陰の実力者ってこれでいいのか?   作:ソフトクリーム

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水色エルフと逃亡する

ここは…なんだっけ。国の名前を忘れてしまった。とにかく暴力を嫌い、芸術を愛しましょうとかそういう国だった気がする。今日はそこに来ていた。

 

最近芸術に触れる機会がなかったからなー。腕が鈍っているんだよねー。そんなわけで来ました。本当に理由が適当だ、でもそれがモブというものだろう。なんか音がすると思って辺りを見ると、なんかどこかの令嬢らしきエルフさんが演奏していた。水色の髪の毛でツインテールというかなり目立つ容姿だ。可愛いな。彼女の周りには沢山の人がいた。有名人なのだろうか? みんな彼女の演奏を楽しんでいる。

 

モブならここで声をかけ…

 

いや僕は目立ちたくないし声をかけないで遠くから演奏を聴いておこう。良い演奏だ。ただ鍵盤を押すだけではなく、指の動かし方、姿勢、表情、それらを一から考えて演奏しているのがよく分かる。聴き手に楽しんでほしいと音がスキップしているのも分かる。僕も転生前は楽器を一通り触っていたが、特に触っていたのがピアノだ。

 

なぜかって?

 

ピアノを弾けるのはカッコいいからだ

 

最初は習い事だったけど、かなり夢中で練習したことを思い出す。いつの間にか演奏が終わっていた。あれ、ピアノが故障したのかと思いそちらを見ると、何か苦しんでいるようだ。なんだろう、腹痛かな?

 

とても辛そうにしており、椅子から落ちてしまう。

 

ドサリと音が鳴り、近くにいた人達も彼女のことに気付いたようだ。心配そうな感じで近づく。ここで僕がどう動くか…これは悩むぞ。

 

ざわざわ ざわざわ

 

 

何か怯えた感じの、非難する感じの声が次々と聞こえてくる。何事やと僕は皆が見ている方向を見ると、そこにはさきほどの水色ツインテールエルフさんの身体が一部腐敗し始めていることに気付く。彼女は痛みに耐えるかのように目を瞑って荒い呼吸を繰り返している。誰も彼女に駆け寄らない。ただ大きな声で騒ぎ立てて、その子に視線を集めることしかできない。時々、誰かの名前を連呼している人達がいるが、彼女に指を向けて言っていることから、恐らく彼女の名前だろう。

 

…見えた!

 

ここで僕がやることといえば、この騒然の中彼女をここから離脱させる

 

これだね。いつのまにか彼女がいなくなったことで、何事だと彼らは思うだろう。これこそ陰の実力者。

 

というわけで

 

僕は魔力を集めて空に打ち上げる。良い感じの高さまで上がると、花火のようにパンパンと音が鳴った。周辺の人達は全員視線を上にあげている。その隙に僕は彼女を回収して、人気の無い場所へと連れ込んだ。

 

とても辛そうだ。とりあえず僕が解呪すると、彼女の息は次第に緩やかとなった。しかし起き上がらない。

 

激痛で気絶したのかな。どこに放り出そうかな…とりあえず起きるまでここにいさせて、さっきの周辺を調べよう。僕は適当にその辺にいた動物に魔力をぶつける。動物にさっき僕がこの子を回収した場所に行って、どんな感じになっているかを調べてほしいと伝えると、動物は向かってくれた。報酬は砂糖をよこせだそうだ。

 

砂糖…あそこのお店にあったかな。僕は魔力を足に込めて、近くのお店で購入し、彼女の下に戻った。僅か1分。まぁ、店員さんがお釣りの受け渡しとか、商品の受け渡しの時間を考えれば及第点でしょう。

 

おぉ、動物さんや。これは褒美の砂糖だ。それでどんな感じだったかな?

 

ふむふむ、この子を殺そうとしている? あらま、えぇ、武器を持った人達がうろついていた? はぁ~、わかった。うん、行っていいよ

 

えぇ…これどうするかなーと考えていると、エルフさんは目を覚ました。あぁどうも、ピアノ素敵でした

 

「え、えぇ、ありがとうございます。それで、あの、ここは?」

 

「君倒れたの覚えているかな?」

 

「はい」

 

「それで身体の一部が腐敗したんだよ」

 

そう言うと彼女の顔は真っ青になった。顔が青で、髪の毛は水色。この子、中々出来るじゃないか(?)

 

「で、でも今は!?」

「うん、治っているね」

 

僕が治したからね。いや早期発見早期治療だから身体の負担もほとんど無いし、かなり運がよかったと思うよ。顔は真っ青ではなくなった。

 

「そう。なら戻って…っ!」

 

近くで兵士の声が聞こえた。何やら誰かの名前を叫んでいると、彼女は肩を縮こまらせた。顔が再び真っ青になる。殺していいとか聞こえた。

 

「そんなっ…」

 

彼女は両手を口に当てて涙を流す。これは状況的に見て、兵士たちが叫んでいる名前は彼女の名前で、彼女を殺そうとしている人達がいるようだ。芸術の国と聞いていたが、どうやら血生臭いことと切り離すのは無理だったようだ。問題はここで僕がどう行動するかというと…

 

彼女の演奏をしっかりと聴いていなかったのも僕に責任がある気がする。いや、僕は彼女と何の関係も無い、本当に他人なんだけど、彼女の弾いていたピアノには間違いなく魂が籠っていた。僕と同じ、陰の実力者になるために近しい努力を感じた。それをここで失っていいのだろうか…。ここで彼女を捨てるのは、あの時僕を馬鹿だと嘲笑った奴らと同じことなのではないかと…考えてしまう。

 

「あの」

「?」

「助けていただきありがとうございました。兵士達の狙いは私です。貴方はここからすぐに」

「助けさせて欲しい」

「え?」

「僕に君を助けさせて欲しい」

 

グルグルと回っていた思考をすぐに切り捨てる。今までとか、ここにはもういない彼らのことに振り回されるのではなく、今自分の気持ちを大事にしたい。僕は自分の気持ちを大事にして今まで生きてきた。ならば、ここで僕が思ったことを行動すれば良い。

 

この子は死なせない

 

この子の弾くピアノを聴きたい

 

この子と一緒に実力を磨いていきたい

 

ならやることは1つだ

 

「僕が君を助ける」

「…」

 

彼女は目を見開いて口を大きく開けて固まっていた。あはは、さっきまで顔真っ青で髪の毛水色なのに、今度は目を見開いて口を大きく開けるなんて、そういうことが得意なのかな? 

 

でもそれは後で語ろうね。今は

 

「いたぞ!」

 

抜刀する音が聞こえる

 

本当ならここで剣を持って戦いながらこの子を逃がすのだが、ここは芸術の国。そして彼女は芸術の国で芸術的な演奏を奏でてくれた。それを僕が血で汚してしまうのは無粋だろ?

 

「逃げるよ!」

「あ」

 

僕は彼女を抱っこして、魔力を足に込めて走り出した。

 

 

 

人気の無いところについたので、彼女を降ろした。

 

「あ、ありがとうございます」

「うん。ここまでなら少しなら大丈夫でしょう」

「そ、そうね…」

 

彼女は暗い顔をしたままだ。僕は魔力でピアノを作り上げる

 

「え、ピアノ?」

 

彼女が戸惑うのを無視して僕は鍵盤に指を添える。こういう時に弾くのは、明るい曲だ。僕は滑らかに指を滑らせる。

 

「すごい…」

 

同じ楽器をしているから、彼女にも分かったのだろう。いかに魂を込めるか。これが重要だ。昔ある漫画のあるセリフを思い出す。

 

愛の無い演奏は結局皆を不幸にする

 

演奏に愛なんて必要ない。ただ技術だけがあればいいのです

 

それなら人が弾く必要なんてない。音が聴きたいだけならCDとかで満足する。それなのに人がコンサートなどに集まるのはなんでですか? 来る人達は演奏者の魂を聴いているんです!

 

確かこんな感じのセリフだったと思う

 

そうだね。どっちも間違っていないと思うよ。

 

仮に違う種族の人達が自分達と同じ楽器を演奏したとしても、聴き手によってどこに重きを置くかなんて違うし、何をどう重くするかなんて自由だ。

 

僕が君の演奏を聴いた時に思ったのは、大勢の聴衆に楽しんでほしいという気持ちが込められていたこと。なら僕は君だけに元気を出してほしいと思いながら演奏したい。時々、彼女と目線を合わせる。

 

ほら、僕達は今通じあっているんだ。

 

君の悲しみは僕が癒す

だから君は元気になってほしい

 

演奏を終える

 

僕と彼女に会話はない

 

さっきまでの重苦しい空気はなくなった。張りつめていない。彼女の肩の力は抜けている。

 

「あ、良い演奏でした! 聴いたことの無い曲ですが、曲名はなんというのでしょうか?」

 

曲名? 曲名はねー…なんだっけ?

 

「……それは君ともっと仲良くなったら教えるよ」

「えぇ!? 教えてくれてもいいじゃないですか?」

「うーん。まぁ、ほら。君と一緒に演奏出来たら教えようかな?」

「それは…多分無理かと。私は多分戻れないと思います」

「どうして?」

「私の家では、腐敗が進行したら問答無用で処理することが決まっているからです。あそこには大勢の人達がいましたから、家の方にも私が腐敗したことは伝わっているでしょうし…仮に伝わっていなくても、周囲の人達が…」

「つまり行く当てがないと」

「…そうです」

「なr」

 

「私が匿いますよ」

 

遠くから声が聞こえた。敵意がなかったため、放置していた。というかそうであってほしくないと思い、気付かなかった振りをしたが、やはり気のせいではなかった。

 

「誰!?」

「身構えないでください。私は貴方の味方です」

 

草陰から現れたのはベータだった。

 

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