嫌顔告白   作:嫌告ξ紳士

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柏木渚【大魔王】

秀知院学園の昼下がり。

購買へと続く渡り廊下は生徒たちのざわめきで満ちていた。

 

その喧騒の中、一際目を引く存在、『柏木渚』は友人たちと楽しげに談笑しながら歩いている。ショートカットの髪を飾る特徴的なヘアピンが、陽光を受けてきらりと光った。

 

成績優秀、容姿端麗、良家の子女。

 

誰もが羨むような完璧な高校生、それが彼女――柏木渚である。

 

そんな柏木には執狂的に独占したい親友がいた。

だからこそ、“嫉妬”に似た感情だろうか……彼女はふと、視線は渡り廊下の隅で一人佇む男子生徒を捉えた。

 

目立たないように控えめに歩き、周囲の騒がしさとは無縁のような雰囲気。学園内では特に目立つ存在ではない男だが、柏木は、“彼”の存在が気になっていた。

 

よく親友が話題に出してくる男……それが心底恨めしかった――。

 

---

 

とある日の放課後。

柏木渚はボランティア部の部室で一人、書類に目を通していた。

夕陽が差し込み、静かな部室には彼女一人の気配だけが漂っている。

窓の外では、夕焼けが校舎を茜色に染め始めていた。

 

その時、部室のドアが控えめにノックされた。

 

「どうぞ」

 

ガチャリとドアの開く音が静かな部屋に響く。

顔を上げると、そこに立っていたのは、昼間の渡り廊下で見かけた“彼”がいた。

 

――これを、渡してくるよう言われた。

 

男は極めて事務的な面持ちで、プリントを柏木に差し出した。誰に頼まれたのかは言わなかったが、彼女はそれが生徒会の仕事に関するものだと察した。

 

「ありがとうございます」

 

少女はそれにさっと目を通すと、問題のないことを確認する。

そして、ふと男の方を見やっては微笑み、こう提案するのだ。

 

「……お茶でも、していきませんか?」

 

 

その誘いに男は、手を顎に乗せて天井を少し眺めたのち、了承をする。

その様子に柏木はにこやかに頷くと、プリントを丁寧に机の上に置いた。

 

「ちょうど私も一息つきたいと思っていたところなんですよ」

 

彼女の態度は昼間の警戒心とは打って変わり、友好的そのものだった。

しかし、その笑顔の奥に潜む真意は……別、だが。

 

柏木は棚からティーセットを取り出すと、手慣れた様子で準備を始めた。やかんから静かに湯が注がれ、ティーポットへと温かさが注がれる。ふわりと、甘く優しい香りが部室に漂い始めた。それは上質な紅茶の、ほのかな甘さを含んだ香りだった。

 

手際よく紅茶が淹れられると、柏木は二つのティーカップに丁寧に紅茶を注いだ。淡い琥珀色の液体が湯気を立て、甘い香りをさらに強くする。

 

「どうぞ……」

 

柏木は微笑みながら、一方のカップを男に差し出した。

その表情は穏やかで、見る者を魅了する美しさであろう。

 

彼は小さく礼を言い、カップを受け取った。温かいカップが手のひらをじんわりと温める。一口飲むと、紅茶の優しい甘さが口の中に広がり、喉をゆっくりと流れ落ちていく。

 

――美味い。

 

男が素直にそう呟くと、柏木の笑顔が少し深まった。

 

「それは良かったです」

 

彼女も自分のカップを手に取り、一口紅茶を味わった。夕陽が差し込む静かな部室で、二人はしばしの間、紅茶の穏やかな香りと共に沈黙を守った。

 

そして……その静寂を破ったのは、柏木の方だった。彼女はカップを受け皿に上品に戻すと、以前の探るような視線を再び男に向けた。

 

「そういえば……眞妃ちゃんが、最近貴方のことをよく話しているんですよ」

 

その言葉に、男の肩がわずかに跳ねたのを柏木は見逃さなかった。彼女の声はあくまで穏やかだが、その目は彼の反応を鋭く観察している。

 

「随分と、親しいんですね」

 

しかし、男の首はゆっくりと振られた。

 

――ただの友人だ。

「ただの、友人?」

 

その声は先ほどの友好的なトーンから一転、低く深い響きを帯びる。

 

「本当に、それだけ?」

 

彼女は身を乗り出し、底の見えない瞳で男をじっと見つめた。その視線はまるで、心の奥底全てを覗き込もうとしているかのようだった。

 

「親友のことだから、気になっているんです」

 

---

 

“生徒会長“から仕事を任され、ボランティア部に赴いたところ、気づけば紅茶のティーパーティーが始まっていた。

 

目の前の席に腰掛けるのは、ショートヘアに特徴的なヘアピンをつける少女。父は大手造船会社『柏木造船』の会長であり、祖父は経団連理事を務めている、立派な令嬢だ。

 

『柏木渚』

 

彼女は今、こちらに向けて視線を送っている。

もっとも、それは優しい雰囲気を装った、疑念の目だが。

 

「では、別の質問にしましょうか」

 

それはさながら尋問である。

日常会話を装った、刑事と罪人の会話のように感じる。

 

「眞妃ちゃんと、“どこまで”進んでいるんですか?」

 

その時、室内の雰囲気が変わった気がした。

夕焼けに暖かく染められた空間が突如、深淵へと舞い降りたようだ。

 

彼女は姿勢を正したまま、穏やかな微笑みを浮かべつつも、その瞳には鋭い光が宿っている。まるで獲物をじっくり観察する鷹のような目つきだった。

 

「そうですね……」

 

柏木はゆっくりと立ち上がり、窓辺へと近づいた。夕陽がそのシルエットを縁取り、ショートカットの髪に輝くヘアピンが一瞬きらりと光る。

 

しかし、その美しさとは対照的に、彼女から放たれる圧倒的な存在感には息苦しさを感じざるを得ない。

柏木は窓の外を眺めながら、静かに言葉を続けた。

 

「眞妃ちゃんは、私にとって特別な存在なんです。だから、あの娘の周りの人にも興味があって……。眞妃ちゃんがよく話す人は……特に、ね?」

 

ね? に含まれる意味合いは言わずともがな。

親友に対する深い愛情と、深い独占欲。

もしくは、憧れとでも言えるだろうか。

ともかく、こちらが疑われているのは確かだった。

 

冷めた紅茶を見つめる。湯気はもう上がっていない。

 

柏木はゆっくりと振り返り、一歩近づいてきた。彼女の足音が静かな部室に小さく響き、謎の緊張を生む。彼女はテーブルのすぐそばに立ち、身を少し屈めて、席に座ったままのこちらに顔を覗き込んでくる。

 

「ねえ、あなたは眞妃ちゃんにとってどんな存在なんですか?」

 

美しく微笑んだ笑みが恐ろしい。彼女の表情は穏やかさを保ちつつも、その奥に冷たい何かが潜んでいるようだった。

 

――ちょっとだけなら仲良いな。

 

まずい。つい、心の声を漏らしてしまった。

目の前の女の気迫がどんどんと大きくなっていく。

 

「へぇ……『ちょっとだけ』ですか。……で、どこまで?」

 

だがここで答えないというのも変だろう。

相手をなるべく刺激しないように……しっかりと言葉選びをする。

 

――友人以上、恋人未満……的な?

 

柏木の表情は変わらず、微笑みを浮かべたままだったが、その瞳に宿る光は一層鋭さを増した。ティーカップを手に取り、優雅に一口飲むと、カップを受け皿に静かに置いた。

 

「ふぅん……まあ、いいでしょう」

 

その時だった。

突如、彼女は可笑しく笑い始めたのは。

そして――。

 

「実は、私……最初から“全て”知っていたんです」

 

あなた……。

 

「眞妃ちゃんと、“えっちなこと”したんでしょう?」

 

 

□■□■□

 

 

柏木渚の鋭い視線がこちらを貫く。

 

彼女の声は静かだが、その底に潜む確信が空気を重くする。部室に漂っていた紅茶の甘い香りさえ、今は遠く感じられる。

柏木の瞳は深く、まるでこちらの心の奥底を暴こうとするかのように光っていた。

 

――なんのことだか、さっぱりだ。

 

その言葉が口をついて出た瞬間、柏木の目が一瞬細められた。彼女はもう一度、ティーカップを手に取り、ゆっくりと一口飲むと。

 

「ふぅん……とぼけるんですね。でも、その反応で確信しました」

 

途端――、彼女の紅茶がこちらの制服に勢いよくかけられた。

淡い琥珀色の液体がシャツに染み込み、冷めた雫が床に落ちる。

 

彼女の瞳……それは、嫉妬だった。

 

「私の眞妃ちゃんを傷物にした責任……取ってもらいますからね?」

 

コツコツと靴音が床に響き、柏木が一歩、また一歩と近づいてくる。

そして、ペシっと頬が叩かれると思いきや。

……彼女の両の手が突然こちらの顔を挟み込んだ。

 

その瞬間。

 

「ん――っ」

 

柔らかく、わずかに湿った感触が一瞬にして広がり、紅茶の甘い余韻が口元に絡みつく。

彼女の息遣いが近く、熱を帯びたその空気が頬を撫でた。

 

唇が離れると、彼女は顔をわずかに引いてこちらに微笑んだ。

そして不気味に歪んだ笑みでこう呟くのだ。

 

「これで、眞妃ちゃんと“同じ”になれた……!」

 

それは一種の狂気。

友人に憧れ、全てを愛するがゆえの行動。

 

「ふふっ……ははっ‼︎ 眞妃ちゃんがコレを見たらなんていうかなあ?」

 

言い換えれば、全てが間違った行い。

 

「あーあー、ダメなんだ〜。眞妃ちゃんがいるのに、他の娘にこんなことしちゃうなんて、ダーメなんだ〜」

 

その行いはあまりにも汚れていて、美しくない。

もっとも、彼女にとってはこれが最も美しい行為なのだろうが。

 

だが残念、彼女の行いは“全て”間違っている。

 

 

――初めてのキスだった。

 

 

その言葉に、柏木渚は硬直した。

そして、ギギギとこちらを振り向くと。

 

「っ……え? 何を言っているの?」

――仄かな紅茶の味がした。

「ど、どういうことかな。眞木ちゃんもコレを……」

――そんなこと、していない。

 

彼女は、大きな勘違いをしている。

それは根本的に、誤った妄想で。

 

――私は、“えっちなこと”をしたが、“えっちなこと”はしていない!

 

その宣言に、柏木渚はさらに困惑する。

さながら、満点の回答用紙に名前を書いていなかったようなもの。

 

「な、何を言っているのかな? その、あなたは? 普通、“えっちなこと”って言ったら、眞妃ちゃんくらいならABCのAのはずで……」

 

――全然違う! もっと“えっちなこと”だ。

 

それは……。

 

 

「へ、へえっ……⁉︎ 下着を見せてもらったって、どういうこと⁉︎」

 

柏木の声が一瞬高くなり、彼女の顔には困惑と驚愕が混じり合っていた。

 

――だから、そういうことだ。四条におパンツを見せてもらった。それだけだ。

 

淡々と答える声に、柏木の目がさらに見開かれた。

彼女は一歩後ずさり、信じられないという表情でこちらを見つめた。

 

「それだけって……何? それが『えっちなこと』じゃないって言うの⁉︎」

 

彼女の声には怒りと混乱が滲み、紅茶の香りも服に滲んでいる。

こちらは肩を軽くすくめ、冷静に言葉を続けた。

 

――言葉通り、先の通りよ。

 

その言葉に、柏木の顔が一瞬にして赤くなった。

彼女は自分の唇に触れ、先ほどのキスの感触を思い出したかのように手を止めた。

 

そして、急にこちらを睨みつける。

 

「待って……じゃあ、私が今あなたにしたこと……眞妃ちゃんはしてないってこと?」

 

その問いに、静かに頷く。

柏木の表情がさらに歪み、唇を噛みしめた

 

「ふ、ふざけないで! 私が……私のファーストキスを返してよぉ……‼︎」

 

そしてようやく……本題に入ろう。

 

 

柏木渚【大魔王】に、

―――嫌な顔されながらおパンツみせてもらいたい。

 

---

 

男は、淡々と冷静に言葉を紡ぐ。

 

――ふむ、これを四条のやつに告げたらどうなるかな?

 

その発言に、柏木渚は絶望したような表情を浮かべる。

 

「ま、待って! 待ってください! それだけは……⁉︎」

――じゃあ、交渉だ。君の下着を私に見せてくれ。

「そ、そんなあ⁉︎」

――私に紅茶をかけたことも、キスをしたことも、これで帳消しだ。

 

「………………」

 

静寂が部室内に訪れた。

彼女は、柏木は非常に、ひじょーに悩んでいるようだった。

両腕を上半身に回し、身体を守る姿勢をとっている。

 

――嫌なら、別にいいが。

「ま、待って!」

 

席を立ち上がり、教室を出ていくフリをする。

そして、着実に追い詰めていく。

 

「少し……考えさせて」

――あと五分以内だな。

 

追い込み漁のように、じっくりと。

 

……

……

……

 

そして、しばらくが経っただろうか。

いまだ、彼女のからの返答はない。

 

――では、そろそろ帰ろうかな。

「わかった! わかったから⁉︎ きめた、決めたからッ‼︎」

 

その叫びに、こちらは静かに振り返った。

 

彼女の顔は真っ赤で、両腕を胸の前で交差させたまま、身体を小さく縮こまらせていた。瞳には羞恥と葛藤が渦巻き、唇がわずかに震えている。

 

「その、一つだけ確認させて!」

――ふむ。

「本当に……眞妃ちゃんも同じことしたんだよね……?」

――正解。

 

同意する、すると。

柏木は目をぎゅっと閉じ、一瞬息を止めた後、意を決したように口を開いた。

 

「あなたに……見せます、だからどうか、眞妃ちゃんには内緒にして……」

 

最後の方の声はもはや聞こえないほどに小さかった。

 

――了解した。

 

彼女はしばらくその場で立ち尽くし、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。指先が白くなるほど力が入っており、顔には明らかな忌避感が浮かんでいる。

 

それでも、親友にキスの件がバレる恐怖が、少女をつき動かした――。

 

「約束……ですからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

親友への感情は、嫉妬に独占欲や憧れかで。

○○○は常にその横を歩きたいと願い、

○○○○○の背中を追い続けてた。

○○○○○○想郷は深い愛の色。

○○○○○○○魔王・柏木

 

 

 

 

でも、これで……眞妃ちゃんと私は実質一つに……ふふふ

 

 

重く、歪んだ愛情は。

誰にも止めることはできない。

 

―END―

 

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