「うん」
「なら私達と来なさい。シャドウがやろうとしていることは、人手がいるし、能力が高い人材も必要よ。彼を支えるには1人でも戦力を増やしたいから蹴落としている場合じゃない」
「そもそもあんたらどういう集団な訳?」
「言ってなかったかしら。我々はシャドウガーデン。シャドウが世界を庭のように歩けるように、手入れをする庭師の集まりよ。もちろん、手入れといっても、本当に幅広く手入れするけどね」
「なるほど。そういうことね。確かにシャドウには私が綺麗にした場所を歩いて欲しいな」
「それは私達6人も同じ考えよ。そしてみんな1人ではそれを成し遂げることが出来ないから組んでいる。あなたもそうでしょう?」
「…気に食わないけど確かに私1人じゃ無理だね。現にここから逃げられちゃったし。本当に気に食わないけど。話は分かった。なら入ろうかな。シャドウガーデン。いっとくけど、私はシャドウ最優先だから。アルファの命令全部聞くわけじゃないからね」
「聞かないならその時はシャドウにゼータの活動を話して助言を求めるから大丈夫よ。安心して」
「…そうかい。じゃあ安心するために働くとしますよ。というかそっちの…ベータだっけ? いいの?」
「しばらくしたら戻るわ。いまイプシロンが音色で精神安定させているところだから」
「音色?」
「特定の音域を聞かせることで落ち着かせる技術の1つよ。誰でもできるものじゃないわ」
「確かにそうだね。私には出来ないや。あれ、遺跡がなくなってる。アーティファクトもなくなった。これって」
「シャドウね」
「主か。流石だね」
「…アーティファクト…消滅…もう取り戻せない…はぁ…」
露骨に落ち込むイータ
アルファはイータを気にせずゼータに付いてくるように言う
「えぇ。さぁ行きましょう。いつまでもこんなところで時間を潰さないで、会議や訓練やらやることは沢山よ。行くわよガンマ」
「はいアルファ様。私はガンマ。資金面なら力になるのでよろしくお願いしますゼータ」
「よろしくガンマ」
「向こうで音色を鳴らしているのがイプシロン。彼女は音楽や作法が得意です。音色を聴いているのはベータ。私達の活動の補助と小説家として活動をしております。デルタは戦闘と縄張り全般を任せており、イータは建築や技術を、アルファ様は全体の指揮を担当しております」
「なるほど。私は潜入が得意だから、そういう感じの任務なら任せて」
「わかったわゼータ。さぁ、私達のアジトに案内するわ」
僕はこの世界に来て色々な経験をした。転生前では陰の実力者になれなかったが、今では魔力を通じて様々な事件を陰から介入し、実力を見せている。今日はどんな風に陰に忍び込み、モブとして演出してから実力者になろうかなと考えていると、アルファ達7人がやってきた。
何かを堪えているような顔を全員しているけど…なんだろう
「シャドウ。大切な話があるの」
「何かな?」
もしかして、何かイベントを見つけたから僕を誘ってくれたのかな?
ワクワクしてきたな~
「私達は一度貴方の下から離れることにしたわシャドウ。このままだと私達は目的を遂げることが出来ないと判断しての選択よ」
「今まで育てていただきありがとうございましたシャドウ様。ベータ、これからも頑張ります。シャドウ様のお役に立つため、これからも日々精進します」
「ボス! お別れが来たのです! デルタもっと強くなる!」
「主様。沢山のことを学ぶことが出来てとても嬉しかったです。それとあれについてですが…ふふ、必ず返しますので、少しの間お待ちください。必ずや返しに行きます」
「主様! 私を助けていただき、私の演奏を褒めて抱きありがとうございました! 主様に助けられたこの命、使命を全うするために全力を尽くします!」
「主。私のワガママに付き合ってくれてありがとう。顔をしっかり上げるために、私は主から一度離れることにするよ。このままだとまた顔を下に向けちゃうからね」
「マスター…気になる研究…取り組む。かなり…長くなる…。だから…頭の解剖…大分…遅くなる…ん…ごめん。絶対…解剖する…待ってて」
7人の瞳には強い決意を感じた
「私達、今のままだとダメになると話し合ったのよ。だから一度あなたの下から離れて、一から頑張ってみることにするわ」
「……え、え?」
「必ず貴方の下に戻るから……じゃあね。みんな、行くわよ」
ベータ・デルタ・ガンマ・イプシロン・ゼータ・イータは振り返ることなく、そのまま前に向かって歩き出した。アルファが最後尾を歩き、一度だけ僕の方に振り返る。
その時の顔は、少し不安そうな顔をしていたが、同時に強い目標を掲げて前に進もうという意思を感じた。僕を見て一瞬だけ微笑んだ。
「~~~」
彼女は何かを呟いた後、前に向かって歩き始めた。
彼女達が振り返ることは無かった。
異世界にまで来て僕は陰の実力者を目指してきた
転生前と違ったアプローチをいくつか取ってみたが、また僕だけが残ってしまった
やり方をいくら変えても、結局1人になるのだろう
皆僕の下から離れたのだから、陰の実力者はアホらしいと考えたのだろうか?
一緒に陰の実力者を目指すものだと思っていたけど、それより叶えたい目標が出来たということだろうか?
彼女達の使命を果たした後に、僕は彼女達と共に盛り上がれるだろうか?
…
盛り上がれるでしょ!
だって僕が鍛えたようなものだし!
師匠と弟子7人の再会
そこからお互いがいなかった時間を語り合う
それも粋なものだね!
人によって陰の実力者の定義なんでそれぞれだし、1つに決める方が押しつけがましいものだ
陰の実力者ってこれでいいのか?
陰だから決まったやり方に囚われるのは陰の実力者とはいえない
僕は僕の考えで陰の実力者を目指す
彼女達は彼女達の考えで陰の実力者を目指す
だからこれでいい
僕は彼女達の姿が見えなくなるまで見続けた
空が暗くなる
さぁ陰の時間だ!
僕は鼻歌を歌いながら黒衣のスライムスーツに着替えて走り出した
そういえばあの時のアルファ
「~~~」
って言ってたけど
…まぁいっか!
考えるのは後にして盗賊狩りだぁ!
ヒャッハー!
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