嫌顔告白   作:嫌告ξ紳士

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白銀圭【シスター】

白銀圭には兄のような存在がいる。

実際に血の繋がった兄妹という訳ではないのだが、彼女にとっては物心ついた頃から記憶に結ばれた確かな “兄”である。

この理由はおそらく、白銀圭が東京に越してくる前に住んでいた家と、彼の昔過ごしていた家が、偶然にもお隣同士であったことに起因するのだろう。

ご近所付き合いという面も深く、二人は小学校に彼の卒業までいつも一緒に通っていたし、両者の家合同で水族館に訪れたりもしてきたのだ。そういった事情は二人の間に良好関係を築くことを促し、今思えばこれらは互いの家による必然だったのかもしれない。……しかし断言しよう。

たとえ両家の策略が絡んでいようが、

彼を兄として信頼したのは……間違いなく“圭自身の意思”であったと。

今でも忘れられない。

わずか三歳しか年の離れてない、あの人のまだ幼い頃の胸に抱かれた時――。圭の心を満たしたのは……まだ父からも母からも、そして誰からも受けたことのない、未知の幸福であったことを。

だからこそ、彼が学校を卒業してしまった時、秀知院に通うため引っ越すと聞いた時。圭は、心に誓ったのだ。その背中に必ず追いついてやると――。

 

---

 

六畳間の部屋には一組の男女がいた。

祝日が始まり、太陽はまだ正午も過ぎていない頃だった。

 

一方はあどけない姿を見せる銀糸の髪の少女。

他方はそんな彼女に勉強を教える隣家の青年。

彼らの再会を語るには長く、簡潔に言えばこの状況は運命である。

 

「ねえーお兄ぃ? お兄ぃったら聞いてる?」

「私ったら、今回のテスト結構良い成績残したんだ!」

 

室温は実際の数値よりも温かく柔らかに感じることだろう。

それは “彼女” から放たれる、満たされた幸福こそがその熱源だ。

世の人たちがこの光景を見ればほほ笑まけしからんと感想を残すに違いない。少女は今横に座る兄と慕う男に対して客観的に見ると物凄く甘々えていた。とはいえ本人にそのつもりは全くない。だがもし彼女に尻尾があったなら……今は目にも留まらぬ速さで揺れ動いていただろう。

 

「わ・た・し との約束、ちゃんと守ってよね!」

 

端正な顔に純粋な笑みを透き通らせてこちらを覗きこむ少女。

彼女の名は『白銀圭』

青年よりも三歳下の幼馴染、または、近所付き合いの妹分である。

 

「だからさ、一緒にランド行こっ! ランド‼︎」

「シーは前回行ったからさっ!」

 

そんな白銀圭と交わした約束とは単純で、もし何か一科目でも一桁順位に入ることができたのなら “何でも言うことを聞く” というもの。

とはいえ圭にとってこの条件は破格だったのかもしれない。この言葉に火をつけた彼女はものの見事に一科目を、それどころか学年で、一桁順位を取るという快挙を成し遂げたのだ。うむ、妹分の成長が自分のことのように誇らしい。よってもちろん、彼女の提案は当然のように承諾された。

 

「やった!」

 

満面の笑みを浮かべる少女。

そんな彼女は、ふと挑戦的なニヤリ顔をこちらに向けてきた。

 

「あっそうだっ、でもお兄ぃの方は……テストどうだったのかな〜?」

 

懐から予め用意しておいた自分の順位表を机に取り出すと、圭は目を大きく輝かせてその紙を眺めだした。すると彼女が嬉しそうに手を宙にやったので、自分も真似て同じく触れてみると、白い玉手からは心地の良い音が木霊した。

だがそれと同時に、彼女は少し悩むような表情も見せる。

 

「でも…私だけ言うこと聞いてもらうだと少し不公平だよね……」

 

一瞬暗い顔を浮かべたかと思うと、圭はいつのまにか思考モードに入っていた。

沈黙の中、少女からは柑橘類のような匂いが混ざりうっすらと広がっていく。

 

数十秒が経っただろうか。

 

「……よしっ、なら」

 

彼女はうむむと唸ったのち閃いたように立ち上がった。

“名案” は銀髪少女を自信満々に咲かせている。

 

「私もお兄ぃの “願い事” 何でも一つ叶えてあげるよ!」

 

が、しかし。

この時、白銀圭は彼から要求されるだろう願いの“ていど”を、見誤っていたのだ。

まさか兄と慕う青年から……

 

「えぇと……私の下着を見せて、欲しい?」

 

 

白銀圭【シスター】に、

―――嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい。

 

 

□■□■□

 

 

「ねえ……それって最低なことじゃない?」

 

直球。それは文字通り、ごもっともな指摘だった。

中等部の少女から冷ややかな瞳で睨まれる……。

対象は三つほど年の離れた高等生。片や思春期真っ盛りの少女、片や成人間近の青年。

つまり法律的には怪しく、倫理的にはアウトの“お願い”のようで。

 

「冗談もね、良いラインと悪いラインがあって……今のはダメな方だったよ?」

 

優しく諭される。瞼を薄く細めながら、拗ねた少年をあやすように、白銀圭はそう言ってきた。きっと良いお母さんになる。そう感じさせる、大いなる包容力をまだ小さな身体は発していた。

そういうわけで、

 

――すみません。

 

これは身からふと湧いた言葉だった。本能というか、懺悔というか、まあとにかく『悪いことはしちゃダメだよね』っていう幼少の記憶が溢れてきたのだ。何か大事な教えってのは根本的なもので、私たちはそれを忘れているようで、いつも大事に抱えて生きている。

 

「はぁ……いいよ、今回は許してあげる」

 

ふと微笑む少女。ああ神よ、今私は一人の少女に救われています。年端も行かぬ、まだ幼きはずの少女に、私は洗礼を受けているのです。『清貧』とはきっと彼女のことで、今この瞬間の奇跡を指し示すのでしょう。

 

――すみません。

「いいって、もう。お兄いは謝ったし、私は怒ってない。でしょ?」

 

二人の仲は長い。互いの冗談は受けて流すものだし、失礼だと思うことはしっかりと注意する、それより楽しいという感情はもっと共有するのだ。一心同体とまでは言わずとも、二人は支え合って生きている、少なくとも圭自身はそう考えている。だから許された。

 

「私だけだからね? こんなこと、他の女の子には言っちゃダメだよ?」

 

……でもちょっと待って欲しい。果たして自分はこんなにも親身になって考えてくれている少女がいるのに、これからも“嘘”をつき続けて生きていいのだろうか。どういうことかって? つまり、先の冗談は冗談でなく本心なのだ。確かに、先ほど身からほろりと謝罪の言葉は出てきたが、しかし実際それは植え付けられた倫理観からであり、私の獣の本心は違う。

 

(――おパンツがみたい。)

(――やっぱり見たい。)

 

それこそが本心だろう? ならどうしてそれを隠す。兄としての虚栄を満たす意味がどこにある? 目の前でこちらを慈愛に見つめる彼女は私にとっての女神ではないか。きっと全て許してくれる。なら行動するほかないだろう。ちょっとくらいのワガママならきっと母性で許しくれる!

 

――実をいうと、他の人にもやりました。

「やっぱり最低!」

――すみません。

「さいてい! 最低だよ‼︎」

 

少女の目の色が変わった。水色の瞳は爛々とした紅に変わっていた。

 

「えっ、いつ? 誰? “私だけ”じゃないの!!?」

 

 

そこからは怒涛の質問劇で、それらの問いに対して答えるのに数十分とかかった――。

 

 

□■□■□

 

 

「はあ……お兄いがこんな変態さんだったなんて」

 

変態さん。その響きは少しえっちに感じる。彼女のわざとか、こちらの考えすぎか。ともかく今の状況は決してコメディではなく、むしろ張り詰めているというか。

 

「で? 千花姉えにもやった変態さんは私の下着“も”見たいわけ?」

 

心なしか『も』が強調されていたような幻聴をとらえる。気にしすぎか? とはいえ正直に答える。そうです、と。もはや今この空間は真のジェンダーフリ―。何の分け隔てもなく互い(片方)の性的欲求を語り合って(お願いして)いるのだ。そこに恥じらいは何もなく、これは長年の二人の親密さが感情を鈍らせているからなのか……。いや、答えは違う。どうして白銀圭がここまで積極的(?)にこの議論に参加しているのか、なぜ他の少女たちと違い恥じらいをそこに存在させないのか……それは。

 

「ねえ、お兄いと私はさ……。“昔一緒にお風呂入ってた”んだからさ、そんな下らないお願いでいいわけ? むしろ逆に恥ずかしくないの?」

 

そう、つまり『正妻の余裕』。少女は自身の裸をすでに男に晒しているという絶対的なアドバンテージの上に存在していたのだ。ゆえの『正妻の余裕』

 

「ちょっと呆れたよ、お兄いがそんな人だったなんて」

「でもいいよ、私はそんなお兄いでも嫌いにならないから」

 

こつんと優しく触れてくる白い玉手。圧倒的包容力。ブラックホールが顕現してしまいそうな程の莫大な質量の母性は、まだ小さなはずの清貧なその胸におそらく詰め込まれている。

 

「んしょっと……」

白銀圭は柔らかな腕を肩の方へと動かすと、――パサリ、白いブラウスを脱いだ。

「ええっと……」

白銀圭はふわりと舞うように一回転すると、地面には脱ぎ捨てられたスカートが残像そのままに落ちていた。

 

ゆえに目の前の光景は必然的に下着姿の彼女であり、なぜか無感動にもその布は露わになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

正妻の余裕とは今の無防備な姿であること。

○○○と慕う貴方にしか見せない肌を。

○○○○○大な包容力で輝き見る。

○○○○○○想郷は水々しい色。

○○○○○○○スター白銀

 

 

 

お兄い、“お願い”の続きを始めよう?

 

手をこちらの首にかけ、脚をこちらの足に乗せ、魅惑的な瞳を震わせながらぱちりと閉じる少女。

もしこれに手をつけたのならばバチが当たるかもしれない。それでも、この一線を越えられるのであれば、一生に後悔は残るまい。だからこちらも勇気を出してその細い腰を包み込もうとし……。

 

――ガチャリ。

 

 

二人とも、何をしているの?

 

真のヒロインが現れた。

 

―END―

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