嫌顔告白 作:嫌告ξ紳士
遠い過去の記憶を思い返す……。
6歳の誕生日を迎えたばかりの少年が、ある晴れた日に小児科の待合室で予防接種の順番を待っていた。
窓から差し込む柔らかい日差しが白い壁に反射し、部屋を明るく照らしていたが、顔には緊張が浮かんでいた。
子供らしい不満が表情に表れていたものの、その気持ちはすぐに消えた。
目の前には特別な存在がいたからだ――それは、白銀御幸。
白銀御幸は、同じ保育園に通う女の子だった。
鋭い目つきと愛らしい顔立ちが印象的な彼女は、忘れられない存在だった。
予防接種の針が刺さった後、彼女の前で少しでもカッコつけたいと思い、「全然痛くなかったよ」と強がって言った。
彼女は「……そう」と短く返したが、そのそっけなさに、心が小さく跳ねた。
診察室から出てきた彼女の目には、うっすら涙が浮かんでいた。
赤くなった目元を見て、一瞬言葉を失った。
彼女は睨むように一瞥し、すぐに目を逸らしたが、その仕草さえ愛おしく感じられた。
接種を終えた後、親に連れられて小児科を後にした。
帰り道、ドライブスルーで買ってもらったフライドポテトを手に持っていると、隣の車から白銀御幸が降りてくるのが見えた。
急いで駆け寄り、幼心に「これ、受け取ってくれ!」とポテトを差し出した。
彼女は戸惑いながらもそれを受け取り、その素朴なやり取りが心に深く残った。
小学校に入ってからも、白銀御幸との関係は続いた。
授業中や休み時間に彼女にちょっかいをかけたり、一緒に遊んだりする中で、彼女との絆を大切に感じていた。
気づけば打ち解けあい、仲は深まっていた。
小学校卒業式の日、彼女に別れを告げることになった。
「親の都合で別の中学校に行くことになったんだ」と伝えると、彼女は一瞬呆然とした表情を浮かべた。
次の瞬間、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ち、その光景に胸が締め付けられた。
そして彼女の涙を見送りながら、互いに誓い合った。
――いつか秀知院で再会しよう、と。
――そして一緒にまた二人で過ごそう、と。
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秀知院学園の中等部に合格し、新しい生活をスタートさせた。
中学校生活は賑やかだった。
仲間たち友人たちとカラオケに行ったり、手紙で白銀御幸と連絡を取り合ったりしながら、毎日を満喫していた。
そして中学3年生のある日、教室に転校生がやってきた。
朝のホームルームで担任が「入ってください」と言うと、ドアが開き、見覚えのある少女が姿を現した。
それこそが――白銀御幸、その人である。
彼女は教壇に立ち、穏やかな声で自己紹介した。
「白銀御幸です。両親の仕事の都合で東京に来ました。よろしくお願いします」
至上に可憐な幼馴染が、そこに居たのだ――。
□■□■□
きっと、この記憶は一生忘れることはないだろう。
なぜなら彼女は“彼”にとって、“初恋”の人なのだから。
「懐かしいね、君との思い出だ……」
白金の髪をさらりと綺麗に雅にたなびかせる。
大きな青い瞳は知性と自信に満ち、長く繊細なまつ毛に縁取られて、その魅惑的な深さを一層引き立てていた。
細く優雅に弧を描く眉毛がその上にあり、小さく洗練された鼻と、薄い淡いピンクの唇が、完璧に調和した顔立ちに柔らかな魅力を添えている。
少女が微笑むと、普段の落ち着いた態度に温かさと親しみやすさが混ざるだろう。
その体型は細身でありながら、控えめで女性らしい曲線を備えてある。
適度な胸、細い腰、そして長く優美な脚が、彫像のような気品を際立たせていた。
白銀御幸――秀知院学園の生徒会長と呼ばれる存在が、そこに佇んでいる。
そんな学園の中で、トップの生徒とも言える彼女は。
二人以外誰もいない、静かな生徒会室の中……。
優しい声で、こちらに向かって、囁きかけてくる。
「あの娘たちの下着を見て何か学んだかい?」
そんな彼女……幼馴染は冷静かつ余裕のある態度で伺ってくる。
その言葉に、一瞬、息が止まった。
頭の中で彼女の声が反響し、幼い頃の記憶と今が交錯する。
白銀御幸のその一言は、心に刺さりながらも、どこか温かく柔らかい余韻を残した。
彼女の口調は穏やかで、まるで何気ない日常会話のようだった。
そこには変わらない少女の姿がある。
御幸の髪が窓から差し込む夕陽に照らされる。
まるで光の輪をまとっているかのように輝いた。
大きな青い瞳がこちらをじっと見つめ、唇の端に微かな笑みを浮かべている。
「何か学んだかのか……と、聞いたんだよ」
彼女はもう一度、ゆっくりと繰り返した。
声にはからかいの色が混じっていて、それでいてどこか優しい。
生徒会長としての威厳と、幼馴染としての親しみが絶妙に調和したその態度に、彼はただただ立ち尽くすしかなかった。
彼女は椅子に腰を下ろし、肘をついて軽く頬杖をつく。
その仕草さえ優雅で、まるで黄金のように眩しかった。
「ふむ。まぁ、君のことだから、きっと大したことじゃないね?」
その言葉に、咎めるような響きは一切ない。
むしろ、彼女の声にはどこか楽しげなニュアンスすら感じられた。
嫉妬や怒りを隠している様子もなく、ただ純粋に相手の反応を楽しんでいるように。
――お、怒ってる?
つい、不安が口をついて出た。
彼女のこの余裕ある態度が、逆に落ち着かなくさせる。
白銀御幸は彼にとって、特別な存在なのだから。
彼女は一瞬目を細め、それから小さく笑った。
「怒る……? 私が? 君に対して……?」
その言葉には柔らかさが込められている。
彼女は立ち上がり、ゆっくりと近づいてきた。
靴音が静かな生徒会室に響き、距離が縮まる。
そして、すぐ目の前で立ち止まった彼女は。
穏やかに、けれどはっきりとこう言った。
「君のことなら、何でも分かってるよ……」
甘く脳を溶かすような魅惑的な声。
天啓が降りてくるような、そんな天声。
その一言が、まるで魔法のように不安を溶かした。
彼女の瞳には、幼い頃の約束を交わしたあの日の光が宿っている。
「秀知院で再会し、また二人で過ごす。約束したじゃないか?」
その誓いが、今現実のものとなっている。
――御幸。
名前を呼ぶと、彼女はふっと微笑んで、肩を軽く叩いてきた。
「ほら、生徒会の仕事をさっさと終わらせよう。その後は……二人きりだ」
□■□■□
ついに訪れる、奉心祭当日。
その朝、校門をくぐった瞬間から、普段は静かな学園が別世界のように活気づいていることを感じる。
秀知院学園の文化祭は、冬の訪れの前に開催される学校最大のイベントだった。
校舎全体が祭りの熱気に包まれ、生徒たちの笑顔と活気が至る所に溢れている。
遠方から訪れる保護者や地元住民の姿も多く見られ、祭りならではのにぎわいだ。
今年も校内は祭りの準備で活気づいている
教室は生徒たちが手作りした色とりどりの装飾で埋め尽くされ、紙製の花や折り鶴が窓辺を飾っていた。
廊下には笑い声と足音が響き合い、どこか賑やかな学校の空気があった。
放課後や休日を返上して準備していた努力の跡がそこかしこに感じられ、ちょっとした失敗も微笑ましく思えるほど、皆が一体となって文化祭を作り上げている。
校庭には屋台がずらりと並び、焼きそばの香ばしい匂いや、綿菓子の甘い香りが風に運ばれてきくる。
彼らはクラスメイトたちと一緒にクレープ屋台を手伝い、生クリームを絞りながら、時折空を見上げていた。
仲間同士で声を掛け合い、おすすめのトッピングを考えたり、屋台に訪れる人とちょっとした会話を交わしたりするうちに、時間が経つのもあっという間だった。
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日が沈み、奉心祭が本格的に幕を開けると、校庭はさらに賑やかになった。
夕闇に溶け込むように点灯された装飾ライトがあたりを照らし、いつもの校庭が幻想的な空間へと変わっていく。
ステージではバンドの演奏が始まり、ギターの音色とドラムのビートが空気を震わせる。
迫力ある音楽が暗闇を切り裂くように響き、生徒たちは歓声とともにそのリズムに身を委ねていく。
ある者は友人たちとステージの前に立ち、音楽に合わせて軽く体を揺らしながら、周囲の楽しげな雰囲気に浸っていた。
観客の歓声が響き合い、夜の校庭に活気が満ちてゆく。
迫力ある音楽が暗闇を切り裂くように響き、生徒たちは歓声とともにそのリズムに身を委ねていく。
生徒たちは浴衣や制服姿で笑い合い、屋台の明かりが校庭をカラフルに照らし出していた。
肌寒い夜風にも関わらず、友人と肩を寄せ合いながら盛り上がる姿は、まるで夏祭りのような華やかな光景を思い起こさせる。
たこ焼きの鉄板から立ち上る湯気や、射的の景品を手に喜ぶ子供たちの声が、祭りの楽しさを一層引き立てていた。
景品を抱きしめながらはしゃぐ子供や、それを見守る生徒たちの笑顔が、普段の校舎とは全く違う新鮮な風景を作り出している。
遠くでは花火が打ち上げられ、夜空に色鮮やかな光が広がる。
その光が校舎の窓に反射し、まるで星が降り注ぐような美しさだった――。
□■□■□
そんな中、生徒会室の屋上では、一組の男女だけがいた。
白銀御幸と彼――、二人きりで向き合う姿があった。
屋上のコンクリートは冷たく、夜風がそっと二人の髪を揺らしていた。
遠くから聞こえる花火の音と校庭の喧騒が、二人の静かな空間と対比を成していた。
手すりにもたれながら、彼は彼女の横顔を見つめた。
白銀御幸の白い肌が夜の闇に浮かび上がり。
青い瞳が花火の光を受けてきらめいていた。
「君が幾人もの下着を見てきたことは承知している」
彼女の声は静かだが、どこか決意に満ちていた。
彼は息を呑み、彼女の言葉に耳を傾けた。
「でも、彼女たちは何もわかっちゃいない。そう思わないか?」
白銀御幸はわずかに首をかしげ、彼の目をじっと見つめた。
その視線には、揺るぎない確信が宿っていた。
「私と君は幼馴染で、初恋同士……つまり、運命の人なのだよ」
幼い頃の記憶――一緒に花火を見上げた夜、交わした小さな約束が、鮮やかに蘇ってきた。
「だから、どうせ下着を見せるならば……私は、君の記憶に永遠に残ってほしい」
彼女はそう言うと、ゆっくりと制服のスカートに手をかけた。
指先が微かに震えていたが、彼女の瞳は決して彼から逸れなかった。
スカートがゆっくりと持ち上がり、夜風が彼女の髪をさらになびかせた。
「今日がどういう日か覚えているかい?」
彼女の声は優しく、彼の心に染み入った。
奉心祭――、この期間にハート型のものを贈ると、永遠の愛がもたらされるという伝説。
彼は小さく頷き、彼女の次の行動に目を奪われた。
花火の光が屋上に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。
「いいかい? 今は私だけを見て、他は何も考えなくていい」
○遠い記憶、忘れない思い出、果たした約束。
○○○初めて会った時には一目惚れして、
○○○○○彼女は黄金のように輝く。
○○○○○○理想郷は真ヒロイン。
○○○○○○○幼馴染白銀御幸
「これからも、ずぅっと……君のそばにいるよ」
この後、二人は初めて大人のキッスを互いにした。
永遠に、長く感じられるような……濃厚な愛の形を想って。
―END―
十話目……工事完了です