嫌顔告白   作:嫌告ξ紳士

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四条眞妃【ツンデレ】

静まり返った生徒会室で、一人の男が黙々と作業に励んでいた。

 

溜まった雑書類を処分したり、大切なものは保管したり、データに残したりする作業は、まるで終わりが見えない戦いのようだった。机の上には書類が山積みで、彼はその中で孤独に没頭している職人のような雰囲気を漂わせている。

 

外は強風で吹き荒れている——。

資料が飛んだら大変なので扉は閉めていた。

 

 

その時、生徒会室の扉がキッと音を立てて開いた。

この時間帯、生徒会長や副会長、書記たちは体育館で作業中のはずだ。つまり、この物音は生徒会メンバー以外の来客を示している。男は一瞬手を止め、扉の方をちらりと見たが、特に気にした様子もなく、再び書類に目を戻した。

 

「入るわよ」

 

その声とともに、一人の少女が堂々と入ってきた。

『四条眞妃』

 

四宮の血筋から少し離れた名門・四条家の令嬢だ。

左右に緻密な編み込みを施し、短めのテールでまとめた髪型と、可愛らしい八重歯が彼女のトレードマーク。制服の裾を軽く揺らしながら入室する姿は、自信に満ち溢れている。

 

男は彼女を一瞥し、作業を続けながら挨拶代わりに手を軽く上げた。

 

「あんた……また一人で作業してるの?」

 

四条眞妃はため息をつき、呆れたような顔でそう言った。そして当たり前のように男の前の席にドカッと腰を下ろし、話を始めた。まるでこの生徒会室が自分の部屋であるかのような態度だが、男は慣れているのか、特に反応せず書類に目を落とし続けていた。

 

「少しは休憩したらどうなの? そんな大量の資料、一日で捌けるわけがないじゃない」

子供の無茶をたしなめる母のような口調で、心配そうに言う四条。

声にはどこか苛立ちが混じっているものの、優しさが隠れている。

 

――問題ない。

「ふーん、まあいいわ。おばさまもいないみたいだし、好き勝手させてもらうわね」

 

そう言って四条は立ち上がり、生徒会室の片隅にある飲料コーナーにズカズカと向かった。

さまざまな飲料の粉やパックが並ぶ中から自分好みのものを選び、お湯を入れてドリンクを作る。彼女の手際は良く、お嬢様らしからぬ慣れた動きだった。

 

男は横目でその様子をチラリと見つつ、書類の山と向き合い続けていた。

 

「うん、さすが生徒会室。良いお茶があるみたいね」

 

満足げに呟きながら、四条は淹れたお茶を一口飲んだ。

表情にはほのかな得意げさが浮かんでいる。

 

「はい、これあんたの分。まだ何も飲んでいないでしょう?」

 

そっぽを向いてぶっきらぼうに言いながら、彼女は男の机にそっとお茶を置いた。

男は素直に感謝を伝え、休憩がてら一口飲んだ。

 

お茶の香りが鼻をくすぐり、味わいも深みがあって上品だった。

予想以上に美味しく、少し驚いたほどだ。

 

「どう? この私が淹れたのだから、美味しいに決まってるわよね!」

 

四条は自信満々に胸を張った。

男は内心でその味を認めつつも、あえて大げさに褒めず、軽く頷くだけに留めた。

 

「ふふっ、そうでしょう、そうでしょう。それで、おばさまよりも美味しい?」

 

その質問に、男の手がピタリと止まった。おばさま――四宮かぐや――とは、彼女が並々ならぬ縁で結ばれている相手だ。四条が成績三位を死守する一方、四宮は二位を固めている。ゆえに、四条は四宮をライバル視しており、下手に答えると後で面倒なことになりかねない。男は一瞬考えた末、慎重に言葉を選んだ。

 

――会長の方が美味しいな

 

答えをはぐらかしたつもりだったが、四条は不満げな表情を浮かべた。

 

「何よそれ! 答えになってないじゃない! ……まあいいわ、今回は引き分けってことにしておく。それにしても、あんた。よく一人でいて寂しくないわけ?」

 

寂しいか。それは見方次第だろう。確かに、今の自分は孤独に残業しているように見えるかもしれない。だが、それが寂しいかと聞かれれば、どうだろう。

生徒会メンバー全員が揃ってワイワイしている方が賑やかで楽しいのは確かだが、一人で黙々と作業するこの時間も集中できて悪くない。男はそんな風に考えていた。

 

「あっそ、じゃあ私はお邪魔?」

 

四条がこちらを睨むようにじっと見つめてきた。男は制服のポケットから飴玉を取り出し、彼女にポイっと渡した。彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに受け取った。

 

「……何、これ? もしかして、これでも舐めて黙っとけってこと⁉︎」

 

善意で渡したつもりが、誤解されてしまったようだ。副会長なら喜んで口にするだろうに……。男は少し困った顔をしつつも、適当に弁解して肩をすくめた。

 

「他の女の話はしないで」

 

四条に釘を刺されてしまった。確かに、ライバルの四宮と自分を間接的に比較されたら良い気分はしないだろう。男は――悪い。と率直に謝罪した。

 

四条は少し機嫌を直したようで、鼻を鳴らした。

 

「ふん、いいわよ。許してあげるわ」

 

 

男は作業に戻った。

書類を分け、データ化するものはPCに入力する。中々に骨の折れる作業で、早く終わらせたいところだ。腕が四本あれば効率が上がるのに、と無いものねだりをしてみる。生徒会室にはお茶を啜る音と、書類を整理するコンコンという音だけが響いていた。

 

二人とも、沈黙に包まれている。

 

「……ねえ」

 

その時、四条が口を開いた。

彼女の瞳はキョロキョロと落ち着かなく動き、頬がほのかに紅潮していた。男は作業の手を止め、彼女の方を見た。何か言いたそうな雰囲気を感じ取ったからだ。

 

「あんたって、恋愛とかしたことあるの?」

 

急な質問に、書類を扱う手が再び止まった。思い返してみると、恋愛なんてしたことがない気がする。ただ現状に満足し、淡々と生きてきただけだ。

 

「……ふーん、その様子じゃないみたいね」

 

四条は少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

逆に聞きたいくらいだ。恋愛ってどんなものなんだろう? 友人にマッチングアプリの成果を自慢してくる奴がいるが、あれが恋愛なのか? 男は純粋にそう思っていた。

 

「はあ、あんたバカね? 恋愛ってのはね……恋愛ってのはね……」

 

四条の顔がどんどん紅潮し、最終的には言葉に詰まってしまった。

彼女は恋愛をしたことがあるのだろうか? 好奇心から、男は聞いてみることにした。

 

「えっ⁉︎ わ、わたしは……そうね。恋愛のスペシャリストよ……?」

 

なぜ最後が疑問形なのだろうか。

とはいえ、彼女は恋愛のスペシャリストらしい。少なくとも自分より知識はあるはずだ。男は気になっていたことを聞いてみた――今までの彼氏について。

 

「そ、そうね⁉︎ 最初の彼氏は…………ごめんなさい、嘘をついたわ」

 

即落ち。

何だ、彼女も恋愛未経験であったのだ。

 

――だったら同類だな! と男は笑ってみせた。

四条は少しムッとした表情を浮かべる。

 

「いや……それはちょっと違うかも……」

 

四条はチラチラとお茶と男の顔を交互に見つめ、何かを考えているようだった。

 

一体、彼女は何のためにこの生徒会室に来たのだろうか?

 

「それは、その……。あなたに会いに行くためよ……」

 

彼女の頬はさらに赤く染まり、視線は落ち着きなく部屋の中を彷徨っている。

普段の自信満々な態度とは裏腹に、今の四条は緊張しているように見えた。

 

――何か用事でも?

 

四条は一瞬言葉に詰まり、唇を軽く噛んだ後、意を決したように口を開いた。

 

「べ、別に用事ってわけじゃないわ。ただ……最近、あんたが一人で作業してるのを見て、ちょっと気になって……」

声は尻すぼみに小さくなり、最後にはほとんど聞き取れないほどだった。

 

――そうか。気にかけてくれありがとう、四条。

 

素直な感謝の言葉に、少女は一瞬顔を赤らめ、すぐにそっぽを向いた。

 

「ふ、ふん。別に、あんたのためじゃないわよ。ただ、放っておくと過労で倒れそうだから、仕方なく様子を見に来ただけ」

 

男は微笑みながら、再び書類に目を落とした。

 

 

□■□■□

 

 

やがて、四条が大きく息を吐いて立ち上がった。

 

「じゃあ、私は帰るわね。あまり遅くなると、家の者がうるさいから」

 

その言葉に、男は作業の手を止めて顔を上げた。

 

――気をつけて。

 

シンプルな言葉だったが、そこには確かな気遣いが込められていた。

四条は軽く頷き、扉の方へと歩き出した。

 

その瞬間だった――。

 

ザサーッ!

 

外の強風が一際激しくなり、窓がガタガタと音を立て始めた。

 

男が――あっ。と声を上げるより早く、突然、窓が勢いよく開いた。

強風が部屋に吹き込み、書類が舞い上がる。

 

「きゃっ!」

 

四条の小さな悲鳴が響いた。

 

風に煽られた彼女のスカートがふわりと舞い上がり、一瞬にしてその下が見えてしまった。チラリと視界に入った光景に目を奪われる。

四条は慌ててスカートを押さえ、顔を真っ赤にして男を睨みつけた。

 

「あ、あんた! 今、絶対私のこと見てたでしょ!」

 

――いや、見てない。

――いや、見てない。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは『運命の出会い』とでも言える瞬間。

○○○身を変えるターニングポイント、

○○○○○界の美は此処にあった。

○○○○○○想郷は初めての色。

○○○○○○○ンデレ・眞

 

 

 

 

嘘つき! もう、信じらんないんだから〜!

 

そう叫ぶと、四条は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしたまま、逃げるように生徒会室を飛び出していったのであった――。

 

 

(――閃いた!)

 

―END―

 

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