嫌顔告白   作:嫌告ξ紳士

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藤原千花【ラブ探偵】

藤原千花、彼女には今大きな悩みがる。

それは多くの男性諸君にとっては「とんでもない!」と言いたくなる内容で、逆にスットン共和国に暮らす住民たちにとっては同情の余地があるものだろう。つまり彼女の悩みの種とは包容力の具現化のことで、また夢の結晶とも呼ばれるものだった。

 

「最近、私の肩が凝ってしまっていてですね……」

 

だからこそ、藤原千花は友人に相談していた。そう、友人。思春期を過ごす少年少女たちにとって、友人と自分たちの発育に関して相談しあうことは珍しくないだろう。……もっとも、それは相手が同性の場合にのみ限るが。

藤原千花はあろうことか男友達にこのことを話していたのだ。

 

「でもー、肩揉んでくれそうな友達なんて私少ないんですよ?」

 

果たして四宮某という友人を彼女は忘れているのだろうか。

 

「その……かぐやさんは、“アレ”ですから申し訳なくて……」

 

アレ、とは。当の本人に聞かれてはならないごもっともな指摘である。

もしこれを四宮に相談したのならば、彼女は喜んで肩を粉砕してくれるに違いない。四宮は真の大和撫子()だから優しいのだ。

だがまあ、彼女は整骨院に行けば解決じゃなかろうか。

 

「いやです、だってスースーする湿布の匂い私嫌いなんです」

 

わがままな少女である。持てる者の贅沢な悩みというか、選ばれし戦士だからこその悩みといえるだろう。仕方ない、男はすっと椅子から立ち上がり、藤原の背後に移動すると、もみもみ・こりこりと彼女の肢体を揉み始めた。もちろん肩のことである。

 

「あっ、そこ……もっと。んぅ、もっと下の方も……///」

 

ざわざわ、ざわざわ。辺りがざわめきだす。形容しがたい気まずさから男はすっと手を離すも、すでに教室からは冷ややかな視線が二人に向けて送られていた。

 

「ひどいです……中途半端なんて。最後まで責任とって下さいようっ」

 

男はムカついたので、もう一つねり強く揉んでやった。

 

「ぅあっん⁉︎」

 

再び三度教室ほどの温度が下がる。

暖かくなっているのは藤原千花、惚けた目をして全身の力を抜いている彼女だけ――。

 

---

 

翌日、藤原千花はとある異変に気付いた。

 

「あれ、その首もとの赤いマークは何ですか?」

 

彼女が指摘したのは男の首もとであり、なぜか赤く腫れていることだった。昨日はなかった内出血したようなその肌は、どこかピンクな怪しさを感じさせる。千花センサーが反応し、もちろん理由をたずねると彼曰く、人生で一番濃密な時間を過ごしたかららしい。

 

「へーえっ、濃密……。それはラブ探偵としての勘が疼きますね」

 

だがそれ以上、男は何も言わなくなった。千花が何度願ってもそれ以上を教えてくれない。彼が口をつむぐとは珍しく、濃密な時間とは何のことだろう。気になる。とてもえっちな予感がする。

 

「では分かりました。交換条件といきましょう!」

 

彼が何も言わないのなら、彼が自分から言いたくなるような条件を提示してしまえばいい。なぜかって? 政治家の娘として生まれた千花はそこら交渉術がとても優れている。友達に宿題を見せてもらうことは勿論、おじいちゃんからお小遣いを多く貰うのも彼女の実力だ。ならば今回も単純、同じことをするのみ。世の男ならころりと目の色を変えてしまう魔法の一言をただ唱えるだけ……そう、

 

「何でも一つ言うこと聞いてあげますから、ねっ?」

 

すると即答。彼は一瞬で寝返った。このたった一言で男はもう自分の口のチャックを全開にした。ちょろい、千花は内心ほくそ笑む。……とはいえ、この場で流すにはいささか刺激の強いことが多いというので、放課後に生徒会室でならという条件のもと、千花はラブ探偵としての仕事にほぼ王手をかけた。あとは時を待つのみである。

 

「ふむふむ、相手は誰でしょうかねえ?」

 

 

放課後、千花は人通りの少ない廊下を抜けて生徒会室に向かっていた。

今日は活動が無い日なので本来は勝手に入るのはダメだ。しかし事実上、生徒会室はメンバーたち以外に立ち寄ることがないので、勝手に使用したところで咎められる心配はまずない。ゆえにメンバーたちはここを秘密基地として使うし、実際に治外法権の地だからこそ活動・運営が自由にできるわけだ。勉強に、談笑や、ゲーム。それら全てがここでは許される。

 

「来ましたよ〜☆」

 

大きな扉をあけ、千花はすぐに部屋の中へ飛び込んだ。カーペットの敷かれた床は優しく足を包んでくれる。彼女はのほほんとした声で、先に待っていた男……彼に声をかける。

 

「それでそれで、その首の赤いマークの正体はなんなんですかっ⁉︎」

 

――その前に、一つ約束してくれ。

 

追求しようとした矢先、彼に言葉を止められる。

 

――本当に、何でも一つ言うことを聞いてくれるんだな?

 

千花は迷わず即答した。もちろんであると。その首の赤いマークが気になって仕方がない彼女にとって、“何でも”とはずいぶんと優しい条件だ。ただこう一言添えてやれば、男はみんな思いとどまるのだから。

 

「でーもっ、女の子にしちゃダメなことは許しませんよ?」

 

そう、単純だ。男はいつもこんな単純な予防線を見落としてくる。たとえ『何でも言うことを聞く』と提示しても、女の子が言う『何でも』とは、その中身はお触りすらできない生殺し条件なのである。相手の良心につけこみ、乱暴なおこないは牽制する。二重の束縛はとても強固で、まさか彼が変な要求をしてくることはあるまい。

 

「じゃっ、教えて下さいね?」

 

上目遣いで彼を見てみる。それは少しでも興奮させてしまえば、人間は口が軽くなるから。藤原忍法甘えの術である。そしてようやく、彼が口を開いた。

 

――四宮におパンツ見せてもらって一泊したら首が赤く腫れてた。

「……はい?」

 

瞬間、藤原千花の脳は停止する。思考による高速演算が情報のオーバロードを引き起こしたのだ。かぐやさん、おパンツ、見せてもらった、お泊まり、首の赤いマーク。この五つの関連性のない単語が全て繋がっていたのだ。彼女の過負荷にも同情の余地がある。

 

「えっと……その、あの。つまり……どういうことですか?」

 

おパンツである。お泊まりである。えっちなマークである。それが彼からの結論だった。

 

---

 

「えっ、えええええええっ⁉︎」

 

千花の想像していた三十倍は内容の濃い話が出てきた。脳が情報を消化しようとするも余りのカロリーに耐えきれない。ようやく処理されて捻り出した言葉はこれだ。

 

「つまり、つまり! かぐやさんと“そういうこと”になっちゃったんですか⁉︎」

 

――ちゃんとお願いしたら見せてくれたし許してくれたからセーフ。

「この不調法者⁉︎ 変態! えっち! 女の敵‼︎」

 

まさか自分の親友がこんな男の毒牙にかかってしまったとは。同時に怒りも湧いて恥ずかしさも溢れてくる。同意の上? 赤いキスマーク? 私のかぐやさんになんてことを!

 

「その、その、あれですよ‼︎ まだそういうのって早すぎますよ!」 

――待て、今お前は重大な勘違いをしている。

 

ふと彼が、荒ぶる少女に制止の声をかけた。

 

――俺はえっちしてないし、いやえっちなことはあったけど……えっちはしてない。

「何を言ってるんですか貴方は⁉︎ この期に及んで責任放棄⁉︎」

 

残念、彼の伝えたかった意味は上手く伝わらなかったようだ。火に油を注ぐ結果となってしまったこの言葉は、藤原千花をより荒ぶらせてしまう。男に掴みかかってぶんぶんと身体を揺らしてくる少女。……彼女がようやく静まったのは、男が再度詳しい説明をし終えるまでの、数十分後のことである。

 

 

「ほんとうに……本当にえっちなことはしてないんですね?」

 

――だから俺と四宮は、誓ってえっちな関係なんかじゃない!

「下着を見せてもらうなんてえっちな関係ですよ⁉︎」

 

「……ですがまあ、言いたいことは分かりました。つまり貴方が、かぐやさんにお願いして、下着を見せてもらったというわけですね? 最低です」

 

ようやく彼女は理解してくれたようだ。男はそっと胸を撫で下ろす。危うく変態として弾劾されるところだった。誤解が解けたようで何より。キッと鋭い視線が送られるが気にしないことにする。そして千花も落ち着いたのか、どこか疲れた様子である。

 

「もういいです。私帰ります。ではまた明日」

 

そそくさと自分の荷物をまとめて出口に向かおうとする彼女。千花は自分の親友がいまだ清いままだということを知れて深く安心したのだ。今日はある意味よく眠れそうだと考えている。

し か し、

 

――おいおい、約束を忘れてもらっちゃあ困るよ。

 

行くてを阻むように、鋼のメンタルを持つ男がまだそこには存在していた。

 

 

□■□■□

 

 

「……なんですか?」

 

訝しむようにこちらを見る少女。

その姿はまるで小動物で、さきほどまでの溢れんばかりのエネルギーはきっと、その豊かな双方に蓄えられているのだろう。今まさに帰ろうとしている彼女だが、重要なことを忘れているようだ。そう、赤いマークについて話したら、『何でも言うことを聞く』というもの。だがこれには条件があり、『女の子にしちゃダメなことは許されない』も追加されている。しかし何の問題もない。今から言うことは、すでに『女の子にしちゃっている』のだから……。

 

――藤原書記、約束を果たしてもらおう。

――君のおパンツを……見せてくれ。

 

硬直する少女、温度の下がる室内、冷たい瞳の彼女。

そこには正にラスボス藤原千花が顕現していた。

 

「ふふっ面白いことを言いますねぇ」

「でも残念、私言ったでしょう? 『女の子にしちゃダメなことは許しません』って」

 

苦笑いか、嘲笑か、軽蔑か。その全ての込み入った酷く寒い声音がこちらに響いてきた。

 

――ああ、もちろん知っているとも。

「……なら、なぜそんな世迷い言を?」

 

――“四宮は女の子だが、してくれたぞ?”

 

空気が凍る。ついに禁忌に手を出してしまったかのような空間が生まれた。目の前の少女は身体を小刻みにプルプルと震わせている。怒り、恥辱、後悔、困惑。それらが読み取れた。

 

「へ、へえっ……かぐやさんが。」

――ああ、約束は約束だ。同性の藤原にできない理由がない。

 

「…………」

 

 

沈黙は長く続いた。

それは彼女の葛藤を感じさせた。

 

きっと彼女は今悩んでいるのだろう。

見せるか、見せないか。

 

普通であれば後者を選んでしまえばいい。

だが、四宮かぐやの存在があった。

自分を引き留めるのは親友の存在であった。

 

もし見せないを選んだ場合、自分は果たしてこれからも本当に彼女の横に立てるだろうか?

かぐやさんはやったのに、逃げたら自分は彼女を否定することになるのではないか。

そんな事を考えているに違いない。そして答えはYesだ。

 

藤原千花が逃げた場合、彼女は女としての四宮を間接的に否定することになる。彼女はそんな自分を許さない。あまりにも汚い戦法、だが夢の成就のためには仕方がない。

 

 

「いいですよ……見せますよ」

 

少女はようやく勇気を固めた。

約束のため、親友のため、覚悟を決めたのだ。

 

「けど、一つだけお願いがあります」

「今回は私の負けですが……。でも次はこういうの、なしですからねっ!」

 

瞬間、ふといつもの藤原千花が戻っていた。

元気いっぱいのラブ探偵、皆に愛されるお調子者。

優しさ満ち溢れるいつもの彼女が、帰ってきていた。

 

「いっきますよー、そりゃっ!」

 

彼女は満面の笑みでスカートをつまみ、まるで大胆に顔が隠れるほどまで布を浮かすと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

春咲く笑みは突然で、忘れることない景色。

○○○のようなその表情はポカポカで。

○○○○○から目で追ってしまう。

○○○○○○想郷は元気な彼女。

○○○○○○○ブ探偵♡千

 

 

 

 

“責任”とってくださいね〜っ☆

 

 

満面の笑みで、華やかな表情で。

少女は、人生最大の告白をするのだ。

 

―END―

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